第53話 信頼
1日目の終了、俺は美味しい飯を食べてから料理騎士にチップで金貨1枚渡すと、彼は笑顔で親指を立てる
『毎度です。また会いそうですね』
『戦場に俺が駆り出された時はな』
『きっと現れます。悪魔的な強さだったのは聞いてますが、ナイスです』
彼なりの褒め言葉、俺は頷くとムツキとガンテイを連れてノアのテントに向かう
生きている事はわかっているが、少々気になる
少し足取りが早くなっているような気もするが、遠くから感じた気配の正体を知りたいからだろう
彼女には自分の魔力袋の能力に比例した存在が現れる凄い魔法を1回だけ使用できるように施したが、現れた気配が小さすぎたのだ。
だが少しするとシャンティらしい気配が一瞬で消え去り、来ていた数名の気が強くなった
何が起きていたのだろうか
こうして彼女がいるテントに向かうと聖騎士達が床に座って疲労困憊な表情を浮かべていたのである
ノアは奥の椅子に座り、思いつめた様な顔を浮かべていたのだが、俺を見るとすぐに立ち上がったのだ
『グスタフ、凄い血の量ですね』
『大勢の命を斬った、これが成果だ』
彼女の見せるべきではない物を見せる為に、俺は担いでいた血で滲む布袋を逆さまにして中身を落とす
中身を見た聖騎士達は驚愕を浮かべ、その場に固まってしまう
袋の中は上官連中の首であり、その中にはボトムとリングイネもいた
ジキットは目を細め、鼻で笑うだけだ
しかし他の聖騎士、ハイド達は数歩後ろに退いてしまう程に驚いていた
驚愕?いや違うな、警戒に近い感じがする
ノアも驚くだろうと思っていたが、彼女は顔色一つ変えなかった
試すつもりでこの場で見せたが、何を考えているのだろうか
俺にはわからない
すると彼女はとんでもない行動をしたんだ
俺に近づくと、鎧についた血を両手で触ってから自分の顔に塗るという王族が絶対にしないであろう行為をこの場でやってしまうのだ
これには聖騎士だけじゃなく、俺やガンテイそしてムツキが驚く
『ノア様何を!?』
『直ぐに顔を拭いてください!』
彼女は聖騎士の言葉を無視し、俺に目を向ける
とても強い目をしており、何かを決断したであろう堅い意思を感じる
沈黙の中、俺は彼女の出方を待つよりも出るタイミングを作る為に口を開いた
『言われたら確実に願いは叶える。これが俺の仕事だ…怖いか?』
『頼んだのは私です。貴方の罪を私も背負うつもりで頼んだのです?』
『罪を共に背負う?』
彼女は言う
戦争で人を斬る事は悪人を裁くのとは違い、罪であると
双方ともに正しいと思い行い、双方ともに誰かの為に戦っている
そんな彼らの人生や意思そして夢を絶つような行為に正義はただの正当化するための言葉でしかない、と
戦争の最高司令官は私である以上、私が多く背負う必要がある
『貴方に依頼をしたのは私です。だからこそ…その人らは私が殺したの同然と思わないときっと私は本当に平和と向き合えない』
(本当に…)
王族という位置が似合わない女だ
庶民的なのは見ててわかっていた、孤独が苦手なタイプだな
『お前は、正義とは何なのか答えられるか』
俺は低い声でそう問う
すると彼女は真剣な目を向け、答えた
『偽善の言葉、貴方の必要悪の道を私もついていく覚悟です』
あぁそうか
何故お前に興味を持ってここまでつるんでいたかわかったよ
本当に面白いと心から思った俺は、その場で大笑いした
綺麗ごとで染める言葉で言いくるめようとせず、自分が思う言葉で固めてきた
素直すぎて損する女だが、だからこそ命を賭ける騎士が沢山いるのだろう
これだけ笑っているのに、俺以外はそんな雰囲気ではない
ガンテイもムツキも、真剣なのは何かを求めているからだろう
ならばそれを教えても良いかもしれない
俺は笑いを止めると近くの椅子に座り、口を開く
『俺は…頼られた者共に裏切られてここに来た。最初は英雄扱いで慕ってきても最後は人間を見るような目で見る者は殆どいなかった。』
彼女は決して目を背けない
聞かなければいけないとわかっているからだろうな
『強すぎると人は味方であれ恐怖する。今日の戦争でも殆どがそれだ…。扱えない大きな力は国家にとって危険視される。エイトビーストが国と連携しないのもそれだ』
人間の本能、自己防衛は無意識に起きる
それが肥大化すると、人は時に牙を向く
『どれだけ国を守っても。賞賛はない…、最後は王族に暗殺者を向けられ、俺は…』
それでも、ガンテイやムツキはいつも通り俺を見てくれた
同じ飯を美味しいと言ってくれた
『シドラード王国、ハーミット国王を殺した』
誰もが口を開け、驚く
何故シドラード王国がいきなり動きが激化したか皆はきっと理解した
権力争いという行為にファーラットは巻き込まれたのだ
大きな賭けを今しているが、ノアの顔を見る限りは…
『貴方は物ではありません。人と同じ感情を持っている以上、悲しいからファーラット公国にきたのでしょう?』
『…答えはわからない』
『ならば私が答えます。ここで貴方は何を求めて来たのか』
『面白い、言ってみろ』
『理解者を探している悲しい武人です。辛い道を通り、それを見てくれる仲間を求めて貴方は来た』
単純だな。しかし…
否定できないのは悔しいか
あれだけ頑張ったのに、化け物扱い
俺は人間だ、美味しい物を食べれば笑うし空腹だと怒る
そんな俺を見てもらいたかったのかもしれない
みんな、戦う時の俺しか見てくれなかった。
無意識に肩を落とす、俺はそんな自分に気づいていなかったが
ジキットはこれ見逃がしに口を開く
『同情なんてしねぇぞ?ちゃんとノア様っていうまでなぁ?』
不気味な笑み、しかし心地よいのはいつも通りの彼だからだ
それはガンテイもムツキも同じだった
『がっはっは!泣きたくなったら一緒に筋トレするか!』
『あの国王を殺したのは流石に驚きましたね、しかしナイスです。あれは私の故郷の宿敵ですから』
筋トレもしたくないし、魔族の為に殺したわけではない
まぁしかし、彼ららしいという事はいつもの俺に対して話しているのと同じだった
戦いに関し、触れる事はなかった
『私はそんな貴方の道のりをここで迎えます。どうか私と共に激化するであろう時代を助けてください。』
ノアは頭を深く下げる
物としてではなく、人として見る覚悟を持つ…か
それは今後に俺の中で答えが出るだろう、今は皆の意思にそぐわぬ言葉が必要だな
『…正義とは悪。必要悪が本当の俺の生き方だが…、お前もその手を血で染める覚悟を持つというのか?』
『この顔を見ても信じない?』
顔が血で真っ赤
変わったやり方だが、伝わりやすい
こいつの未来が少し見て見たくなったな…
『顔を拭いたら、しばらくは嘘情報のように王族の代々使える傭兵として従おう。』
『ならノア様つけろよ馬鹿たれ顔を血で塗らせやがって斬るぞコラ』
『ジキット、やめなさい』
『でもノア様…』
本当に変わった人間達だ
いてみたい、そう思えるほどに
『あとノア、何が起きたか教えて貰えるか?』
『申し訳ないですが、その存在からは極秘と言われています』
『なんだと?それは本当か?』
『はい…悪い存在じゃありませんでした』
『まぁ髪がバッサリ切られているのをみると、想像は出来るが…絶対に誰にも言うな』
『わかってます』
こいつ、最上位悪魔を呼んだな
とびきりヤバい奴、俺が本気で戦って勝てるかどうか怪しい存在
となると…あれだな
こうしてガンテイとムツキは傭兵テントに戻ると、夜には将校を交えての2日目の会議となる
場所はノアのテント内、中央に大平原の地図の置かれたテーブルを囲むように皆が椅子に座り、俺をある程度警戒していたのだ。
ロイヤルフラッシュ第二将校やディバスター第五将校そしてアドラ第六将校そしてノア王女
周りには各将校の精鋭騎士だ
『あのボトムとリングイネを一撃で…だと』
アドラは今になっても信じられないといった様子、しかしロイヤルフラッシュ第二将校はそんな彼など目もくれず、目を細めて俺に口を開いた
『異常なほどの突破力、遠くで見ていたが本当に味方である保証はあるかグスタフよ』
あれだけの光景を見せたら警戒するのは当たり前だ。
裏切られると危惧するのは当たり前、将校だからな
だがノアは絶対に無いと彼らをずっと説得し、一先ずは落ち着いた
2日目での戦争、それはロイヤルフラッシュ第二将校の口からどう動くか説明が入る
『左は既にリングイネ第三将校の副官が1人しか統率をとれる者はいない、補充しようとしてもシドラードは魔族船団の警戒に持っていかれているだろう』
『グスタフ殿の配置は考えているような様子ですねロイヤルフラッシュ第二将校殿』
『左軍の前線に立たせておけばいい、中央にも見えるようにするだけで奴らは1日目の悪夢の再来を恐れる。特にルーファス第二将校殿がな』
『確認で発言をしても良いですかなロイヤルフラッシュ第二将校殿?』
『どうしたディバスター』
『となると…私の後ろに控えている兵は右軍のアドラ殿に移しても問題はないという事になります』
『そのつもりだ。私が敵側なら絶対に左は攻めれぬ…。あの突破力を見せられてしまえばな』
『私としては2日目が起きるかも怪しいと思っております』
『流石姫様じゃ…その可能性は十分に高いです。』
あちら側では叫び散らかした会議をしているだろう
これはケヴィン王子の失態、それはノアも薄々理解している
1日目のシドラード軍の動き、それは俺の存在や情報を一切聞かされていないから起きた最悪だったからだ
2日目なんて何が起きるかわからない、そうなるように上官首だけを俺は狙った
そんな俺の意図をロイヤルフラッシュ第二将校は見抜いている
『2日目に響くように将校連中の首だけを狙ったのは良い判断だ。だが2日目は貴殿は置物になってもらう。』
だろうな、少し笑いそうになる
彼らは戦争貴族としてプライドがあるからだ
ポッと出の俺に手柄を取られたらそりゃそうだろうよ。でもこうでもしなきゃ
お前らが2日目に力を奮えないからだ
だからロイヤルフラッシュ第二将校は気に食わんといった顔をさっきから俺に向けている。
『優しさのつもりかグスタフ』
『鹿肉を共に食った者同士に対して酷いなロイヤルフラッシュ第二将校殿、次は内緒で俺だけ食うぞ?』
呆気に取られる彼の顔は忘れる事は無い
口元に笑みを浮かべると彼は『まぁ今は感謝する』と言って真剣な顔へと戻る
エイトビーストが出てくる危険はないかとノアに再確認されたが、俺は可能性は低いと答えた
『奴らは出ぬ、出ても様子見で現れる程度だ』
『出てきたら対応は任せるぞ?傭兵の対応は好かん。それはわかるな?』
『わかっている。お前らの生き様の邪魔はしない』
『話のわかる男で面白い。ならばこれ以上の変更点はありますまいノア様』
『わかりました。みなさん明日も健闘を祈ります』
そして会議は終わる
俺はテント内を出ていくと、ガンテイとムツキが待ってくれていた
飯だから食うぞ、とガンテイが張り切っているののだが、どうやら料理騎士にチップを渡して今作っているとの事だ。楽しみだ
仕込みに時間がかかるからと俺達は大平原に足を踏み入れた
所々血溜まりがあり、戦争の後がまだ残っている。
明日もまた戦争、これよりもっとこの場は血で染められるだろう
『いやはや、凄い人だ』
ムツキが懐から取り出した干し肉を食べたがら呟く
誰に貰ったかは検討はつく
『明日は傭兵らは出ない、必要ない状況になったからな』
『なら休んでいてもいいのだぞ?』
『いんや!置物グスタフを見るぞぉ?』
笑うなムツキ
まぁ確かに冗談混じりのガンテイは面白いから良いか
(月が綺麗だな)
秋は天候が変わりやすい
明日は快晴らしいが、この季節はいきなり寒くなったり暑くなる時もある
風が強いときも大雨だってありえる
地面に腰を下ろし、空を見上げた
俺が轢き殺した者の殆どが帰るべき場所があった筈さ
家族や恋人、住んでいる家や夢に向かって歩いてる者
ノアの言う通り両国の正義が激突するのが正義であり、犠牲になるのは本来死ぬべきではない兵職の者
自国の為に敵国の兵を殺すのは罪だ
だからと言って戦わないという選択肢が起きる事は殆ど無いだろう
相手の人生を殺し、自国の人生を守る
そんなこと俺はわかってるさ
無心で殺してはならない
せめて苦しませずに一撃で屠る
戦争が無くなれば、そんな事を考えなくて済むのだがな
『お前は凄いなグスタフ』
『どうしたガンテイ』
『素直じゃない優しさは置いといてだ。』
『おい…』
『人が出来ない事をし、嫌でもやることは大変な行為なんだぞ?お前は少し我が儘なのかもな』
『我が儘…か』
『その道を選んだのはお前だ。怖がられても良い、でもそんな大勢の中でお前を心配するやつだけ大切にしろ。それがお前の求める存在じゃないか?』
100人と仲良くなろうとしてと、合わないタイプは沢山いる
親友と呼べる人間が少ないのはそういう事だとガンテイは話す
『幼い頃にいた多くの友達ってのは大人になると決まった人間しか残らない。そんな人間をお前は大事にすれば良い、お前の悩みは贅沢だ』
アドバイスでもあれば、説法でもある
彼に冗談を言える状況ではないようだ。
かなり真剣だ。そして言いたいことを俺は理解できる
『例えそれが数人でもか』
『そうだ。それが親友だ』
感じた事も無い言葉だが、彼は嘘をつかない
有り難く受け取ろうガンテイ
『一先ずは考え過ぎぬようにしておく』
『そうだな!ムツキもそう思うだろ?』
『私を巻き込みますかガンテイさん?魔族の守備範囲はハイペリオン大陸より広いから多種族共存が可能になってるんです。ストロベリーチーズケーキが大好きなグスタフさん1人余裕ですね』
ストロベリーチーズケーキを引っ張る彼に俺は笑いそうになる
どうやら俺は考え過ぎなのかもな
少し考え方を改めても良い頃合いだ
『あっちも必死だな』
ガンテイは怠そうに言い放つ
こちらと違って、シドラード軍は王族と兵職で息を合わせられていない
それらと武器を交えるのは多少の躊躇いがあると言いたいのだろう
『だがやるしかない。双方共に国を信じて命を賭けている。戦争は他人を不幸にすることで得られる明日があるから都合良く止まれないのだ。』
『そこまで考えちまうと、やりずらいな』
『だからこそ戦ってるときは下手に考えるな。終わったら斬ったあとにそやつらの事を思え』
『そうだな。まぁ帰ったら付き合え』
酒か、まぁ良いだろう
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