第31話 日常
王族とのコンタクトから数日
俺はワープでフラクタールに戻った
アミカの鍛冶屋の裏に着地だが、何故か小さな畑がある
木の板には『アンリタ畑』と書いている
(子供か?)
そのまま表に向かって正面ドアから入ると、売り子らの声と同時に客が振り向く
見慣れた奴等だ、俺も見ると驚きつつも群がってくる
『旦那!戻ったのか!』
『グスタフさんよぉ!冬用に良い軽装備ないかい!?』
『両手剣で標準的なオススメは…』
大変だが、嫌いじゃない
客をさばいてから売り子と軽く会話すると、アミカは昼飯を作っているそうだ
インクリットらは森さ、いつも通りだな
2階に上がると、居間でアミカがテーブルの上で何かをしていた
何だろうなと見てみると、ホットドックを挟んでいる最中だったよ
『グスタフさんおっかー!』
『テンション高いな、ただいまだ』
『食べる!?』
『そうしよう。何故テンション高い?』
『去年の売り上げ利益見直したら今年は倍になってた!』
『やったな』
『うん!』
まぁ余ったミスリル与えたりしたからだが、もともと革装備類のオーダーメイドが得意なのも広まったからだろうな
出来る事が伝われば、必要な人間は来る
『あとねあとね!鉱山の件すっごい!』
『あぁそういえば鉱山忘れてたな』
その場に座り、彼女からホットドックを貰う
俺は2つ食べていいらしく、残りは売り子に渡すからと持って立ち上がると、彼女は居間を去りながら言い放つ
『ミスリル沢山だしリーフシルバーも爆発で崩れて出来た切れ目から沢山出たんだよ!?』
『ほう……、ん?リーフシルバー』
マジか!
それは気付かなかったが、それがアミカの鍛冶屋に流れたら利益率300%も夢じゃない
きっとシューベルン男爵と即座に交渉して流してもらうよう手筈を整えなくては、と
(考えても、もうやってそうなテンションだな)
じゃないとあんなに喜ばない
今が一番楽しいと感じているのだろう
良い事だ
『…美味い』
良いソーセージだな
ネギは荒い切り方だが、悪くない
パンも柔らかくて食べやすいし顎が疲れない
(昼飯には丁度良い)
毎日食べても良い出来だ
俺は2つを直ぐに平らげ、居間に寝転がる
始めてきたころから今日まで考えると、ここも大きく変わった
悪い意味ではなく、良い意味でだぞ
色々な人間に認知され、人脈が増えるだけで人にはチャンスが訪れる
そして必要だと感じた人間は近づいてくる
アミカは相応しい技術があったという事になるか
『いい具合にこの店も良くなった。まぁ鍛冶の腕はまだまだだが』
『頑張るもーん!』
居間の外からアミカの声
元気よく聞こえた声には楽しさが交じっている
今が一番楽しいと思ってくれているならば、こちらも心地よい
この立ち位置でいたい気持ちだ
『グスタフさーん!そういえば帰ってきたらガンテイさんが顔出してって言ってたー!』
聞いただけで疲れるそうだ
やれやれ…、ならば少し顔を見せに行くか
数日振りにフラクタールの街を歩く
たかが数日、何も変わらぬ街の風景さ
以前にも増して、変な目で見る者は減って逆ににこやかに挨拶する者が増えている
たまにすれ違う冒険者からは鍛冶屋で買った武器の調子なども聞いたりとしているが
今日も変わらず、そんな会話をされる
『旦那!この革装備しっかりしていて肩まわりも違和感なくていいっすね!』
『リザードマンの革は軽くそしてある程度の耐久性能は保証されている、まぁ命を守る防具だからこそメンテは怠るなよ?』
『うっす!』
『グスタフさん。アミカちゃんちに今軽めの双剣在庫ありますか?』
『2つある、今20%引きしているはずだから行ってみろ?今週までの双剣セールだ』
『マジッすか。了解っす』
いつも通りだ
すれ違うとこんな会話がよくある
予想していた生活と全然違うんだけど、これで俺は満足だ
そして冒険者ギルドに辿り着くと、扉を開けて中に入った
かなり静かだが、まだ多くの冒険者は森から帰ってきてないからだ
しかし、ロビー中央に多く設置されている丸テーブル席には点々と今日は休みだろうと思われる冒険者が視線に映る
誰もが声を出さず、俺を見ると軽く手を上げて挨拶
それに頷いて答えると、そのまま赤い絨毯を進んでカウンターに向かった
案外、冒険者ギルドの匂いは好きだ。
男臭くはない、花の匂いだ
四隅には植木鉢があり、花が咲いている
あの花が良い匂いを出しているのだが、名前は何だったろうか
『どうかなされましたかグスタフさん?』
受付嬢が笑顔で接待してくる
可愛らしい若い女であり、黒髪が非常に似合う
頬杖をつき、カウンター奥を少し除いただけで彼女は悟ったようだ
『ガンテイさんは今応接室ですが、どうします?』
『いきなり出向いた身だ。ゆっくり待たせてもらう』
『かっしこー!』
(テンション高いな…)
一番近くの席に座り、小さな溜息をつく
ここでは平凡が得られている、誰にでも普通に得られる日常だ
しかし俺には貴重だ
毎日面倒事が舞い込んできた日常が今は無い
王族や貴族など、毎日金や権力そして今後の為に頭を回転させる
そんなことしなくて済む生活が本当の幸せなんじゃないかと、俺は憧れていた
『事実だったか』
良きかな
(ある程度の面倒は許すか)
軽く視線を向ける方向から近寄ってくる見慣れぬ冒険者2名
俺の視線を感じると少し足を止めて生唾を飲むような素振りだ
ここの冒険者ではないのはわかる
近くの街の冒険者か?俺に用事…だろうが
20代は超えているだろう男女だ
2人組でチームとなると、大変の筈だ
『貴方がグスタフ・ジャガーノートさんですね?』
男が口を開く
彼の持つ武器は立派な片手剣、リーフシルバー特有の薄緑色が見てわかる
女に武器を持っている様子はない、魔法使いか?
それにしては魔力の起伏があまり感じられない…
『なんだ?』
俺は静かに立ち上がった
緊張した面持ちが2人の顔に浮かぶ
予想はしているが、多分あれだろう
『アクアリーヌから来た冒険者ですが、ここに強くなる為の知恵があると聞いてきました』
『ならばガンテイを待つ間に終わらせてやろう。2人でかかってこい』
『っ!?』
今すぐと言われたらそりゃ驚くさ
男の名はホークアイ、女はコハル
普段は5人編成でのチームらしいが、個人の能力向上目的でチームの活動は来週まで休みにしたらしい
ギルド施設内にある小さな稽古場、野次馬はいるが俺は気にしない
正面には先ほどの冒険者が二人いるが、女はようやく何者かわかったよ
(双剣か…)
腰に武器を装着していたか、なるほど
『貴様らのランクは?』
『アクアリーヌではBランク冒険者をしてます。』
『そこの女もか』
『はい』
『なら魔物だと思って好きに攻めてこい。一撃与えたら褒美をやろう』
多少驚きながらも頷く
俺は武器収納スキルにて刃が黒い剣を左手に出現させると、肩に担ぐ
鉱山でも使ったファントムソードだ。超高い剣だぞ?
『お前にはまだまだ伸び代がある』
『俺ですか…』
『使っている属性魔法は?』
『攻撃主体なので火です』
『ダメだ』
『!?』
身体能力強化魔法パワーアップは火属性だから仕方がない
だからといって火で魔法を埋める必要はない
こいつは火ではないからだ
『何故来た?本心を言え』
『半年、強くなってる気がしません。』
『成長が止まって迷子か、間違った魔法を選んだからだな』
『間違った魔法…』
『急がないと俺の用事がくるぞ?死ぬ気で来い』
『っ!』
急かすと、彼は一瞬で真剣な表情を浮かべて駆け出した
そこである程度の査定は出来た
(脚力か…)
一直線に来ない
ジグザグに間合いを素早く詰めてきたのだ
彼がここまで強くなれたのは身体能力の鷹さあってだな…
魔力袋に感謝しろ
『ぬっ?』
彼が目の前に迫る寸前、奴は僅かに頭を低くした
すると彼の頭部ギリギリを通って投擲用の小さなナイフが3本も飛んできたのだ
声かけもなく、雰囲気で合わせれたのは場数があるからだ
『見事』
俺はホークアイに突っ込みながらファントムソードで投擲されたナイフを斬り砕く
しかし男が驚く様子はない、ここまでは予想していたか
(本命はどこだぁ?)
楽しいな
何を見せてくれるのだろうかと、自然とウキウキしてしまうよ
次に起きたのは単純な剣での連続攻撃
俺が一瞬で終わらせない事を見越して技術を見せるためにこれを選んだか
ここまでは良し、一つ一つの彼が繰り出す素早い剣擊をファントムソードで受け止め、時には弾いてからカウンターを狙う
『はぁ!』
(ほう…)
横に弾いても無駄だ、彼はその勢いを利用して体を回転させると、更に重い一撃を繰り出す。
カウンターも早くて良い
遅いと攻撃前にこっちが攻撃できるからだ
なら真上はどうだ?
『これはどうだ?』
振り下ろされた剣を打ち返した
ホークアイは歯を食いしばりながらも後方に飛び退く
良い判断だ。
しかも追撃しようと俺が姿勢を低くした途端に彼は懐に忍び込ませていた投擲用のナイフを1本投げてきたよ
しかも面白い加工を施していた
ファントムソードで触れた瞬間にバンッと音が鳴り響き、軽い煙で彼が見えなくなる
オリジナルだと思われるが、これでは迂闊に前には出れない
攻撃する小道具じゃない
俺が壊すとわかっていて小細工を使ったのだ
(面白いな…知恵もあり、力も技術もBとして文句はないな)
魅せるだけの無駄な動きもなく、疲労をまだ見せない体力
ランクに相応しいと思う
さて、予想以上に煙が漂っている
そこまで濃くはないが、厄介だ
『ぬ?』
背後から僅かに音
振り向きながら武器を前にし、突如現れた双剣女の攻撃を受け止めた
非常に驚く顔が心地よい
かなり気配を消していたようだが、最後の最後に詰めが甘かったな
(だが…)
本命はこいつじゃない、背後から飛び込む男だ
炎を纏う武器を振り上げ、攻撃体制は万全
これが本命と言うことだな
先程よりも武器の握りが強い、全てを乗せる気か
『残念だな!』
双剣を弾き、女は吹き飛ぶ
そのまま俺は体を半回転させると、ホークアイの一撃をファントムソードで受け止めた
甲高い金属音、野次馬が耳を抑える
俺の腕にも彼の力である重みが感じられた
そして少し熱い、火じゃなく炎だから熱い
『くっ!』
『全身全霊の一撃だったようだな。よくここまでパフォーマンスを下げずに交戦したもんだな』
『あんた……化け物かよ』
ホークアイは離れると、苦笑いを顔に浮かべてそう呟きながらその場に尻餅をついた
コハルも笑うしかないようで、戦意はもうない
『噂以上過ぎよホークアイ、私達二人相手にこんな…これじゃ…』
『子供の相手だ…。何者かなんて俺は興味無い、ただまだ先を目指せるか教えてほしい』
純粋、かつ素直
こういう男は嫌いではない
彼だけの目標があるのだろう、今回は負けておこう
『魔力袋の話は知ってるか?』
『あぁ大体は』
『お前は氷属性だ。』
凄い驚いていた
その後、ロビーに戻ると彼らに指南するために空いている席に座る
疲労させやすくするパフォーマンスダウン、そして氷盾の2つを覚えてから攻撃魔法を1つ目指せといった話をしていると、ホークアイはかなり真剣だった
適当だと失礼だとわかり、俺は細かく話そうと決める
『それらを覚えれたら良いものをやろうホークアイ』
『良い物?』
『1年以内に先ほど言った魔法を覚えてまた訪れろ、今度はチームでな』
『良い物…』
『気にしすぎよ馬鹿』
女に叩かれている
まぁ良い関係、なのだろうな
俺の話はどうやらアクアリーヌの冒険者ギルドでも知っている者が多いらしく
閻魔蠍を一撃で倒したとか、そんな内容があっちにも流れたらしい
まぁ冒険者は伝書鳩みたいな役割もあるから、隣街ぐらいにはそういった話が届いていても可笑しくはない
コハルという女は何故か疑わしき者を見る目で俺を見ているのが謎だ
どこかで会った事が?いやない
『戦争傭兵と伺っておりますが』
『そうだ、それがどうした』
『ランクはどのくらいですか?』
俺は言うつもりはない
沈黙という答えを出すだけで、彼女ならばわかる
男はわかってないようだが、話さないという事は口にしたくないという事さ
『なるほど、お強いわけですね…対人戦に優れた人達と言うのは知ってますが、閻魔蠍相手に誰も見た事もない魔法を使ったとか』
『言うつもりはない、ひけらかす為に覚えたつもりはないのでな』
『わかりました。あと1つ聞きたい事が』
なんだろうと思い、首を傾げてみると
彼女は予想がいな事を口にしたのだ
『この街でお勧めのご飯のお店はどこですか?』
『…好みはなんだ?』
『米です』
『ならば…』
ちゃんと紹介しておいた。
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