第87話 キュウリ
先頭を桃代が歩き、俺と桜子は荷物を持ってうしろに付いて行く。
いかにもガキ大将が子分を二人連れて歩いている、そんな図式にしか見えない。
桃代は前と同じく、白のワンピースに麦わら帽子をかぶり、風で飛ばないように手で押さえている。
俺は桃香の面を首にぶら下げて、片手に荷物を持っている。
桜子も水着の上にシャツを着て、片手に荷物を持っている。しかし、もう片方の手にはキュウリも一本持っている。
「おい桜子、なんだそのキュウリは? 俺はおまえが溺れたらキュウリの方を救助すればいいのか?」
「ごめん紋次郎君。桃代姉さんの手前仕方なく持ってるだけなの。お願いだから見捨てないで」
「おまえは義理堅いと言うよりバカの部類だな。若い女が水着姿でキュウリを片手に歩いていたら、おまえはどう思う?」
「うぐっ、不釣り合いなのはわかるけど、ここは人目が無いから大丈夫かと思って」
「まあ、いいけどな。あと、ちゃんと付いて来いよ、おまえは方向音痴なんだから、山に入って迷子になるなよ」
「う~っ、思い出したくない。あの時、紋次郎君が見つけてくれなかったら、わたしは大声で泣いてたわよ」
「それから、川に入る前に、ちゃんと準備運動をやれよ。海の時のようなのは
「う~っ、思い出せないで。あの時は紋次郎君が助けてくれたけど、わたしはイヤっていうほど塩水を飲んだのよ」
「ほんとッ、手の掛かる同僚だったぜ。やっと縁が切れたと思っていたのに、まさかこんな所で再会するとはな」
「そんなに冷たい事を言わないでよ。わたしだって好きで迷子になったり溺れたんじゃない。桃代姉さんの命令で紋次郎君を監視しないといけなかったのに、紋次郎君がマイペースで
俺と桜子が、昔の事をぶちぶち言い合いながら滝のある水辺に着くと、桃代はすぐに用意を始めた。
今日の桃代の水着は白のワンピースだが、例の
桜子の水着はセパレート、上はさくら色で下は黒色、桃代はもちろんそうなのだが、桜子もよく似合っている。
俺はシャツを脱ぐと適度に
水の冷たさに慣れたところでゴーグルを着ける。
海パンと一緒に買ってきたモノだ。
これで水の中でもよく見える。
そういえば、以前購入した海パンとゴーグルはどうしたのだろう? いつの間にか
俺は河童になった気分で潜り、川底を探す。
もちろん、失くした海パンやゴーグルではなく、何か
海ではないので海賊のお宝や、沈没船から流れ出た金貨や銀貨は期待できない。
俺の欲深い好奇心の所為だろう。
カリブ海ではあるまいし、ある訳ないとわかっていても探してしまう。
しかし、当然何も見つからない。
それでも、俺は川底から両手いっぱいの砂をすくい、浮き上がる。
そして、砂金が混ざってないかを探して見る。
仮に混ざっていても、それが本当に金なのか? 俺には判断できないだろう。
そんな感じで、俺は一人で楽しむことが出来る。
しかし、桃代は違うようだ。
前回と同様にうしろから
コイツはいったい何がしたいのだろう? 俺を溺れさせて、人工呼吸でもしたいのだろうか? それとも俺を殺してミイラ作りをしたいのだろうか? 適度なところで
「ももよ、いい加減にしろよ。前回は
「あのね、前もそうだったけど、紋ちゃんは集団の中で一人になる癖は、改めないとダメだと思うよ」
「いいか桃代、それっぽい事を言って
「あうっ、ごめんなさい。でも紋ちゃんが一人で遊んでて、わたしと遊んでくれないから、つい
「最初からそう言えばいいだろう。よし、もう少し浅い場所に行こう。ここだと桜子が溺れるからな」
俺は桃代の手を引いて、浅瀬の方で桜子と合流する。
桜子は腰の辺りまで水に
「紋次郎君、海の水とは全然違うね。しょっぱくないしベタつかない。川底まで見えるから、紋次郎君は怖くないでしょう」
「余計な事を言うな桜子。この場所は桃代が
「やめてよ、怖いじゃない・・・えっ! じゃあ
「当然そうなるな。ヤツはもう居ないけど、居れば桜子も溺れた時に助けてくれたかも知れない」
「それってあれでしょう。小さい頃に、桃代姉さんと紋次郎君が秘密基地ごっこして遊んでた場所でしょう。
「おやぁ、見てみたいの桜子。うふふ、いいわよ、連れて行ってあげる」
おそらく、桜子は
しかし、桃代は桜子が興味があると勘違いをしている。
昔を懐かしみ喜んでいる桃代に対し、本音を言えない桜子は助けを求める視線を俺に送るが、自分で断われ桜子。
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