カタリナとの模擬戦闘へ
「……それで書庫の掃除も満足にできないは愚か、ボヤ騒ぎで何冊か燃やしちまったけど。一体、どうやって言い訳するつもりだ? え?」
流石のカタリナも怒っているようだった。険しい目つきになっている。
「うっ……それは」
俺は実際問題、どう説明すべきか悩んだ。
「何かあったのか? どうしてあんな地下書物庫でボヤが起きる? 魔法が使えないお前があんな事するなんて、なんか、理由があったとしか思えない」
そうだ……。カタリナは『魔女』と呼ばれる聡明な魔法師だ。彼女に嘘や誤魔化しなんて通用しない。そんな事、数日前に再会を果たした時からわかっていた事じゃないか。それに彼女はこの書庫の所有者でもある。誰よりも詳しいはずだ。
『召喚魔導書』を一冊読んだだけの俺よりも、ずっと召喚魔法に関して詳しいはずだ。
考えた末に、俺はカタリナに偽る事なく、真実を話す事にした。
◇
「お前が召喚魔法を?」
カタリナは呆気に取られていた。
「はい……」
「はっはっは! そんなわけ……と言いたいところだけど。お前は嘘を吐くような性格ではないのは私だって知っている。書庫にあった『召喚魔導書』を読んだんだろ?」
「は、はい……」
「それで私が留守をしている事を良い事に、魔法道具(アーティファクト)を用意し、召喚魔法の儀式を行った、ってわけだ」
「……は、はい。その通りです。カタリナ叔母さんは何でもお見通しですね。うっ、い、いたっ!」
ぐいっー! 俺は思いっきり頬っぺたをつねられる。痛烈な痛みが頬に走った。
「だから『おばさん』じゃなくて『お姉さん』だって言ってるだろうがっ!」
カタリナは頬をつねるのをやめた。だけど、まだ頬に痛みが残る。
「どういうわけかは私にもわからないけど、お前は召喚魔法が使えるみたいだな」
「俺が召喚魔法をですか?」
「ああ……推測の域を出ない。確たる根拠があるわけではないんだが。お前が普通の魔法が使えなかったのに召喚魔法が使えたっていうのには、何か理由があるように感じる」
俺が魔法を使えなかった事に理由が。俺は彼女推測に驚きを隠せなかった。
「魔法が使えるってリソースを削ぐ事で、別のリソースが発生する。それが召喚魔法が使えるってリソースだ。召喚魔法を使えるってリソースを得る為に普通の魔法が使えなくなった。そのリソースが削がれたと考えれば辻褄が合うだろ?」
「……俺が魔法を使えなかったのに、そんな理由が。で、でも何でですか?」
「さあな。推測だって言っただろ。全くの的外れかもしれないし。アレク、お前が魔法を使えないのに召喚魔法が使えた理由なんて、私でも知らないよ」
「……そうですか」
「ただ、私も召喚魔導書の存在は知っていた。何せ、私の家の書庫にあったんだからね。自分家にある魔導書の存在くらい、私は知っていたよ。私も儀式を試した事がある。だけど何も起きなかった。召喚魔法は失われた古代の魔法だ。やはり、素養がいるんだと思う。誰にでもできる事ではない」
そうか。『魔女』と呼ばれる魔法師であるカタリナにも召喚魔法は使えなかったのか。
確かに現代の社会で召喚魔法が使えたという事は聞いた事がない。召喚魔法は失われてしまった古代魔法だ。でも、なぜそんな召喚魔法を俺が使う事ができたんだ? 自分自身の事であるはずなのに、俺にも答えがわからない事であった。
「召喚魔法を伝えるものは、今では召喚魔導書しかない。世界には召喚魔導書がいくつか存在されており、それぞれに召喚できる召喚獣が秘められているらしい……私にわかるのはそのくらいのものだ」
俺が召喚した炎の巨人は自分の事をイフリートと名乗っていた。恐らくだが、世の中には他にも色々な召喚獣がいる事だろう。それがその他の召喚魔導書に秘められている、という事になる。
「書庫で何が起きたのかはわかった。表に出ろ、アレク」
「え? 何をするんですか?」
「興味があるんだよ。魔法師として。見た事もない魔法を使える奴が目の前にいるんだから。見て見たくもなるだろう?」
カタリナは笑みを浮かべる。
「私と闘え。アレク。何、命までは取りはしないさ。これは模擬戦闘だよ」
俺はカタリナに連れられ、外へ出た。こうして俺とカタリナの間で模擬戦闘が行われる事になったのだ。
◆
作者です。お読み頂きありがとうございます。作者のモチベ向上の為、☆☆☆を三つにして入れてくれると嬉しいです。よろしくお願いします。
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