第58話 桃代と桜子

桜子は桃代に任せて、俺は世話をする気が全くない。

自分の部屋にこもり、面を手にして考えている。


ちょこちょこ声をかけてきたのは、やはりこの面なんだと思う。

だけど、どうして他の人には聞こえなかったのだろう? どうして面を手にして俺は平気なんだろう? 

桃代の幽霊偽装と逆鱗の返却、バカな分家による桃代の殺人未遂、嫌な決着もあるが一段落付いたので、面について考えないといけない。

ただ、桃代に関しては全面解決とは言えないので、注意を怠らないようにしよう。


そんなことを考えていると、ふすまの向こうで、またずりずりと畳をう音がする。

しかもユニゾンでだ。


今朝も注意をしたのに、りないヤツ。

桜子もどうして桃代に付き合うのだろう? 何か弱味よわみでも握られているのかな?


四人の人が異常な死に方をして、自分にも危険が無いとは言えない状態なのに、どうしてこんなに能天気なんだろう? 余り深刻になっても仕方しかたないが、もう少し危機感を持った方がいい、そんな気がする。


さて、そんなふうに思ったところで、現在のこの状況をなんとかしないと、桃代が付け上がる。

俺は静かに立ち上がると、奴らに気づかれないように部屋を出る。

部屋を出てトイレに入ると鍵をかけ、用もないのに便座に座る。


暫くすると俺を探しているのか? ガタガタとやかましい。

更に暫くすると、トイレのドアを叩いて桃代と桜子がお願いを始めた。


「紋ちゃんお願い、早く出て! もう揶揄からかいませんから、お願いです」

「紋次郎君出て! お願い! わたしは桃代姉さんに、付き合わされただけなんだよ」


「いいか二人とも、外でようすと録画されるぞ。暗い中を出歩くと【こんばんは】って、得体の知れないに人に挨拶されるぞ」

「すみません、もう変な事は言いません。だから許してください。お願い紋ちゃん」


「紋次郎君、わたしも桃代姉さんも女の子なんだよ、もっと優しくしてよ!」


これ以上は、さすがに可哀想なので鍵をけると、俺はトイレから出て行く。

もちろん、手にはスマホを持っている。

おまえの言質げんちは録音済みだ! そんな感じで桃代に見せつけると、居間に行く。


ふふふ、一矢いっしむくいた。

何時いつまでも、やられっぱなしの俺ではない。


桃代と桜子は顔を赤くして、しかし悔しそうな表情で居間に入ってきた。

桃代は下唇を噛みながら俺を睨むが、先に仕掛けたのはおまえなんだから、俺は非難される覚えはない。


「よし、二人とも座れ。おまえ達に聞いてもらいたい事がある。もしかすると、松慕まつぼ達の死の原因かも知れない。バカにしないで聞いてくれ」

「えっ、紋次郎君は原因がわかったの? すご~い、さすがは桃代姉さん一番の子分だけあるね」


「いいか桜子、鼻血が出るまでビンタをされたくなかったら黙れ。桃代は知っていたが、あの神社の正式な名称が【ももか、もんじろう神社】だって、桜子おまえは知らなかっただろう」

「えっ? どうして紋次郎君の名前なの? 紋次郎君をまつって何か御利益ごりやくがあるの?」


「いいか桜子、その名前をけなすと、おまえもミイラになるぜ。まつってあるのは俺ではない。桃香の思い人で、大蛇おろちの犠牲になった男の名前がもんじろうだ。あの神社の前で、同じ名前の俺を殺す。そんな会話をしたから御神体の恨みをかった。俺はそう思うが、おまえ達はどう思う?」

「あり得そう。でもその前に、御神体様は本当に黄泉よみかえったの? わたしはそっちの方が疑問なんだけど」


「いいか桜子、俺もそこには納得してない。でも、龍神なんてあり得ない奴がいた。だから否定をしないで考えろ。そうしないと、おまえの婆さんより先に、おまえ自身がシワシワのカサカサになるぞ」

「うわっ! 紋次郎君ってイヤな言い方をするね。今の発言を聞いて、桃代姉さんはどう思います?」


「う~ん、そうね、先に内臓を取り出さないと、腐りやすくなるわね」

「!? 紋次郎君、桃代姉さんが何か怖い事を言ってるよ。わたしは何をされるの?」


「桜子、おまえは桃代と付き合いが長いんだろう。コイツの変なところに、なんで今まで気付かなかったんだよ」

「だって! 紋次郎君が来るまで、桃代姉さんはこんなじゃなかったもん。紋次郎君の所為せいで、桃代姉さんが変になったんだよ!」


「だからな、その名の俺を非難するな。桜子だって桃代に呼ばれてこの家に来た時に、ふざけた事をぬかしてただろう」

「うっ、あの手の話をすると、唯一桃代姉さんが笑顔を見せくれるから、仕方がないでしょう」


「桃代さん、あなたの影響で桜子は変ですよ。二人とも、真面目に考える気がないのなら、俺は単独行動にするぜ」

「あうっ、ごめん紋ちゃん。ちゃんとするから真面目に考えるから、一緒に行動しましょう」


「よし桃代、おまえはさっきの話を聞いてどう思う? 俺の推測が本当だったら、御神体はあの近くで奴らの話を聞いていた。あのあたりにひそんでいるはずだ」

「そうなるね。でもあの辺りで姿を隠せそうな場所は、何処どこにもないよ」


「いや、今はある。龍神が居た塚の中だ。あそこを確認する必要がある」

「あそこか~ でも、どうやって? 入り口がふたつあるから、挟み撃ちにしないと逃げられるよ」


「いや、挟み撃ちにはしない。俺だけ滝側から入る。桃代は頂上付近に隠れて塚を見張っていろ。もしも、俺以外の何者かが出て来たら逃げろ」

「ダメだよ。一人だけだと紋ちゃんが危険でしょう。だからね、滝の辺りをカメラで録画して、塚から一緒に入りましょう」


「それこそダメだろう。滝の方から出られると、町まで逃げる可能性がある。そうなると町はパニックだぜ。御神体に関しては、俺と桃代の二人で解決しないとダメだからな」

「それは先代当主と現当主だから? 紋ちゃんは意外と責任感があるのね」


「俺にそんなモノはない。ただ、安心して暮らしたいだけだ。今日はもう暗いから、ちゃんと計画を立てて、明るい時に実行するぞ。桜子、おまえは留守番だ」

「えっと、わたしも桃代姉さんと一緒に見張りをする。ほら、桃代姉さんが背後から襲われたら危ないでしょう」


「桃代はどんな姿でもいい、自分の身は自分で守れ。その為のミイラ姿なんだろう。桜子は前に言った通り部外者でいろ。その方が安全だ」


部外者でいろ。それは、優しさからの言葉ではない。

あまちゃんの言う【俺が当事者】その言葉通りなら、他の人を巻き込みたくないからだ。


ただ、桃代を巻き込むのは仕方がない。

どうせ俺の言う事を聞かないのだから。

だから、なるべく安全な場所で見張りをさせるようにした。

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