第110話 鍛冶祭

親子喧嘩の幕が閉じるが、ここで、問題が起きた


控室に2人の魔法騎士が真剣な顔で訪れる

明らかに誰かを探す様子に参加者はソワソワするが、ラフタを見つけるとすぐさま彼は魔法騎士に取り押さえられたのだ


『な!何をする!?』

『証拠は出ている。一昨年から参加者による被害、今回はゴロツキを雇って参加者の参加証を盗むように仕向けたのはグスタフ殿の協力あって犯人が吐いたぞ』


ラフタは魔法騎士の格好をした男を2人雇い、アミカとぶつかったのは故意だった

地面に落とした際に拾うのを手伝うフリをし、懐に隠して川に破棄するように仕向けていたことを魔法騎士が話すと、ラフタの目が泳ぐ

しかし、その事実に驚く者が多いが、ドノヴァンだけは哀れみを顔に浮かべながら連行されるラフタを横目に口を開く


『殺したいが、まぁ奴の鍛冶の道もこれで終わるだろう』

『お父さん、気付いてたの?』

『親しい傭兵に依頼して聞いただけだ。宿ではつつかれたらしいな』


ドノヴァンはアミカが宿泊する宿で彼女を監視していたらしく、ラフタに絡まれているのを度々聞いたと言う

グスタフが気づいた手練れの気配はその者の気配だ


『何かあれば武力行使させるように依頼していたが、あのグスタフとなればいらぬな』


『えっへん!』


満面の笑みのアミカは父が心配していた事に気付くと更に機嫌を良くする

そんな二人の様子を参加者は驚いた面持ちで眺めるが、理由は簡単だ


口数が少ないドノヴァンは今まさに普通に話しているからだ

普段は一言のみが多い男で無口とされていたが、娘の前ではあんなにも変わるのかとドノヴァンを知る者は困惑を浮かべる者もいた


全てか終わった祭典、明日は展示会で一般客が来る最終日だが、アミカは少し申し訳無さそうにしながらも父に話しかけた


『参加証、ごめんなさい』

『私は気にしていない。だが鉄を叩くのはやめないでほしい』


彼女はやめる気はない

だからこそ、強く頷いた


そこでグスタフは気になり、彼にとある質問をした

これにはドノヴァンも真剣な眼差しで彼に答えを言い放つが、結果を出せない努力は本当にゴミなのかという問いだ


『努力の見方がまずお前と私では違う、きっとお前の強さは生きる為に必要な努力、それは必死に抗うしかないから全てに意味があるといいたいのだろう。やれることはやる、それは間違い無い』


『ならお前はいったい何だ?』


彼は答えた

結果の出ない努力は結果が出るまでゴミのまま

その結果を見つめながら突き進むからこそ報われる努力がある

それまで報わなかった努力は息を吹き返し、ようやく全てが1つとなる


『たった1つの結果は他の失敗があってこその成功だ。まぁ記事は言葉足らずだったろうが』


『夢の為の努力、生きる為の努力か』


『お互い、同じ努力を違う場所で頑張ったのだから感じ方は違うのだ。失敗は課題を生むがその失敗が歩むために必要不可欠なチャンスに変わるのだ』



グスタフは彼を少し勘違いしていたことに、僅かに反省をする

努力の意味は同じでも、見方が違うのは始めた場所での環境で決まるというドノヴァンの話に納得したからだ。

だからこそドノヴァンはグスタフがアミカに放った事がある言葉に似た言葉をアミカの頭を撫でながら口にする


『チャンスが来たら相応の努力はしないといけない、その為の努力もまた美しい』


控室での会話

テーブルにはラフタ以内の参加者が椅子に座って待機しているが、この後に行われる祝賀会の為に残っているのだ。

夕刻からという早めの開催、それは参加者を労うパーティーといった所だ。


魔法騎士が会場の準備が出来たと控室にくると、皆が祭典会場内に戻る

広い会場で作品を眺めながらの会食は参加者の交流目的や貴族の商談など、そういった事がこの場で起きる。


『凄い!ご飯!』


アミカは目を輝かせる

参加費が金貨30枚という大金だからなのだろう、テーブルに並べられた沢山の馳走は普段日常で味わせぬ高級食材ばかりであり、彼女には肉や海鮮が光って見えた

そこへ丁度やってきたのはインクリットらのジ・ハード

祭典は人数制限があって彼らは入場は出来なかったが、祝賀会は別なのだ


『凄いわねインク』

『でも腕が動かないよアンリタ』


アンリタに肩を貸してもらい、ようやく歩けるインクリット

彼は魔力が底を尽いており、歩くのがやっとなのだ。


(仲直りしたようね…)


ドノヴァンとアミカの距離が近い、そしてアミカの笑顔を見たアンリタはそう感じて微笑んだ。

ここで色々な貴族が出揃い、最後に現れたのは王族であるフルフレア王子。

王族である彼が祝辞を述べるが、アミカの耳には入らない

入ってくるのは、隣でフルフレア王子に顔を向けて自分に対して放たれた言葉の数々だ


『お前はこれからメキメキ成長する。だが工房の道具類の話を聞いた時は古すぎて危ないから変えなさい。火床が先ず話を聞いていると小さすぎる…あと送風具が無いだろうからこちらから合う物を送るが見ればわかる筈だ』


工場の道具が駄目、その他の設備も駄目

そんな父のダメ出しが何故か心地よく聞こえるアミカはフルフレア王子の演説を聞くフリをしながらも小さく頷く


『きっとそういった設備や道具類の繋がりで悩んでいただろうがアクアリーヌに知り合いがいる。伝えておく。』


これから大きく変わるであろう事が約束された言葉達

アミカは全てが新鮮に聞こえ、全てが新鮮に見えた


(あの2人、聞いたフリしてるねぇ)


フルフレアは心の中で溜息を漏らしながら演説を終えると、侯爵貴族の者が祝賀会開催の乾杯を口にする。

祭典が終われば、あとは祭りだ

鍛冶職人たちは互いにどうやって作品を作ったのかなどを秘密じゃない部分だけなどを話し合い、技術の小さな交換をしたり貴族が興味ある鍛冶屋に声をかけて関係を持とうと接したりと色々な光景が映し出される


そんな最中、ドノヴァンは椅子に座って美牛の肉が詰まったサンドイッチを頬張る

アミカは彼の隣で同じ料理を頬張るが、そんな光景を見ていたグスタフは食べ方の豪快さは父親に似たのだろうと口には出さずに心で感じた。


(大口開けて食べるのは父親似か)


『美味しいですねグスタフさん』

『ムツキか、今日は色々と助かったぞ』


赤ワインを片手にムツキがグスタフの隣に座り、口を開く

何が起きていたのかをムツキから細かく聞いている途中、アミカが武器収納スキルの中にある自分の作った軽鉄の剣を出してと言われたグスタフは彼女の剣を出して渡してからムツキとの会話を再開させようとするが、それよりもアミカの方向から聞こえる会話にグスタフとムツキは顔を向ける。


『見ろワイルダー。お前にはこれが何に見える』


ドノヴァンが持つのはアミカが作った小柄な軽鉄の片手剣

銀色に輝くそれを前にワイルダーは少し驚きを見せると、彼は言ったのだ


『これ軽鉄か!?』

『そうだ。ミスリルのような輝きまで綺麗に作られた我が娘の剣だが私でもここまで作るのに10年は要した。』


アミカの評価がここで一気に跳ね上がる

メンテナンスしても1年くらいの寿命が殆どの鉄鉱石であり、大半が戦闘で折れる

だがしかし、叩き過ぎなければ寿命は長いのだ。

叩きやすいからと永く叩けば、寿命が減る変わった性質を持っているがコスパに優れた鉄鉱石であるからドノヴァンはアミカの基礎としてこの軽鉄を永年打たせていたのだ。


『2年使っている冒険者がいるのだぞ?この歳で私と同じ完成度を見てまだ我が娘の凄さがわからぬか?』

『偉い喋るじゃないかドノヴァン。まぁ今回はある程度仕上がったであろう娘の存在を知ってもらう為か…』

『まぁそれもあるがな』


手練れの職人でも、公国内で2年の寿命を持つ軽鉄剣を作る職人がどれほどいるだろうか。

否、ドノヴァンだけだからこそ彼は静かに熱弁したのだ

だからこそ、誰もが囁くように『やはりドノヴァンの子だな』と納得を口にする。


『今はアクアライトだけど、今度雷金剛が近くの鉱山から出そうなの』

『フラクタールでか?寒い季節は絶対に打ったら駄目だ。夏だけにしなさいと言いたいが、理由はわかるな?』

『静電気で暴発する!』

『そうだ。なら飛龍の皮手袋を送っておく。叩き方は見て覚えているな?』

『うん!ダークマター以外覚えてる!』


普通の親子の会話

それをグスタフはムツキをにこやかに見守った


『俺もいるぞこら?』


(ジキットかよぉ…)


『今面倒そうな顔したな?仮面してもわかるぞ?』

『いや・・・そんなそんな』

『…まぁそれは良いとして、結果良ければそれでいいさ。』


ジキットはグスタフが小皿に持っていた唐揚げを1つ勝手に食べると、とある方向に顔を向けた

気づけば誰もがその方向に顔を向けて頭を垂れているが、ノア王女が様子を見に来たのである。

これには貴族も驚き、彼女に近づくと会釈をして順番に挨拶を交わしていく


インクリットはテーブルに伏して黙々とあまり力の入らない腕を使って料理を楽しむが、たまに手からサンドイッチが落ちそうになるとアンリタは呆れながらもその手を掴んで彼の口に突っ込む


『ほら可愛い女性のあーんよ?ご褒美なんだから喜びなさい』

『ちょちょちょ!強制すぎでほっ!?』

『いいから食べないと損するわよ?』


それを見てニヤニヤしながらビーフステーキにかじりつくクズリ

誰もがこの場を堪能し、新しい何かを見出していく

フルフレア王子はノア王女に貴族が集まっている隙にグスタフに近づく

これにはグスタフも咀嚼していたシュリンプを飲み込み、彼に顔を向ける


『君の所には凄い能力者が集まるね』

『俺が集めているわけじゃない。勝手に集まる』

『凄いよそれ。参加証の件は本当に助けれずに申し訳なかった』

『気にするな。そこまでお前が我らを贔屓すると後々貴族からの視線が痛いだろう?』

『助かるよ。でもあの2人見るとホッとするね』

『一番心配していた事が終わったのだ。沢山食いたいくらいだ』

『それが良い。イドラ共和国の件まではゆっくりしてほしい』


これから起きるのはイドラ共和国とシドラード王国との今後の力関係が決まる戦

起きるか起きないかは定かではないと言われているが、王族たちは確実にイドラ共和国から起こす事を知っている為。グスタフも知っていた


(ゼペット閣下元気かな…)


こうしてグスタフはインクリット達の輪にムツキと入ると、食事を楽しむ

そこでノアは遠くからグスタフを眺めると、彼と目が合い同時に頷く

その中央にはあの2人が幸せそうに会話を楽しんでいる姿があったのだ


『半年後に鍛冶職人交流会が王都にある。招待状を出しておくからその時は実家に泊まりなさい。仲間を連れてな』

『やったー!』


自分のしたい事は自分の生きる道へと変わったアミカの笑顔はより一層誰よりも元気に笑っていた。

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