第120話 暇潰し
共和国の使者ムファサと夜食後、鍛冶屋リミットに帰って俺は居間でピンク色のパジャマでのんびり小説を見て自分の世界を楽しんでいる
何やら微妙そうな視線を感じるが、インクリットとアンリタそしてアミカの3人でありエステは何故かそこまで気にしてない。
『色は重要じゃない、生地だ生地』
『師匠…でも色くらいは…』
『グスタフさん、乙女なの?メスタフさんなの?』
『公国最強の寝間着ってどうなのグスタフさん』
『お前ら好き勝手言うな…』
暖かいし、いいじゃん
アンリタがいるのはたまに居候する傾向があり、父であるガルフィーに色々俺がら技術を盗め的に言われているからだが、それもあっている時は槍の指南を夜にしている
今日はもう終わったが、以前より槍にリーチが長くなった気がするから踏み込みが深くなってきた証拠でもある。
インクリットとアンリタ2人同時に相手にして今日は稽古したが、明日はなんとアミカが変な提案をしてせいで戦闘訓練合宿になってしまった
簡単に言うと、ムツキやクズリが2泊3日でアミカの家に来る、そしてムツキの妹もだ。
俺だけは見たことないが、妹は街中で俺をたまに見ていたらしく、俺は気付いていない
(どんな子だろうか)
ちょっと楽しみ、ムツキみたいに怪力だったら面白いな
話しの続きだがアミカの店は2日間休みとなるから彼女はこうしてのんびりしているのだ。
鍛冶場で魔法双剣の製造の続きはするらしいが、エステは弓を使う冒険者の面倒を最近見ているから外出だ。
『合宿かぁ…。師匠、森ですか?』
『魔物召喚で手頃な魔物と戦ってもらうが、付与も強化も無しで戦ってもらう』
『うっへぇ、しょっぱなから縛りですかぁ』
『馬鹿インク、元々の身体能力の底上げよ底上げ』
『アンリタの言う通りだ。自分の肉体を信じて戦え』
『グスタフさんならほふく前進で帰れとか言いそう!』
『アミカ、流石にそれはしない…完全に街中では不審者だ』
エステが僅かに吹いた
街中で4人がほふく前進なんか考えたことなかったし、アンリタは絶対しない
『私それ絶対しない』
ほらな?笑顔で言っただろ?
『ご飯は何が良い?』
アミカがニコニコしながら言うと、みんな口を揃えて肉と答えた
なんだかんだ彼女は料理が上手いのは母であるセシルの手伝いあってだ。
最近はアンリタも台所に立つ姿を見るが、アミカに料理を教わっているのだろう
『この時期はカニもありよねぇ』
『確かクズリのお父さんが冒険者から船乗りに転職しているから繁忙期かもね』
『カニ漁って大変らしいわよ?荒波の中でなんか落とすんでしょ?』
『なんかってなんだ?』
インクリットとアンリタの会話はたまに面白い
確かになんかとは何だ?と言いたくなる俺がいる
『確か漁法は100~500mの海底を網でひく沖合底びき網漁だよ!』
『詳しいなアミカ』
『この前知り合いの漁師さんと話した時に聞いた!』
知り合いがめちゃんこ多いのは良い事だ。
どうやらカニ漁がこの1月は集中しており、そろそろ街中にカニが多く顔を出す時期でもあるそうだ。
カニは高いのは色々な費用や味の良さが相まって高級品、しかし1年に一度は誰もが食べたいと思う時期でもあるからアミカは狙っているのだとか
『確かにこの前クズリが親父さんが4日戻らないって言ってたけど、船の上で4日間過ごすって事だったのねぇ』
『船乗り凄い!私絶対ゲロゲロしちゃう!』
『僕も荒波の中だと船酔いしそうですね』
『エステさんは船大丈夫?』
アミカがふと熊のぬいぐるみを抱き抱えた彼女に聞く
真顔となるエステ、彼女は初めて彼らに弱点を告げる
『泳げない。近づきたくない』
この類の会話はエステのカナヅチが発覚し、終わりを告げる
エルフは森に住む種族、湖があれば泳げるエルフも多い筈だが彼女はまったく泳げないのだ
全ての能力値を弓に持ってからた感じだなと昔言った時に矢で射抜かれそうになったのを思い出す俺である
そして深夜、皆が寝静まると外から聞こえる僅かな風が窓を叩くかのようにカタカタと鳴る
俺は小さな客室にて布団の中で丸まって温まるが、たまに胎児スタイルとか想像しながら寝るのが楽しい
こう見えて布団の中に隠れると案外暖かくてリラックスできるのだ
窓から微かに聞こえる警備兵の腰に装着している小さな鉄鞭の擦れる音
2人1組で深夜は巡回している為、彼らのちょっとした会話は地獄耳スキルで聞くことが出来る
『寒いですね』
『そうだな。まぁ特別危ない街でもないが巡回していれば治安維持にも繋がるから仕方がない』
(確かにな…)
警備協会は国民からの税によって給料は支払われている
警備兵は国民と法を守り、兵職は国を守るといった立ち位置だ
彼らがいるから街は守られている
ここの犯罪率は非公認組織、いわゆる闇組織が一つあっても公国内では低い方だ
(まだ22時頃か)
眠気はない、ボーっとしてれば寝れるだろうと思っていると外から声が聞こえてくる
『グスタフ』
小声だがガンテイだ。
俺は仕方なく窓から顔を出すと、彼は真剣な顔をしていたため外に出なければならない用事だと気づく
直ぐにいつもの装備にファー付きのコートを羽織るとワープで建物の裏に転移し彼のもとに歩いていく
そして街を歩きながらガンテイから説明されたが、妹のミルドレッドが配備されてるコロウ山脈の防衛拠点に問題があって直ぐに言ってほしいと街に駐在している公国騎士から伝言を頼まれたらしい
一応、ディバスターにもちょっとした面倒を頼まれているし、ここは暇潰しに行くしかないか
『魔物か?』
『いや、人間の仕業らしいが詳しい話はお前じゃないと駄目だろうよ』
極秘な内容、となれば他国からの干渉か
山を眺めるが、真っ白で防衛拠点が見えない
きっと高所は吹雪なのだろうが、そのせいで連絡魔石が上手く繋がらなくなったからこそ最悪な場合を想定し、俺が行く
(あの吹雪…)
『…ワープで向かう、もう帰っておけ』
『俺もいくぞぉ?』
『勝手にしろ』
ガンテイの肩を掴むとそのままワープだがここでは少し不味い
近くに人の気配がするから裏通りで魔法を使い、防衛拠点内部へと着地したのだ。
激しく吹雪くコロウ山脈の山頂付近の防衛拠点
視界はかなり悪く、5m先もまったく見えないのだ。
とくに目立って変な気配は感じないが、小動物らしき気は拠点外から僅かに感じる程度だ。
『建物に入ろうグスタフ!』
大きな声でガンテイは言い放つ
彼の声でようやく聞こえるぐらい風の音が騒がしいのだ。
俺は頷き、視界の悪い中で公国騎士らが寝泊まりする宿舎棟へと辿り着く
何度も強く叩くガンテイはミルドレットの名を何度も叫ぶと、直ぐに頑丈なドアが開いたのだ。
『入ってください!』
自然の力が建物内に流れ込む為、俺達は直ぐに中に入る
そこは長めの廊下であり、床には寒さに震える公国騎士達が沢山座って焚火をここで起こして温まっていたのだ。
総勢30名、殆どの公国騎士がここにいるようだが焚火に温まる者の中に髪がボサボサになったミルドレットが俺達を見て驚いていたのさ
『流石に来るのが早いですね…それに兄さんも』
『妹の危機だからな!人災と聞いていたが何が起き…』
ガンテイは廊下の奥で応急処置を受ける公国騎士に目を向けると口を閉ざす
腹部に傷だが、明らかに斬られた跡で間違いはない
1人ではなく、4人負傷しているようだがかなりの問題らしい
公国騎士は鍛錬を積んだ者ばかりであり、山賊ごときにやられるなどあり得ない
だから彼らはこの天候で通信が出来なくなる前に、フラクタール公国騎士駐屯所にギリギリで連絡を入れたのだろうな
『奥で討ち取った敵の死体があります。まずは見ていただきたい』
ミルドレットに言われた通り、廊下の途中にあり死体安置所へとガンテイと共に向かう
そこには3人の公国騎士が台の上に乗せた山賊の姿に酷似した服装の男の死体を険しい顔で眺めているが、死因は心臓部分に槍のひと突きでの即死だと公国騎士が俺に話してくれたよ
『ミルドレット殿が仕留めた者ですが、この天候も彼らが現れると同時に吹雪きましてこちらとしては敵対勢力の仕業かと』
『仕業にしても狙いがわからん。死体を調べさせてもらうぞ』
今は拠点内に入らぬよう、鉄扉を堅く閉ざしているから何とかなっているというが
あの小さな気はステルスのスキルを使った人間という事なのだろう
かなりの手練れが多数ここの外にいるようだが狙いがわからんぞ
『ガンテイ、ミルドレットと共に廊下で見張れ』
『おうよ!』
さて…丸裸にした敵の死体だがシドラードに所属する部隊でもなければ帝国の者でもない。
このタイミングでファーラット公国騎士協会の者に手を出す者などいない筈だ
シドラードならばイドラとの交戦準備でこちらに意識を向ける余裕はないのだが…
さて…脳の中を覗かせてもらおう
10分後、俺は死体を焼却すると廊下で焚火に温まる公国騎士達の元に戻る
死んでも脳を覗ける魔法は便利で良い、敵もこんな魔法持ってるなんて知らないだろうな。
『外の様子はまったくわかりません』
深刻な顔を浮かべてそう告げる公国騎士
しかし事態は彼らが思う以上に面白い
内密にする必要はない
俺は鬼火という火属性魔法を焚火に点火し、その炎で公国騎士やミルドレットは十分な熱で冷えた体を温める
そこで俺は彼女に話したのだが、この件に関して誰もが予想外だと思ったのだろう
防衛拠点に現れたのは闇組織ゾディアックの残党であり、ケヴィン王子の指示でとある目的でここにやってきたのだ。
『狙いは俺の情報らしい』
これにガンテイは驚く
普通に考えれば無理な作戦だがケヴィンには勝算があるからこそ仕向けた。
シャンティの死で半ば壊滅状態の闇組織をケヴィンが再構築し、頭領を自身の派閥の者にした。
『何故グスタフさんを今…』
ミルドレッドは答えが出ないようだが、出るはずもない。
『頭領はこの拠点の外にいる。計画では情報収集だけの筈が、見つかった事により目撃者を殺そうと勝手にこいつらが動いたが頭領はそんな指示をするはずがない』
『何故言い切れるのですか?』
『良く知っている者、だから少し残党を始末してここに連れてくる』
普通なら攻められても可笑しくはない
しない理由は本来戦う予定じゃないからさ
まさかゾディアックの残党が最初の部下とは彼女も嫌だろうが、ここで取り込んでしまえばシャルロット陣営も強固になり、他の組織も誰に付き従うか考えるだろう
『ワープ』
俺はその場から光の粒子となって消えると、拠点の外へと着地したのだ。
周りから小さな気配だが隠密やステルスだとわかれば対応しやすい
(さて、久しぶりの再開だ)
シドラードで表立って存在する王族の守護神スズハ
双剣を使いし選ばれし者とこうした形で戦えるならば、一度手合わせしようか
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