魔法学園を訪れる

「ここが、魔法学園か……」


 俺はレガリア王立魔法学園『ノルン』を訪れた。おぼつかない足取りで、俺は魔法学園の理事長室を訪れた。


 コンコン! 俺はノックをする。こうするように、カタリナから教わったのだ。


「入りなさい」


「は、はい! 失礼しますっ!」


 理事長の声は女性のものだった。——という事は、理事長は恐らくは女性なのだろう。


「あなたが噂のアレク君ね」


 そこにいたのは、叔母であるカタリナとは正反対の優しげな女性であった。流れるような栗色の髪をした、穏やかそうな美女であった。年齢はカタリナと同じくらいか。せいぜい、20代といった所だ。カタリナは彼女は魔法学園での知り合いだったと言っていた。その時の縁らしい。


 聖母のような印象を受ける彼女は優しげに微笑む。


「私の名はフレア・アレイスターと言います。よろしくね、アレク君」


「あ、はい……よろしくお願いします」


 俺は頭を深々と下げる。


「ふふっ……そんなにかしこまらないでいいのよ」


 フレアは天使のような笑みを浮かべる。良い人だ。よく悪態をつくカタリナとは正反対だ。カタリナは『魔女』と呼ぶに相応しい。とはいえ、あれはあれで優しいところがある事を俺は知っていた。優しくなければ、いくら甥っ子とはいえ、実家から捨てられた俺を引き取ったりはしないだろう。


 あの悪態も照れ隠しのようなものだ。そう考えればなかなかに可愛げがある。勿論、可愛いなどと言っても、素直に喜んだりはしないだろうが。


「えっ……ああ、はい」


 とはいえ、立場というものがある。彼女は理事長だ。この学園で一番偉い人なのだ。そして俺はこれからその学園の一生徒となるのだから。かしこまるなと言われても無理な話である。


「大まかな話はカタリナから聞いているわ。だからあなたから特に聞きたい事はないの」


「はぁ……そうですか」


 それは話が早くて助かる。俺の特殊な事情をいちいち説明するのは乗り気ではなかった。


「校舎の東側に男子寮があるわ。部屋に必要なものは揃っている。そこに制服もあるから、着替えて投稿して頂戴。細かい事は担任の先生から聞いて欲しいの」


「は、はい。わかりました」


「部屋番号とかは寮母さんに聞けばわかるから……後。明日は丁度、魔法測定のある日なの」


「魔法測定?」


「魔法の測定試験みたいなものなの。全員受けてもらう事になっているのよ。当然、あなたもこの学園に入る以上、受けなければならないわ」


 フレアはそう語る。


 何となく、嫌な予感がしてきた。


「わかりました……その測定試験を受ければいいんですね」


 俺は答えた。義務ならば仕方ない。


「それじゃあ、充実した学園生活を送ってちょうだいね」


 フレアは笑顔で俺を送り出した。


 俺は男子寮へと向かう。寮母に案内された末に部屋へ向かった。部屋は一人部屋だった。ルームメイトとかいるものかと思ったが、肩透かしだ。どうやら寮母の説明では、基本的に部屋は二人部屋として使うものらしい。


 今のところは一人部屋になっているが、同じように転校生が来れば二人部屋になるらしい。


 すぐに夜になった。適当に食事を済ませ、さっさと眠る。


 寝て起きたらすぐに朝だ。俺は新品の制服に袖を通す。着た事のない学生服は新鮮だった。


 俺はまともに学校に通った事がない。実家の方針で、俺は魔法学園には通わせて貰えなかった。父は恥や外聞を重んじる。俺が魔法を使えなかった事で、恥をかく事を恐れていたんだろう。


 だから、学校に通うというのは新鮮な事だった。


「よし……」


 着替えた俺は学園に向かうのであった。理事長の言では、今日は魔法測定の日らしい。嫌な予感がするが、それでも避けようのない事だった。致し方ない。


 しかし、俺の嫌な予感通り、『魔法測定』は波乱の学園生活の幕開けとなったのだ。


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「魔法が使えない無能」と実家を追放された少年、世界唯一の召喚魔法師として覚醒する~魔法学園では劣等生として蔑まれましたが、規格外の召喚魔法で無双します~ つくも/九十九弐式 @gekigannga2

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