第87話 精霊
生き物は神々の創造物だが、今俺達が戦っている魔物は違う
神々が作りし精霊達が作った魔物さ
だから古代から精霊種と呼ばれる魔物は存在しており、魔力量が多い
『オゴゴゴォ!』
単純な突進をジキットと跳躍し、背中を飛び越えての回避だがアバドンの動きは鈍い方だ
しかしその分、機動力があり知性も高い
勢いを止めずに前足を器用に使い滑りながら半回転すると広げた両翼の中心に緑の魔法陣が2つ展開された
放たれたのは円盤状の緑色の刃が二発
ウインドカッターという風属性の下位魔法
この魔物は魔法をバンバン使ってくるのだ
『モロだとやばいなぁ!』
人間に命中すれば致命的
半端な武器でも最悪の場合は折れる
だが二人の武器なら大丈夫なのさ
メェル・ベールで切り裂くとジキットも負けじと駆け出しながらウインドカッターを真っ二つにする
魔法発動後の隙を狙ったらしいが、予想が外れる
『おっ!?』
伸びる両翼の根はジキットを串刺しにすべく襲いかかる。
飛び退きながら剣を振って根を斬るが、直ぐに再生されてしまうのを見て彼は舌打ちをした
『核の場所さえわかりゃなぁ!』
『体のどこかにある、僅かに核の発光が漏れている筈だ』
しかし尾の攻撃や突進、ウインドカッターや突風を発生させる魔物の攻撃を避けながら探すが見当たらない
俺は突進された際にすれ違う瞬間に左翼を斬り飛ばすと、ジキットはアバドンの右前足の付け根を剣で引き裂いてすれ違った
バランスを崩すアバドンだが、ジキットは素早く左手を奴に向けて黄色い魔法陣を出現させた。
バチバチと放電を見せており、飛び出す魔法は雷属性の下位魔法・雷弾
1つの魔法から速射4発は多い
それは全て頭部に命中し、アバドンは一瞬だけ怯む
だが木の肉体は雷耐性が非常に高く、ダメージを負った様子はない
『だよな』
ジキットが囁くが無駄じゃない
アバドンが怯んだのは目を守る為、僅かな隙で俺は飛び掛かっていたのだ
『ぬん!』
頭上を通過する瞬間に振ったメェル・ベールはアバドンの右翼を根本から斬り飛ばす
地の底から沸き上がる様な鳴き声を上げるアバドンだが案外冷静だ
(だろうな)
着地と同時に横からアバドンの尾が迫る
避けようとしたら運悪く足場がぬかるんでおり、足を滑らせてしまう
これは受けるしかないと覚悟を決めてメェル・ベールを盾代わりに尾をガードしてみたのだ
だけどもやっぱり魔物の力は凄い、俺は地面を滑るようにして吹き飛んだのだ
(腕がっ!)
凄いビリビリする
身体能力強化魔法を使っておけば…と後悔しながらも後方に木に背中を強く打って勢いは止まる
『おいっ!?』
『痛くも…ないぞ?』
唸り声を上げて我慢している姿を見てジキットは鼻で笑う
最大まで魔法で強化していれば受け止めれたかといわれると、足場の悪さでそれは無理だ。
『ゴァァァァ!』
アバドンは咆哮を上げた
森全体が響き、鳥肌が立つ
良い運動だと思いながらも戦闘形態になったアバドンに2人で襲い掛かる
背中の両翼の再生が始まるが、再生能力の高さは非常に厄介だ、あれは伸びてくるからな
『しゃらくせぇ!』
アバドンのストレートパンチのような攻撃を跳躍して避けたジキットは腕を足場に一気に間合いを詰めると、先ほど気にしていた片翼が伸びて彼を襲う
翼のようで、それは指先のような使い方にジキットは一瞬だけ驚くが土壇場で彼は面白いものを見せてくれたんだ
『両断!』
彼に与えた魔法剣アルカトラズが僅かに光る
技スキルの発動では本来この剣の恩恵は受けないが、条件としてジキットは剣と同じ属性を秘めている為に例外だ。
音を斬る細い音が斬撃と共に鳴り響くと、ジキットを襲う片翼は吹き飛んだのさ
そのまま頭部へと跳び、回転しながら剣を振って更に彼は叫ぶ
『両断!』
斬撃の軌道に放電を帯びて残る光景は綺麗だ
根性が良い感じに彼を鼓舞し、ランクB相手に怯まず冷静に彼は彼らしく戦えているのだろう。
(予想外過ぎる…)
『ゴハッ!?』
アバドンは頭部を斬られたが深手ではないようだ
だが右手で頭を抑えて後方に着地したジキットに目を向けようと振り返るが、そうなると俺はフリーになる
『馬鹿が』
右手を前に出し、赤黒い魔法陣を展開する
何をする気なのかジキットは気づいたのか、叫びながら彼は横に飛び退いたんだ
『馬鹿っ!殺す気かぁ!』
『ゴァァァ?』
振り向いても遅い
『銃魔・スナイパーバレット』
炸裂音と共に放たれる貫通性能特化の魔力弾は先が尖っている
固い物質に対して破壊を行う場合に効果を発揮する怪魔法だが、長射程まで可能なのが良い
『ゴファァァァァ!』
頭部を狙われていると思い、体を反らずアバドンだが違いますよ?
貴方の膝です
か細い右足の膝は討ち抜かれると、爆発したかのように裂ける
だが皮一枚分切断できずだが、あれでは立てないから大丈夫だ
バランスを崩すアバドンは背中から倒れるように転倒するが、倒れる寸前で緑色の魔方陣を右手の先から展開して俺に放ってきた
風属性中位魔法・エアロ
カマイタチを固めた様な大きな球体は触れただけで肉体をズタズタに引き裂く
1mサイズの球体だが、受けてはならない攻撃だ
『やれ!』
俺はそう告げて跳躍し、エアロを避ける
その球体は後方の木に命中すると、木は悲惨なまでに斬り刻まれて倒れていく
ジキットが上体を起こすアバドンに背後から剣で突き刺す
核がどこかと探していた俺達だが、どうやら腹部だったのだ
戦闘形態前だと腹部は俺達には見えなかったが、立ってから腹部に亀裂から光が少し見えてたのさ
だからジキットは核を攻撃できるように後ろから突き刺したのだ
普通アバドンなら尾でカウンターを狙う筈だが、俺はそうさせないように赤黒い魔法陣を展開して注意を逸らしていたのだ
だから彼に気づいてなかった
『ゴォォォ!…ガガガ』
『両断!』
ジキットは突き刺したまま技スキルを発動し、そのまま怒号を上げて横に裂いた
すると傷口から光の粒子が漏れるが、これは核に傷がついたからだ
だがしかし、完全に砕けていない…傷ついただけのようだ
背中で押しつぶそうと倒れるアバドン
ジキットは流石に裂いた瞬間に飛び退いたために間一髪だ
途端に俺達の頭上に展開された緑色の魔法陣から強風が吹き荒れ、俺はメェル・ベールを地面に突き刺して耐えるがジキットは刺す前に吹き飛ばされ、木に背中を強く打ってしまう
『くっそが…ガリ野郎め…』
痛い筈だが、直ぐに立ち上がる姿はインクリット達にも見せたい
痛みよりもジキットの顔は敵に向ける殺意で溢れている
普通ならばこんな状況でそこまで覚悟を決めるなど不可能、俺がいるからではない
隙を見せない事は相手に攻撃のチャンスを作る事にも繋がる
いつまでも膝をついていれば、魔物でも襲い掛かってくるのさ
『お前は強い、ジキット』
だがしかし、まだあれを単独で倒す技量はまだ足りない
魔物の抵抗はすさまじく、それはアバドンも例外ではない
奴はその場で暴れ出し、両腕を振り回して風を巻き起こす
そこに隙は無く、流石のジキットも攻めあぐねる
『くそが…』
まだ吹き飛ばされた時のダメージが回復してないようだ
あれで直ぐに立てるタフネスは素晴らしいが、今はそこまで見れればそれで良い
『銃魔・アハトアハト』
轟音と共に赤黒い魔法陣から放たれる魔力弾
アバドンは見ただけで危険だと悟ったのだろう、暴れるのをやめて回避に移るが…遅い
炸裂音と共に吹き飛ぶアバドンの腹部は大きな穴が開く
核を一瞬で砕かれたことにより、断末魔を上げる余裕さえない
鉄さえも砕くこの一撃、お前に耐えるなんて無理
上半身が地面に落ち、下半身が倒れる
アバドンの口は大きく開き、そこから見える多数の触手の動きが止まると頭部から大きな魔石が発光した状態で顔を出した
決着後は必ず静寂が訪れる
終わった途端の勝利はこの時、歓喜を呼べずにいた
『ケッ…この木くず野郎が…ぐっ』
膝をつくジキットだが、俺は発光する魔石を右手で抱いて彼のもとに向かう
終わったというのに、彼は目を細めて俺を見つめているが…
『魔石の力を取り込め』
『やっぱ…俺はいらねぇ』
『強くなりたくないのか?守る力を欲しないのか?』
ジキットは苦虫を噛み潰したような面持ちで押し黙る
綺麗に強くなるなんて無理だ。
誰だって釈然としない結果の中で得られる物があるなら手に入れなければならない
『未来は俺にも予想できない、しかし最悪な事は今この場でこの力を手に入れてない未来でノアを守れなかった事が起きた際、お前は絶対に後悔しないと誓えるか?』
『くっ…』
『綺麗ごとでは誰も守れない。泥にまみれた思いからノアに拾われた身なら思い出せ。何故お前はそこまで強くなれた?1人の力か?誰に手を差し伸べて貰った?』
人はどこかで誰かに救われている
彼も1人でここまでのし上がったわけじゃない
今回は解せない状況だと思うが、彼にこの魔石を渡すのが好ましい
『ノアを守れ、低ランクの発光魔石よりも強い力だ。お前が求める道はお前が作るのではない、お前は歩く者だ。その道を作ったのは誰だ?ノアだけじゃないだろう?思い出せ、お前の為に聖騎士まで世話してくれた者の顔を』
今回は俺だから抵抗が僅かにある、のだろうが
彼は言い返さずに舌打ちをすると足元に置いた魔石に手を伸ばしたのだ
『飯奢れ』
『えぇ…倒したのに…』
この男、聖騎士で終わるとは思えない
クズリのように加護を持っていなくともな
こうして俺達は防衛拠点に帰還する
残念だがアバドンの肉体は死ぬとボロボロと砕け散るだめ、素材は無い
木だから使えるかと言われても…いらないな
シェルターでの遅い昼食
王族に出すには合わない料理だが、ノアはこういう一般的な料理が好きらしい
大きな円卓を囲んで食べるのはノアにミルドレット、ジキットやハイドそしてオズワルドに副官エイミーに俺だ
ジキットはたまに腰を回して痛そうにするが、今日休めば治る
味噌汁はジャガイモにエンドウ豆、これがシンプルで美味だ
そしてアインシュタインの街で育てられた若鳥で作られた唐揚げ、これは高級だ
普通は若鳥なんて他に需要がある為に唐揚げになるのは老いた鶏だからさ
貴族らも食べる食材をアドラ第六将校の街で作られているのは凄いな…
まぁ唐揚げ定食を俺達は食べており、俺は唐揚げを美味しそうに頬張っているのである
(美味いなぁ…美味い)
外はサクサクで中はプリプリで油が最高
戦った後だと更に美味しく感じるこの味は米を欲している
『聞いてるグスタフ?』
『ムッ?』
ノアがこちらを見て何か言ってる
第六将校副官エイミーとノアが会話していたのは聞いていたが、話を振られていたのかな?
『飯に夢中で聞いていなかった』
『本当に食べるの好きね貴方』
『口の周りに色々つけてるお前が言うのか?』
ハイドが顔を逸らしたが、お前笑ってるな?
『美味しいから仕方がないのよ。』
『それで何を話していたのだ?』
フラクタールの街でのドレットノートの話が関係している
王族が慌てて動き出すほどの問題の中に俺がおり、そんな話は将校らから部下に広がっているらしい
話がどこかで食い違ってしまい、怒らせると公国は衰退するとか過剰に情報が流れていたらしいけども、人の話なんてどこかで食い違ったり過剰な表現が入る
その類でそうなったのだろうと思うと…面白い
それで副官エイミーや彼女の部下である第六騎士らは緊張した面持ちだったってさ
『えぇ…俺は破壊神か何かなのか?』
『私は食い専傭兵だと思うけど』
『まぁ否定しないぞ?美味い飯は幸せ感じるしな』
『ほらエイミーちゃん。変わってるけど普通よ?変わってるけど』
『待て待て待て、何故2回言った?』
ジキットは何故かニヤニヤしているけど、見ていて楽しいのだろう
『変に私が聞いておりましたか…これは失礼しました』
苦笑いを浮かべ、頭を掻くエイミー
それにしても地下シェルターが防衛拠点にある事に関して話そう
キュウネル大森林から流れてくる凶悪な魔物対策だ
過去に2度、ここは破壊されているがBランク以上の魔物対策である
何かあれば、ここに全員退避するらしいが…ドーム状の建物も頑丈な構造だし将軍猪が何度も突進しても穴を開ける事は不可能だろう
Aランクとなると話は別になるがな…
『一応キュウネルの使者からは明日の夕刻にはドラッツェタウンにて待機しているからそれまでに森を抜けないとね』
ノアの言う街はキュウネル領土にある街の名だ
街というか密集した集落というべきであり、人間が作るような建物は少ない
大きな木々が幾つもある大きな森の中はハイペリオン大陸でも長寿と言われる森と言われ、狐人族は木の上にも建物を立てる
王都エクリプスは人間の街に似た光景だがな…
『途中で案内人を待たせているとの事なので、ドラッツェまでは大丈夫だと思います』
『問題はキュウネルは現在サカキ信仰協会と和解したのかどうかね』
ノアが溜息を漏らし、最後の唐揚げを口に入れてる
キュウネル妖国は木の神を奉るサカキ信仰協会と対立しているのだ
理由は極秘の為、協議の際に話すとノアは聞いているらしい
危険だがそれでも来るならば話を聞く時間を作るという条件を彼女は飲んだのは俺がいるからだ
(クルエラは大丈夫だろうが…)
いつかは来るべき問題
ノアが政策した信仰協会の独立化に賛同できなかった理由は察する
真剣な顔を浮かべて水の入ったグラスを触るノア
飲むわけでもなく、触って揺らしているのは考えているのだろうな
『…グスタフ、貴方の予想は何ですか?』
『クルエラは未来の為に皆が変わる事を望むキュウネルで初の女性の王、だがサカキ信仰協会となればクルエラの思想に反するのは火を見るより明らかだ。しかし人間よりもしっかりした者らだというのは理解している。』
『どういうことですか?』
『行けばわかる。人に寄り添うべきか拒絶するかの対立、隣国と和平を願うのがクルエラだがサカキ信仰協会は何千前年も守り続けてきた伝統や法を崩すのを恐れている』
シドラード王国のウンディーネ信仰協会は教兵を多く従えており、将校や貴族らを抱き抱えて見えない権力を持つ面倒な組織に対し、サカキ信仰協会は信仰協会の管轄下に他の協会がある
エクリプス協会は王族が持つ組織であり、その下にはキュウネル国防協会という兵職が集う組織
人間と違い、独立した組織はキュウネル傭兵協会と冒険者ギルド運営委員会しかない
『最後に来た使者は出発の1週間前、とうとうキュウネルにて暴動が起きたと聞いてます。』
ノアは深刻そうにそう告げると、グラスに入った水を飲み干した
エクリプス協会とサカキ信仰協会との歯車は少し悪い感じだが、直接見て確かめないと駄目だなこれ。
生きている以上、生物は争う
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