第56話 騒然
※メモ帳のキャラでシューベルンの息子とルーファス第二将校を謝って二重にして同名に気づかぬまま小説を進行させた為、シューベルンの息子をアトラルに変更と謝罪
グスタフがアクアリーヌ大平原にて戦争に参加している最中、フラクタールは平凡という名の平和を過ごす人で一杯だった。
アミカの鍛冶屋は通常通りの店賑わいであり、彼女が作った作品はカウンターの後ろに飾られている
展示会に見ることが出来なかった隣街の冒険や傭兵そして貴族も足を運ぶ
アクアライト鉱石で作られた魔法剣、名前はマリーンアントワネット
綺麗な青い剣身は水に特化しており、その魔法の発動速度が飛躍的に速くなる
そして威力も勿論上がるが、使用者の魔力量によってどの程度上がるかが決まるのだ
シューベルン男爵の屋敷から警備として雇われている貴族騎士3名が店内を監視する最中、アミカは2本目の魔法剣を完成させた
『ほらー!一回やれば直ぐ出来るー!』
一本目に時間を要した彼女だが、その時の反省を活かし作り上げた。
小柄な片手剣、アクアライト鉱石特有の青みを帯びた刃、装飾は最小限
グリップ部分は握りやすくする為に乾燥させた魔物である鮫の皮を使用し、滑り難くしていた。
彼女はグスタフの予想を遥かに越える速度で日々成長しているのは家系の家訓が活かされているからだ。
恵まれた環境ほど見合う努力を怠る者は夢叶わず。
アミカの才能は技術ではなく努力だ
だからこそ、彼女はここまで来たのだ
『名前どしよ』
首を傾げて考えるアミカ
彼女は名前だけで1週間かかる事をまだ知らない。
『店長っ!小柄な剣で聞きたい事があるってお客さんが』
鍛冶場に顔を出す売り子
アミカは元気に返事をすると、軽い足取りで店に駆けていく
環境はきっかけさえあればガラリと変わる
自分に無いものを他人が持っている。
それを彼女はなんとなくグスタフと出会い、そして感じていた。
閉店後、疲れきったアミカは2階の居間で大の字で仮眠、半居候のアンリタが森から帰ってくると、彼女が夕食を作る
インクリットも手伝う予定だったが、今日の冒険者活動にて左手に怪我をして手首に包帯を巻いている為、落ち着かない様子で彼は居間に座って休んでいた
『インクリット君、仕方ないよ!』
起き上がるアミカの言葉に苦笑いのインクリット
時たま顔を覗かせるアンリタの視線に、彼は体を強張らせる
目を細めるその表情、今日にやらかしを彷彿とさせる彼は子犬の様に、居間で小さくなっていく
そうした彼の表情を見ながらも、アミカはボソリと呟く
『グスタフさん、大丈夫かな』
小さな声、しかしインクリットとアンリタには聞こえている
アクアリーヌ大平原での戦争、それはファーラット公国での大事に繋がるからだ
僅かに食料の高騰があったが、戦争とは価格高騰は当たり前に起きる
『今日は少し高めのポテトサラダに生姜焼きだね』
こうして3人はちゃぶ台を囲み、夜食となる
小雨がちらつき、窓には僅かに水滴がつくと下に落ちていく
その様子をインクリットはジッと見ながらポテトサラダを黙々と食べる
ジ・ハードはインクリットとアンリタそしてクズリの冒険者チーム
アンリタはランクCの冒険者だが、他の二人はまだDランクになって間もない
グスタフからは慌てず、Dランクを今年堪能したほうが良いと言われていた
しかし、そんなチームでもフラクタールにある冒険者ギルド運営委員会からは信頼を置かれており、緊急依頼がギルドに入ると最終的に彼らに声がかかる事がある
インクリットが怪我したのはDランクのグランドパンサーの群れが街の近くに縄張りを作っていたとの報告が入り。彼らともう一つのチームが派遣されたのだ。
グランドパンサーは大型の犬種であり、1メートル半の大きさで体毛が無い
灰色の体は筋肉質であり、見た目からは想像できない瞬発力を持っている
その魔物が5体、2チームで討伐することに成功したがインクリットだけが怪我をした
原因は濡れた地面で無理をして風属性強化魔法・スピードアップを使ってバランスを崩し、手首を負傷するという魔物とは関係ない状況での事故である
これにアンリタが怒ったため、彼は子犬の様な存在と今なっていた
『あれ助けなきゃお尻噛みつかれてたわよ馬鹿』
『あはは…ごめん』
『グスタフさんから言われたでしょ?使えるタイミングを考える事は重要だって』
『次は気を付けるよ』
『なら明日の冒険者活動の帰りはポテトでも奢ってもらうかしらぁ?』
(弱い所をついてきたか…)
苦笑いで頷くインクリット
しかし実際、彼女が助けなければ彼は危なかった
これ以上は可哀そうだと思ったアンリタはインクリット同様、窓を眺める
それにつられてアミカも見ると、皆が静かになってしまう
何を考えているか、きっと3人は同じことを考えている筈だ
その方向はアクアリーヌ大平原がある方向であり、3人は内心では小さな不安を抱えていた
ふと、店のドアを叩く音に3人が気づく
これにはアミカが立ち上がり、様子を見に行ったのだ
閉店での来訪という事にインクリットとアンリタは顔を見合わせ、首を傾げる
するとアミカが笑顔でその者を居間に連れて来たのである
『まだ生姜焼きあるもんね!』
アミカが口を開く言葉を2人は聞いてない
思わぬ客とはシューベルン男爵の長男であるアトラルだったからだ
しかも騎士2人を引き連れており、彼らは苦笑いだ
『アトラル君?どうしたの?』
『アンリタさんもインクリットさんも今日はお疲れ様です。ちょっとオーダーメイドした剣が凄い気になって…その』
『居ても立っても居られないで見に来たのね』
『はい!』
アミカが剣が出来たという話、それは営業時間中に売り子に話した時に警備で来ていたシューベルン男爵騎士2名がそれを聞いていたのだ
そして夜食の時、騎士がその事をアトラルに話してしまい飛び出してきたという感じで今に至る
『僕たちはご飯を食べたのですが、食事中で申し訳なかったです…』
『いいのいいの!あっ…騎士さんはリンゴジュースあるけど飲む?』
『アミカ殿、かたじけないが一杯頂こう』
貴族との関係も良好だという表れである様子は彼らが幸せの中にいるという証拠でもあった。
こうしてアミカは夜食を終えると、アトラと騎士2名を連れて鍛冶場に連れて行く
綺麗な作業台の上に乗っている透き通るような青い剣、これにはアトラルは目を奪われて口を開けたまま動かなくなる
『これは…』
『見ただけで魔力を感じさせる…。』
騎士も剣に魅了され、口を開く
まだ名前は無い、アミカがそう告げると作ったばかりの魔法剣をアトラルに握らせ、そして振って見てと頼む
彼は喜んで剣を振る
とても軽く、そして頑丈であり魔法発動速度向上効果のある武器
アトラルの心は今までで一番踊っていたのである
『これは宝みたいだ…』
はしゃぎだすアトラル、彼はアミカの手を取って感謝を口にする
まだ名前が無いからこそ、まだ剣ではないという彼女の言葉に深みを感じたアトラルは自分の宝となる物を見て満足すると、今後の事について口を開く
『父は商人相手に多忙になるため、僕が鉱山関係を担当することになったのですが…』
彼の顔は思いつめた表情であり、それは問題がある事を示す
それに関してアミカは十分に理解している。
元々ラフタ鉱山の権利を持っていた伯爵が鉱山解放後に権利を訴えてきたからだ。シューベルン男爵からはグスタフが確実になんとかするとアトラルは聞いていたが、それでも伯爵相手に爵位がまだ無い者にとっては不安が付きまとう
『グスタフさんだから大丈夫。多分だけど王族に話しするんじゃないかな?』
『お…王族』
ゴクリと唾を飲むアトラル
王族と直接的な関係を持つ者と言うのは実際、貴族は警戒する
まだグスタフに不慣れなアトラルは少し不安な様子を見せるが、アミカの気楽な様子を見ると少し心が落ち着いた
『今は保留中の問題ですが、権利が正式に我が家に来た場合は宜しくお願い致します』
『うん!』
そして真夜中、四畳ほどの小さな部屋でインクリットはぼんやりと窓から曇空を眺める
僅かな風でカタカタと鳴る窓、どこかの犬の吠える声
そんなフラクタールのいつもの様子など気にせず戦争がどうなっているのか彼は考える
『6万と3万か』
致命的な戦力差であり、シドラード王国側に民兵がいるとしても、その数での防衛は城の立て籠り出なくては意味はないと言われている。
大平原での倍という差は単純な削りや少しの崩れで安易に崩壊しかねないからだ。
しかし、インクリットは師匠ならば何とか勝ちまで導くだろうと決定的な根拠が無くてもそう信じていた
(戦争…沢山死ぬのか)
彼らは冒険者であり、兵ではない
人を斬るという感覚を知らないインクリットはその事を考えながらも横に置いている双剣を横目に溜め息を漏らす
『そういえば言われてたな』
いつかは斬る状況が生まれ、迷いは仲間を失う
グスタフに言われた言葉の日が来ない事だけを祈り、そして眠気が来ない夜に目を閉じた
次の日、それはアクアリーヌ大平原での2日目となる日だったが、街は驚きで包まれる事となる。
朝食を食べている最中、アミカやインクリットそしてアンリタは外が騒がしい事に気づく
何かあったのだろうかと言う思いでインクリットは様子を見に外に出た
人は皆、南区広場に足を運んでいる事に気付いたインクリットは流れるようにして広場に向かう。
そこに設置されていた掲示板には多くの人だかり、彼は必死に人の中をかき分けて前に来ると、騒ぎの意味を知る
(鬼哭…かぁ)
人の放つ情報とは物凄い早さで轟く
その例として、アクアリーヌ大平原での1日目で起きた情報が記載されていたのである
戦争傭兵鬼哭グスタフ、敵将校2名と副官4名の首を突撃から数分で持ち帰る。
エイトビーストは警戒し戦場に現れず、ロイヤルフラッシュ第二将校、アドラ第六将校、ディバスター第五将校の奮戦にてファーラット公国の有利で1日目を終える
その一文の下には細かな詳細まで載っており
、インクリットは乾いた笑みを浮かべながら背を向けて歩き始めた
(敵軍の中を300人で突撃かぁ)
誇張された点はいくつもある。
しかし、彼ならばまだ足りないくらいだ
もしグスタフが好きに動いていた場合、どうなっていたかは誰も知らない。
今日、街の中はグスタフと言う1人の傭兵の名を何度口にするのか
インクリットはそう思うだけで少し嬉しい気持ちとなる。
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