第28話 公爵王

(落ち着かんな)


ファーラット公国、そして王都にある公爵城という馬鹿デカイ屋敷の中

応接室にて俺は椅子に座り、腕を組んでノア達を待つ

四方を騎士で埋め尽くされており、全ての視線は俺だ

メイドも僅かにいるのだが、無表情で怖い


『四面楚歌のような気分だな』


ノアの持つ聖騎士とは違う

ガーランド公爵王の持つ騎士は昔から黒騎士と呼ばれており、鎧が黒光りしている

鉄仮面で表情は見えないが、冷たい目を向けられているのは確かだ


(会いたくないのだがな)


彼とは会った事があるからだ

数年前の話だが、誤魔化せるだろうか


奥のドアからやってきたのはノアだ

彼女は眠そうな顔をしながらも向こう側の椅子に座る

彼女の引き連れた10名の聖騎士の中にジキットもいるのがわかる


さて、会食となっているが…

話の後になるのだろうな


『父から大事な話をされると思います』

『だろうな。答えを言っても?』

『予想している通りだと思うので、今はそのままで』


まぁ検討はつく

その事はきっと戦争の決行だ

シドラード王国はやるときはやるからな


(あちらは民兵が多いが…)


いや、それよりもだ…

エイトビーストが関与している点が気になる

いつも俺がいる時に彼らも動く奴らさ

もしかしたらだが、目的は捜索の為の祭りとして戦争を起こす気なのだろうと俺は読んでいる


『む?』


ここで奥のドアが開くと、あれがきた

黄色い長髪の男、こいつも黒光りの鎧を来ているが、彼の装備だけ金のラインがある


ガーランド公爵王

まだ若く見えるが、歳はどんくらいか俺も知らん

彼が現れた途端、聖騎士や黒騎士が姿勢を正した

公国のトップの登場だな


『待たせたな豪腕魔法使い』


ガーランド・アデル・イン・ファーラット

それが奴の名であり、こう見えて剣豪だ

貴族にして剣術を得意とし、実力も公国内でもトップクラスなのが驚きだな


俺は小さく頷き、彼が座るのを見届ける

すると先程より周りの黒騎士から向けられた視線が鋭くなった


(無礼…か)


俺の反応が悪かったのだろうが、王族だからと特別に接待する気はない

人は人だ、俺は権利が嫌いなのだ


彼の隣に座るノアがそわそわしているのを見ていた方が面白いような気がしなくもない

静寂が数秒、何故か敵地にいるような感覚を覚えるが…


『自己紹介は省いてもよさそうな様子だな魔法使い』

『良い。先ずは聞きたい事を聞こう』

『ならばグスタフ・ジャガーノートよ。貴公が得意とする戦い方はなんだ?』


足を組み、彼が聞いてくる

本当はハルバート系の武器と言いたいが、バレたくはない


『魔法だ』

『ほう…どの程度使える?』

『ノアから聞いているだろう?』


焦るノアを見ると面白い

以前、他に話したら容赦しないって感じに俺の存在を身内に話すなと言っていたが、どうやら守っていたような答えをガーランドが口にしたよ


『一切話してくれなかったのでな』

『なるほど…』


教えるべきか、悩む

ガーランドも笑顔を向けているが、瞳の奥から鋭い何かを感じる

神位魔法も使えますなんて言えない、だからといって超位魔法も使えないとも言えない


超位は使えないと言えば、ノアが今後立場が悪くなる


(まぁ仕方ないか)


『超位魔法は使える』


ガーランドの目が僅かに開く

冷静を保つ黒騎士さえも驚き、動いた時に鎧が擦れる金属音が耳に入る


嘘はついてない

神位魔法という存在を知る人間はほぼいない

聞かれない限り、これで良い


『超位魔法か…そんな禁呪に近い魔法を持っていればおのずと貴公の名は各国に轟いた筈だが、何故ファーラット公国に現れた?』

『頼られ過ぎるのが好きじゃない。だから武器を使ってシドラード王国で傭兵をしていた』

『特別を嫌う…か、自身の力を隠して生きていたという事か』

『否定はしない』


何やらいい感じに勘違いしてくれそうだが・・・

こいつは勘が鋭い、どこかにトラップがあるかもしれないしなぁ


ファーラット公国は国家存亡の危機の可能性が訪れない限り、貴族は動かない

理由としては各貴族は当たり前に個人の産業を持っており、戦争となると利益になる者が大半だが、国の法で自ら戦争を起こす事が出来ないのだ


それは昔、戦争貴族という戦争を起こして金を増やすような時代の再来を防ぐためだ

ファーラット公国はそんな歴史があるのだ

まぁシドラード王国にもあるんだが、ここの比ではない


それを終わらせたのが、今目の前にいるガーランドの父であるランヴィロット公爵王だ

だからこそ今、ファーラット公国は案外平和なのだ


『そういえば食事はこちらで決めているが、食べれぬ物は?』

『無い』


(ミカンが無理だと言えばバレそう…)


まぁしかし、普通に話をしていればいいかもしれん

でもこいつは怖い、それは飯の時にわかる

きっと距離を詰めてくる


『お父様…あの件を』


ノアが口にするとガーランドは少し険しい顔をこちらに向ける

相当あちら側と交渉をしたのだろう、それは想像できる

どういう内容なのかが問題なのだが、簡単には聞けまい


『先ず貴公は公国に利益をもたらす存在か、それとも別の種か』


貴族だもんな、当然の問いだ

だが少し言い方が可笑しい

国の為に動けるのか?というニュアンスが無い

ノアからあまり話を聞いていないのは事実なのかは定かじゃないからこそ答えは出ない


(…面倒だな)


黒騎士の視線も痛い

間違った答えを口にした途端、敵意を向けられそうだ


『気難しい問いには答えられぬ。俺は生活の邪魔になる問題を消すだけだ』

『ならばアクアリーヌの件は双方ともに面倒であると思わぬか?フラクタールに住む元戦争傭兵とだけは聞いているが、戦争傭兵ならばアクアリーヌがあちらの手に奪われればフラクタールがどうなるか予測は出来る筈』

『確かに否定は出来ん。だが指図されて動くのが嫌いなのでな』

『・・・貴公はエイトビーストの者か』


これには黒騎士や聖騎士が驚く

ノアはあまり変化がない、彼女はある程度は予想していたのだろうな

シドラード王国の戦争傭兵には、指図されて動かない者らがいる

それがエイトビーストという8人の傭兵、ガーランドは俺をそう思っているのだ


ざわつく騎士達だが、僅かに警戒心を高めた気がする

これも、当然だな

現在エイトビーストは敵だからだ、だからこそガーランドは更に聞いてきたのだ


『シドラード王国のエイトビーストで消えた者がいる』

『ほう?』

『ドウケというハルバート使いだ』


それは俺です。

いや、どういえば良いのだろうか

死神ギュスターヴが俺、んでガーランドが言っているドウケは…・


(神位魔法で作った偽物の生命体だからな)


人間じゃない、俺が指示して動かしたり自ら動かしたりとしてる個体だ

だから彼は全身を包帯で巻いており、軽装備を纏いそして顔は鉄仮面をしている

武器が同じ、顔を隠しているのも同じという事でガーランドがそっちに意識を向けているって感じだ

それなら好都合だ


悪いが死神は捨てたいんだ。許せノア、ガーランド


『…答えればそちらも相応の情報を教えるのか?』

『アクアリーヌの件で動く気ならばな』

『最低限は確実に動くが、勝手に動くから指図は受けぬぞ?』

『そういう存在ならばそっちの方が貴公は存分に武を奮えるだろう、許す』


こいつは嘘をつかない

ならば良し。

ノアは固唾を飲んで見守っているようだが、そこまで力んでも疲れるぞ


(身分を固めるか)


『俺はこれしか言わんぞ?奥まった質問は無しだ』

『楽しみだ』

『ドウケの名前はドウケ・グリムノート。それは俺だ』


ガーランドが僅かに目を見開いた、しかし驚愕と言う程でもない

ノアなんて目が飛び出そうなくらい凄い顔だ

ギュスターヴと血の繋がりがある者だと勘違いしてくれればいいのだが

でも嘘はついてない、ドウケの名前のあとはそう命名したの俺だし


『面白い。実に面白いが…権力の下にいるべき者ではないな…』


笑みを浮かべ、ガーランドがそう呟いた

ギュスターヴの名、俺は本当に捨てたいんだ

だから違う人間として、グスタフとして俺は生きたい


もう裏切られたくないからな

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る