第80話 キュウネル妖国編 移動
時が来たのだ。遠征という退屈な移動が長い仕事
人数は制限されており、50人程度に抑えられている為にノアは信頼できる者を選んだんだが…
ちょっと変わった趣向なのかとノアを疑いたくなる編成だったのだ
聖騎士30人の中にジキットやハイドそしてオズワルドがいるのは予想通りだ。
残り28名が何故…お前がいる?
現在は次の街へ向かう森の道の中
馬車3台で街から街を進み、あと2つ街を抜ければキュウネル領域となる大森林に近づく。
馬車の窓から顔を出すと、馬に乗るミルドレットが苦笑いを浮かべて来た
『何故、私が…』
『知らん。将校らに俺は睨まれながら威圧されたぞ?』
ロイヤルフラッシュとか凄かった
何かあったら斬るって言われたが、あれきっと本気だ
多分編成に難ありと他の部下からかなり反発されただろうが、ディバスター第五将校だけは遠目にニヤニヤしながら頷いていただけだったのを思い出す。
これは大屋敷の大会議室の中での話だ。
風が寒く、今にも雪が降りそうな寒さの中を歩く聖騎士やミルドレット騎馬小隊は馬車を囲むように進む
時刻は夕方、直ぐに暗くなるだろうという事でノアの予定通り今回は次の街であるルーズベルドにて足を止める
馬車内にはノアの他にジキットにオズワルドそしてハイド、そして俺だ
ジキットは目を細めて俺を見ているが、彼は平常運転のようだな
『どうした?トイレならいつでも止めて貰えるぞジキット』
『とことんキレそうな事いうなぁ…』
『2人共やめなさい。今回の遠征が終わってから争いなさい』
えぇ…
椅子に座るジキットは不気味な笑み、こいつ本気だ…終わったら逃げるか
『てかグスタフ、あのエルフ女はどうした?』
『ついて来ようとしたがフラクタールに何かあれば問題だ。エステには悪いが置いてきた』
連れてけ、と後ろをストーカーされたが拘束魔法かけてアミカに手渡した
エステでも解除に時間を要するだろう…俺の魔法だからな
キュウネルへの道は大森林しかなく、道は本当に険しい
人の立ち入りを想定していない為、大森林ではきっと多難な事はある
亜人の中には人間を毛嫌いする者は多く、それは人間が戦争ばかりする種族というイメージのせいだろう
間違いではないかもしれないが…
『ノア、あの妖王は勘が鋭い…包み隠さず話さないと直ぐに計画が崩れる』
『心を読める王女と聞いてます』
『読めるわけじゃない、目を見て本心かどうか見極めるのが上手い女だ』
『詳しいですね。どうせ接点あった…とか言うんでしょう?』
下手に喋るべきではなかったか
ふとジキットが溜息を漏らす
外を見ているようだが、ここはルーズベルト近くの森であり周りは木々ばかりだ
道だけども魔物はいない、気配は無いが彼は別の何かに気づいたらしい
『嫌な予感だぜ』
その嫌な予感はきっと今ではないな
情報というのは何かと漏れる時はあるが、面倒なのは今回の遠征を煙たがる勢力がまだ生きているということだ。
それが牙を向かない事を祈りたいが、ジキットの勘がそれは無いと言っているようだ
王族直轄であった信仰協会の独立化、ノアの政策はハイペリオン大陸条約に組み込まれる筈だったが各国の賛同数が足りずに2年後に保留となった
そこで黙秘を決めたのはキュウネルとリグベルドであり、イドラ共和国だけは賛同したがシドラード王国とキングドラム帝国そしてシルフィーア森国が拒否した。
交易という名で行く計画だが、それは表上であり実際はそっちが本題だ
しかし話し合いの場でその話を一切しなかったのは漏洩防止
他国が動くのを避けるためだ。
『話は漏れていないと思いますが』
ノアはそう言うが、言わなければ大丈夫というわけではない
『選ばれし者の世界でのことわざで良いのがある。天知る人知る我知る地知るという言葉があるが、誰かが知っていればそれは自然にバレるという事らしい』
口にせずとも記憶はあるからこそ絶対に漏れないわけではない
意図しない場所から物事は形を変え、飛んでいく
そう考えると、浮気ってバレるまでがお約束だなとなんだか思ってしまう
『まぁあれだな。意地でも止めてぇのは1人しかいねぇ』
ジキットは既に襲撃者に期待してそうな素振りだ
拳の骨をポキポキと鳴らしてやる気を見せている
(動くのはあいつだな…)
シドラード王国のケヴィン王子…いや違う
信仰協会と独立化させると彼の勢力は著しく低下するだろう
あいつの兵力はあそこにあるからだ。
横流しされた資金援助で勢力を増やしたのは去年に気づいていたよケヴィン
教皇は面倒で、強くそして王族の手が届く権力を有する存在
あれがシドラードで野望無しでいれる筈がない…
ケヴィンは利用されているが、今はその方がこちらとしては都合が良い
ノアは起きる筈がないと思っていたようだが、ジキットと俺の雰囲気を見て悟ったのか肩を落とす
俺がウンディーネ信仰協会の教皇ならば、この遠征…潰したい
キュウネルとリグベルドがノアの政策に賛同すれば教皇は力を失うからな
『し…真剣なお話ですか?』
横の窓、ミルドレットが縮こまった雰囲気でこちらを見て口を開いていた
『今日のお前の稽古について話していた』
ミルドレットは卒倒しそうになったのは面白い
結構稽古で厳しく動かしたからな…基礎身体能力は流石ガンテイの妹、高かったからあとは伸びるだけだ。
こうしてルーズベルトにつくが、平凡な街だ
夕刻は暗くそして人通りは多い。
商人の街とも言われている為、かなり商人が多い
見た感じではすれ違う冒険者は殆どいないのは森が少ないからだろうな
フラクタールのギルドよりも冒険者の規模は小さいのはある意味魔物の被害が少ない事を示している
予定された宿は平凡な建物を貸し切っているが、目立たぬ為でもある
だから俺達は人目を避けるようにして表から入らずに裏から入った
一応はそれなりにノアも考えているという事だが、この計画の中身は実際極秘なのさ
彼女を部屋に連れて行くと、俺は窓から通りを見下ろした
傭兵の方が多い、商人の護衛とかその類の依頼があるからか…なるほど
部屋にはジキットとハイドそしてオズワルドの3人に俺
ノアはベット横に椅子に座るが、案外広い部屋だ
あとは自由時間ですとか言ってほしいが、そうならない
『交代で警備を頼みます。先ずはグスタフね』
『俺か…』
夜はジキット達に任せるためだ。今は我慢しよう…
こういう遠征は実際初めてだという事をノアは知っている為、気を使ったのかもしれない
舌打ちして部屋を出るジキット、死ぬまできっと彼は俺に対してこの調子だ。
『ウンディーネ信仰協会の詳細は父から詳しく聞いてます。シドラード王国の乙女神と言われた大将軍ジュリア・スカーレットや消えた選ばれし者も協会勢力』
『名を忘れたなら死んだからだ。』
『選ばれし者も貴方が?』
『追いかけてきたから半殺しにしただけだがきっとその後に奴は協会で消された。』
ジュリアはルーファスより強い
従えるは普通の兵ではなく教兵であり、死ぬことすら恐れない不気味な奴等の集まりだ
生涯の信仰は死後にウンディーネのもとで生まれ変わると信じているやつらであり、不気味な印象操作で人を洗脳して兵にしてるだけだ。
まぁその兵が30万もいるから凄いよ
『将校の半数近くが協会と繋がりがあるのは頭抱えますね』
『だろうな。ケヴィンも利用しようとしてるがアクアリーヌ戦で道は遠退いた』
『ではシドラードで警戒すべきは今は信仰協会ですね』
『ふむ…。何故イドラで素性を隠したいかわかるか?』
『大将軍ジュリアの持ち場があの鉱山都市ブリムロックだからですね。ケヴィン王子の管轄ですが実際は協会が仕切ってるのはフルフレアから聞いてるので』
『頼めば金貨5千枚でジュリアの首を持ち帰るぞ?』
『もしもは悩まず依頼します。』
覚悟を決めているようで何よりだ
ファーラット公国とシドラード王国は3年の停戦協定を結んでいる為、シドラード王国はイドラ共和国に意識を向ける筈だ。
こっちは援軍でイドラに兵を送ったらファーラットとシドラードが戦う形に捉える事も容易の為、停戦中の戦争行為として条約違反、莫大な賠償金が公国側に発生するから不味い
だがしかし例外がある。
貿易関係証明の記載された日付からだが、貿易関係が15年以上継続しているならば支援の物資は可能なのだ
だからイドラ共和国には後方支援である物資類ならばファーラット公国は助ける事が出来るのである
まぁ上記の理由あるからグスタフとして行ったら超不味いのよ
イドラとシドラードは互いに仲が悪いのは他国も良く知っている
ハーミット国王より以前の王の時代、イドラ共和国と戦争時にイドラ北部の街の人間を大量虐殺した歴史があるからだ。
5万人という剣を持たない人間の被害は大きすぎるだろうな
そして最近停戦中の契りをイドラ共和国のゼペット閣下が破棄し、再び戦時中に戻ったからシドラードは南のイドラ共和国に意識を向けるしかないのだが、イドラ共和国にが破棄しなければシドラード王国がしていただろうに
『人々はこんなにも平和なのに』
ノアは外から聞こえる街の音を耳にし、そう告げる
彼らにはあまり関係のない話、それは今の状態ではだ
そう考えるとやはり普通に暮らしている人は人生を謳歌している者が多い
俺もフラクタールでのんびりしていたが、本当ののんびりの為に今回は手を貸さないといけない様だからノアに協力している身さ
『ルーズベルトの美味しい料理をご存じ?』
『何?』
『馬刺しがここは有名ですが、ユッケとかも魅力的ですよ』
『…まぁ覚えておこう』
そのうち食べに来ればいい、ワープあるし今じゃなくてもいいのだ
ノアは暇そうにベットに横になると欠伸をしながら足をバタバタ、王族とはいったい何だろうと疑いたくなる様子さ
プライベートタイムといえば話は早いが、それは1人の時にしてほしい
『街の中に怪しい人物はいました?』
『外に1人、商人の風貌の者が馬車を見た途端に意識がこちらに向き始めていた』
疑わしきは疑え、が俺だ
この宿の反対の建物の前には点々と商人の屋台、そこには衣類だったり素材を売ってたり4店舗ぐらいある
魔物の素材、いわゆる角や牙そして毛皮類を売る商人はこちらに視線を向けてはいない者の、見られている気配を俺に感じさせている
もし牙を向いたらどうするかと聞くと彼女は直ぐに言ったのだ
『情報を聞き、存在を消してください』
そして真夜中、本当は寝ている筈の俺なんだけど
イリュージョンで姿を変えてルーズベルト警備兵の化けて宿の周りを歩いている
ここの警備兵の巡回を察するにたまに1人の時を見ている為、違和感はない筈だ
宿の前で立ち止まり、静かな通りを眺めても問題があるとは思えない
(こんなところで動くとは思えんな…)
強い者に見えなかった。気のせいなら良いがな
次の街に行けば将校が滞在する街
それまでは問題なく進みたい所だ。
『スキル・地獄耳』
半径50メートル範囲内の音や声を聞くことができる超貴重なスキル
発動後は色々雑音のように聞こえるが、その中から気になる声に意識を向ければ周りの雑音は消えるから便利だ。
色々な音、そして声が俺の耳に届く
盃を交わす男たちの賑わい、家族の団欒や夫婦の営みであろう吐息
その中に必要な情報があればと耳に意識を向けていると、遠くから聞こえてきたのだ
『姿は確認できていませんが、ディバスター第五将校の持つ大隊長らと聖騎士を確認しています』
『戦力は?』
『50人弱、手練ればかりかと』
『…今日は様子を見ろ。オルガには連絡しておく』
驚いた。凄い驚いた
まさか聞こえるとは思わなかったから以外だ
この遠征、どこから漏れたかわからないが引率者に関して知るのは数少ない
しかしノアがキュウネル遠征することは文官連中でも知っている事であり、そこから漏れたのだと推測する
(俺がいる事は気づいていないか…)
それでいい、と思いながら意識を向けていたが聞こえなくなる
長話をしない点を考えれば手練れの密偵かもしれない
オルガとは誰なのだろうかと考えていると、後ろから近づく男に俺は声をかけられた
『それつけてねぇとマジでわかんねぇ』
ジキットだ
ノアは一部の者には化けている事を告げて外に出ている為、わかったのだ
腰に赤いハンカチを結んで目印にしていたのだ。
彼に先ほどの事を告げると、真剣な顔のまま何度も俺の話を聞いて頷く
辺りを見回しているが、ここでは場所が悪いと彼のまっとうな意見を聞くために一度宿内にある1階ロビーで外を眺めながら彼と話し始めた
『本当にオルガっつったか?』
『聞き間違いじゃないのは確かだ。話しぶりからきっとキュウネルに入国する手前の街にいるのだと思われる』
『面白くなってきたじゃねぇか。勘は当たる…んで。オルガだがな…』
ファーラット公国元将校オルガ・アンドリュー第十二将校
5年前に汚職で3年の実刑で牢の中で過ごしていたらしいが、汚職とは貴族による人身売買の片棒を担いでいたということだ。
勿論その貴族は人身売買には厳しい公国の法に従って追放処分
牢から出たオルガの消息はガーランドも再犯を懸念して探ってはいたが、消息不明
体の大きな男であり、大斧を担いで馬に乗る姿は凄かったらしい
だがジキットが実際見たわけではなく、聞いた話での印象だ
『汚職に汚職の可能性とはな。単純な腕力は将校随一だったらしいがな』
『一度染めた罪から改心しない者にとっては日常と変わらないから自然と同じ事を繰り返す。その可能性は高いだろうな』
『恨みを晴らしてなんてもんじゃねぇな今回、完全にあれだ』
『先ずはこちらも様子見だ。一応ノアの耳にも入れておいてもらいたい』
『またノア様を呼び捨てか?オルガの前にお前を斬るか?』
困った顔を浮かべたが彼には見えない
しかし面倒くさそうな顔を浮かべたジキットは手を軽く振り、階段に向かって歩きながら口を開く
『今度にする』
助かる!
だが数分後に面倒な事が起きた
警備兵が1人、慌ただしく宿のドアをノックするので宿主が開けると、警備兵は救援が欲しいと懇願してきたのだ。
その時に俺は警備兵の姿ではなく、聖騎士の姿なのでバレてない
というか顔は素の顔なのでちょっとスリリングでゾクゾクする。一応口元には白い布を巻いているからある程度は大丈夫だろう
警備兵を待たせ、俺は2階に上がるとノアの部屋の前にいる聖騎士達に事情を説明し、ノアを呼ぶ
廊下で話すと駄目!とノアが五月蠅いのでな…
ベットに腰かけ、ノアは俺に目を向けると説明する事にしたよ
『俺達が通過した森に魔物だが、Bランクのディクティールが現れたそうだ』
あり得ない、とオズワルドが言うがその通りだ
荒れだけ平凡な森の中で魔物の気配など殆どなく、強い魔物など入り込む余地が無い地形なのだ。
ディクティールとは二足歩行の半人型の魔物
肉体は木で出来ており、腕は不規則に体中から4本~6本まで生えている
全長は3メートルで複数の手は伸縮可能、最大5メートルも腕が伸びる
顔は骸骨のような骨格、目は赤くて夜に見ると恐怖心が際立つ見た目の魔物だ
このルーズベルトのギルドにはCランク冒険者は1組のみ、しかも彼らは現在隣街に遠征中という最悪なタイミング、助けるしかないようだ
『可笑し過ぎますが、グスタフを出すわけにはいきません』
『お前も匂うか?』
『いやらしさが感じます。偶然であるならば良いのですが今回は念を入れます』
ここらの冒険者だけでは倒せない
ノアの戦力から出すしかないのだ
それに名乗りを上げたのはオズワルドにジキットそしてハイド、俺は1人だけ推薦したらそいつは叩き起こされる
今回は連隊長となった女騎士ミルドレットに彼女の副官であるラビスタだ
ロビーに集まる彼らの中でミルドレットは寝ぐせが凄い
『ディクティールですか…グスタフさん』
寝ぐせを直す暇もなく、髪が数本飛んでいるのが笑いそうになる
それを呆れた顔で直そうとする副官ラビスタ、彼は彼女の世話係でもあるのか
『ミルドレット殿、女性なのですから髪くらい整えてください』
『遅れたらと思ったら急ぐしか…』
『今回は俺が指揮をとる、この場はあ奴に任せよう』
オズワルドは溜息を漏らし、俺に小さく頷いてから皆を連れて宿を出て言った
頼まれたならば全力で答えよう
偶然起きた事態じゃないならば、この討伐は戦力調査みたいなもんだろう
あちら側に熟練の魔物使いでもいるとなると…素直に凄い
(Bを手懐ける力量…はて)
シドラード王国の信仰協会にはいたが、ここにもいるのだろうか
もしくはそやつが今回近くにいるのだろうか…それはわからない
(あいつらならば)
大丈夫だ。ジキットがいる
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