カタリナとの闘い

曇り空から雨が降ってきた。


俺と召喚獣イフリートは『魔女』カタリナと睨み合う恰好になる。


雨脚は次第に強くなっていき、土砂降りの雨となってきた。だが、その程度で揺らぐ程度の微弱な炎をイフリートは纏っていなかった。問題は一切無さそうだった。


「それじゃあ、始めるとしようか」


 嬉しそうに、楽しそうにカタリナは笑みを浮かべる。


『主よ……』


「ん? ……どうした? イフリート」


『あの小娘は人間にしては手強いぞ。心してかかるが良い』


 イフリートは俺に忠告する。


『小娘』という表現に些かな違和感を覚えつつも、概ねは同意する。叔母であるカタリナが優秀な魔法師である事は母から聞いていた。それに風の噂でも聞いた事がある。ユグドラシア家は魔法の名門だ。故にそういう噂話を耳にする機会は良くあった。


そのカタリナに対して、つい先ほど、召喚魔法を覚えたばかりの俺がどれだけ通用するのか、楽しみでもあり、また不安でもあった。


『さてと……小娘よ。次はどんな芸当を見せてくれるのかの……クックック』


 イフリートは笑みを漏らす。何となく、こっちが悪役のようだった。こう、化け物のような召喚獣を使役しているとそんな感じがしてくる。


 カタリナは氷系魔法(フロスト)の次は、両手に雷を帯電し始めた。バチバチと、両手に激しい電流が迸った。


 間違いない。カタリナは雷撃魔法(ライトニング)を使用するつもりだ。魔法には四つの元素(エレメント)がある。火、水(氷)、風(雷)、地。稀な魔法として、光と闇の属性が存在するが、主だった属性としては先に挙げた四つの属性がある。


 三つの属性の魔法を使えるというだけで十分凄い事なのではあるが、四つの元素を満遍なく使える人間を『エレメントマスター』と言われ、賞賛される。


 カタリナはその四元素を全て使いこなせる『エレメントマスター』であった。そしてその高い魔法に対する素養が彼女を『魔女』たらしめている所以なのだ。


「食らえっ! アレクっ!」


 カタリナは雷撃魔法(ライトニング)を放ってくる。


「くっ!」


『ぐ、ぐおおっ!』


 カタリナの放つ凄まじい雷撃を受けて、イフリートがよろめいた。イフリートの耐久力とて限界はある事だろう。耐久を超えるダメージを受ければ霧散する。今の俺にはイフリート以外の手札などない。彼を失えば、俺の敗北は必至だった。


そうなれば『エレメントマスター』そして魔女と呼ばれるカタリナに勝利できるはずもない。


『大丈夫だ……我が主よ』


「そうか……だったらいいけど」


 とはいえ、それは俺を心配させない為に言ったのかもしれない。何発も食らって問題ないとも思えなかった。


 イフリートが力尽きるよりも早く、決着をつけなければならなかった。


 どうする? 俺は思考をし始めた。こっちの利点は2体1というところにある。召喚魔法は、召喚獣を使役している間にも行動できる点だ。その点が大きく、普通の魔法とは異なっている。他にも異なる点はあるが……例えばさっきのように、自分の代わりに攻撃を受けてくれる、盾の代わりを果たしてくれたり。


俺の都合など、カタリナにはお構いなしだ。カタリナは間髪入れずに魔法を放ってくる。今度は『火炎魔法(フレイム)』だ。イフリートの属性と同属性の炎属性の魔法をぶつけてくるつもりだ。


『ぬ、ぬうっ!』


「火炎魔法(フレイム)!」


『なめるなっ! 小娘がああああああああああっ!』


 イフリートは全身の火炎を滾らせ、カタリナの火炎魔法(フレイム)とぶつかり合った。


 激しい火柱が立つ。


「イフリート! 頑張ってしばらく、耐えてくれ!」


『お、おうっ。主よっ!』


 俺は走り出す。先に述べた召喚魔法の利点を利用する為にだ。


 イフリートの炎とカタリナの火炎魔法がぶつかり合い、相殺した。俺は気づいていたのだ。魔法を放った後、すぐ次の瞬間に隙がある事を。俺は不意を打って、彼女に襲い掛かる。


「はあああああああああああああああああああああああああ!」


「な、なにっ!?」


 俺は彼女に馬乗りになった。


「くっ、放せ!」


「放しませんっ!」


 魔法が使えなくても、筋力差ならさほどない。この距離だったら、魔法による有利不利などもう、関係なかった。


「わかった……。私の負けだ。だから離れろ」


 俺はカタリナとの模擬戦闘に勝利をしたようだ。俺はカタリナを解放する。


「お前の言う事は本当だったんだな。アレク。お前は本当に召喚魔法を習得(マスター)したんだ。これは歴史的にも稀有な出来事だ……。もしかしたらお前の生誕には何か大きな理由があったのかもしれないな」


 カタリナは告げる。


「カタリナ姉さん……俺、もっと強くなりたいんです。魔法は使えなかったけど、この召喚魔法できっと……俺は母さんとの誓いを果たしたいんです。立派な魔法師になりたいんです」


「……そうか。お前が望むなら力を貸そう」


 カタリナとの特訓はその後数カ月続いた。彼女の勧めでレガリアの王立魔法学園『ノルン』に入学するまで。


 そして、その入学した魔法学園で動乱が起こる事になる。


 そこで俺は想像していなかったような、運命的な出会い。そして、思わぬ再会を果たす事になった。


 俺の運命は今まで以上に、加速していくのであった。


 ◆


 作者です。これにて序章が完結です。よろしければ☆入れてやってください。引き続きよろしくお願いします!



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