第90話 思想
キュウネル妖国にあるサカキ信仰協会
その組織の管理下には国内の協会らがあり、信仰協会が国の日常に必要な中枢となっている。
財源の管理は王族が所属するエクリプス協会が管理している
エクリプス協会とキュウネル国防協会は今後の発展を見込む、人間と国交を開くという考えなのに対し、サカキ信仰協会は否定的
協議会ではいつも対立しており、国の方向性は定まらない日々が数十年続いていたのだ。
クルエラが王座につく前からあった話、それを彼女は本腰を入れて進めている
【誰もが国を守る思いだが、王族は国の未来を変える思いだ。昔のままでは時代に取り残されてしまう】
クルエラはそう唱え、各国が変わりつつある事を察知し、国交を開くという答えを出す
最初は反対運動だけのサカキ信仰協会支持派は王都にて活動していたが、それは段々エスカレーターしてしまい、国民に被害が出る暴動へと変わってしまったのだとエンリケは話すが、話がまとまる直後だった為に仕方がないと最後に言う
『当時と今は違いますが、ノア様が唱えた信仰協会の独立化の件でクルエラ様は既に検討していたのですが、賛同できない状況だったのです』
『何かあったのですか?』
『クルエラ様が子を身籠っていたからです』
ノアは各ハイペリオン大陸での会合でクルエラを見ていない
妊娠しており、信頼する家来に参加させていたのである
『あの時からだともう生まれてますね』
『はい…我らは大いに次の王が生まれたと歓喜に包まれましたが。サカキ信仰協会らは受け入れる事が難しい子でした』
『受け入れれない子?』
『我らは瞳が赤い、しかし生まれた男の子の瞳は住んだエメラルド色だったのです』
ノアや周りの者は瞳の色が駄目だったのか、と勘違いする
しかし違うのだ
『狐人族と人間のハイブリットだ』
俺は口を開き、皆を驚かせた
男の子の名はオリヴァー・イド・キュウネル王子
何故人間の子を産むことになったのかに関しエンリケは口を閉ざす
『子に罪はございませんが、そのようになったのは国の責任でもあります。』
人間と違い、狐人族の王族は文化が違う
子孫を残す相手選びは貴族のような爵位ある者が選ばれるのではなく、強い者が選ばれるのだ
しかし、クルエラは強かった
彼女に見合う男がずっと現れなかったのだとエンリケは話す
権力争い防止で産むのは1人、クルエラは女として王の後継者だ
断腸の思いで当時の配下達は未来を別の種族に託すしかないと覚悟を決めていた
『大将軍トッカータ様でも、クルエラ様の前では手も足も出なかったのです』
それでもクルエラの次に強いと言われる大将軍で妥協は出来るのか?いや出来ない
クルエラの強い遺伝子に負けるからだ
今までならキュウネル国防協会やサカキ信仰協会の双方のどちらかから選出されるのが流れとなっていたが、双方が未来の為に候補となる者の腕を磨いても誰1人いない結果となったのさ
『どんだけ強いんだよ。その王は』
ジキットは驚きながら心の中の声が漏れた
戦えばわかるとエンリケは告げると、出発の準備に入る為にテントを後にした
『複雑ですねグスタフ』
『確かにな…。狐人族は魔力に特化しているが肉体的な強さは人間より僅かに劣る。クルエラも頼らざるを得なかったのだろう』
人も狐人族も同じだ
生きてれば何かにぶつかるように出来ている
国の変わり目としてはこの程度で済んでるのが奇跡だ
国の未来の為に産まれた子に動揺するサカキ信仰協会
妖国内部では小さな争いが不安要素として纏わりつき、国は慎重になっている
最悪クーデターもあり得たが、それは徐々におさまっているのだという
(…サカキ信仰協会は馬鹿じゃない、欲に縛られる者がいると思えん)
クーデターも起きるかと思えばエンリケは確実に無いと言い切る
南の小国リグベルドの王とクルエラは仲が良く、友好的だからさ
こうしてエンリケの手配した馬車にノアを乗せ、俺達は防衛拠点を出る
魔法攻撃に特化した狐人族の護衛付きで森の中を歩いても魔物は避ける一方だ
『この先10㎞先にドラッツェタウンでございます。』
エンリケは気さくに口を開き
街の良さを楽しそうに話すのだ
『あなた方が堪能した福神漬けの食材であるハーブ農園がある街でございます。そしてクルエラ様が今後の為に国の資産を使って建てられた施設がございます』
『立派な施設?』
オズワルドが興味を示すとエンリケは答える
『商人会の者が管理・運営を予定しています他国との物流に備えた建物です。様々な品を一時的に施設内の倉庫にて保管する役割を持っております』
今から向かうドラッツェタウンでファーラット公国との貿易を考えているという話に近い
国内だけでの成長では伸びしろが殆ど無く、時代を考えると手を取り合う時期というのはクルエラだけじゃなく彼女を支える家臣も思っているのだろうな
サカキ信仰協会の中に商人会が管理下にあるが、その商人会もリグベルド小国だけの流通だけには金の流れが単調で新しい事業が生まれない事に常日頃から心の奥底で思っていたのをクルエラが悟り、商人会の会長に話しを通したらしい
『まぁ結果は瞬殺、あの会長も美味い話には弱いのです』
対話に秀でたクルエラはサカキ信仰協会にも話を持っていき、一先ずは落ち着いている
発展の為に他国と繋がりを持つのは生きている中で必要不可欠だ
自分の知らない刺激的な物を他人が持っているのは当たり前だ、それが人生さ
『あとドラッツェタウンには可愛い女性が沢山いますので見惚れぬよう男性の皆さまはお気をつけてくださいね』
期待を胸にする様子が聖騎士やミルドレット小隊騎士らの顔を見て感じた
可愛い女性を見るのは目の保養ですよとハイドは力説するが、ジキットは呆れ顔
何も起きない道中を超えてドラッツェタウンまで辿り着くと誰もが街の中を歩きながら口を開けてしまう
『天使が…沢山』
『みんな美人や可愛いとか狐人族って卑怯じゃない?』
囁く様な声が聞こえる
もっと堂々としてほしいもんだな
街並みは森の中に街を建てたような自然の中に生きる街に近い
大きな木の周りに建てられた建物はロッジのような作りに似ている
通りを練り歩く俺達に足を止めて眺める狐人族の国民
来ている服も特徴的であり、これには馬車から顔を出すノアもエンリケに聞いてみたのだ
『穿いているいるダボダボなズボンって何ですか?』
『我が国で作られているサルエルです』
太腿部分が太く、そしてふくらはぎからは細くなるズボンだ
しかもマントの様に腰から布がなびいているのも格好いい
様々な柄のサルエルを見ていると、誰もが欲しくなる一品だな
生地は綿と合成繊維であるポリフォックスというキュウネル産の原料を駆使した生地を使って作られたパンツであり、誰でも当たり前に外で穿くとエンリケは言う
『我が国は外ではサラダ国家とか言われてますが縫製技術は大陸では随一の器用さを誇る狐人族だからこそサルエルパンツやその他が生まれているのです。人間の街にそれが流れたらいやはや…』
ファッション大国だ。とエンリケは強く演説する
その言葉に対し、誰も否定できないのだ
冬だから上着を着ているのは当たり前だが、傭兵だと思わしき軽装備の狐人族が羽織るコートに誰もが視線を向ける
『エンリケ殿、あれはなんだ?』
『オズワルド殿もお目が高い…。キュウネルコートです』
それは俺がシドラード王国の選ばれし者のスズハに貰ったトレンチコートと非常に似ているコートだった
俺が貰ったのは腰部分をベルトで締めるタイプだが、キュウネル国民が着るそれは中に来ている服が完全に見えるほど開放的だ
寒くないのかとオズワルドが聞くと、エンリケは首を横に振る
『誰もが肌の上に薄くて頑丈なヒートテックという伸び縮みする物を来ていますので暖かいのです』
体から蒸発する水分を利用して発熱し、繊維間の空気の層に熱をためて保温性を高めるしくみ。
そんな凄い発明をしていることにみんなびっくりだが、俺は知ってたよ
『ご安心ください。人間の着る服と変わらない商品もあります』
『でも質が違うんですよね』
『ご名答ですノア様。ファッションに関しては全種族でトップレベルの自負はございます。』
『とても魅力的です。国交を築いてもこちらから何を差し出せるのか不安になるくらいです』
『ご安心くださいノア様、クルエラ様との会食で話されると思いますが我が国は厳しい寒さを超える薪が毎年不足しがちなのできっと話を振られます。あと人間の住む世界にも魅力的な物があるのは我らも存しております』
『あるかしら…』
『クルエラ様がおっしゃっていましたがサクランボなる果実が恋しいと』
『あ、ルーズベルトの街でいくつか農園あるわね』
確かに通った時果樹園があったな
そして数年前、アドラが管理している故郷でもあるアインシュタインの街の近くの森にいた数人の狐人族冒険者を手負いで発見し保護した時に食べさせた柚子蕎麦、あれが忘れられないとキュウネルに戻った狐人族が連呼していたとか
どちらにも利益ある物はあるということにノアは安心した面持ちを見せる
『食べたいですかエンリケさん?』
彼の目が僅かに光る
無言での笑み、これは返事に近い
炊き出し担当騎士がいきなり堂々と胸を張る
どうやら作る気らしな…今日
予定の宿に辿り着くと夜食まで待機となる
建物は狐人族の警備兵が厚く警備しており、不審な者は決して入れない
ロビーにも警備兵そしてこの街に滞在する国防騎士が周りで目を光らせる
感激ムードにノアも安心したのか、珍しく彼女は夜食まで仮眠だが聖騎士が護衛してるから大丈夫だろうな
俺はロビーの横のスペースに目を向ける
丸テーブルが椅子に囲まれた状態で設置されており、時間潰しには丁度良い場所だ
そこに腰掛けると、近くにいたミルドレットも椅子に座る
『問題なく宿まで来れましたね』
『確かにな…。まぁ反対派がいちいち邪魔をするとも思えん』
『流石に度が過ぎれば斬首ですから』
暴動が起きた際の斬首が効いたのだろう
エンリケもそれ以降は反対派の国民も大人しいと言うが、反対派は少ないらしい
『守るべき国民を巻き込んでの暴動に正義も信仰も糞もないって言って死刑にするって凄いですよね』
『だが正論だ。自分が正しいと思って回りが見えなくなる奴に未来は作れないからクルエラはキレたのだろうな』
ぶっ飛んだ王だが、俺は気に入ってる
思い切りが早く、判断力も兼ね備えた王
実際国民の支持は圧倒的にクルエラなのさ
『人間の国と違い、サカキ信仰協会は伝統を守りたいのだろうが変わる勇気に足を踏み込めぬ様子か』
俺はそんな事を口にする
認めたくない事は誰にもあるが認めなくてはいけない最後のチャンスを逃したら終わりだ
宿で出されるココアですと宿の者が丸テーブルに二つマグカップを置く
見ているだけで暖まるような湯気にミルドレットの顔に笑顔が満ちていく
『キュウネル産ココアですねグスタフさん』
『普段飲むココアより濃くて贅沢な気分を味わえるぞ?』
さっそく飲むミルドレット
ニヤニヤしている点を察するに、気に入ったとわかる
『非常に美味しいココアですな』
ミルドレット小隊の副官ラビスタも登場
彼の手にもココアが入ったマグカップ
椅子に座り、大事に飲み始めると俺はふと気になる事を口にした
『年末は帰省かミルドレット』
『丁度兄さんが元気になる頃合いなので帰りますよ』
『やる気あるならガルフィーが槍でボコボコにしてやると言ってたぞ?』
流道の使い手ガルフィー
今のミルドレットには確実に必要な技術だ
基礎が仕上がってる分、彼女なら触り程度は身に付く筈だ
『刺されないですかね私?』
『それはない』
真顔で言われると、キツい
ラビスタは耐えれず笑っている
(それにしてもなぁ)
窓から見える宿の通りを歩く狐人族は冒険者がまだ多い
理由は夜でも彼らは目が利くからさ
近くで立って警備する国防騎士に聞いてみればわかる筈と思い、俺は顔を向けた
『外の冒険者らはどこへ?』
『夜の依頼ですね。作物を荒らす魔物の中には夜行性が多いため、夜でも目が良い我が種族は夜に活動する冒険者チームも少なくありません』
亜人と比べると人間は目が悪すぎる
これはどの種族でも有名な話の為、聞いていたミルドレットやラビスタも納得の頷きを見せた
夜となるとヨルツノネズミ
夜行性、頭部に角が1本あって目は赤い
色は全体的に茶色で全長30センチのネズミ種の魔物でランクはF
灰猪という猪種の魔物
体は灰色だが頭部は黒く、牙は比較的小さい
草食の猪と珍しく、野菜や果物を食べちゃうランクEの臆病なやつ
作物荒らしの妖精と比喩される可愛い魔物だが
グレート・テンというランクDの細長い胴体の獣だ
フェレットと言う選ばれし者の世界の動物に似ているらしいが別世界ではペットとはあちらの世界は凄いな
全長1メートルあるが雑食、敵意ある者をなりふり構わず襲いかかって噛みつく面倒で可愛い魔物である
キュウネル国防協会の騎士はそのように説明すると彼はお腹を鳴らす
『お腹が蕎麦を待ちきれないようで…』
苦笑いする彼は柚子蕎麦を楽しみにしていたようだ
数年前にアインシュタインの街で保護した狐人族の冒険者だが、どうやら彼の弟がいたというのだから偶然にラビスタは驚いている
『呪われたように蕎麦とたまに囁いていたので私も気になる一品です』
こちらからの土産でアドラから渡された大量の柚子蕎麦の材料
俺の収納スキルで運んでいたが、半分ノアに持ってかれてこの宿で今は調理されている頃合いだ
空腹を紛らわす為にサカキ信仰協会に関して聞くが、普段は王族と一部の家来しが属さないエクリプス協会とは仲が良かったらしい
木の神を称えるサカキ信仰協会は国の財の一部と国民のお布施で色々な事業をこなす有能な者の集まりと説明されたのには驚きさ
各街に建てられたサカキ信仰支援施設
そこでは生活支援の窓口もあれば月に一度の演説にて狐人族の伝統や道徳、信仰の話をする
これは国内の学園でも行われる大事な授業にもされているらしいから案外キュウネルにとって大事な部分を担っていると言えるだろうな
『暴動はありましたが、あれはサカキ信仰協会の把握できぬ一部での騒動の為、クルエラ様もそれに関しては協会に追及しませんでした。』
『でかすぎる組織を把握するのはキュウネルの者でも大変なのですな』
『ですね。エンリケ殿から軽く聞いていると思いますが、人間と手を取り合うか否かの派閥の他に違う見方があります』
『ほう、どのような?』
『伝統を変えるか守るか』
その言葉に俺はホッと胸を撫でおろす
それならばクルエラは解決している頃合いだろう、と
クルエラが人間とのハイブリッドの子を産んでから一気に亀裂が入ったとなると、納得できる言葉だ
(サカキ信仰協会の気持ちもわからんでもないなぁ)
まだ人間の信仰協会より全然マシだ、と俺は感じるとラビスタも同じような事を思っていたと言わんばかりに国防騎士に苦笑いで口を開く
『人間の信仰協会よりまっとうで良いですなぁ。5年前にデメテル信仰協会の一部では裏で脱税したりで2年前なんか売春騒ぎでガーランド公爵王が主犯の教皇を永久禁固に…』
『あはは…欲を肥やさない事が我が国の信仰協会のモットーですので』
永久禁固は死ぬまで何もせず
地下牢にて日の光すら見ることなく牢屋で過ごす事だ。
牢屋は石の壁に囲まれ、ベットとバケツがあるだけ
3食きっちり食事をする以外、そこに希望は無いから自害するものが大半だとはよく聞く
(ガーランドは意外に厳しいとこあるからなぁ)
そして、俺たちは飯の時を向かえる
ミルドレットが誰よりも楽しみにしていたようであり、彼女の足取りは誰よりも軽かった
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