第51話 桃代の罠

御神体と蘭子さんに対して桃代の意見を聞くのは、一旦やめることにした。

無理に聞き出してもこじれるだけだから、取りあえず保留だ。


蘭子さんの死因を聞こうとしても、俺の記憶のように一時的にじた。そう言われるとそれまでだし、辛い出来事を桃代に思い出させたくない。

もう少し、情報を集めて様子を見ようと思う。


それとは別に、様子見できないこともある。

何時いつまでもピラミッドの地下ので生活させる訳にはいかない。桃代には母屋で一緒に暮らしてもらいたい。


しかし、どうやって誘えばいいのか、下手をするとトンデモない誤解を招くおそれがある。

そんな感じで頭を悩ませていると、桃代の方から悩みを解決してくれた。


「ねぇ、紋ちゃん。これからは、わたしも母屋で生活していいでしょう?」

「えっ、あ~っ、そうだな、そうしてもらおうと思ってた。あそこに一人でいるのは危険すぎる。ただし、俺の部屋には入るな」


「え~~あの部屋、もともとわたしの寝室だったのよ。それだと、わたしは何処どこで眠ればいいの?」

「部屋はたくさんあるんだから、好きにすればいいだろう。俺はあの一番狭い部屋だけでいいから、残りの部屋は桃代が好きに使えばいい」


「は~い・・・ちぇッ、昔みたいに、紋ちゃんと一緒に寝ようと思っていたのに、残念ね」

「ももよ、子供じゃないんだから、男女同室はマズいだろう。いいか、夜中に忍び込んだらゲンコツだからな」


俺は話を切り上げると、どれだけ意味があるのか分からないが、戸締りを見て回る。

幽霊のように壁抜けをされると、鍵など無意味なのだが、御神体には実体がある。

家の中にいれば、襲われる心配はないと思うが、和尚の例もある。

和尚がどんな感じで襲われたのか、それは知らないけれど用心だけはしておこう。


広い母屋、一部屋ずつ窓の鍵を見て回り、異常の有無も確かめる。

それが終わって居間に戻ると、まずは一安心できた。


しかし、怪奇現象に対する用心など軽く吹き飛ばす、試練が俺を待っていた。


小用しょうようもよおしてトイレに行くと、ドアに張り紙が貼ってある。

そこには【桃代の部屋】と書いてある。

よく見ると、風呂場をはじめ各部屋に【桃代の部屋】と張り紙がしてあった。


嫌がらせかッ! イラッとした俺は、張り紙をやぶり捨てるとドアを開ける。

誰も居ないと思っていたのに、トイレの中ではか桃代が着替えをしていた。


久しぶりに見る大きなオッパイ、改めてよく見ても、左右の違いなど俺に分かるはずもない。

左右の違いだけでなく、桃代の考えが分からない? コイツは何を考えている? 普通こんなことするか? 何でトイレで着替える? 俺はこの状態でどうすればいいんだ?


俺はそっとドアをめると、桃代が出てくるのを待つことにした。


しかし、いくらっても桃代は出てこない。

そのうち、膀胱が悲鳴を上げ始めたので、俺はドアを叩いてお願いした。


「桃代さん、お願いです。出て来てください。トイレを使わせてください!」

「え~~だって【残りの部屋は桃代が好きに使えばいい】って、紋ちゃんが言ったんだよ。それに、わたしのオッパイを見たくせに、何か言う事はないの!」


「うっ、それについてはあやまります。だからお願いモモちゃん、意地悪しないで。この年齢としで、外でようすのはイヤなんだよ」

「どうしよっかな~ あっ、言っとくけど、外でするとピラミッドに設置してる高感度カメラに録画されるからね」


「おまえは鬼かッ! 俺をイジメて楽しいかッ! 早く出てこないと俺はこの家を出て行くぞ!」

「え~~外は暗闇なのに出て行くの? そうしたら、うしろから肩を叩かれて【こんばんは紋次郎】って、挨拶されるよ」


「おまえ、怖いことを言うなッ! お願い、降参するから、なんでも聞くから、そこから出てきて」

「むふ、今の言葉、わたしのスマホに記憶したからね。もう取り消しはきかないよ」


何故なぜだ! 何故なぜこうも桃代にしてやられる。

俺がバカだからか? それとも桃代が狡猾こうかつなのか? ガキの頃に初めて会った時から何も変わらない。


俺はようしながら、いろいろ諦めることにした。



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