第3話 機械化

(ん?右目に何かの違和感がある。ああ、strojさんに目を潰されたな…)

重い重い瞼を開いた。

右目に触ってみると、包帯で巻いてあった。

「あら、お目覚めですか?右目はいかがですか?」

バインダーを持っている看護師に尋ねられた。

僕は包帯を触りながら「あ、大丈夫です。痛くもないです」と答えた。

一瞬に不気味な笑いの顔になったが、すぐに元の顔に戻した。

「あら?顔の色が青くなっていますが、大丈夫ですか?」

気づいたら、顔に汗が流れていた。

袖で汗を拭いて、手のひらを眺めた。

(気のせいなのか?ただ敏感なのかな?)

変な警戒を持ち、汗を流して気持ち悪いなと思った。

「あの…トイレに行きたいけど、どこにありますか?」

「部屋を出て、右の廊下を真っ直ぐに歩き、そこにトイレがあります」

「ありがとうございます」

スリッパを履いて、トイレに移動した。

歩く途中に、ズキンっと突然頭に痛みが走ってきた。

除夜の鐘を鳴らすように一瞬に頭が揺れた。

視界が歪む感覚がする。

(気持ち悪い…)

膝を床に付け、僕が倒れてから何も食べてないのに、胃の中から全部吐いた。

「きゃぁああ、大丈夫ですか?!」

看護師が僕の背中を触れたが、看護師の手を追い払った。

「大丈夫です…一人だけで立てますから…」

膝を付けた体勢から立ち上がり、フラフラとしながらトイレに向かった。

洗面所で顔に汗を洗い落とした。

「ふー、今日の僕はおかしいな」

洗面所に手を置いて、鏡に映っている僕を見つめ合った。

右目に巻いてある包帯に気になる。

(…包帯を取ってみようか)

包帯を触れて、ゆっくりと剥がして、シュルシュルと取った。

完全に取った包帯を床に落とした。

「なんだ…これは僕の顔なの?いや、これは夢よね…」

スッと僕の右目を触った。

あのstrojさんの目のように機械だ。

(え?僕の右目は潰されたよね。なぜ僕の右目は機械なの?もしかしたら空いた目に加えようとしていた?)

「まさか…僕はサイボーグなの?」

いやいや僕は人間だ!

僕は機械でもない。

頭の中に混乱している状態になっていた。

(そうだ、この鏡はおかしいだ。偽物め!)

判断力が鈍って、勢いのままに鏡を殴った。

バキッと鏡が割れて、洗面所の上に粉々とした鏡が落ちた。

ぽたぽたと血が流れた。

(痛みを感じるとは…夢じゃないことか…)

再び頭痛に襲われた。

頭の中にウィーンと機械を動かす音がする。

(なんだ、頭の中にも機械を入られたか?!)

両手で両目を覆い隠して絶叫する。

「なんでぇぇぇ!僕の体内に機械を入れたの?!!!!!」

現実を受け止められなかった。

膝が崩れて、床に付け、そのまま倒れた。

看護師が僕を担架に乗せ、特別治療室に運んだ。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

目を覚めたら、手枷足枷で縛られ、ベッドの上に拘束された。

「なんだ!?ここはどこなの?!!!?」

ガタガタと動かそうとするけど、手枷足枷は強く固定されているので簡単に外れなかった。

「おはようございます。誠さん、ご気分はいかがですか?」

「君は誰だ!?」

「失礼しました。僕は工藤教授です。あなたの右目に機械の目を移植しました」

「やはりか…なぜだ!人間の目ではなく機械の目なの?!」

「それはちょうど機械の目を開発しているので、実用性があるかどうか確認したくて移植しました。もちろんセンシング技術も含まれています。自動車のナンバープレートの番号や文字コードなどを読み取ったり、世の中の流れを読み取って予測したりすることができます。人間が見えない先が見えます」

実験は成功だ!と誇らしげで語る工藤教授を見ると、僕はイラッとした。

「もういいわ、機械の目?センシング技術?それはどうでもいいので、元に戻して!」

「申し訳ありません。元に戻すのは難しいです。死ぬまで永遠に機械と共有して生活するしかありません」

「そんな…嫌、嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌だぁ!!!!」

バタバタと動かした。

工藤教授が看護師に麻酔薬を打つように指示をした。

看護師が誠さんの腕に麻酔薬を打った。

「ああぁ…」

意識が朦朧して、少しずつ意識遠のいていく。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

次に目を覚ましたら、ベッドではなく、椅子に変更された。

足は椅子の脚に、手は背もたれの後ろに縛れている。

電気は消して、暗闇の中に一本の蝋燭ろうそくがゆらゆらと燃えている。

僕と工藤教授だけいる。他の看護師などはいない。

「誠さんが寝ている間に悪いが、誠さんのことを調べさせてもらいました。あなたの母親はstrojさんに殺されましたね。母親の命を失い、憎しみを満ちているそうですね。復讐を達成するためにstrojさんに近づき、殺そうとしたが失敗しましたね」

母親の死はまだ受け止めれなかったので、工藤教授の顔を直視せず視線を逸らした。

なるべく工藤教授の話を聞かないようにした。

最後に「あなたはまだ復讐心は残っていますか?」と問われた。

「え?」と反応して、工藤教授の顔を見た。

「ああ、そうだ。僕を支えてくれたのは母親だ。僕は友達がいないんだ。先生も僕のことを馬鹿にしてる。心がズタボロになるが、いつも母親に慰めてもらった。大好きな母親を殺した人を一つも忘れられない。ぶっ殺したい」

僕が話し終わると、工藤教授は口角が吊り上がった。

「あなたの復讐心を成し遂げるためには機械が必要です。あなたは何の武器を持たず、strojさんに戦うのは無理な話です。即に死ぬかもしれない」

「…それはわかってる!でも僕は人間だ!サイボーグではない!」

工藤教授はふーっとため息を吐いた。

「わかりました。さて、この火をじっと見つめてください」

ゆらゆらと燃える蝋燭に指を差した。

僕は戸惑いながら、工藤教授の指示に従って見つめた。

急に僕の耳元に口を近づけてきた。

「僕が今から話すけど、気にしないで火を見続けてください。それと僕の言ったことをおうむ返ししてください」

「僕はサイボーグだ」

「ちょっと待って、僕は人間だ!」

工藤教授はそれを無視して、そのまま呟き続ける。

「僕は人間ではない」

「僕は人間だ」

「僕は機械だ」

「僕は機械ではない」

・・・3時間・・・

「僕はサイボーグだ」

「僕はサイボーグだ」

「僕は人間ではない」

「僕は人間ではない」

「僕は機械だ」

「僕は機械だ」

工藤教授に「僕はサイボーグ」だと洗脳された。

「誠さん、完成だ。これならstrojさんに勝てる!」

「僕はサイボーグだ。最強だ。strojさんをぶっ殺す」

僕は自分の世界に入り込んでいるので、工藤教授の話は脳まで届いていなかった。

「でも誠さんは自分自身はサイボーグだと思えるのは完璧だ!」

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