第74話 原因

ドレットノートの件から次の日、俺は冒険者ギルドの2階にある応接室にて椅子に思いっきりもたれ掛かり、テーブルを挟んで奥の椅子に座っている2人に目を向けて無言を貫く

彼らの背後には黒い騎士が10名、公国騎士10名

きっとこの2人が信頼を寄せている者達なのだろう


黒光りした金色のラインの伸びた鎧を身に纏う男はガーランド・アデルハイド・イン・ファーラット

その隣にはロイヤルフラッシュ第二将校さ


非常に重苦しい空気、俺も押し潰されそうだ

ロイヤルフラッシュ第二将校は真剣な面持ちでこちらの様子を伺っている、しかしガーランド公爵王は入って来てからずっと頭を下げたままでいた


(覚悟の上…か)


王族がたかが傭兵に頭を下げる

それは大問題だ。


『頭を上げて貰わねば困るガーランド、あと謝罪はもう良い』


ようやく彼は静かに顔を上げてくれた。

10分もかかったぞ?かなり考え詰めていたのはわかるがな


『甚大な被害だが、まさか俺とお前だけの問題で片づける気ではあるまいな?』

『わかっている。シューベルン男爵にも会合の場を設けさせてもらった。夕刻には彼と対談し、今回の件に関して双方ともに納得のいく落とし所を決める予定だ』

『ならば良い。良く見る顔も昨夜の件で二度と見れぬ者となった奴らは多いが、今回の件に関して俺は仕方がない事が俺の街で起きたと考えている』


選ばれし者を育てるのは至難の業、そして違う思想の人間との付き合い方も尋常じゃない

それならヤンチャな幼い子供の方が幾分マシだろうと俺は思う

力に溺れ、そして身勝手な正義感が行使された結果がこのザマだ


『大事なのはあの女のけじめをどうつけるかで俺の出方は変わるぞガーランド…そこだけだ』


彼の中に色々な選択肢が浮かんで入るだろう

最悪な場合、彼女はこの世から消える

だがしかし今後の事を見越して俺が多少の我慢をすればそれこそ公国の発展にも役に立つ


選ばれし者の文明はたまに凄いのがある

魔石を動力源とした呼吸器もその1つであり、何百年か前に医者神と言われた者が発明したと歴史で記されている


(損をしないと駄目とはな…)


鍛冶屋のカウンターで受付嬢を狙って話しかける若者、それに指南してもらいたくて俺に声をかける者

昨夜で帰らぬ者となった奴はそこそこいると考えると、俺の日常の中の小さな何かが消えたことになる。

影響の無さそうな存在のようで、人生の色のような存在

だが街の為に命を燃やして挑んだ事は街の誇りだ。


(あまり考えたらダメな事だったな)


やめておこう…


『グスタフ、お前はどう考えている』

『そういうのは苦手なのだ…ただ最低限、自身が何をしてしまったかは俺よりもお前が説明できるだろう』

『…ふむ』

『その後は俺が会って見定める』


きっと目の前の2人はそこが問題だと思っているだろうな

だがそれなりに覚悟はしている、最悪な事態にはならないように俺も努力はする


『キュウネルの件は別に駄々をこねて行かんとは言わぬ。こういう事態は王族には付き物だろう?』

『痛み入る言葉だ。すまぬ』

『お前が切羽詰まってロイヤルフラッシュ第二将校と来る程だ、その辺は理解しているからこそ様子を見るべきだ』

『逐一、こちらから状況連絡は確実にする。』

『頼む。今決めれる事ではない以上これ以上はこの件に関して話すのはよそう』


俺は溜息を漏らし、天井を見上げる

本当にこういうのは苦手だ…色々複雑だからな


少し楽になったのか、ガーラントは一息つくと椅子の背もたれにもたれ掛かる

相当参っているようだが、こっちもだ


『カゼノコ…か』

『どうやら1度コンタクトを取ったようだなガーラント』

『未だに信じられぬ。まさかとは思うが…他の奴等も』

『同じだ、皆惹かれ合って集まった。』

『…恐ろしい時代だな…。初代公国王みたいなのが他に三人もいるとは』

『流石にあの四人に何かあったなら俺は怒ってたぞガーラント』

『王族だからこそ非情な事を言うが、良いか?』

『理解している』

『彼らが無事で良かった。いきているだけで有益な冒険者だ』


みんな同じ価値を持って生きている、しかし王族だからこそ他人に価値をつけて物事を見ないとダメなのだ。

公に出来ない言葉だが、彼だから他の犠牲で助かったと思っても致し方ない

まぁ解せないが、やめておこう…


俺は野暮用があったから椅子を立つとその場を後にし、1階ロビーに向かう

わざわざ駆けつけてくれたアクアリーヌの冒険者らがまだおり、数は15名

その中に知っている顔が二人いたのだ。


『グスタフさん』


先程は空気を読んで声をかけなかったのだろう。

タイガーランペイジのホークアイとコハルだ

今回は他の3名もいるようだが、片手剣の男に残りは魔法使いの男女だな

チームとしてみると仕上がった感じがあり、貫禄が伺える


『わざわざ足を運んでもらってすまぬな』

『とんでもない、指南のおかげでこちらも幅が広がりました!』


どうやら氷盾を覚えたらしく、自衛能力が底上げされて多少の無茶が効くようになったらしい。

パフォーマンスダウンは1度試練失敗し、来月にまたチャレンジとの事

予想外にも覚えるの早いと思ったが、Bランクなら普通か


(予想以上だな、まだ伸びしろがある)


『今日はここの宿舎か』

『そうですね。明日報酬を受け取ってから美味しいご飯を食べて帰る予定ですが、お勧めは何ですか?』

『朝飯ならばアサカツというここから南に100m通りを進めばある店が良い』

『何系ですかね?』

『魚介類系、生もあるが苦手なら焼いた料理もある。味噌汁も豚汁か豆腐かの2種類を選ばされ、そしてご飯の量は無料で大盛り可能。お勧めは銀鮭定食であり料理には…』


話してるとホークアイは少し驚いていたが徐々に微笑んでいく

飯になると俺は止まらないんだ、許せ

そんな俺の様子を知ってか、初めて出会う彼の仲間3人の緊張も解れ始めたようだ


『食べるの好きとは聞いていたけど、話している雰囲気見るとその通りですね』


コハルはクスクスは笑みを浮かべてそう告げた

彼女は生が苦手なようだが、焼いた魚なら普通に食べるらしいからセーフ

それなら是非とも堪能してもらいたいもんだ


『そういえばこの前に指南してもらった時の剣…』

『見たいかホークアイ』


答えを聞く前に俺は武器収納でメェルベールを消し、ファントムソードを左手に出現させる

黒光りした漆黒の剣、赤いラインが血管の様に刀身にまで伸びている

それを見た彼らは口を開けたまま眺めているが、これは良い剣だ


『今のお前には手に余るが、Aになれたなら考えてやらん事もない』

『っ!?…頑張ります!』


凄いやる気だな、いきなり超元気になったが

どういう剣かはきっとわかってない

でも彼の思っている想像は正解に近いのだろう


彼と談話してから俺はギルドを出ると森のある方向に目を向けた

山脈が連なり、あそこにある渓谷を通ってフラクタールに俺は来た

魔力溜まりを感じるが、元凶を絶たねばいけないだろうなぁ


(さて…)


俺はギルドの裏に回るとワープで瞬間移動した

渓谷近くにある山を登る獣道の近く、一度散歩で通ったことがあるからここに指定したが、ドレットノートがいなくなったというのに生物の気配はあまりない

ファントムソードを肩に担ぎ、山を登るがいつのまにか雨は止んでいる

だが黒雲で周りは真っ暗だ


『暗視』


真っ暗でも見える目にするスキルを使うがあまりこの視界は慣れないな

いつから魔力溜まりがあるか、モロトフの首を刎ねてから気づき始めていた。

その時はあまり気にするほどでもなかったのに、今は無視できない量だ

何故魔力溜まりが起きるのかは単純に説明しよう


超高ランクの存在の欠片があるからだ

それは体の一部といった物が落ちている可能性が高い

普通の魔物はそれを避けるが、その魔力に惹かれて近づいた魔物の中にはそれを食らう奴がいる

すると特殊個体の出来上がりというわけだ


『仕上がる前に回収するか』


山の中腹、そこから山頂に近づくと岩場が見えてきた

どうやらあの辺りに目的の品物が落ちていると予想している。

普通の魔物は近づかない、しかし少しネジの外れた魔物は近づく

今回は俺がいなければフラクタールも本当に危なかっただろう


(あれは…)


周りは岩で囲まれており、開けた場所の隅に落ちている物から大きな魔力を感じる

吟味してみると、それは緑色の光を僅かに放っているようだな


『ケサランパサランの羽毛か』


あれがこの近くにいたというのには驚きだ。

まぁ人に害を成す存在ではないが、ここに落としていったのは少々迷惑な話だ

煎じて薬にすればいかなる病も直る神薬とも言われる貴重な物、これは俺が頂こう


『フシュルルルルルゥ』


あぁ忘れていたよ。岩場の裏から様子を見ていたのは知っていたがマジで忘れていたよ

ずる賢い生物、きっとこの魔力に惹かれた生物を狙って待ち構えていたんだろう。


黒い鱗に覆われた蜥蜴のような姿の魔物は全長15メートルはくだらない

頭部から尾の先まで鋭い棘、あれは飛ばしてくるから厄介…刺されば一瞬で麻痺する

赤い目は左右に3つ、そして口は大きく裂けていて開くと中からおぞましい数の牙がこちらに剥き出しとなって現れた

顎から生える白い毛は首の根元まであり、それは強者であり永年を生きてきた証


蜥蜴種ランクAのダラマンダー、属性は闇

双璧と言われるのは火属性のサラマンダーがいる


『フシュゥゥゥゥゥ…』


目をギョロギョロさせているが、不気味だな

俺の周りをゆっくりと徘徊し、貫録を見せつけてくる

弱肉強食という生物の絶対論の中の上位に位置するからこそ奴は生涯天敵という概念を知らずに生きる


『お前の鱗、高級な革装備になる。』


羊の鉄仮面の下で笑みを浮かべ、俺はファントムソードを降ろす

そこできっと目の前にいる存在はいつもと違う事に気づいたはずだ

怯えない、怖がらない、驚かない、叫ばない、逃げない

初めて好戦的な相手に遭遇したのか、奴は足を止めると首を傾げたんだ

今まで楽に餌にありつけたのだろうが、残念だな…


『悪いが遊ぶ時間はない。じゃあな』


ファントムソードの剣先を向け、その先から現れたのは真っ黒な魔法陣

周囲にも魔法の関する古代文字が赤く展開される光景に奴も驚いている

周りには瘴気が漂い、その魔力を感じたダラマンダーはようやく只者ではないと気づくと咄嗟に飛び掛かってくる

なんという迫力、先ほどよりも大きく見える

まるで家が襲い掛かったかのようなサイズ、だが関係ない


『アニマ・スクレイパー』


闇属性超位魔法、それは周りの古代文字が一気に輝くと同時に剣先に展開された魔法陣から髑髏が多数纏わりついた銀色の長剣が閃光の如くダラマンダーに飛ぶ

巨大な剣を避ける事すらできず、それはダラマンダーの肉体を貫くが傷はつかない


しかしダラマンダの体から半透明のダラマンダーが離れ、それは直ぐに砕け散る

魂を射抜く即死魔法、傲慢にも余裕を見せているから当てやすい

警戒していればこ奴ならば避ける事はギリギリできそうだが、油断し過ぎだ

人間だからと侮ったのだろう


『フシュ…ガフッ…』


『火属性耐性が非常に強いから盾にも使えるか…』


白目を剥いて倒れるダラマンダーを眺めながら俺はそう囁いた

魔石は普通の魔石よりも大きく、片腕で抱えるほどのサイズに俺は満足さ

これでフラクタールの森も平和になるだろう。


(魔物や動物も直ぐに戻る筈だ)


収納スキルにギリギリ入らないサイズだから持ち帰るしかない

結構怠いが仕方がないのだ、金になるし貴重な素材だから相応の苦労をしないといけない


尾を掴み、引きずり街まで運ぶのは難儀だったがフラクタールに辿り着いた時には日付が変わるギリギリだ。

アミカに超怒られそうだけど、理由を言えば納得してくれるし良しだ


巡回の警備兵らが俺の姿を見て尻もちつくほど驚く、御免よ…

黒騎士ですら足を止めて固まっている、お前らには謝らん

ギルドの前まで引きずった跡が凄い、それほどまでにダラマンダーは重い


夜勤のギルド職員を呼ぶと、彼はどうしていいかわからず何度も俺を見てる

本来、ガンテイが決めるからこんな事されたら驚くのも無理もない


そして俺は詳しく彼にドレットノートの事からダラマンダーの件、そして何を見つけてきたかを話すと彼は納得してくれた


『ケサランパサランの羽毛…馬鹿な』

『それが森の様子が可笑しかった原因だ。』


ドレットノートのメスがいたからオスも来た

丁度発情期だったから運悪く、色々重なったってわけだ


『これで森は問題ないだろう』

『いやはやとんでもない人だ、Aランクは国が動いて倒す魔物ですよ…これ』


確かにな

冒険者Aランクなんて公国の冒険者の中の1%しかいないくらいだから倒せる者は少ないからほとんど冒険者と公国騎士が力を合わせて倒すのが普通だ

だとすればガーラントは凄いな、あいつAの筈だし


ギルドのドアでも入らない大きさ

仕方なく裏の素材保管庫にいれてもらう事にし、俺はまた明日来ることを告げてその日を後にしたのだ。


まぁあと少しその場にいれば、運命的な出会いが出来た事を俺は明日まで知らない






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