第79話 準備


急いで駆けて来たノアは面白いくらいに綺麗な白い髪が乱れていて笑いそうになったよ

以前は長かったがアクアリーヌでバッサリ髪は持ってかれてショートヘアーだが

それが逆立つほど走ったのだから笑いを堪えるのが辛い


彼女に招かれたのは応接室

見慣れた側近騎士が周りに配置され、なんだがヤバイくらい緊張した空気が漂ってる

テーブルを挟んで奥の椅子に座るノアが一番なんか深刻そうだが、何かあったのだろうか


ドアの近くに控えていたメイドがプルプル震えてる

恐怖を感じてるが本当に何があったの?

そしてその答えはノアの口から放たれた


『ジャンヌの件ですね』


(あちゃー!連絡がまだガーラントから来てないかぁ)


なぁんだ、と少し安心した

この様子だとジャンヌもノアに会ってない

ガーラントと共に帰還中で間違いない


『…こちらの不備が大いにあった事は確かです。死傷者も大勢出た事も、貴方の友人が危険な状態なのも重々理解しているわ。』

『あの…そのなんだ。』

『はい』


ちゃんとどうなったか説明したら『くそ親父…』とボソッと聞こえた

連絡しないあいつが悪い


『今回は色々仕入れた情報を聞かせにきただけだ。ジャンヌの件はもう良い』

『しかし…』

『今回は運が悪かった事にして俺が損をする。そう決めたからその件はやめよう。』


ようやく場の空気が軽くなる

一応俺が彼女に言われて秘密裏に動いている事、そしてザントマによる依頼内容の件に関して話す

ノアは理解すると一息つき、俺に何か飲み物でもどうでしょうかと聞いてくる

アップルジュースと告げると、メイドが応接室を後にする姿を見て俺は椅子に大きくもたれ掛かる


シャルロットの権力は他の王族2名よりも若干弱い、そして取り込んでいる将校も少ない事が非常に不味かったから俺に彼女を鼓舞してほしい的な事を言われてたんだ

だからファラを使ってケヴィン王子の裏の顔がある筈なので暴いてもらうのだ


『ケヴィンは教皇と繋がりが深い、アクアリーヌの件から停戦の帰還で必ず水神信仰協会との接触を多くするはずだ』

『なるほど、それでエイトビーストを動かしていると』

『その後はシャルロット次第、エルマーと対談はキュウネル後だ』

『それだと予定していた聖剣祭に間に合いませんが…』


ワープ使えるよって言うと、彼女は苦笑いだ

しかしそこまで驚かないのは慣れ始めているからだろう


『だからここに来るのも容易という事ですか』

『まぁな。ザントマは信用できる者だ、ヘマをしたら俺が責任を取るつもりだから心配しなくても良い』

『では彼にも貴方の目論見を話したと?』

『あぁ。シャルロットが王になるためにあいつは裏切らない。あの男を拾って人生を与えたのはシャルロットだからだ、光を裏切るなどせぬ』


深い事情があるからこそ、ノアは今は聞こうとしなかった

ザントマの任務とは俺の事に関して情報を集める事だったため、彼には言伝を頼んだ

エイトビーストを従えたくば、1人の人間として接し、覚悟を決めろ

そうじゃないとシドラード王国は衰退して帝国の属国に成り下がるか水神信仰協会に飲み込まれるぞってな

ケヴィンは帝国と繋がりを持つ官僚らは多いが利用されるだけだ、ロンドベルは繋がりが無く、他国との関りは弱い


となるとシャルロットは何を持っているかだ

彼女は国内からの支持が高いのと他国からは印象が良い

イドラ共和国とシドラード王国とは犬猿の仲だがシャルロットはたまに小競り合いを避けるために王族と接触し、何度か小競り合いを避ける事が出来ていた

ガーランド公爵王も彼女なら対談するくらいだから希望を一番持つ王女なのである


『来年にはシドラード王国の情勢も変わる。』

『遠征次第、我が公国がキュウネルやリグベルドと交流している事をシドラード王国に流せればいいだけですから』

『それは密偵に任せれば良い、ところでイドラ共和国はどうなった?』

『シドラード王国の後継者次第といっていたらしいです。酷な事になりますがイドラ共和国は奪われた鉱山都市を奪還すべく今は動いているのは聞いております』


今はケヴィン王子の管轄、彼の部下がその都市を管理しているからこちらとしても都合が良い

ノアに『もしゼペット閣下がシャルロットが王の座につくように今後動くならば、俺がその奪還戦に偽名で参戦してやらんでもない』と言い放った

これには彼女が立ち上がるほど驚くが、凄い目をぱちぱちしてるなぁ


『グスタフとしてではなく、別人としてならだ』

『まさかシャルロット王女に後始末を?』

『背負わねばならん問題だ、ゼペットにも使者は送っておいてもらえるならばな』

『…今すぐに』


本気のようだ

シドラード王国を一度四面楚歌にすればいい

ケヴィン王子が帝国にすがるのが先かシャルロットが大きな支持を得るのが先か

それはその時にわかる


『アクマ・パペットの借りがあるからな』

『あれは貴方のせいです』


少し睨んでるけど、否定できん


そしてジャンヌが昨夜、ここに帰還したらしいがノアは驚いたとの事

かなり丸くなり、大人しく言う事を聞くようになったとか

でも彼女から内容を詳しく聞いてなかったから俺が来てノアは焦ったんだってさ


『あの火力を制したらしいですね』

『以前言っただろう?未熟な人間だ、別の世界での生き方を払拭できないなら俺には勝てん。本当の死の恐怖を知らんからだ』

『まともな人で良かったと言いたいですが、まともか怪しい部分もありますね』

『俺はきっとまともだ。なぁオズワルド』


急に側近聖騎士に話しかけてみた

彼はギョッとすると咳払いし、悩まし気な顔を見せるからノアが笑ってしまったよ


『素直な騎士だと思いませんかグスタフ』

『…精進するしかないか』


周りの聖騎士が軽く笑っていたので、俺は安心した


インクリットらのジ・ハードは当分お休み

当面は個人練習にアミカの店の手伝いとか色々奉仕活動してもらう

その間、俺はノアとキュウネルという感じだ、いい計画だと思ってる


キュウネル妖国

遠征の目的は今までファーラット公国とは距離を置いて互いに干渉しなかった時代を変え、交易関係を用いて交流を持つ事であるがそれは表上の話

その点はガーランド公爵王も顔を出すために用意はしていると言っていたが、飽くまでノアは使者的な立ち位置だ。

問題はリグベルド小国、キュウネルがポシャると無理になる


それは行けばわかる

もう遠征まで時間は無い、俺の情報もきっと流れている筈だろうな

だが問題が1つあるんだが、一番不味いのはそこだ

あそこの妖王クルエラはきっと俺が行くと気付く

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