第4話 自分は自分

strojさんキャバクラにいる。

相変わらず女好きでキャバ嬢と一緒に酒を飲んでいる。

手慣れした手でキャバ嬢のお尻を触った。

「きゃっ、えっちですねぇ〜」

「ははは、あとでホテルに行かない?ついでに俺の電話番号だ」

一切れの紙に書かれた電話番号をキャバ嬢に手渡した。

本来なら相手からの電話番号を受け入れることは難しい。

しかし、strojさんの顔立ちはイケメンなので、断らず即に受け入れた。

「ありがとうございます〜あとで電話をしますね〜」

「いつでもかけてこい、ははは」

二人は従業員とお客様の関係である。

恋人の領域を超えていないのに、まるで恋人のようにイチャイチャとしている。

キャバ嬢の唇にstrojさんの口を重ねようとする瞬間に壁を壊す音がした。

塵が舞い上がって、はっきりと見えないが人影が見えた。

strojさんの表情が一変に怒りの顔になった。

「なんだ!俺の邪魔にすんな!!」

少しずつ舞い上がった塵が晴れて、人影の正体をstrojさんに見せた。

「久しぶり、strojさん。また女と遊んでいるね」

「はぁ?チャールズか?まさか死にたいと思って俺のところに来てたか、AHAHAH!」

口を大きく開いて、豪快な笑いをした。

後ろの足に力を溜め、一瞬に加速してstrojさんの顔に近づいた。

握った拳がstrojさんの頬に狙って殴った。

strojさんは後ろに飛ばされて、壁にぶつかり破壊した。

ジンジンと殴った拳に痺れが感じる。

(僕って強くなったな。僕はstrojさんより強いだ)

strojさんが立ち上がり、外れた顎を自分の手で直した。

「はあ、よくもやったな…ぶっ殺してやる、チャールズさんめぇ」

上げた足を一気に下ろして、床を減り凹んでダッシュした。

(速い!でも残念ながら君の行動はもう読み取れてる)

振り上げた拳を避けた。

「!!!避けた?!あれ?おめえの目は…まさか機械の目?!!」

(そうだ…機械の目のおかげだ。センシング技術で、相手の動きを分析して、僕の頬を殴ると言うことがわかった。だから僕はstrojさんより早く避けた)

踵を返して、strojさんの方を見た。

「君のおかげだ、機械の目を手に入れた…そして君を殺す」

指の関節をポキッと鳴らして、瞑った瞼が一気に開いてダッシュした。

2度目も頬を殴った。

相手がどこに行くか全部わかる。だから攻撃しやすかった。

絶え間なく殴り続けた。

strojさんの顔は腫れて、口や鼻から血が出てきた。

「最後に質問するけど、母の死に反省している?」

「反省?俺の辞書に載ってねぇわ!」

「あなたは人の命の重さは分からないの?もういいわ、人の命の重さが分からない人間はいらない」

「え?俺を殺す?いやだいやだいやだ!まだ女の体を抱きしめたい!俺を殺さないで!」

「はあ?あなたの信念は曲がってないな。あの世で母さんに謝りなさい。さようなら・・・」

脆易い卵が割って、中から白身と黄身が飛び散った。

突然、頭に激しい痛みに襲われてきた。頭を抱えて膝を崩して、頭が床の上に当てた。頭の痛みで苦しんでいた。

少しずつ僕の記憶が戻ってきた。

「あれ?ここはどこなの?なんで壊れてるの?」

周りを見渡すと、壁と床が破壊されていた。

エイリアンでも襲われたように見えた。

手を見ると、血塗れになっていた。額から口の近くまで何かの液体が流れ、なんだろうと思って舐めてみたら「うわっ!鉄の味がする!」と叫んだ。

「僕が意識を失っている間に一体何が起きてる?」

キョロキョロとすると、顔のないstrojさんが倒れていた。

倒れていたstrojさんと破壊されていた壁と床などを見て、何が起きていたかようやく気づいていた。

「そうか…僕が寝ている間にstrojさんを殺していたな…」

壁に頭突きをし始めた。

額が卵をコンコンと簡単に割れて、血が溢れてきた。

「なんでなんで僕をサイボーグかにしていたのか!工藤教授、許さない!」

額を壁に付けたまま、ずるずると下ろした。

「あははは、僕はもう人間じゃないだな。これで嫌われ者になるよね」

自然に瞳から水が流れてきた。

「誠さん!」

なんだか聞き覚えのある音だ。

僕の名前を呼んだ方を向けてみたら、ドアの付近に息切れをしている人が立っていた。

「蓮さん?」

蓮さんは、右足に義足のサイボーグを装着している。

しかし、普通と違うので、僕と同じようにクラスの人にいじめられていた。

ある日、いじめっ子に義足のサイボーグを破壊された。彼を置き去りして、家に帰っていった。

そして、通りすがりする僕が泣いていた彼を発見した。

彼の隣に破壊された義足のサイボーグがあった。

「…いじめっ子にやられたか」

彼は何も言わずにただ頷くだけしていた。

彼の気持ちを察して、これ以上に問わないようにして、それを拾った。

僕は彼に手を差し伸ばした。

「一人だけ歩いて帰れないよね。僕の肩を貸してあげるから。一緒に帰ろう」

彼の家まで連れて行った。

「ああ、助けに来たわ」

「え?助けに来た?意味が分からないけど?」

「ったくな、いつも通学する誠さんが突然休んでいたし、休み届も提出をしていなかったので、心配でたまらなくて探した」

「そっか…心配をかけてしまってごめん。でも僕を探しに来なくてもいいのに」

「何を言ってんの?誠さんは俺の恩人だ」

「恩人?あはは、まだ覚えていたか。でも僕はもう誠さんじゃないだ」

「え?どゆこと?」

「だってさ、僕は半分もサイボーグだ」

「それで?」

「え?怖くないの?」

「何を言ってる?俺も右足だけサイボーグだけど?まあ、サイボーグだけど、誠さんは誠さんだ」

ああ、そうだった。蓮さんの右足はサイボーグだったな、と気づいた。

自分がサイボーグであって、自分だけしか考えられなかった。

考えられないというより考える余裕がなく、視野を狭くしてしまった。

「そうだな、俺を助けに来てくれてありがとう」

自然に涙が溢れてきた。

僕はなぜ泣いているか意味が分からなかった。

助けに来てくれたから?

僕がサイボーグであることを受け止めてくれたから?

なぜ泣いているか、探しても掘ってもぴったりな言葉が見つからなかった。

ただ純粋に感じていただけだろう?

意味が分からないけど、嬉しい。

「いいんだ。さあ、一緒に帰ろ」

手を差し伸ばされた。

あの時の僕が同じようにしていた。今は逆の立場になっていた。

ちょっと昔を思い出して、クスッと笑い出した。

「ありがとう」

とお礼を言いつつ、彼の手を掴んで、肩に腕を回した。

自分を変えるのを望んでいなかった。

本来なら穏やかな人生を送るつもりだったが、strojさんと工藤教授のせいで僕の人生を壊した。

僕はもう人間ではないので、この世ではクラスメイトや近所の人に批判されるだろうとネガティブなことを考えた。

しかし、蓮さんもサイボーグであることを分かって、二人がいるなら批判される恐れを減らすことができる。

今後の生活は安心して暮らせそうと、心の中で芽生えた。

『誠さんは誠さんだ』

彼の言葉を聞いて、不思議けれど、さっきまで悩んでいたことを嘘のように吹き飛ばされた。

別にすごいな言葉でもない。誰でも言っている言葉だけど、それでも僕は嬉しい。

生まれ変わった僕は、この社会で馴染めるかどうか分からないけど、一歩を踏み出していこう。

今までと全く異なる背景を見ることができると思って、心が浮かんでいる。

前の僕は前の僕は忘れて、今の僕は今の僕として生きていこう。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

CYBORG 龍川嵐 @takaccti

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ