第97話 遺影と位牌
翌日、早めに起きて居間に行くと、珍しく俺より早くに起きていた桃代と桜子が朝食の用意をしていた。
朝の挨拶を済ませていつもの場所に座ると、俺は食事が出来るのを待っている。
たいして持つことなく食事が運ばれてくると、みんなで楽しく食べ始めた。
ただし、変な感じだ。
桃代は
昨日、俺が眠った後で何か話をしていたようだが、それが原因だと思う。
面倒くさいと思うが、御神体との対決を心配しているのだと思い、何も言わない。
だから、頭を撫でるな桃代!
さて、御神体の桃香との約束は午後3時だ、桃代や桜子には時間を午後としか伝えてない。
言えば、コッソリと付いて来て、危険な事に介入するのがわかっているから、言ってない。
だから、おまえまで調子に乗って俺の茶碗にゆで卵を入れるな桜子!
受けたくもない妙な優しさを受けながら食事が済むと、予定通り遺影を外し始めた。
椅子を使えと忠告はした。
しかし、この方が早いと聞いてもらえず、俺は桃代の踏み台になっている。
ひとつ外しては桜子に渡して、桃代は背中から下りること無く、四つん這いのまま俺は次の遺影の前まで移動させられる。
さっきまでの優しさは、なんだったんだ? あと少しで、俺は暴れ馬になりそうだった。
残りはふたつ、それを外すと終わりなのだが、そのひとつに手を掛けたところで
「桃代さん、なんのつもり? 気を付けないと痛いだろう」
「ごめんなさい。怪我はしてない? 今の遺影に触った瞬間、手に痛みが走ったものだから。本当にごめんなさい」
「いいから、一旦背中から下りろ。それから手を見せてみろ」
「紋次郎君、桃代姉さんの手より、先に紋次郎君の頭を見た方がいい。また血が出てるよ」
桃代が背中から下りたので、やっと俺は立ち上がれた。
桃代の手を取りよく見たが、怪我も無く、特に異常は見つからない。
頭の傷はタオルで押さえると、すぐに血は止まり、こちらの方も異常はない。
ただし、落ちてきた遺影には異常があった。
この野郎! この家に来て仏間に入った時、遺影の目が左右にキョロキョロしたり、口元が笑う。
その時は俺の想像だと思い、自分を誤魔化して考えないようにしたが、いまその顔が醜い形相に変わり俺を見ている。
誰の遺影なのか、確認しなくてもわかる。
おまえが春之助だッ。
桃代と桜子には
この二つ、まるで呪いのアイテムだ。これを持つ手からどんどん力が抜けていく。
庭に向かって放り投げ、小さな穴を掘ると、二つを入れて火を点ける。
するとドス黒い煙が上がり、腐ったような異臭が漂い始め、苦しむような音を立てて燃え上がると、俺にはその音が春之助の断末魔に聞こえた。
ついでに台所から塩を持ってきて
ヤツが憑いていたと思われる遺影や位牌が燃え尽きて、俺は少し安堵した。
「見たか桃代。春之助が憑いていた遺影と位牌を燃やしてやった。塩をかけたら色が変わったからな、もう大丈夫だと思うぜ」
「う、うん、ありがとう紋ちゃん。でも驚いたわね遺影の顔が変わって・・・」
「ねぇ桃代姉さん、塩をかけて色が変わったのは、ただの化学反応ではないですかね?」
「シーッ、そのくらいわたしもわかってるわよ。だけど、それを紋ちゃんに聞かれたらどうするのよ」
「紋次郎君って、アホなんだか頼りになるんだか、よくわかんないですね」
「そうね、頭から血を流しているのに、わたしの手を心配している場合じゃないよね」
「それはそうと、さっき遺影の顔が変わりましたけど、アレはやっぱり何か取り憑いていたって事ですよね」
「そうかもしれない。さすがハブの助だけあって、しつこいわね」
「この家って、紋次郎君が言うように怪奇が蔓延してますけど、大丈夫なんですか?」
「んっ、大丈夫でしょう。わたしはね
「そう言われると、そんな気がします。紋次郎君の前世が祀るように言った
「ついでに、龍神様の力を悪用した、馬鹿な子孫を正しい道に導く為もあるのかな」
桃代と桜子の会話が聞こえる。
確かに、どれもこれもタイミングが良過ぎる。
それに関しては、以前俺も考えた事がある。
この為にあの事故を生き残り、俺は当主になったのかもしれない。
だがな、バカな子孫、それはミイラになりたいおまえだぜ・・・ももよ。
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