第32話 同行
『はぁ…』
溜息が出るぞ
森の中、時間は夕方でありガンテイと仲良く歩いているのだ
『おいおい悲しいなぁグスタフっ!』
『何故俺なのだガンテイ、インクリットらでも対処できただろう』
ガンテイの頼みは単純だ
森の奥にウッドブラスターというランクCの魔物2体を見たという冒険者の報告があったから調査の為に付き合え、という感じだ
蜥蜴のような見た目だが体は木で出来ており、動く度に木が擦れる音を出す
全長8mだが、尾は3mと長い
背中に生えている小さな枝木に棘があり、背中を大きく振ると棘が飛んでくる
長い尾を使って攻撃してきたりと主にこの2パターンが攻撃手段
肉食ではないが、山頂付近にいる魔物が麓に降りてくるのが不吉なのだ
だからガンテイは調査隊ではなく、俺を連れてこうやって共に歩いてる
『明日チーズケーキ奢るからさ!な?』
『仕方がない。あとシューベルン男爵にも例の件を念押ししていてくれればな』
『わかってるぜ、がははは!』
(陽気な奴だな…)
日中に来たかったが、早めの方が良い
ガンテイはそう考えて明日を待たずに調査することにしたのだ
俺もその方がいいと、正直思う
『ギャギャ!』
『そういやよっ』
飛び出すゴブリンを片手斧で歩きながら斬り裂き、何事も無かったかのように話し始めるガンテイ
再確認するが、彼は元B級冒険者だったから腕っぷしはある
『王族のノア様、超可愛かったか?』
『あいつか?』
『もうあれは生きる宝石だよな。人間妖精って他国では言われるほどなんだぞ?』
『ふっ…人間妖精、か』
『明日は飯の時に話せるとこだけ聞かせてくれよ。俺ファンなんでなぁ!』
『は?』
『え?ノア様ファンクラブ知らないのか?』
『は?』
『え?』
互いに足が止まる
初めて聞いたが、ノアは公国内では超人気的時期公国王なのだ
見れば惚れない男はいないと言われ、女であっても顔を隠したくなるくらいの美しさと言われているのだ
だからファンクラブが非公式で存在しており、ガンテイはなんと…
『今なんて?』
『№4で幹事してるぞ』
お前ェ…大丈夫かギルドマスター
頭を抱えたくなるが、まぁ今後の為に話せる事は少しくらい教えておくか
そうこうしているうちに、日が沈むと現れ始める魔物の気配
カタカタと軽い音が鳴り始めるが、俺達は無視して真っすぐ森の奥に見える山の中腹へと向かう
予想としては変な魔物が巣くってしまい、魔物が降りて来たって感じだ
ウッドブラスターが降りて来たならば、それ以上の魔物が現れたという事も考えられるだろう
『なぁグスタフ、銃魔・アハトアハトってなんだ?』
『誰かから聞いたか』
『ここだけの話だ。俺は口が堅いぞ?』
『馬鹿いえ。人は直ぐに裏切るように出来てる』
そう小さく呟き、俺は彼の前を歩く
まぁしかし、シドラードにはそれでも慕ってくれた者は数名いた
彼らは元気なのだろうか、会いたくても会えない
迷惑をかけるためだ
人は直ぐに手の平を返すが
中にはそうしない人間もいる
気軽く教えるつもりはないが…
『お前の予想は何だと思う?』
『火属性の弾を放つ魔法だな。しかし銃魔という言葉は初めて聞いたぞ』
『人間の知らない魔法と言うのは沢山あるからな。魔力という言葉は奥が深い』
『グスタフ、人間か?』
『人間だ馬鹿』
すると何かに気配にガンテイは気づく
この距離で気づくとは結構鋭い勘を持っているのだな
彼の顔は少し真剣だ
『お客さんだな』
『お前がやれガンテイ』
『俺か?狙われた方にしないか?』
『ならお前が決定だな』
ガンテイは苦笑いを浮かべたが、魔物は待ってはくれない
唸り声を上げて現れたのは獅子猿という首のタテガミが獅子のように長く、大きな猿の魔物だ
猛獣の様に鋭い牙を持ち、獅子と見間違えそうな目つき
ランクはCだが、全長3メートルまでしか大きくなれない為にこのランクだ
『ウギギギギギィ』
(あれ?俺見てる!?)
ガンテイは俺を見てニヤニヤしている
何故だろう凄い悔しい気分だ
魔物は弱い物を先ず狙う、しかしこいつは猿だ
獅子猿といっても猿種、猛獣のような感覚をもっていない
だから適当に俺を標的にしたのだろう
『俺は下がるぞ?グスタフ』
『くっ…俺か』
厄日だな、日が暮れてアンデットではなくたかが猿とはな
獅子ではない、これは猿だ
俺は武器収納スキルでメェルベールを左手に出現させ、掴んだ
インクリット達だったならば、どう戦っていたか手に取るようにわかる
彼らは死ぬ気で挑めばきっと倒す事が出来るであろう魔物
Cランクにも色々な戦い方をする魔物がいるが、この猿は彼らにとって好敵手だ
(いつか見たいもんだ)
コンペールは無我夢中で倒した、というのは聞いた
ならば戦っている場面を見てみたいという興味がある
彼らは次世代の力の象徴となれるからだ
どう成長していくか、見る義務が俺にはある
『ウギャォォォォ!』
一直線に俺めがけて突っ込んでくる獅子猿
蛮勇を掲げて飛び込んでくる生物に訪れるのは確実なる死
そこにあるのは幸運ではなく、最悪だ
『斬鉄!』
振り上げたメェル・ベールを高速で振り下ろす
これは斬撃専用の技スキルであり、俺が魔物相手に好んで使うスキルだ
鉄をも斬り裂く強烈な攻撃は獅子猿を容易く両断し、その奥に見える風景すらも縦に斬り裂くほどの威力だ
ガンテイは驚愕を浮かべ、真っ二つにされた獅子猿よりも奥に視線を向けているようだ
『斬鉄か!どこで覚えた?』
『アンデット種の侍ゾンビを狩っているとごく稀に魔石に付属しているぞ』
『マジか!覚えておくぞ』
こうして山の麓まで辿り着くと、魔物がわんさか現れる
アンデット種もいるが、普通の魔物すらまだ起きているのだ
となると山の上には魔物の生息地を荒らした張本人がいるらしいな
『どう見てるグスタフ』
『まぁ同じだろうな、荒らした張本人がいるだろう』
『ヤバいのだったら面倒だな、予想はBで見てる』
『都合の良い予想は命取りだ。俺はAだな』
『そう来るか…』
『最悪を想定しておけガンテイ、登る前に休むか?』
『いらん。ギルマスなめんな?』
面白い男だ
先ほどみたいな男らしさ溢れる笑みは無い
真剣な表情を浮かべているという事は気持ちを切り替えたという事さ
もっと現役でいればAにだってなれたと豪語することがたまにあるが
俺は確かにその実力はあるだろうとは思う
(足を引っ張っているのは…)
歩きながら彼の武器を見る
リーフシルバーの片手斧の両手持ち、武器が悪いのだ
確かに彼の持つ武器は普通の冒険者ならば半永久的に使える強度を持つレア素材で出来た武器
しかしB以上のランクとなると、それ以上は欲しい
『雨か…』
ガンテイが囁く
小雨が降り始めたが、日が暮れると雲の流れがわかり難い
ライトという魔法で光の玉を出し、辺りを照らしながら進む
そこで俺はガンテイに話しかけたのだ
『その武器に思い入れはあるのか?』
『む?貯めて買ったくらいだから特にないか』
『では何故マグナ合金くらい買わなかった』
『酒代がな』
『くっはっはっは!』
面白可笑しくでついつい笑ってしまった
お前らしいよガンテイ、大事な武器を酒に使ったか
冒険者特有の馬鹿話を聞いて笑う俺に動揺するガンテイ
しかし戦力強化はしないとな
『武器・ヴィスマルク』
現れたのは銀色に輝く片手斧2本
猛牛がかけるような模様が刃に施されており、彼の持つ武器よりも僅かに大きいが重量は変わらない
そして切れ味や強度は強く、リーフシルバー以上だ
『これを使え。手に馴染んだならくれてやる』
『ま…まじか?!』
『マグナ合金の片手斧だ。お前なら直ぐ扱える筈だ』
『グスタフ財閥は底が知れんな…』
『返してもらうぞ?』
『わかったわかった悪かったよ』
俺の肩を叩いて誤魔化す姿は平常心を見せるためだ
飽くまで真剣だが、緊張はしてない
彼なりのメッセージだと捉えよう
ガンテイの武器を預かる為に収納スキルで彼が今まで使っていた片手斧2つをしまい、俺は小雨の中を共にあるく
彼は与えた武器を軽く振りながらウンウンと頷いているが、しっくりきている感じか
『てかよ、魔物多いな』
『周りに多く感じるが、襲ってきたら倒せば良い』
『そうするか、だが異常じゃないと思わないかグスタフ』
『ほう、何故だ』
『なんで中腹付近で僅かながらにキラキラ光る?』
魔物とは思えない、俺が気配を感じとれてないからだ
となると、面倒な事が予想される
きっとガンテイも同じことを思っている筈だ
会話無く、俺たちは数分歩く
彼はふと、もともと傭兵上がりだから心配するなと声をかけてきた
なるほど、と思いながら返事はせずに頷く
そして登ること数時間
とうとう山の中腹に辿り着いたのだ
ここまでは明かり無しで来たが、それは正解だった
『グスタフ…』
『わかってる』
どうみても人が作ったとしか思えない安易的な小さな拠点だ
杭のバリケードで囲み、2階部分を草でカモフラージュしているのだ
杭の扉は大きく、外に人はいない
(雨で助かったな)
気取られないために探知は使わない
だが予想では20人はいても可笑しくはない
これは一度戻って様子を見たい気もするが、そうも出来ない状況が起きた
茂みに隠れていると、冒険者の格好をした者が4人、バリケードの外回りに歩きながら現れたのだ
こちらには気づいていない
『本当にやるのかよ、関係ない街だぞ?』
『仕方ないだろ、モロトフの指示だ。従わないと俺たちが危ない』
『しっかしなんでエイトビーストが俺たちの上官なんだ。』
(なんだと?)
エイトビースト?モロトフとは誰だ?
わからない、何かが変わっている
ここから見える街はフラクタールであり、彼らはここで何かしら騒ぎを起こすつもりで来たことは明白だ
『グスタフ、かなりヤバいぞこれ』
『そのようだが、お前が思う以上にヤバいぞ?』
ガンテイは首を傾げた
まだ理解できない彼は理由を聞いてこようとするが、そんな事しなくてもその理由があちらから現れた
『誰だい?』
背後からの声にガンテイが驚き、身構えた
俺たちはバレていたのだ。
静かに近づいて来ているのは気付いていたけどガンテイは気付かなかったようだ
張り積めた空気もなかなかに懐かしい
振り向いた先にいるのは黄色い長髪の男
黒いメイルを来ており、右手には片手剣
寝不足かと勘違いしそうなくらい、目の下が黒いからイケメンが台無しだ
小雨がやけに鳴り響く
それはこの場が静かすぎるからだろう
ガンテイは瞬時に目の前にいる男がヤバい奴だと感じ、あまり見慣れない怖い顔と化す
(この者は…)
シドラードで見たことがない
新しきエイトビーストだとしても、ある程度の傭兵は知っているつもりだったが…
『フラクタールの冒険者かい?』
笑顔だが、笑顔ではない
明らかに作り笑顔なのが不気味だ
『そうだ。貴様らはここで何をしている?』
ガンテイが敵意を剥き出しに、男に問う
すると予想外にも、嫌な答えを口にしたのだ
『アクアリーヌの決戦の下準備だよ?』
素直過ぎて驚くガンテイ
しかしだからこそ、こいつは面倒だ
それは人目見た時から察していた
『僕は毒沼モロトフ、エイトビーストのモロトフさ』
両手を広げ、優雅に答える姿には余裕が感じられる
新参で間違いない、しかしどこから来た者なのがわからぬ
『ガンテイ』
『どうした?』
『わかってるとは思うが、こいつは俺達を帰す気はない。』
『わかってるぞそれくらい、どうする?』
『俺は中のネズミを駆除する。ここは任せるぞ』
一瞬驚くが、何かを悟ったガンテイは僅かに微笑んだ
その様子を見たモロトフは腹を抱えて笑う
馬鹿にしたような様子に俺は釈然としないが、ガンテイに中を任せる方が酷だ
俺は歩き、拠点に向かおうとすると殺意も感じさせずにモロトフの剣が俺を襲う
懐に飛び込む素早さは凄い、しかしだ
こっちも半端な奴といる覚えはない
振り下ろされたモロトフの剣は横から飛び出してきたガンテイの片手斧ヴィスマルクで防がれた
少し関心を顔に浮かべるモロトフだが、すぐにその顔は不気味な笑みと変貌を遂げた
『ただの冒険者でしょ!?僕が誰だかわかってないようだねぇ!』
(どこかで聞き覚えが…)
まぁ良い
任せたぞ、ガンテイ
俺はガンテイをここに置き、拠点の扉をメェル・ベールで破壊して中に入った
もしモロトフという男が予想していた者ならば…
『侵入者だ!』
『取り囲め!』
(いち、に、…)
徐々に目の前に群がる冒険者の格好をしたシドラード兵を呑気に数える
工作兵ということは、あまり腕は宜しくない
俺の武器を見て狼狽える者がいるくらいだしな
『悪いがここで死ね』
20人ほど集ると、俺は口を開いてから飛び込んだ
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