第81話 堅牢

ノアの部屋は2階、廊下は聖騎士が警備しており正面か怪しい奴が入ってくることは無理だ。

俺は小腹が空いたと駄々をこねるノアのお守なのだが、辛い

収納スキルで何かないのかと聞かれたが、一応試しに見せてみるか


『選ばれし者が創造した柿という食べ物だ』

『毒?』

『それはボケか?』


彼女に色々説明するが、柿という食べ物はこの世界にはまだない

創造した選ばれし者が俺にくれたんだけど元気かな…

オレンジ色のちょっと角ばった丸みがある果物であり、皮は向きやすいように創造していると聞いていた為にノアに渡すと目を輝かせて剥き始めた


『匂いは無いですがきっと美味しいに違いないですね』


彼女はそう告げながら懐から小さなナイフを取り出すと、半分にする

どうやら俺にも食べさせる為らしいが、これが彼女の良さなのだろう

俺がこれをとっておいた理由は彼女がそれを口にした瞬間に答えが飛ぶ

ノアはベットでお尻を使ってピョンピョン跳ねながら美味しいと連呼した

美味しいのはとっておくのが俺だ


『これは毒ですね!中毒性のある果物ね』


バクバク食べている、男みたいにな

俺も一口食べるが確かに美味である

未知な味なのに美味しいと実感しているのは脳がこれを認めているからだ

果物特有のみずみずしさは微妙だが、甘くて癖になる味なのは間違いない

栄養満点、しかも疲労回復する成分も入っていると聞いている


(むっ?)


一口食べていた筈なのにもうない

無意識に体がこれを屠っていたか…意志を無視してでも体はこれを欲していたというのか

流石創造された果物、流石秘境の味



(俺もこんな能力欲しいなぁ…)


『おかわり!』


ノアは目を輝かせ、俺に手を伸ばしている

仕方がない、あと一個食べさせるか

良い顔をして食べる姿をみると、こちらまで同じ気分になる

これが魅力なのかと思うと、少し羨ましい気持ちになった


小腹対策も済み、ノアは満足していきなり寝始めた


『おい…』

『いいでしょ?私の部屋なのよ』

『そういう意味ではないのだが…』

『ならお話しましょ。』


寝転がりながら彼女はこちらに視線を向けた

ソファーに腰かける俺は聖騎士の姿のまま足を組み、何を話すか迷う


(何にするか)


『そういえば私、魔法覚えたのよ?』

『何の魔法だ?』

『ポケットディメンション』


俺は慌ただしく立ち上がると、彼女は狙い通りと言わんばかりにガッツポーズだ

見た目の白い美しい姿に似合わずこの女の魔力袋は赤黒い深い闇、紐も金色で見た事もない異質な才能を持っているのだ

だから覚えれたのだろう、俺も使える異質の影属性転移魔法だが…上位魔法さ


『公国内でこれを覚えている者は俺以外にいるか?』

『記録ではいないから私で2人目ね』


自慢げだが、彼女の魔力量なら一度使えば次回発動まで数日は必要だ

だから毎日瞑想して魔力量を高めるために空気中の魔力を感じようと訓練中だとさ


『銃魔で一番すごいの何があるのかしら?』

『…帝国と争う事になれば使うであろう魔法はある。ディスペア・クラスターにテルミット・レインそしてエンデヴァーボム、そしてラピット・ドラゴン』

『名前からして中身とか聞くの躊躇いますね』

『国を終わらせる破壊力だ、これらは超位魔法だが神位となると人類が終わる』


ツァーリ―、これは使えば俺の体が持たない

持っているだけで最初は恐ろしかったが、使わないような時代であって良かったと思うよ。


『じゃあ真剣な話をしますか。討伐の件、グスタフはそう考えてます?』

『一応あの森を通過するときに感知を広く展開したが気配はなかった』

『となると…人的災害の可能性が高いですね。こちらの戦力を知る為にここで見定めようとしているのは確かだと思います』

『これが様子を見る、の答えだろうな。だが俺を出さないという事はあっちの勢力を知る為にあえて小さく見せたか?』

『きっとメインの勢力は森に入ればくると思います。その時に貴方に出て尋問してもらいましょう』

『ではオルガは用済みならば消すぞ』

『存在も肉体もお願いします。それも私が蒔いた種です』


オルガはそれなりに公国に貢献していたため、ノアは当時ガーランドの頼んで罪を軽くしてもらったのだ

しかし結果はこのザマ、悲しそうな顔が後悔を物語っていると思えた

王族とて人間、失態は誰にでもあるからこそ俺は彼女に告げたのだ


『人生の8割は失敗でも2割の成功はその8割があってこそ意味を成す。背けずに向き合えるだけ正常な人間だ』


『そう考えると公国民は羨ましいと思います』


その考えは合っているのかもしれないな



『ではジキット達が奮闘しているか見てみるか』

『はっ?』


彼女は首を傾げた





・・・・・・・・・・



『オォォォォオオオォォォォ!』


面倒な魔物だぜこいつよぉ!

オズワルドにハイド、ミルドレットさんとラビスタさんの5人

くそ寒ぃ森の中でラビスタさんのライトで灯りを確保し、ディクティールと今俺達は交戦中よ


目の前にするとデカい、そして声が五月蠅い

木の腕が4本、それは背中とか胸元など不規則に生えてやがる

叫びながらしゃがみ込み、背中の腕を伸ばしてくるから俺は跳躍して避けるが急に角度変えて俺に迫ってきた


(チッ!器用な焚火野郎がよぉ!)


『ジキット!』


ハイドがオズワルドと共に伸びた腕を斬り裂くが切断までは至らねぇ

案外かってぇ木なんだから仕方がないか

だが俺まで伸びる腕が止まる、ありがてぇ


『おらぁぁぁぁぁ!』


落下しながら顔を上げたディクティールの頭部に剣を振り下ろす

視線が合うと同時だからこいつに反応出来る隙はねぇ!問題はこの後だ


『オオォォッ!?』

『かってぇ!』


剣が頭部に食い込んだぞ

これは直ぐに抜けねぇ、暴れるこいつの頭部に両足を付けて抜こうとしてもビクともしない

その間、ディクティールの足元ではミルドレットさんが胸部に鋭い槍を突き刺す

僅かに亀裂がある部位、そこから見える光はディクティールの核

壊せばこいつは死ぬ、それ狙いなら槍が有効なんだがミルドレットさんの槍が貫いても僅かに届かなかったようだ


『オオオオ!』

『ちょっと!どうするんですかこれ!』


ミルドレットさんも焦りながら槍を抜いて伸びる手から飛び退く

その手をラビスタさんが剣で守ろうと身構えるが得策じゃねぇ!


『うわっ!』


言わんこっちゃない!ガードしたら耐えれる筈もないんだ

地面を転がって吹き飛ぶラビスタさんはダメージはそこまで無いと思うから放置だ

俺は剣を抜いた反動で宙返りし、ディクティールの顔の前で左手を伸ばす

赤い魔法陣を展開し、寒い冬の焚火でもするか


『ブレス!』


火属性中位魔法ブレス

ドラゴンのブレスに似た火が魔法陣から飛び出るが、龍のブレスより規模は小さい

だがそれでもディクティールには嫌いな火属性だ、ダメージは保証だぜ!


『ブワァァァァァ!』


パチパチと音を鳴らしてディクティールが吹きすさぶ炎の中に消える

中で暴れまわっているがブレスの継続は数秒程度、皆で距離を置いて身構えているとブレスが終わり、肉体の至る所がまだ燃えているディクティールが怒りを浮かべて俺を見て来た

だが確実に致命傷、かなり弱点だからもう一発当てれば終わるがちょっと明日の事を考えると使いたくねぇな


『い…一斉に行くぞ!』


オズワルドの号令で一斉にかかるのは正解だ

火属性の魔法を受けると木で構成された肉体は動きが鈍る

ディクティールはさっきまでの暴れ方は出来ず、無我夢中で攻撃された後に遅れた攻撃をし始める


『ジキットさん!』


ディクティールの背後をとったミルドレットさんの叫び声さ

まぁトドメは渡しておくか!


『トドメはレディーファーストだ!』


正面からハイドと共に駆け、ディクティールの膝らしき部位を左右に駆けながら斬る

すると狙い通り奴はバランスを崩してくれたぜ。終わりだ

後ろから跳んだミルドレットさんは槍で背中を貫くと見事に貫通、ブレスのおかげで奴の体が柔らかくなったんだろうよ


『オォッ…』


『やりましたやりましたやりました!』

『ミルドレット殿!離れて離れて!』


戦闘復帰したラビスタさんが叫び、ミルドレットさんが素早く飛び退く

同時に起きるのは最後の抵抗でその場で暴れるディクティール、必死に手をぶん回している

あとちょっと飛び退くの遅れていたら危なかったぜミルドレットさんよぉ


『腕さえ気を付ければ大丈夫だったね』

『ハイド、お前ビビッてたな?』

『き…気のせいだよジキット、僕は攻撃してたよ?』


まぁしゃーない、Bランクってなると流石に堪えるからな

暴れるディクティールは徐々に動きが弱まっていく、そろそろ死ぬなこいつ


『焚火にもならねぇ木は死ね』


完全に動きが止まるディクティールの赤い目から光が消え、立ったまま魔石が体から顔を出す

死ぬときはちょっと格好いいじゃねぇか…俺も死ぬときは立っていたいかもな


『光ってる魔石ですよ』


ラビスタさんが魔石を指差し、みんなに見せた

たまに光る魔石が魔物の体から出てくるが、触ると身体能力が永続的に若干向上する

しかもBとなると結構いい感じに体感できるくらいにはわかるだろうな


『さてどうすべきか』


オズワルドは悩んでいると、直ぐに決まっちまったよ

ミルドレットさんが初めて見たらしく、目を輝かせて地面に転がる光った魔石に近づくと、転んだんだ


転倒して顔面に魔石強打と共に彼女の体に流れる魔力

それはミルドレットさんが不可抗力で手にしてしまったのがツボだぜ…ったく


『すいませぇぇぇぇん!…いったぁい』


顔を赤くしながら申し訳なさそうに言うミルドレットさんだが

俺達は苦笑いしか出来ねぇ。面白かったからまぁいいか

だが普通に考えると地位が高いのはあの人か、話し合ってもそうなってたかもな


武装を解除し、俺は辺りを見回す

一応ハイドは周りを警戒しとけと言ったが理由はこいつは感知範囲が若干俺より広いし警戒心が高い

見ている者がいるならハイドに見てもらうのが良いという話をオズワルドが決めたんだ


『オズワルドさん、特に見られている様子は無かったです』

『となるとあれか…森への入口に向かう野次馬の中にいた可能性か』


その線が高い

戦いをいちいち見る必要もなく、入っていく人数と顔を覚えてから帰ってきた俺達の様子を見れればそれでいいんだろうよ

見ることまでしたらバレちまう可能性が高くてリスキーすぎんぞ


『ジキット君、腕をこちらに』


ラビスタさんが近づきながらそう言ってきた

気づいたらジャケットと手甲を貫通して切傷を付けられていたんだ

ディクティールの伸びる腕だと思うと、ちょっとビビる


(おぉ?案外あの手って固いのか)


まぁ油断したわけじゃない、多少の無理をするタイミングはわかってるからな


『大丈夫っすよラビスタさん。あんたが一番吹き飛ばされたんだぜ?』

『戦力的に君が回復すべきだ。』

『ったく親切なんだか真面目なんだか』

『出すんだ』


微笑みながら言われちゃ断れねぇよったく

風属性下位魔法ケアは軽傷を癒す魔法だが超貴重だ

ギリギリ俺の怪我を治せるらしく、緑色の魔力が俺の腕に巻き付くと徐々に傷を癒す

凄いな治癒魔法って…


『ミルドレット殿、お怪我は?』

『大丈夫だけどラビスタはさっき吹き飛ばされなかった?』

『トイレに行ってただけです。魔物に吹き飛ばされた事実はない』


どういう言い訳だよ


んで早々と俺達は森を出るために歩き出した。

隣でハイドがくしゃみを2回連続してるが、確かに寒いな

しかも吐息が白い、そろそろ降る季節か


ミルドレットさんを先頭に俺は辺りを見回す

大きな怪我無しで帰れるのは助かる、国境越えるときに響くからだ


『にしてもオルガか…』


オズワルドは嫌そうな顔だ

そういえばこの人はオルガがいた頃から聖騎士だったらしいな。

唯一この中で知る者さ


『オズワルドさん、どんな人なんです?』


ミルドレットさんが前を警戒しながら聞くと、オズワルドは話したよ


『ギャンブル癖が凄かった。見た目は黒髪のドレットヘア。性格は合同訓練の時にはオラオラ的な感じがあったが、訓練は人一倍真面目だと感じた』

『編み込みとは珍しい髪型ですね』

『ミルドレット殿、そこですか?』

『え?いや…』


(面倒な野郎が関与してるのか…)


きっと人目のない場所で動くだろうに…

となりゃあれか?大森林に入ってからが勝負って事かもしれねぇな

俺なら街中で騒動なんて起こさず人目が無い場所、それもキュウネル領土近く

そうなりゃ誰のせいってなると目撃者さえいなけりゃキュウネルに公国は疑いの目を向ける

今後、お互い国として距離が遠のく結果になる


『手練れがいるのは確かだね』


ハイドが俺に口を開くがその通りだ

その手練れがきっとオルガなのかもしれねぇが、違った場合は…


『一応はあまり口にしねぇように宿まで帰る方が良いなこれ。誰に聞かれてるかわかんねぇ』

『私もジキット君に賛成です。一先ずは打ち勝った冒険者の素振りで街に戻りましょう』


ラビスタさんも俺と同じだ

まぁしっかしこの面子だとディクティールはかなり苦戦したが倒せるもんだな

俺とミルドレットさんが前にいりゃそうだろうよ


街の入口には警備兵や他の冒険者らが野次馬のように待っていた

魔石を見せて倒した事を証明し、俺はギルドに向かわず皆と共に宿まで歩く

この時期には早い初雪、空を見上げりゃチラついてやがる

吐息もとうとう真っ白、この季節が来たようだが…暑いよりはマシか


『一応このまま俺達聖騎士はノア様の護衛、明日の日中は任せましたぞ』


オズワルドがミルドレットさんにそう告げる

槍を強く握り元気よく返事する姿は見ていて悩みが無さそうに見えて羨ましいぜ


『申し訳ないですが今日は帰ったらゆっくり寝て明日に備えます』

『今日は我らがノア様を守る。何も考えずにラビスタ殿も…』

『わかりましたオズワルドさん。』


まぁしかし今日、ノア様の所に野蛮な事は起きる筈がない

だから俺達はこうしてゆっくりと宿に戻ってるのさ

公国内で一番安全な場所にいるからだろうが、なんかそういう感じに捉えるのは気に食わねぇな…


『グスタフさん、ジャンヌちゃんボコボコにしたって聞きましたが…』

『なんだハイド、あのグスタフ殿の身なりから察するに誰も勝てぬ事は察していただろう?ギュスターヴくらいではないか多分』

『ラビスタさんはそう思うかもしれませんが…』

『がっかりしているなぁ?さてはハイド君、ジャンヌファンクラブの…』


ハイドがギクッと狼狽える、こいつは真っ黒だ

痛い視線を周りからモロに食らうハイドは苦笑いしながら頭を掻いて誤魔化す


『凄い武人ですね。アクアリーヌのあの敵軍の中を駆けた景色が忘れられないです。』

『ミルドレット殿、我らはあの光景を忘れてはなりませぬ。グスタフ殿も決して忘れてはならない景色を心に刻み込めとおっしゃっていたのですから』

『強いとあんな感じに戦場を駆け抜けれるんですね…言葉が出なかったよラビスタ』

『私も貴方が合図を忘れそうになっていた事で我に返りましたよ。』


ハイドからミルドレットさんに今度は皆が注目する

今だからこそ話せる内容、あの野郎が切り開いた道に別突撃隊を引き入れる為の合図を忘れていたミルドレットさんだったらしいからな

でも帰ってから合図が遅いとこっぴどく怒られたらしい…


『味方の命がかかった戦争ですからな…怒られない者などいない』


オズワルドはそう告げると溜息を漏らした

まぁ確かに戦場なんて予想通りに行かねぇ

怒号ばかりの場所だがそれは互いに命を賭けて行う場所にいるからだ

笑っていられるなんてねぇんだよ。戦争ってのはな


『ハイド、尾行者はいるか?』

『いませんオズワルドさん』


なら大丈夫か。

さて、宿に戻ったしノア様の様子でも少し見てみるか

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