第41話 驚愕
『堅苦しい場所ですね』
ムツキは口を開く
ここはアクアリーヌの会議所の建物の中であり、ロビーには沢山の騎士が座って休んでいる
時折、多忙な騎士が慌ただしくロビーを走っていく様子も見受けられるが、吹き抜けの2階に走って言ったのを見るとあそこは詰所の本部かもな
『グスタフさん、何をしに?』
『軍をどう配置するか知りたくてな。聞いてなかった』
『大事な事ですねそれ』
ノアに聞いておけばよかったのだろうが、今は作戦会議中だろうし聞けない
その後だとしても色々彼女も考えなければいけない時間は必要だ。
俺は必要な時だけ、いればいい
『おんや?ここで何を?』
丁度良く2階の吹き抜けから顔を覗かせるオッサン
それはディバスター第5将校である
彼ならば大丈夫だろうと思い、声をかけると2つ返事で了承を得る事が出来たよ
近くの応接室のような部屋に案内されたのだが、そこには騎士が3名待機しており、ディバスターのオッサンの座る椅子の後ろでこちらを見ている
ムツキは余所見をし、腕を組んで他人事のように見せてはいるが、耳はちゃんとこっちを意識しているようだ
『何か飲みますか?』
ディバスターの気づかいを無下にすると本番で差し支える事になる
だから俺は紅茶を頼んだんだ、しかも彼はおまけにデザートも用意してくれたのだ
雇ったメイトが運んできたのはショートケーキ
紅茶に合うし、更に美味しく感じれるだろうな
『すまないな』
俺は色々な意味で言うと、彼はにこやかに笑みを浮かべる
要件を彼に伝えると、今までの笑顔が打って変わって真面目な将校へと変わっていく
先ずは俺の隣に座っている者が何者なのか問われると、ムツキは答える
それと同時に俺も彼の事を良く知っている為、ディバスターは納得してくてた
『アクアリーヌ防衛軍は1日目は持ちこたえるだろう』
ディバスターはそう告げる
1日目は必ずシドラードが民兵を多く配置するためだ。
各将校の軍に義勇軍として水増しされた構成だが、1日目は兵を削る方針で来る
だから突撃せざるを得ないからこそファーラット側は防衛主軸で最初は戦う
馬避けのや塹壕と言う杭溝を掘り、前方に掘った土や 土嚢 どのう を積み上げたものを防衛施設としてではなく、足を止める為に使うというのだ
『投石器や魔法隊そして弓や弩弓などは左右に展開させて敵の力を中央に集中させる。全軍で来なければの話だが』
『来るわけがないだろうな』
『そう言って貰えると私が落ち着ける。中央は勿論ロイヤルフラッシュ第2将校が3日間守り抜く勢いです』
『あいつが抜かれたら終わりだ。左右は後ろに待機させた騎士や傭兵らで援軍を回せばいい。』
『意見が合いますな』
彼は緊張の糸が解れたのか、笑みを浮かべるとショートケーキを一気に口に入れて食べたのだ
豪快過ぎて笑いそうになるが、悪い奴じゃないんだな
『グスタフ殿は左陣である我が軍の後方支援、他の戦争傭兵らも待機させるようノア様から承っております。』
『…お前は変わっているな』
『そうでしょうか?』
『あまり素性の知れぬような男に後ろを任せるという軽い発言は将校に似合わぬと思わないか?』
『思いません。私は目を見るだけで悪い人ではないと悟りました』
思い切った言葉に呆気に取られそうになった
将校ならばある程度の警戒は俺にすると思うが、彼は変わっている
『それに、ノア様が信頼しているならば尚更』
『なるほど、お前の下につく騎士らはザッとどのくらいだ』
『我が左陣が一番少なく配備されます。1日目は4000弱、後方に控える騎士は1000です』
少なすぎて泣きそう
普通ならば計7000は欲しい
どこかに穴が開きそうになると500単位で動かさなければならない時が戦場では多い
4000弱となると…
(前は2000で守るだと?1日目だぞ)
明らかに可笑しい
まぁ薄々勘づいているが、どうやらディバスターの話ではこれを決めたのはノアだ
大事な会議では将校らに猛反発されていたらしいが、その反発を怒号で押し返したというので驚きだ
『ノア様があんな形相されるとは思わなくて将校らも驚いておりました』
『面白い女だな、やはり』
『庶民的で人気があるのも良いですな』
庶民的か、確かに飯を食っている時は王族の癖に汚い
しかしやる時はやるならば飯の姿など彼女の個性となるだろう
と…なるとだ。
(開いた場所は俺が動くことになるのか)
『グスタフさん。ディバスター第5将校殿から騎士を借りるのはどうでしょう?残念ながらこちらの傭兵はまとめる時間がないのであれば崩れた穴を補修する力もない筈』
無理矢理動かしても意味はない
1日目の結果次第では変わるだろうが、1日目は無理だ
ムツキの言う通り借りるしかない
唸り声を上げて、仕方ないかと思いながら俺は彼に頼むことにした
でも何故かディバスターはニコニコしていて様子が可笑しい
『ノア様は凄いですなぁグスタフさん』
『どうしたディバスター?』
『彼に騎士を数百つけるよう、言われておりました。きっと言うだろうと』
(あの女…予想されるのは悔しいな)
『精鋭とまではいきませんが、経験を積んだ若い騎馬を200用意しております。』
そうとなると、早急に俺は会わなければならない
何処にいるのか聞いてみると、どうやら戦場であるアクアリーヌ大平原
200の騎馬中隊の中隊長はミルドレットという女らしく、青い髪の女を探せと言われたので俺とムツキは彼の言う通り、今日中に挨拶をするべくアクアリーヌ大平原に足を運ぶ
行ったり来たりで面倒だが、戦場ではよくある事だ
下準備はギリギリまでする必要があるからだ
夕方に辿り着き、昼過ぎの雰囲気とは別となっていた
騎士達が隊形を組んで大平原に体を向けて待機していたのである
いつ何が起きても良いように、動けるようにしているのだろう
秋を呼ぶ風がやけに涼しく感じ、真っ赤な夕日が大平原を照らす
『広大な平原ですね』
『戦場にはうってつけだな』
『私も少し現実味を帯びてきましたよ、本当に戦争が起きるのだと』
起きるのだ
今の時代は領土をめぐり侵略戦争などではなく、政治戦争
戦争は意味を変えて人間を動かす文化でもある
それの良し悪しは別として今は考えるべきか…
(あちらも見ているか)
遥か遠く、シドラードの兵が隊形を作って軍の大きさを見せつけようとたたずむ
こちらの士気を下げる為に棒立ちさせているだけだろうが、効果はある筈だ
『見せつけてますね』
『お前ならどう見る?』
『持久戦ですね完全に、士気を折られたらあっちは直ぐに後方に控えている兵を総動員するでしょう。』
『士気が切れたというのはどう見て判断する?』
『切れたかどうかというよりも、陣形の穴を修復が間に合わなくなれば合図ですね。それは1日目だとしても起こりうるので私らの持ち場は重要だということです。しかもそれを担うのはディバスター将校ではないでしょうね』
こっちをみんな
まぁ兵が少ない場所は直ぐにバレるが、あっちは最初警戒する
その間にそれなりに抑えておかないと後方がゼロだ
2日目の出る騎士らは今いるこの陣営で休むことになっているが。直ぐに出れる筈もない
(穴を作るべきか、穴を作らせないようにすべきか)
あっちの出方次第だな
色々ムツキと話していると、探す予定だった人物が現れる
遠くからでも俺達に気づいていたようであり、目は良いようだ
青い髪の女性だが若そうだ…しかし女は見た目じゃわからん生き物さ
プレートを身に纏い、女性を感じさせない鋭い目つきを向けてこちらに歩いてきている
周りには彼女の精鋭ともいえる騎士が10名、みんな腰に剣を装備しているが
騎馬となれば十字槍という歯が十字になった槍を持つのだろうな
さっきその武器を持つ騎馬らしき騎士がいたからきっとそうだ
『お前がグスタフか?』
ほらな、男勝りだ
凄い強気だし腕を組んでるし俺は苦手な部類かもしれない
そんな様子を感じたのか、ムツキは横目で俺を確認してクスリと笑う
『ムツキ』
『私は何も?』
『はぁ…。俺がグスタフだ』
『なるほど、私はお前を歓迎する』
『は?』
途端に頭を下げる女
多分ミルドレットだと思うが、将校が戦争傭兵に頭を下げるなど予想外だ
俺は驚き、キョドっているとムツキがまたクスリと笑う
『グスタフさん、ミルドレットさんのフルネームを聞いてみては?』
『フルネーム?』
『えぇ、将校という存在は傭兵に頭を下げるなど確かにしないですが聞けばわかりますよ』
名前に答えがあるのかと思い、彼女を見ると鋭い目つきは少し柔らかくなる
あれ?誰かに似ている…なんだろう。フラクタールにいる酒癖の悪いあの…
目が同じだ、まさか!?
『私の名はミルドレット・フラッター、ガンテイは兄だ』
きっと俺の羊の鉄仮面から目が飛び出すほど驚いているだろうな
似ているけども、あいつの妹とか勿体ねぇ!と
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます