第100話 幼馴染


鍛冶祭という祭典の出発までもうちょいだが、俺は今シューベルン男爵の屋敷にお邪魔している

フクダ・リュウセイとチバ・ユウカの様子を見に来たのだ

予想よりも全然屋敷の人たちと溶け込んでおり、少女に関してはとても綺麗な服を着て作法をメイドに教わりながら調合師として素材の勉強を与えられた部屋で黙々としているようだが、調合神だから異常なスピードで覚えるのだから雇われたこの街の調合師は乾いた笑みを浮かべる事しか出来なかったらしい


そしてリュウセイは単純なトレーニングを貴族騎士と共に中庭で行い、稽古をしながらも色々な立場の人間に対しての立ち振る舞いを執事から教わっている

順調な感じで何よりだ…


俺はシューベルン男爵の書斎である2階から中庭を眺める

リュウセイはヒーヒー言いながら貴族騎士と共に家の周りを走っているようだが、基礎的な体力が無いとわかってああなっているらしい


『素晴らしい逸材だ。手に余る事は承知の上だが』


机に座って書類に目を通すシューベルンは苦笑いを浮かべ、口を開く

だがこれから職位を上げる家系になる為にはあの2人は戦力的にも印象的にも必要だ。


俺は窓際の椅子に座り、一息つくと彼と話し始めた


『だがそれは長い年月を使って慣れれば良い。お前の代では厳しいやもしれんが…アトラルがお前の後継者として顔になった時にこの屋敷は公国内でも名のある貴族になる』

『その為に、私は彼らに出来る限り援助する予定だ。お互いの利益に関してはもう既に話してあるさ』

『2人はなんて?』

『死んだことを認めるまで永い時間はかかるかもしれない、とは言っていたが…』

『ふむ』

『だが理想的な世界でどう生きて行けるのか希望が持てた。ならば持ちつ持たれつという共存をして恩を返すと言ってくれている。素直な子らだ』

『良き出だしだ。悪いとジャンヌみたいになるぞ?』

『あの一件で正直億劫な点は私にはあった。どう触れ合えばと内心で不安だったのさ』

『最初が大事だ。どういう存在であるかを教えれば日本人種は直ぐに溶け込む者は多い』


そういった彼らに関しての会話をしている

色々と面倒をかける事になると思った俺はふと閃いて武器収納スキルで右手にとある武器を出現させた


純金のネックレスだが、トップの部分は種から僅かに芽が出ており色はエメラルド色に僅かに輝いているのだが部分的に小さなダイヤがはめ込まれてる

これにはシューベルンも目を奪われるが、椅子を立った俺はそんな彼に歩み寄ると机の上に乗せた


『始まりの芽という名のネックレス。チェーンは純金だがトップはエアリアル鉄鉱石という風の魔力を帯びた貴重な代物とダイヤだ』

『これは…美し過ぎて…』

『運気の上昇と風に対する耐久力が上がる。これ上げるから暫くあの2人頼みたい』

『喜んで受け入れるさ。』

『信頼の証だ』


その時のシューベルンの顔は驚きというか、おだやかな表情で俺を見ていたよ


シューベルン男爵の仕事の邪魔にそろそろなりそうだし、俺は書斎から出ると廊下で巡回警備している貴族騎士1名と挨拶を交わしてからユウカのもとに足を運ぶ

昼を過ぎたあたりだったが、ノックして入ると凄い光景を目の当たりにしたのだ


高そうな丸くて小さなテーブルの前で椅子に座り、何かのステーキをナイフとフォークで気難しい顔して食べようとしているのだ

勿論、彼女の横には手練れのメイド長ベレッタであり、笑顔で彼女に呟くように教えていたのだ


『真上から押さえては駄目ですねぇユウカちゃん?力が入るとそうなってしまい、食事が不味く感じますよぉ?』

『既に…辛い食事』

『では美味しく食べれるように頑張りましょう』

『ふぇ…』


(笑顔で圧が…)


だがステーキは美味しいらしく、口に含むと目が輝くユウカを見ると面白い

ステーキにはニンジンやジャガイモ、そしてサイドメニューは生ハムサラダで飲み物は水だ。


少し彼女は手つきに慣れ始めると、40半ばといったメイド長は一息ついてからこちらに目を向ける


『私も何故か主様から事情を聞いてしまいまして』

『シューベルンが信頼しているならば問題ないであろうベレッタ』

『そう言って貰えると光栄です。しかし2人からしてみれば私達の当たり前は彼らにとっては違う、生きる為に覚えるしかないという状況は私達メイドや屋敷の人にとっても悲しい生き方ではと内心考えたりもします』

『だが生きるためには必要だ…気持ちはわかる』


他国の文化どころのレベルじゃない

全然違う別世界から来たのだから彼らの当たり前が何もかも通じないのだ

だから育つ前に、選ばれし者は死ぬ者が多く、そして間違った道を進む者は多い


『でも私達、頑張らないと』


複雑な感情が入り混じるような口調でユウカは口を開く

わからないことだらけで色々な不安がユウカとリュウセイに日々つきまとうのだから休まる時間はあまりないだろう

だから休む時間である唯一の寝る行為は大事だとシューベルンには強くいっている


『でも拾われてよかった。だからその為にも』

『変に気張らずゆっくり進めばよい。良き街だ』

『私もそう思います。この前メイド長とお買い物に行ったときに傭兵さん達に話してそう思いました』

『傭兵ら?』


メイド長ベレッタから軽く聞いた

ナンパされたらしいが、傭兵ってイメージは柄が悪いと思っていた彼女は少し考えを改めた経験でもあるのだとか

明るくて話しやすい人だし、傭兵じゃなくても他の人が挨拶してくれるからちょっと楽しかったとの事

彼女らの世界では傭兵のイメージは悪いのだろうか


リュウセイとの関係を聞いてみると、彼女は少し恥じらいながら幼馴染と言う

その様子にメイド長ベレッタの変なセンサーが働くと、目が光る


『あぁお決まりの相思相愛パターンの2人なのね』


呟くように独り言のように

まるで伏線を置くかのような仕業に俺は虚無の顔を仮面の下で浮かべた

彼女の顔が赤くなっているのを見届け、俺は次に向かったのは中庭だ

そこでは息を切らして大の字で倒れるリュウセイの姿があり、貴族騎士2人がそんな彼を見て苦笑いを浮かべていた


『体力だよなぁ…』

『まだ8週しか走ってないんだけど…』


困り顔の貴族騎士がそう言いながら俺に顔を向ける

悪いが助け舟を出すわけにもいかないし、ここは彼の地力を自身で底上げするしかない


俺達よりも大きな吐息を出し、疲労を顔に浮かべている

リュウセイのスキルは剣豪というこの世界では獲得することが不可能な部類の物だ

産まれ持って人間は何かのスキルを1つは持っているが、そこで保有していたという記録はある


『死ぬ…ウッへ…、やぁ神様』


(変な呼び名だな…)


『先ずは体力をつけないとな、生きる為にお前は必要だ』

『動物も人も傷つけたことないぞ、出来るか僕にも心配だ』

『ユウカの命が危ない時にそうも言えんだろう?』


すると彼は少し押し黙る

ここに来たからにはそれなりの生き方は最低限必要なのだ

貴族騎士を一度下がらせ、休ませながら俺は彼と真剣な話をしたが、リュウセイは聞いている最中、徐々に呼吸が静かになっていく

それは真剣になった聞いている証拠でもある


『…悪い色に染まる選ばれし者ですか』

『そうなってはもう戻れない。ゲームではなく現実だ…という事だ』

『まだこの世界を受け入れるのは難しいです』

『数年はそのままの気持ちで良い。直ぐに受け入れられたら化け物だぞ?』


そこで彼は僅かに微笑んだ

俺はスキルの力を知りたい為に武器収納スキルで小柄なミスリルの片手剣を出現させるとリュウセイは驚く

収納スキルというのを初めて見た様な感じだが、今はその驚きに付き合っている暇はない


『振ってみろ』


彼を立ち上がらせ、武器を持たせる

初めて触れる武器であり、今までは竹刀という珍妙な武器を使っていたというが…

構えさせると変わった姿勢を彼は取るが、圧は鋭い


無風な筈なのに、彼の周りからは微弱な風が吹いている

剣道の構え方です、とリュウセイは言うが…間違っているような構え方に見えて間違っていない。


(あちらの世界での構え方なのだろう…手慣れている)


収納スキルから縄でまとめた大きな藁を出し、宙に放り投げる

斬れと言っていないが、彼は何をするために俺がそうしたか瞬時に悟った

遠くで固唾を飲んで見守る貴族騎士2人、彼らの目にもリュウセイの持っている実力があらわとなる


一瞬だけの甲高い音、それと共に俺は綺麗な軌道を描く斬撃を捉えた

剣を振った先には光の粒子が残り、宙を舞う藁は綺麗に両断されると地面に落ちていく

振った速度が速く、俺でも意表を突かれると反応出来ない程だ

近接に関しては比類なき強さを誇るであろうリュウセイのスキルだが弱点はある

俺はその事を彼に話そうとするが、なんだか凄い驚いている


『俺にこんな…』


彼自身、こんな力があると思っていなかったのだろう


『力に振り回されると待っているのは死だ。』


彼は息を飲んで頷いた


この世界に慣れるまでは自身の存在は極秘中の極秘

漏れると利用しようと色々な手段で手に入れようとする輩はいると彼に説明すると、当分は大人しくここで世の中を知るように頑張ると答えた


『誰かを守る力だ。間違ってはならない』

『わかりました。』

『あとでお前と彼女の誕生日を教えろ。その時には良い物をやる』


そこで俺はふと思い出した

2人は順調に行くだろうとわかった俺は貴族騎士達を呼んでリュウセイを頼むと告げると屋敷を出てから医療施設へと足を運ぶ

辿り着いたのは入院しているガンテイの所であり、彼はベットで暇そうに本を読んでいたのだ

俺を見ると生き返ったかのように起き上がる


骨は特殊な回復促進の薬で完治はしているだろうが、大事をとって明後日まではここにいる感じだ

ギルドに戻れるという嬉しさに機嫌が良さそうだが俺は収納スキルで新品の指無しグローブを出現させる

黒に近い灰色、素材は凶悪な魔物の革で作られていて下位魔法程度なら腕の力で弾く事が可能な代物だ


『先週はお前の誕生日だったな』

『いいのか?かなり良いもんだぞ?』

『良い。俺の時は肉を奢れ?他人の金で食う肉は美味い』


確かにそうだ!と笑いながら答えるガンテイ

退院したらさっそく飲みだ!と少々強引に誘われたが断る事は出来ない

一応シューベルン男爵にもガンテイには話しておくと言っているから彼に俺が拾った2人の事を告げると、ガンテイは真剣な顔を浮かべながらテーブルの上のリンゴを頬張る


『調合神に剣豪…か。薬剤師の店ならばギルド職員が叔父から譲り受けた空き家が結構場所的に良いぞ?ギルドの四軒先にあるちょっと小さめな建物だが店を開くには良いと思うのだ』

『他人に土地を売ってくれるか聞いてみてくれないか?』

『あぁ話しておくぞ!そいつも固定資産税の件で年々で税金取られるし使い道に困っているとたまに仕事中にボヤいているくらいだしな』

『こ…固定しぜい?…まぁ頼む』


丁度良かった

持つべきものはガンテイだとハッキリわかる

リハビリの時は一緒に森に来いとも言われたので、それも同行しなくてはな


『アミカちゃんの鍛冶祭は誰が同行するんだ?』

『俺とインクリット達だ』

『おいぃ!?街のエースチームゥ?』

『大丈夫だ。エステには頼んである』

『本当か?』

『ギュスターブの寝間着を上げたら2つ返事だった』

『…あぁ…なるほどな、俺は詮索しないでおこう』


ありがとうガンテイ


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