第99話 青瞳
黒髪で若い男、ノアと同じ王族であるフルフレア王子
笑うと人より鋭く見える犬歯が特長的であるが、見た目とは反して落ち着いた青年だ
彼は数多くの貴族を抱え込んでおり、ガーラント公爵王からは国内の物流を見るように言われてからは貴族とのコンタクトを取るために長い期間、姿を現さない事もあったが、俺はこうして王都アレクサンダーにある大屋敷の応接室にて初めての対談中
笑顔が似合う青年の彼は青いラインの入った高貴な鎧を身に纏い、腰には装飾の少ない奮うには丁度良い剣
それよりも彼の背後で護衛している騎士、あれがフルフレアが持つ魔法騎士か
(俺を見ても動揺しないかぁ…いいね!)
ワープで来たら丁度いたのは運がいい
機嫌が異常に良いフルフレアは『食べたい物は何でもご用意するよ』と友好的だ
しかし俺は満腹で来たから大丈夫だと告げると、彼は残念そうにする
『さっきの話の件はこちらで承認するよ。僕としてもフラクタールにいてもらう方が良い』
『ガーランドがなんていうかだな』
『グスタフさんもフラクタールに居座らせることに同意しているならば説得しておくよ』
『ならば頼む』
『…じゃあお願いを聞いてほしいかなグスタフさん』
だろうなぁぁぁぁぁ…
頼んだらそりゃ何か頼まれるから断れない
何を言われるかなと思えば得意分野だったのさ
『とある貴族が隠し持つ闇組織を消してほしい、王都近くで色々と密かに暗躍して他の貴族のお仕事を脅して自分の管轄下にしているって聞いててね。』
『貴族は殺すか?』
『闇組織だけでいいさ。あとは僕が彼を脅すよ』
(これはある意味、やるべき事だな)
彼の為にも…だ
繋がりは今までなかったから貴族の一部には図に乗る者がいるのかもな
『…1時間で証拠を残さず消すか?』
『数人は生かして証人として泳がせたいかな、でも頭領はやってもいい』
そう告げると、彼は後ろの魔法騎士から金属音が聞こえる布袋をテーブルの上に置かせた
まぁ金貨だろうなぁと思ったら、その通りだ
500枚あるから支度金みたいなもんか
俺は金貨の入った布袋を収納スキルの中に入れると、静かに立ち上がる
住民登録の偽装って言うと聞こえは悪いが、戸籍が無いならば作るしかない
選ばれし者ならば王族は異例として承認する為、話す必要があった
何かあった時にはフルフレアに助けてもらう作戦でいけるかなぁって思ったんだ
『そういえば鍛冶祭、僕が主催者だからまた会えるのを楽しみにしているよグスタフさん』
笑顔で犬歯を僅かに見せながら俺の手を握り、ブンブン振ってくる
多少振られてしまうが、距離感が凄い近いな…まぁいっか!
『その時はよろしく頼む、では言ってくる』
んで40分後、言われた街で色々調査して速攻でその闇組織がわかった
名前は…覚えにくいからきっと直ぐに忘れる。
とある建物の薄暗いバーの開店時間前、俺はその店内で俺にやられて血だらけになった店員達に目もくれずに奥に進むと厨房があり、その奥の保管庫は鉄扉となっている
食材の倉庫じゃない、アジトだ
蹴ってぶち壊すと、直ぐに書斎のような小さな部屋が広がる
中にいるのは椅子に座って机で腕を組んでいるスキンヘッドの男、40代か
頭部は獅子の入れ墨があり、凍てついた目で俺を見ている
僅かに俺の右手に持つ首に目を向けたが、冷静を装っているに過ぎない
心臓の鼓動が耳に聞こえる、動揺しているようだ
見た感じ、傭兵で活動していればBはあるだろう実力はある
こうした汚い仕事に手を染めると言う事は頭が悪いって相場が決まってるさ
『我が組織に足を踏み入れる奴はそうおらんが、今回は相手が悪かった…か』
『話をしに来たわけじゃない、じゃあな』
数人は軽傷程度にしている、これで良い
俺は頭領の首を机の上に置くとフラクタールに戻った
やる事はインクリット達の活動見学
本当はアミカに頼んでいた刀の製造を見ていたかったが、頑張る時は1人が良いとごねるから追い出されたんだ
見ていたかったのに…刀を打つの見たことないし残念
森の中で歩くインクリット達を見つけ、戦い方が変わったかどうか見始めるが灰犬の群れが来ても各自が対処するし、獅子猿が大斧を持って現れてもクズリは盾で押し返す強引さを見せつけて態勢を崩し、一気に畳みかける
名前の由来の通り獅子のようなタテガミを生やしており、色は白い
全体的に黒い毛並みだが顔は肉食獣のように牙が鋭くそして頭髪は垂れるほどに長い
爪は鋭利であり、容易く人の肉を引き裂くから注意が必要だ
全長2m、ランクCの猿種の魔物だがクズリは力で勝てると見込んでの思いきりは流石だ
一瞬の隙を逃す彼らじゃない、Cとなれば死に物狂いでその好機を手に入れる
あれだけ苦戦したCランク帯の魔物は4人になってからはすこぶる調子がいいようだ
『調子いいね!』
インクリットはそう口にし、次に現れたランクEの灰犬5匹に突っ込んでいく
無謀ではなく、勇敢という勝算のある行動であり、彼が通過した後には2匹の灰犬は血を流し、その場に倒れる
狼狽える灰犬はもう時間の問題だ
インクリットはあの一瞬でリーダー格を狙っており、そいつは既に倒れている
『行くわよっ!』
アンリタに続くムツキとクズリ、彼らの一斉攻撃で灰犬は全滅だ
安定した戦い方で進める活動は依頼書の枚数も多く受注できるから稼ぎは良い筈だ
僅かに積もっている雪、たまにインクリットが滑るのは良いとして…
冬という景色が変わる森の中を優雅に歩く姿は僅かに手練れに近づきつつある
だがまだ覚える事は沢山ある。
『しっかし寒いぜ。超厚着してるんだぜ?』
クズリは盾を担ぎ、ヴァイキングのような僅かに毛皮のついた革装備を来て言い放つ
一番あったかそうだが、彼は寒がりなのに見た目に固執したのが運のつきだな
ムツキが暖かそうなんだよね…毛皮のコートを身に纏ってるからなぁ
『中に着る服が薄着ですよクズリ』
『軽くなろうと思ったんだよ』
『あはは…見た目はまぁ確かにこだわりたいよね』
『まぁ奮発して買った装備だし着なきゃ損よ損』
『だが中に着る服は考えねぇとなぁ…』
余裕ある会話しつつも意識は周りの森から飛び出してくるかわからない魔物への意識
強い弱い関係なく、意識するだけで死ぬ危険性を低くする行為はしつこく教えたつもりだ。
それが活かされているのは俺がホッコリするよ
『提案があるが聞くか?』
俺が口を開くと、皆が足を止めて振り返る
彼らに何を提案したのかと言えば、あまり経験できぬ経験を提供するという事だ
俺だから出来る事を彼らに話すと、ムツキが不気味な笑みを浮かべたのはちょっと引いた
彼らはチームとして経験したこともない状況
誰もがやる気を真剣な眼差しで見せてくる
俺は彼らの前に黒い魔法陣を展開すると、その魔法の名を口にした
『魔物召喚・小鬼』
黒い魔法陣の中から姿を現したのは灰色の鬼
角は小さく、頭髪はボロボロだが首まで垂れている
体中を古代文字の入れ墨が入っており、右手には錆びた片手剣を手にしていた
ランクBの人型の鬼種の魔物
ギラついた目は彼らを睨んでいる
しかし臆するように育てたつもりはない、そんな敵意を前に彼らは武器を構えたのさ
身長は2メートル半、知能はあるが今の彼らならきっと大丈夫だ
荒い息遣いの小鬼は嘗めまわすかのように彼らを凝視しながら円状にゆっくりと歩く
今のインクリット達には冬など気にならないほどに体温は高くなり、いつも以上に神経が研ぎ澄まされている筈だ
チームでこの戦いは初めてであり、人前に殆ど現れぬ魔物
まぁ理由としては山脈の標高の高い場所にいるから遭遇することは殆どないのさ
たまに降りてくる時はあるが、飯が少ない時だけかなぁ
『ガフフフフ…』
不気味な鳴き声を上げ、足を止めた小鬼は変わった身構えを見せる
両手を脱力しブラブラさせているが、彼らはわかっていると思う
あれは突っ込むぞって構えであり、あっちから襲い掛かる意味なのだ
『っ!?』
小鬼は駆け出した
雪の中に隠れた土がめくれるほど足場がえぐれている
狙いはクズリ、彼は盾を前に躍り出る。
(クズリなら…)
受ける攻撃は決めている
判断のつかない力を持つ魔物ならば威力が逃げる攻撃ならば盾を使う
そう思っていると、小鬼は剣を横に振ったのさ
彼なら避けない、受けとる
盾を攻撃に合わせ、足場を固めた瞬間に小鬼の剣はクズリの盾とぶつかった
金属音が響き渡る光景が写し出したのは数メートル地面を滑りながら吹き飛ぶクズリ
きっと彼の腕は尋常じゃないほどビリビリ痺れているだろうな
『ガフッ?』
クズリに意識を向けていた小鬼は左右から挟み込むように飛び掛かるアンリタとムツキに気付く
槍の突きに鉄鞭の打撃の同時攻撃は回避する暇など無いかに思えたが相手は小鬼だ
なぜBランクなのかを彼らは目の当たりにする
『なっ!?』
『むっ?』
一瞬で小鬼はその場から飛び退いた
反射神経は猫種の次に高いと言われる種族でかり、鬼の強さはそこにある
一撃与えるだけでも彼らにとって至難の業
追い討ちでインクリットが着地を狙って懐に潜り込みながら両手に持つ双剣を振っても一撃目をガードし、二擊目を弾いて彼を吹き飛ばした。
地面を転がるインクリットだが、吹き飛んだのは彼の意思であり判断だ
あのまま耐えようとしても態勢を崩された状態を狙われるだけ、そしてカバーするには仲間が間に合わないと悟ったようだな
(賢いな…)
彼らの連続攻撃を小鬼はガードし、弾き、吹き飛ばしたりと体力の削り合いとなる
普通ならば魔物相手に持久戦は不利となるのが人間だが、この戦い方を選んだという事は魔物の勉強をちゃんとしていたという事だな
『ある程度は削ろう!』
インクリットは皆にそう言い放ち、果敢に攻めた
双剣をひらりと避けられ、直ぐに彼は危険を察知する
小鬼の目が彼をギラリと睨みつけた瞬間にその場から飛び退く
この魔物は連続斬りという技スキルを保有しており、それがインクリットに繰り出されたのだ
錆びた片手剣での二連撃は悲しくもインクリットを捉える事が出来ず、空振りさ
驚くインクリットだが、間一髪だな…
『ガッ!』
小鬼は背後から迫るアンリタとクズリに気づき、振り向く
槍の鋭い突きを剣で弾き、ムツキが左手に握る鉄鞭を振り下ろすと小鬼は左手で掴んで制する
驚愕を顔に浮かべるムツキだが、どうやら驚いているわけではないらしい
『キィッ!?』
右手に展開していた魔法陣から悪魔の目が小鬼の顔の前に現れた
デビルアイという闇属性魔法であり、対象の視界を暗闇にする効果がある
これが本命であり、小鬼は不味いと思ったのか剣を振り上げてデビルアイを斬ると同時に後方に飛んだのだ
敵の攻撃が来ることは本能的にわかっていたからだと思うが賢い
だがしかし、本能的に距離を取るとなれば、それを予想している者は2人いたようだ
『おらぁぁぁぁ!』
『どうも!』
クズリとインクリットは小鬼の背後に迫っていた
これでは流石の小鬼でも着地と同時に狙われては方向転換は出来ない
着地する寸前でインクリットは駆け抜け右アキレス腱を斬り裂くと小鬼はバランスを崩して背中から地面に倒れてしまった
こうなっては…小鬼でもどうする事も出来ないと思うなぁ…
(デビルアイって魔物からすればウザッたいんだろうなぁ)
起き上がる小鬼は前後から迫る敵に対処しきれず、アンリタの槍を背中から貫かれ、ムツキの鉄鞭で頭部を強く叩かれ、そしてインクリットの双剣は奴の首を斬り裂いた
それでも奇妙な雄たけびを上げて腕を振り回して彼らを一度退かせ、構えを取る
左手で首からの出血を抑えつつ右手に構える剣
倒れる傷だが、まだこいつは戦えるようだ
『まだ倒れないわね!』
『ビックリだぜマジ…』
『みんな気を抜かないで、こいつはBだ』
『インク君の言う通りです、少しでもこっちが崩されたら最悪な状況になるのがBですので気を引き締めて挑みましょう』
(良きチームだ)
『召喚した魔物からは魔石は出ぬ、しかし俺がその分の補填は保証する』
『師匠、こいつどんくらいですか?』
『Bでは低い方だが…まぁ一番低い相場の場合での金貨50枚は出そう』
おっと…ムツキとアンリタの目が変わったぞ?金の亡者め
『焦るな!敵は確実に手負いだ、確実にダメージを与える為に無理に動くな』
そう告げると、彼らは小鬼と一定の距離を保ちながら戦う
10分程度、彼らは戦い続けたのだろう…終わった後は雪が冷たくて気持ちいいと口々に言いながら地面に転がっている
手負いにしてからも結構苦戦したが、次も戦うとなると今よりきっと戦いやすいだろうな
『よくやった。インクリットはお転婆癖はあまり出なくて良かったが後半に疲れると力みが見える、力を抜け』
『わかりました』
『クズリはあのサイズ相手なら自信を持って盾で向かっていい。まぁ気づいただろうがな』
『へへっ!了解だぜ』
『アンリタは今のままで良い、賢い』
『私って優秀』
『ムツキは我儘を言えばあれだ、相手に嫌な攻撃を持っていることをちらつかせれるようになればヘイト稼ぎがクズリと2人になって更に戦いが楽になる』
『後半みたいな感じ…ですね』
『そうだ。開幕で見せるって手をあるが…判断はお前に任せる…。あと全体的にまだまだお前は鍛えられる』
魔族の腕力は凄いからな…
ギルドに戻ったら報酬は渡すと告げ、彼らはその場で休む
Bと戦えばもう十分だ、彼らは帰る気満々だしな
『クズリはフラッシュっていう雷属性の魔法は覚えてもいいかもな』
『あぁ知ってるぜ!閃光で相手の目を一瞬悪くさせるんだろ?』
悪く?まぁ間違いはない
彼の場合、盾に魔法を発動させて一瞬の閃光を放って視界を奪うのさ
インクリットは風属性下位魔法ウインドカッターも覚え、次は凄いの覚えたいという意思は強い
エアロという風属性中位魔法、それを狙っているらしいが今のこいつなら全然いける
アンリタは龍炎槍っている特殊な技スキルを覚えたいって言ってたけど、貯金中
それがあれば虫相手は殆どそれで何とかなると思う
ムツキはもう銃魔を覚えているから、あとは彼次第だな
『召喚・灰犬』
俺は黒い魔法陣を展開し、そして彼らは上体を起こして驚く
魔法陣から続々と現れる灰犬の数は13匹、それらは全て休んでいるインクリット達に剥き出しの牙を向けた
『休めない時があるのが冒険者だ。さぁ戦え…重傷くらいは治してやろう』
立ち上がる時のインクリットの顔は今にも泣きそうだったが、頑張れ!
こうして彼らが多数の灰犬相手に死ぬ気で戦い、勝利を勝ち取る
こうして街に戻って色々とギルドで済ませた後
俺はアミカの鍛冶屋リミット2階の居間で寝間着の状態で皿の上のサンドイッチを食べている。
横では大の字で明日の筋肉痛の酷さを予想して笑顔を俺に向けるインクリット
体中シップという貼り薬を貼って大人しく俺に何かを訴えている
アンリタは明日は道場でガルフィーと稽古だからいない
明日は彼らの休みになったのだが、今日はかなり体を酷使させる稽古をしたからな
『もうすぐ鍛冶祭だね!』
アミカは楽しみらしいが、緊張もしているらしい
魔法剣オアシスというアトラルに贈呈する作品を祭典に出すのだが、それは俺の武器収納スキルの中で保管中
一番安全な場所だと思うしね
『シューベルン男爵も街の繁栄の為に遠征費を出してくれたのは助かったな』
『そだね!頑張らないとだけどちょっと寝れるかわかんないなぁ…』
『出発はまだだぞ?前日ならわかるが』
『初めてだもん!』
名のある鍛冶職人が集まる祭典、そこにアミカが特別に参加を許可された
まぁフルフレアが主催であり、その祭典で賞が取れれば超凄い
(だが…)
公国の鍛冶職人相手にアミカであれば厳しいだろう
経験として彼女には参加してもらいたいのだ
『そういえばお家の借金返済だけど5年で終わりそう!』
『早くないか?どんだけ稼いでるんだ?』
聞いたら凄かった
小柄な片手剣を作る事に関しては父親の教えもあってなのか、彼女は上手い
だからなのか、フルフレア王子の魔法騎士らの武器の製造を一部頼まれたとの事
あの王子がフラクタールに来た時にどうやらアミカは会ったらしく、頼まれていたのだ
魔法剣オアシスもアミカの得意とする小柄な片手剣であり、その甲斐あってアクアライト鉱石の綺麗な水色の輝きを僅かに放つ刀身が仕上がっているのをフルフレア王子は鍛冶場で見て決めたのだろう
『オーダーメイド来ない限りアクアライト鉱石は依頼にまわすから、そうなれば5年かなぁ』
『まぁ高いもんな…魔法剣』
『師匠…もう体痛いです』
『頑張れインクリット』
来年までは何も起きない
だからそれまではのんびりと俺は彼らと共に日常という最高の小さな幸せを噛みしめよう
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