第2話 好転?

あの日以降、俺は無断欠勤を続けている。

あの時に見たミイラの事が気になり、何も手につかない。


そんな、だらけた日々を過ごしていると、数日後に電話があり急展開をみせた。

電話の相手は弁護士からだった。

俺に弁護士の知り合いはいない。

電話では話せないという事で、弁護士事務所に呼び出された。


事務所に着くと中に通され、おばちゃんの事務員が日本茶を出してくれた。

しかし、それを飲もうと手を伸ばすと、横から手が出てきて先に飲み干された。

文句を言おうと隣を見た瞬間、年配のじいさんがニコニコしながらやって来て、名刺を差し出し自己紹介を始めた為に何も言えず、俺は不信感でいっぱいだ。


秘密厳守を前置きに弁護士が話すには、あのミイラがいた家自体、土地とち家屋かおくともに地面師集団が勝手に売却をした物で、所有権の移動は認められてないらしい。

したがって、あの家を解体したり、家の物を持ち出せば罪になるとの事だった。

などと色々説明をしていたが、俺は自分にやましい所はないので、うわの空で聞いていた。

ただ、今回の地面師集団の暗躍に、ウチのバカ社長とバカ社長が懇意こんいにしている不動産屋も一枚噛んでいた事がわかり、近々逮捕されるだろうと説明されて、無断欠勤を続ける俺に【早く出社しろ】っと、連絡がない事を理解した。


捜査の進展待ちなのだが、なんでも屋と不動産屋は余罪があり、会社の存続自体が危ういと忠告をされて俺は職を失いそうだ。


これで何社目だろう? 中学を卒業して以来、俺が入る会社はことごとく潰れる。

俺の所為せいなのか、俺を雇う程度の会社だから潰れるのか、俺にはわからない。

別になんでも屋に未練はないので、その時は【次を探せばいい】なんて何時いつものように気楽に考えていた。


そんな、けた事を考えている俺の顔を見て、弁護士はひとつ咳払いをしたあとで、【これから重要な事を説明します】そう話を続けた。


「それでは真貝さん、あの土地家屋の所有者である貴方には、原状復帰を申し立てる権利が有りますが、どうしますか?」

「・・・ ・・・はァ?」


「いえ、勿論、今後の捜査次第では他の被害者が出てくる可能性もありますので、不動産会社やなんでも屋、逮捕された地面師集団の資産凍結をして、被害者に分配する形になりますので全額は戻りませんし時間もかなり掛かります」

「・・・ちょっと待って下さい弁護士さん、なんで俺があの家の所有者になってるんですか?」


「あれ? ご存じありませんでしたか? あの土地家屋、その他の財産全て、先代の桃代さんに何かあれば、貴方が相続をする事になっておりますが」

「・・・ ・・・だれ?・・・桃代?・・・?」


「・・・わ・た・し」

「たわし? 弁護士さん、たわしってダレです?」


「真貝さん、突然の事で気持ちはわかりますが、少し落ち着いてください」


その、よくわからない話を聞かされ、色んな手続きもさせられて、帰り際に判子をひとつ手渡された。


「これは貴方の実印です。実印登録もしてある桃代さんからの贈り物です」

「・・・はァ? そうですか、だから桃代さんって誰です?」


「桃代さんは貴方の血縁にあたります。詳しい話はまた次回お話ししましょう。まだ手続きもありますし、気持ちが落ち着いてからの方がいいと思いますので、それではまた連絡します」


なにやら、キツネにつままれたような気分で帰路につく。

あの広大で気味の悪い家が俺の家? 桃代って誰なの? どうして俺が相続人? 疑問が頭の中であふれて処理が追いつかない俺に、話し掛けるヤツが居て余計に考えがまとまらない。


考えがまとまらなくて険しい顔の俺が駅に着くと、なんでも屋の同僚で同い年の桜子が居た。

彼女の家は複雑で幼い頃に両親が離婚したらしく、最初は母親に引き取られたが虐待されて、次に父親に引き取られるがネグレクト気味で、高校を中退してからは一人暮らしを始めたらしい。

まるで興味の無い話なのだが、現場に行く車の中で、俺にだけはよく話し掛けて来るので、つまらない事を記憶している。


今日もなんでも屋に顔を出したらしいが、保身ほしんに必死な社長の所為せいで仕事にならず帰るところだそうだ。2~3言葉を交わしたあとで、桜子とは別れた。


俺はついに決心をした。

霊感の全く無い俺なのに、ここのところ気にくわない事ばかり起こる。

ウナギの寝床のような狭い部屋に戻ると、天井に張り付くそれに向かって声を掛けた。


「なぁ、あんた誰なの? なんで俺の部屋にいるの?」

「・・・ ・・・ ・・・」


「ねぇ、聞いてる?」

「・・・ ・・・ ・・・」


呼び掛けても返事は無い。

俺は用心の為に坊主にもらった清めの塩とお酒を振りかけようと手を伸ばすが、置いた場所にそれらが無い。

狭い部屋なので探す必要も無い。


ベッドの前にある、小さなテーブルの上にそれらはあった。

しかし、小さな酒瓶はけられ、中身はからっぽ。

お塩が入る和紙も広げられ、ほとんど残りは無い。


犯人はヤツしか考えられない。

頭にきた俺は、ベッドに上がると天井に手を伸ばし、そいつの手を引っ張った。

すると、そいつはベッドの上にゆっくりと落ちて来るが、目を覚ますことなく布団の上で眠り続けていた。



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