俺は彼女の遺言をきくべきなのか? 彼女の遺言、それは・・・

とんちゃん

紋次郎本家移住、当主編

第1話 出会い

俺の名前は真貝まがい真貝まがいもん次郎じろう18歳。両親はいない。兄弟はもともといない。

親は自動車事故に巻き込まれて、俺が幼い頃に死亡した。

俺自身も事故の怪我が酷くて、長い入院生活を余儀なくされた。


退院してからは父方の叔父に引き取られるが、事故の保険金が出ると上手うまかすめ取られ、中学を卒業すると同時に叔父の家を追い出された。

今現在はブラックななんでも屋で働いている。


なんでも屋でのおもな仕事は清掃そうじだ。

しかも、孤独死があった部屋や夜逃げをしたり片付けられない人の部屋など、訳あり物件の清掃そうじがメイン。


これがキツい。特に夏場は目にみるような匂いで何度も辞めようとしたが、新しい職場でまた一から人間関係をきずくのが面倒なのでズルズルと続けている。


ウチのバカ社長は胡散臭うさんくさい不動産屋と手を結び、そういう仕事ばかり取って来る。

それを、社会から落ちこぼれた俺達数人の従業員に、安い給料で作業させている。

そして自分は接待と称して、ゴルフに行ったり飲みに行ったりしている。

正直【死ね】って思う。


今回の現場も酷い所だった。

中国地方の山奥にある旧家の解体現場で、なんでも屋の車で時間を掛けて移動した。


解体だからといって、すぐに解体する訳では無い。

昔の家は柱やはりい木材が使われてることが多く、それを欲しがる人も居るので、まずは家を片付けて売れる物を再利用する。


リサイクルと言えば聞こえはいが、僅かな給料で働く俺たち現場の人間にしてみれば、手間がかかるだけの面倒くさい案件だ。


そんな旧家を不動産屋の息がかかる解体屋や、俺たちなんでも屋が片付をする為に、広い家を見て回っていると、更に広い庭の隅に三角の変な建物を見つけた。

何だろうと思いつつ俺は下見をしていたが、お昼休みに解体屋の現場監督に聞いてみた。

しかし、現場監督にも分からないと言われ【おまえが調べて来い】と命令されて、興味本位で調べ始めた。


近付いてまわりを一周すると、その建物は一辺が五メートル位の角錐かくすいの形で、石造りの建物だった。

良く言えば小さなピラミッドに見えなくもない。というか、どう見ても小さなピラミッドだ。当然入り口は見当たらない。


しかし、ピラミッドイコール財宝の発想でどうしても中を見てみたくなり、建物の四辺をくまく探してみたが入り口は見つからない。


中には入れないのだと諦めて戻ろうとするが、少し離れた藪の中に別の何かを見つけて近づくと、人が入れる縦穴を見つけた。


穴には梯子はしごりていて、雨が入らないように四カ所に柱を打ち屋根が付いている。

まるで、あずま屋だ。

そして柱の一カ所に【入り口、チュ】っと、唇マークも書いていて少しイラッとする。


それでも、入り口を見つけた事で財宝を見つけた気分になり、懐中電灯を片手に梯子はしごを降りて穴の中に入ってみた。

降りると小さなピラミッドの方へ一本道が伸びていて、電灯を照らしながら歩いて行くと、入り口らしき階段が見えた。


「やった! お宝だぜ!」


俺は思わず口に出し階段を上がろうとして、頭をぶつけないよう下を見た瞬間気が付いた。階段の下にあるつちの色が他と違う。


俺は事故の後遺症から自分の直感を大切にしている。

その場にしゃがみ色の違うつちを手で払いけると、新聞紙が出てきた。

その新聞紙をめくると竹ひごが格子状にあり、その下は落とし穴になっている。


「ふふふ、ピラミッドに入らせないように罠か。いいぞ、燃える、ヤル気が出たぜ」


この時バカな俺は【罠を作り守ろうとするイコール絶対に財宝がある】そう思い込み、一人で興奮していた・・・よくよく考えれば、子供だましの落とし穴なのに。


気を付けながら階段に足を掛けると、三段目で何か違和感を覚えた。

すると上から毬栗いがぐりが落ちて来た。

だが、安全の為にヘルメットをかぶっていたので俺は無事だった。


落とし穴に上から障害物・・・俺はスケールの小さいインディアナジョーンズになった気になりみがこぼれる。


二度あることは三度ある。周りをよく見て階段を上がると、ついにピラミッドらしき建物の中へ入ることが出来た。


当然なのだが中は暗くて狭い。

立ち上がると頭がぶつかりそうで、中腰のまま懐中電灯で辺りを照らし確認をするが、財宝らしきお宝は見当みあたらない。

ピラミッドではないが、王家の谷にあるツタンカーメンの王墓のように黄金の埋葬品を期待した俺はガックリと肩を落とす。


でも、まだ諦めてない。ただひとつ、狭いスペースの一番奥に長細い箱らしき物が見える。

どう見ても棺桶にしか見えないが、まだ棺桶と決まった訳では無い。

もしかすると、あの中にお宝が有るかも知れない。


恐怖心をおさえながら箱に近付き懐中電灯でふたを照らしてみると、ふたにはヒエログリフで何か書いてあった。


日本の99,9%の人は象形ヒエロ文字グリフが読めないだろう。当然、俺にも象形ヒエロ文字グリフは読めない。

だがご丁寧に英語訳と日本語訳がその下に書いてある。

俺はつい【ロゼッタ・ストーンか!】っと、つぶやいた。

すると、どこかでクスリと笑う声が聞こえた気がした。


「気のせいか? こんな所に誰もいるはずないもんな。どれどれ、なんて書いてるんだろう?」


当たり前だが、俺は日本語訳を読み始める。象形文字と同じく英語も読めない。

何かゴチャゴチャと書いてあるが【このひつぎれる者にわざわいあれ】その一言が酷く気に掛かる。

別に呪いのたぐいを信じてる訳では無い。だけど気持ちが悪い。


ひらくべきか、あきらめるべきか、迷う。

しかし、中を見ずに戻ろうとする弱い気持ちを、俺の欲深い好奇心が許さない。

無意識にひつぎに手を当ててふたをズラすと、両親と一緒に事故で死ななかったことを後悔した。


中には当然のように、全身に包帯を巻いたミイラが横たわり、黄金のマスク・・・ではなく、若女わかおんな女体面にょたいめん、能面を付けたミイラが横たわっていた。

そのアンバランスな光景に、俺の身体からだ何時いつもよりたくさんの酸素を要求している。


もつれる足でまともに歩くことも出来ず、つんいのまま逃げるように外に出て、現場監督に今見たことを告げるとバカにされた。


それでも俺の異常な怖がり方とミイラを見たの一言で、現場監督は確認に行き青ざめた顔をして戻って来ると、何処どこかに電話をかけて指示をあおいでいた。


しばらくすると警察と坊主がやって来て、警官に事情説明をしたあとで、俺と現場監督だけは坊主の寺へ連れて行かれた。


寺の本堂らしき場所で、お経を読まれておはらいを受けるが、その頃から耳元で何か聞える。

霊感の無い俺は気のせいと無視していたが、肩を叩かれた上に話し掛けられたので、つい【五月蝿うるさい!】と声に出してしまい、坊主に酷く怒られた。


はらいが終わると、坊主におふだきよめの酒の他に、和紙につつまれたお塩を貰い現場へ戻るが、警察が来たせいで仕事にならず全員帰路につき、俺は弁当を購入して部屋へ帰った。


泥棒にはいられても盗られる物が何も無い、狭いくせに広く感じる殺風景な部屋。

これが今住んでいる俺のワンルームマンションだ。


弁当を食べ終わりシャワーを浴びたあとでベッドに寝転ぶと、今日の出来事を思い出す。

あのピラミッドはなんなのか? あのミイラの中身は誰なのか? どうして能面のマスクなのか? 疑問が山ほどあり、聞いてみたい気持ちを抑えつつ目をつむりその日はそのまま眠りに落ちた。


翌日は昼頃に目を覚ますと、なんでも屋に気分が悪いと電話を入れて、俺は休むことにした。

バカ社長に【連絡が遅い、何をしている!】などと文句を言われたが【じゃあめます】と、イライラしながら言い返すと【お大事に】って、手の平を返されて休むことを許された。


それからまた寝転び、天井の一点を見つめて考える。

あのミイラは殺人死体ではないのか? 事件性はないのか? 色々考えてるうちに夕方電話があった。


電話の相手は警察だった。

司法解剖の結果、死因は心臓マヒで殺人事件では無いとのこと、遺体は昨日のお寺が引き取り荼毘だびすと話していた。


しかし、俺は知っている。

警察の言う心臓マヒは、死因が不明な時によく使う文言もんごんだ。

結局、田舎の警察では何もわからず、有耶無耶うやむやに処理したのでは? そう邪推するしかなかった。


そんな考えをベッドに寝転び、天井を見ながらつぶやく。

今日は一日何もしてないが、ひどく疲れているようで何時いつにか眠りに落ちていた。




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