第63話 成果

今日は何故かエステが俺の監視役の位置でついてくる

まぁ慣れてるからいいんだけどね

んでインクリットとアンリタそしてクズリの保護者みたいな感じで彼らと森に入ったのだ。


依頼の中にCが1体いる

キングゴブリンという2メートルある体躯のゴブリン種の魔物だが、あれは単体ではいない

大抵は徒党を組むのがゴブリンであり、キングとなると数は多い


街に近づく可能性のあるゴブリンの集団の討伐

そこに奴がいるのさ


いつも以上に真剣な面持ちで森を歩く三人だが、気持ちは仕上がっているようだ

会話も少なく、それは僅かな音も聞き逃さないという現れでもあるだろうな


『良いチームだな』


エステは前を歩く三人を見て囁く

良いチームだろ?俺が色々教えてるんだぞ?と言いたいが…心に留めておこう


『素質ある三人だ』

『だが足りないわ』


やはり彼女は気づいている

彼らの火力を引き出すには最低あと一人いないと駄目なのだ。

しかし、それは時間が解決するだろう


『足跡よ』

『…ざっと8体、キングっぽい大きいサイズもあるから確定だろうけど、バトルゴブリンもいるねこれ』

『真っ正直は完全に不利よ。不意討ちで3体は消したいわ』

『だなぁ。』


3体が足跡を見て話し合う

川に向かう足跡には何かを引きずる痕跡もあり、それは獲物を捕らえた可能性が高い

それをインクリットは口にした


『根城があるっぽい。洞窟ならやりようはあるから見つけたら様子を見よう。ちゃんとした数も把握しないと』


(良い判断だ)


都合の良い状況を作る、待つ、考える

それらの基本的なカードを持つ三人ならば何とかなる筈だ


『モォォォ!』


話し合いに意識を向け過ぎたようだ

戦牛というDランクの魔物の奇襲を許してしまったようだ。


茂みの中から全長2メートルある牛の魔物が頭部に生えた二本の角を前にしたまま彼らに襲いかかる

攻撃手段は突進のみだが、その突進が凄い


『甘いな』


奇襲を許した三人を見てエステはそう呟くが、次に起きる光景に彼女は驚いたんだ


『任せろぉ!』


クズリが前に出ると、右腕の手甲の剣盾を肩でガッチリ固定して姿勢を低くしたのだ

受け止める気でいる事に気づいたエステは驚く


普通ならば無理だと誰もが判断する

しかし誰もがは全員ではない、例外は除くのだ

戦牛の強力な突進がクズリと衝突すると、甲高い鉄の音が鳴り響いた

人間を軽く吹き飛ばす威力の攻撃で間違いはないが、クズリは吹き飛ばない


『なに!?』


エステは驚愕を浮かべた

彼女の視界には吹き飛ばされる未来ではなく、数メートル地面を滑りながらも突進の勢いを止めた盾士の姿があったからだ。


『ぬおぉぉぉぉぉ!』


腰を下ろし、踏ん張るクズリは永くは持たない。

俺の一撃に比べたらマシだときっと彼は感じてる筈さ


『流石!』

『流石ゴリラ!』


インクリットとアンリタは口を開きながらもクズリを飛び越え、互いの一撃で戦牛の急所でもある首を狙って攻撃して倒してしまう

魔石が出るまで彼らは構えを解かない、その点は意識として一流だろう


『盾を理解しているとはな…、あの歳で』

『俺が教えているからな、当然だ』

『…そうだな』


彼女は笑みを浮かべ、そう答えた


『本当にあんたゴリラねクズリ』

『アンリタ…俺は人間だぜ。そう思うだろインク』

『…そうだね』

『今の間…なんだぁ?』


面白いチームだな、見ていて暇しない

エステも3人の評価を一段階上げているだろう、そんな言葉が俺に顔を向けて飛んできた


『来年は化ける可能性はありそうね。見ごたえはある』


そうだろうな


3人の動きを見たところ、調子がいいように思えた

戦牛の突進を真正面から受け止めたクズリが心配であったが、予想より元気だ

きっと大雨の稽古後に色々鍛えたのだろう


『師匠、進みます』

『いいぞ。』


彼らは足跡を頼りに進んでいく

途中に出会う魔物はいないが、それは避けて通っているからだ。

たまに迂回しているのはしっかり周りから聞こえる音で近くにいる魔物を察知できているから無駄な戦闘を避ける事が出来ている

確かにキングゴブリンならば、体力は温存したい


そして辿り着いたのは小さな滝がある中流であり、茂みから三人は滝の裏側に消えていくゴブリンを見て根城を見つけたようだ


『少し様子を見よう』


正確な数がわかれば良し

しかし既に今日の食料を見つけていた為、その数を知るのは困難だ

ゴブリンは食料探しに外に出ることが多いからな


『あの滝の規模だと洞窟はさほど幅はないから正面に見据えて戦う事が出来ると思う。背後から来なければだけど』

『背後から来ても普通のゴブリンだろうよ。ランク高いゴブリンは手下を動かす』

『そうだね、前は二人に任せるよ。僕は後ろに警戒しながら援護する』


(まぁ問題はないだろう)


監視は一時間、その間の出入りはゴブリンだけだ

ランクの高いゴブリンの姿は無いが、心配なのはバトルゴブリンの数だな


『そろそろ行くわよ』

『おう』

『わかった。』


彼らは立ち上がった。

辺りを見回しながら滝の裏に進み、入口を確認だ。

やはり幅は2メートルと狭く、高さもその程度

勝機は十分過ぎる


『こんな時期あったな』

『想像出来んな』


エステは昔を思い出したらしく、彼らの動向に興味津々だ。

強化魔法温存で挑む強敵退治の合図は彼らの前に出てきたゴブリンの驚く声だった


『ギャッ!?』


驚いている隙にアンリタの槍がゴブリンの胸部を貫く、一撃だ

倒れると同時に洞窟の奥から聞こえてくる無数の足音と鳴き声に三人は身構えた


まぁ背後は俺とエステがいるし、インクリットは後ろ警戒を諦めたようだが…


『今回は後ろを気にしなくとも良い』

『感謝します』


(あと1人欲しいな)


出てくるのはゴブリンばかり

アンリタとインクリットが交代で倒していくが、数は6体を越えた辺りで予想通りバトルゴブリンが顔を出す

片手剣を右手にボロボロの革装備、ゴブリンよりワンランク上の魔物がさん3体いたのだ


少し苦笑いのクズリは二人を休ませる為に前に出ると、バトルゴブリンが振り下ろす片手剣を盾で弾き飛ばし、素早く盾の上部に伸びる刃で首を貫き、そして腹部を蹴って転倒させた


少し重い剣盾だが、どうやら振り慣れたようで安心だな

あれなら攻防どちらにも対応できる


『奥から低い唸り声聞こえるなぁ?』

『来る前に残り2体倒そう!』

『そうね!』


ダラダラ倒す時間はない

多少ごり押しでクズリが盾を前に突進して2体のバランスを崩すと背後の二人が一気に畳み掛け、そして洞窟の外に彼らは出た


『良い判断ね』 


洞窟から出ると俺とエステは茂みで様子を伺い、彼女は呟く

洞窟ではキングゴブリンは無理だ、だから三人は囲める形をとるために出たのだ


息は上がってるが想定内

洞窟から顔を出す2メートルある筋肉質のゴブリンの頭には錆びた王冠にボロボロの赤いマント

右手には細長い鉄鞭を持っている。

これがCランクのキングゴブリンだ


『ゴルルル…』


ギラつく目は怒りを表している

部下を倒されたらそりゃそうだろうよ


『魔法気をつけろ!』


クズリが叫ぶ

彼の言う通り、キングゴブリンは個体によって攻撃手段としてなんらかの属性の下位魔法を持っているからだ。


何を持ってるか知らなければ迂闊に近づけない

魔法を誘う為にインクリットは僅かに前に出ると、キングゴブリンは鉄鞭で地面を叩いて威嚇し始めた


『グァオ!グァオ!』


『足元少し揺れるのね』


力もあるのがキングゴブリンだ

見た目は王様に似てるけど、戦闘能力のバランスは良い

さぁ3人であれを囲み、どうするか見物だな…



『ゴル…』


キングゴブリンは鉄鞭の先でインクリットを差す

そして展開された魔法陣の色に俺とエステは驚いた

黄色い魔法陣が2つ展開されると、雷弾が1発ずつ放たれたのだ

これにはインクリットも驚き、雷と言う投擲速度が速い攻撃を回避に専念する


『くっ!』


狙いをつけられたと感じてから避ける用意をしていたから彼は間一髪横に倒れるような形で回避に成功したが、あと少し遅れていたら当たっていたな…


舌打ちをするキングゴブリンは魔法攻撃の隙に側面から飛び込んできたアンリタの突きを器用に鉄鞭を振って弾き返すと、背後から盾を前に体当たりしてきたクズリの気づくのが遅れてしまう

振り向く時には既に目の前、鉄鞭を振る時間は無い


『おらぁぁぁぁぁ!』

『ゴルゥ!』


キングゴブリンは踏ん張る気で姿勢を僅かに低くしたようだが、賢いな

だが三位一体が最近お上手な彼らだ、工夫を施す為にインクリットは倒れたまま既に動いていた


『貫け!』


彼の風魔法・ハンドハーベン

指定した物体を操作する風属性の魔法だが、インクリットは主に自身の武器である双剣を操作する

彼の武器はキングゴブリンに剣先を向け、飛んでいくと急所ではなくアキレス腱を貫いたんだ

双剣は2本という利点を活かした攻撃であり、両足首のアキレス腱に耐久力などほどないに等しい


『グバァァァ!?』


痛いだろうな…激痛は一瞬だが。十分過ぎる

次の瞬間には大声を上げて激突したクズリがキングゴブリンを容易く転倒させた

あの状態で踏ん張れるはずがない、動きを止めるには良い判断だったなインクリット


『もういっちょ!』


クズリはついでと言わんばかりに回転しながらもその勢いを利用して盾をぶつけようとするが、キングゴブリンもただではやられない


『ゴルァァァァ!』


怒りを浮かべながら上体を上げ、腕の力だけでクズリの盾の勢いを押し殺した

甲高い金属音が響く最中、クズリは目を開いて驚く

上半身だけであれだけの馬鹿力を見せられてはそうなりたくもなるが、その感情は隙でもあるからあとで説教だな


『がはっ!』


素早く鉄鞭を振って盾ごとクズリを吹き飛ばすキングゴブリン、だが終わりだ

奴が見てない視界では十分過ぎる時間を得た2人が背後まで迫っていたんだ

その姿を見る事もなく、キングゴブリンは首を槍で貫かれる


『ゴハッ・・・・』


あとは距離を取って致死量まで耐えるのみ

インクリットも説教だな。とりあえずアンリタと迫った感出しただけか…

…いや違う


彼は上体を起こしている状態のキングゴブリンを飛び越えると前方宙返りしながら腰から投げナイフを2本一気に投げ、目を同時に貫いたのだ

キングゴブリンは人間と違い、精神力が高いから死ぬまで暴れるケースがある

それを危惧し、彼は視力を奪うために走っていたのかもしれない


確か以前、将軍猪みたいに死ぬまで暴れる時がキングゴブリンにもある事を彼に話したことがある


(予想以上に利口になっているのは魔力袋の影響か。嬉しい誤算だ)


バランスの良いCランクの魔物であるキングゴブリン

人型だからこそ、きっと彼らは息を合わせやすい

攻撃は人間と酷似しているからだ


『あの槍女、一番化けるぞ』

『俺は全員同じだと思うがな』

『いや槍女だ』


強気なエステは面白いな


インクリット達は無駄に暴れるキングゴブリンが倒れるまで待つと、数分で決着はついた

力尽きたキングゴブリンの体から魔石が顔を出すと、そこで皆が構えを解く


『うしっ!』

『いけたわね』

『おっしゃーだなぁ!』


 上手くいけばスムーズだが、慣れぬ相手だとまだCでも苦戦はするだろう

ゾンビ種だとコンペールとかだと彼らはまだ苦戦する筈だ、あれは予想外な動きをするからだ


『師匠!どうですか!』

『流石だ。クズリはボルトアクションで転倒されないように発動すべきだったがな』

『やっぱ俺かぁ、驚いちまって…』

『それは命取りだが、仲間がいるからこそカバーが利くのは十分理解したな?』

『うっす。』

『だが怪力を受け止めて踏みとどまったのは評価する』


こうして彼らを一度休ませる為に小休憩だ

アンリタがチラチラとエステを見ているが、視線は胸だな


(未熟と完熟か)


『お前、何を考えている?』


目を細めて横で俺を見るエステ

こいつはなんとなく察するのが凄い、そこは変わらないな


『杞憂だ。アンリタが一番化けるとお前は思っているのか』


その会話にインクリット達も僅かに耳を傾けているようだ

アンリタが一番気になる会話だろうな…


『あの槍の軌道、まるで蛇だ…、初めて見たがシドラードで聞いたことはある』


シドラード王国にいる老いた戦争傭兵から聞いた話だとさ

まぁその傭兵は引退し、余生を気楽に生きているというが話を戻そう

とある戦争で槍をまるで生き物のように不気味な軌道を描いて貫き、兵や傭兵を倒していたファーラット公国槍兵がいたという


『今だと30年前の話らしいわ。それを見た傭兵は降参して生き延びたんだと』

『ほう…』

『蛇槍騎士って当時に生き延びた傭兵は口にしていたらしい』


その話に驚愕を浮かべるのはアンリタだが…まさか?


『お父さんがお酒に寄った時に、その呼び名を口にしてた』


世間は広いが狭い、矛盾な言葉だがこれで良い

エステは少し驚くと、大きく笑う


『その娘か、面白い…』


一度手合わせしたアンリタの父、ガルフィー

全盛期はやはり手練れか、まぁ一撃見ただけでわかってたがな

槍を突くだけで真空が起きるのは手練れでも難しいからだ


『ガルフィーは最近元気かアンリタ』

『門下生が凄い増えてなんか凄い機嫌良いわね』

『気が変わった、会いに行きたくなったな』

『今日帰ったら話しておくわ。きっと喜ぶでしょうね』


興味を持ったエステは口元に笑みを浮かべて俺を見ている

わかってる、お前も来ると言いたいんだろう?わかるぞ


『…来る気か?』

『私も見てみたいのでな、明日は予定があるが』


冒険者にも弓使いは少数だがいる

彼女はその実技講習をガンテイに頼まれている為、用事があるのだ

だから違う日にに連れて行けと言いたいのだろうよ


『凄い親父さんなんだなぁアンリタ』

『他国にまで轟いてるって憧れるなぁ』


クズリとインクリットが口を揃えて彼女の父を評価する言葉を述べる

アンリタは珍しく、少し可愛く笑ったのが印象的だったな



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