第26話 大都市

(だるい…)


ラフタ鉱山攻略から数日後、俺はとある用事で公国都市アレクサンダーに来ている

街の中は人で溢れ、他の街とは比べ物にならないほど栄えているのだ


フラクタールから頑張っても2週間かかる距離だが、俺には関係ない

ワープしてきたからな


とある建物の中、応接室

場所は極秘だから言わないでおこう

壁には聖騎士が仁王立ちしており、こちらを監視中さ


俺は椅子に腰掛け、向こうのドアから現れる女を待つ

すると数分後、奴は来た


『久しぶりですねグスタフ』


彼女はノアという次期公国王だ

何かと頼まれるが、今回もそんな感じだろう

ノアはテーブルを挟んで向こう側の椅子に座ると、いきなり欠伸だ


『本当に王族か?』

『失礼ね…疲れてるのよ』

『まぁ以前ジキットから話は言っただろう?アクアリーヌの件にエイトビーストが関与している』

『にわかに信じられません。エイトビーストの名と彼らの性格は私も耳に入っているけど』


エイトビーストはシドラード王国最強と言われる8人の傭兵

彼らは王族の指示など聞かない主義なのだ

戦いがあれば無意識に足が進むが、言われて行くような奴らじゃない


『返事の時は過ぎたが?どうした』

『拒否したに決まってます』

『だろうな』


アクアリーヌの返還要求

もし断った場合、武力行使の可能性をシドラード側は遠回しに言ってきたらしい

しかも、人間兵器を使って…だ


それは他国の解釈ではエイトビーストではない

死神ギュスターヴという意味が込められている

出せる筈がない、ハッタリだ


公国は武力行使に対応するため、アクアリーヌ近辺に兵を駐屯させて様子を伺う

いきなり戦争など起きないが、あちらから攻める意向を見せた時に直ぐにでも戦支度しやすいようにするためだ


戦争となると無駄な犠牲を増やさぬようにアクアリーヌ大平原という広大な平原を指定する予定だとノアは話す


それならシドラード側も断れない

強引な武力行使で街が損傷したらその後の改修作業に追われるのはあっちだ

負けが確定するとこちらで街を空に出来るからな


『お前の予想はどうだ?』

『必ず武力行使になるでしょう』


彼女は真剣に答える

戦争になれば、こちらは不利だ

エイトビーストが関与している事を説明すると、かなり驚いていた

あり得ない話だからだ  


『彼らは命令して動く傭兵の筈が…』

『それがわからぬ、エルマー魔導公爵なのは間違いない』


あいつが一番戦争ではヤバイ

人を殺すことに躊躇いもなく、向かってくる者は女や子供でも容赦しないからな


(なんどかぶつかったな…)


懐かしい

思えば普段での付き合いでは一番接しやすかったかもな


『ノア、あちら側の代表は誰だ?先代国王は亡き者であり、次期国王が動いた筈』

『貴方の予想通りケヴィン王子でしたが、もう一人いたのです』


俺は驚いたよ

あの心優しい女性のシャルロット王女もアクアリーヌ返還要求に関与している事が判明していたのだ


これこそあり得ない

だがこの情報に今回の予想外過ぎるアクアリーヌ返還要求の理由があると俺は見てる


『シャルロットか…』

『悲しそうですね』

『そう見えるか?仮面でも』 

『なんとなく』


ノアは溜め息を漏らし、椅子に深く腰掛けた

それほど重たい問題なのだ


結果によってはファーラット公国の今後、そしてシドラード王国の今後が決まるからな

慎重に、そして時間稼ぎをしなければならない

その時間稼ぎも終わり、あとはあちら側の返答待ち


『ゾディアックの件もあって私は頭が狂いそうですよ。お父様は時を待てば好機があるとか暢気な事を言いますし』

『そこは考えあってだと思え。まぁあれだ…こちら側の戦争傭兵も大半動かすつもりだろう?』

『シドラード王国よりも数は劣りますが、名のある者には確実に』


ファーラット公国に傭兵でのSは3人

この中で戦争傭兵として2人

彼女は午後には紹介したいと言ってきたが、俺は拒否した


『わからない人』


頬を膨らまして拗ねてる

あまり今は接触したくないんだよ…


するとノアは少し申し訳なさそうな表情を見せる

何か聞かれそうだなと考えていると、その通りになる


『貴方はどうするおつもりですか?』

『シドラードの狙いがわからない以上、傍観だ』

『アクアリーヌの件がフラクタールと大いに関連しているならば貴方は動かざるを得ない筈です。何故立ち上がってくれないのですか』

『こちらの勝手だ』


最悪の場合、フラクタールは孤立無縁

街はアクアリーヌにある卸売市場から恩恵を受けているため、止められると終わる

動くしか、俺にはないが……


『まだ…知るべき事がある』


シャルロットが何故関与しているか、だ

その欲が表に出たのか、俺はポツリとその事を口にするとノアは口を開く


『お父様ならわかるかもしれません。』


ガーランド公爵王

あいつはシャーロット王女と会食を何度もしたことがある

王族は好かないが、ここは我慢すべきだ


『……どうしますか』


ガーランド公爵王には気取られる可能性は高い

あいつはシドラード王国の中をシャルロットから聞いている筈なのだ

だから俺の行動次第では面倒になるなら直接聞くのは危ないだろう


『お前が聞け』

『直接聞いてください』

『……』

『そんな顔しても駄目です』


顔は見えないだろう?

機嫌は悪いが、そこまでわかるもんなのか?


『疲れる女だ…。ならば』


聞くことにしよう


俺は観念したことを告げると、彼女は明日ならば父の予定が空いていると言ったのだ

釈然としない、読まれてる?


(まぁ良いか)


溜め息を漏らし、椅子の背もたれに深くもたれ掛かる

良い椅子だ、このまま寝そうかもな


『話を戻しますが、他にエイトビーストが関与している可能性は?』

『ある』


俺の言葉には彼女だけじゃなく、護衛の聖騎士らの雰囲気も変わる

それほどまでに警戒する存在なのだ


『だがあちらの意図がわからない以上、予想は過ちを犯す』

『こちらで探ります』

『その結果によっては動かざるを得ぬ』


最悪な場合、だがな


こうして俺は王族から解放されると、大都会を練り歩く

人混みが凄くて歩き難いが、俺を見て驚く者はいない

見慣れている姿、なのだろう


夏の暑さがなくなりかけ、今日は風が心地よい

夕方にはフラクタールにワープしようと決めると、俺は面倒を起こす事を避けるために森に向かう


一時間も歩いたが、遠いな・・・

かなり生い茂る森であり、日が差し込まない場所が多い

確かファーラット公国では二番目に大きな大森林の筈だ。


だからこそフラクタールと違って奥にいけば行くほど強い魔物がいる

湿った地面を歩き、辺りを見回す

今回はメェル・ベールを肩に担いではいるものの、魔物に出会わない


(誰かが通ったあとか)


よくある事だ

先にここを誰かが通り、魔物がいない

道という道がないのに偶然起きる事が稀にあるのだ


『気配もない』


いや、人間の気配はあるか

100メートル先、人数は1人と珍しい

冒険者はチームを組むが、この森で一匹狼となると腕に自信があるか蛮勇かの二択だ


『上か…』


何かが空を飛んでいる

それは真上まで移動中すると、旋回してから僅かな木々の間を通って急降下していたのだ


『ッカァァァァァ!』


甲高い鳴き声が特長、そして大きい

久しいなと感じながらも肩に担いでいたメェル・ベールをおろした


『ベラミホークか』


鳥種、猛禽類のベラミホーク

羽を広げると全長10メートルのデカ鳥さ

急降下時、羽を閉じて落ちてくる速度は凄まじい


全身が青い羽毛だが、稲妻が走るような赤い模様が綺麗

ランクCの魔物にまず遭遇とはな


『力比べだ』


俺を両足の鉤爪で掴もうと体勢を瞬時に変えるベラミホーク

メェル・ベールでそれを受け止めると、その急降下でのパワーが俺の足に伝わり、そして僅かに地面が揺れた


(ふむ…)


これがベラミホークの真骨頂ともいえる攻撃方法だ

急降下のパワーに体重を乗せた一撃は人間で受け止めるのは正直困難だ


だが大きく方向を変えれないから来るとわかっていれば避けれるだろう

受ける冒険者はいない、ということさ


『キエッ!?』

『驚くな』

 

初めての経験に戸惑うベラミホーク

メェル・ベールを振って弾き、バランスを崩してから距離を取られる前に俺は体を回転させ、そして斬り裂いた


体は柔らかく、一撃で倒れるほどにこいつは脆い

だが急降下の一撃は凄い楽しい


『中々に良かったな』


にしてもだ…

ベラミホークの体から顔を出す魔石を拾いつつも気になった事がある

気付いていた冒険者の気配が動かない

しかも見られている感覚を感じた


(千里眼スキルか?)


たまに魔物はごく稀だがスキルを魔石に宿して落とす

それを吸収すると自らの力に出来るのだ

千里眼となるとかなり貴重だが、その線は高い


(……)


見知らぬ不利をするべきか

悩みながらも俺は気配のする方向に視線を向けた

スキル・千里眼は聖属性魔法

まぁこちらも使えるのだ


『千里眼』


呟き、そしてうっすらとした金色の瞳となる

体重者を直ぐに見つけたが、俺と同じくらいの歳のようにも思える


赤髪で少し長髪、肩まで髪がある男

武器は戟という斬撃も可能な武器だ

そこそこ立派な武器のようだが…


(たわけが)


俺はメェル・ベールを肩に担ぐと、右手の人差し指で彼を指差す 

かなり驚いていたが、続きがある

次に俺がしたのは自分の後ろを軽く指差したのだ


奴は千里眼に意識を向けすぎて背後から迫る魔物に気付いてなかった


『っ!?』


気付いたようだな…

飛び掛かった魔物はグランドパンサー

犬種の魔物であり、体毛のない灰色の体をした大型犬だ


振り向き様の一撃で倒す様子を見ると、手練れだ

しかし興味はない俺は今のうちにワープをしてその場から移動したのだ


着地点は千里眼の範囲外

あの様子だとそこまで遠くを見れない筈

500メートルほど離れた地点に俺はいる


『ふう…』


ここは薄暗く、日差しはあまりない

しかも木々の根本にはキノコばかり生えていて見るからに湿気が多そうだ

足場が悪い、休むにはよろしくない


『毒キノコか』


しかもキノコは毒キノコばかり

衝撃を与えるとガスを放つ厄介なゲキノコばかりある

これは赤色に黒い斑点が特徴的でわかりやすい


『豊富だな』


様々な環境が、という意味だ

周りから聞こえる舌打ちみたいな音は鳥だ

打鳥という変わった鳴き声をする白い鳥の事さ


確か求愛行動の1つだった気がするが、魔物じゃないから詳しくない

魔力を体に宿す生物を魔物

それに該当しない生き物を動物と呼ぶ

一押しは生きていく中で覚えるべき知識だ


『ニー!』


これも変わった鳴き声

幼い子のような声に騙されないことだ

パペット戦士というランクDのパペット種の魔物である


人形のような見た目、口は糸の並み縫い

目はボタンのようになっていて騎士の格好をしている

鎧は本物かと思いきや、布だ

盾と剣を所持しており、防御面は脆いがスピードはそこそこ


(4体とは珍しい)


基本的には2体で出現するが、この数だと期待できそうな魔物がいそうだ

彼らを使役するパペット種の魔物であるパペット隊長やパペット将軍といった珍しい魔物が近くにいる可能性がある


『久しく見てないがな』


彼らの種族神から貰った魔法があるが、1度も使った事がないな

超鋳魔法といっても使うタイミングが無さすぎるからなぁ


『生きてれば使うか…』


そのうち、だな


すると人間の気配を感じ、俺は直ぐに倒れている大木の影に隠れた

何やら覚えがある気配も混ざってはいるのだけども、近くを横切る際の会話でそれがわかった


『さっきのは夢じゃないとは思うが…』

『あり得ないでしょ…千里眼を感知して千里眼で返すなんて』


男の声と女の声

残る1人も男のようだな

どうやら冒険者チームだったようであり、一匹狼じゃなかったらしい


『気付いたら消えてたって言うか幻覚よ幻覚』

『そうだよ、疲れてるよスタンフィー』

『寝不足なのか俺は』


(女、寝不足だと言っておけ)


それにしても、千里眼持ちか

彼らは先ほど見かけたパペットナイトと遭遇し、戦う様子を俺は遠くで眺めた


ランクD相手に危なげなく一瞬で倒す様子を見てわかるように、腕に覚えがあるチームだ

特に女が強そうだな…


『オモチャに遅れなんてとらないわよ』


そんな言葉を口にし、その手に握る立派な片手剣の刀身が僅かに輝く

あれは魔法剣という貴重な武器だ


アクアライトで作られた武器

剣の先から発動すると魔法の威力が上がり、力を発揮する

彼女の体から漏れる青い色の魔力

かなり良い魔力袋を持っているのは彼女の姿を見ればわかる


『青く輝く魔力袋、天賦の才か…』


只者じゃない


もう少し観察してみようと思った俺はとある魔法を使う為にメェル・ベールを武器収納スキルで消した


超位魔法・トイマジック

それは自らの肉体をパペット種に変える事が出来るのである

何の魔物になるかは使用者の魔力次第だが、俺が使うととんでもなかった

カラフルで巨大な魔法陣が足元に現れると、俺の姿を徐々に変えていく


『ニー…と言えば良いのだろうか』


身長2m、パペット種のように綿を詰めた人形のような見た目たが、普通とは違う

顔が目の代わりのボタンが頭部に6つもあり、鋭い釘の牙を持つ

頭髪は腰まで伸びており、指の爪は獣のように長い

腰からボロボロの赤マント、まるで朽ちた魔人の人形にような見た目になっている


パペット・アクマというランクAプラスのパペット種の魔物だ

まぁ不慣れな見た目だが、一先ずはステルススキルを使って気配を消す

これで完璧だと思ったんだけど、最悪な事に駄目だったんだ


『っ!!』


あの距離から彼女はこちらに振り向いたのだ

なにやら驚いた顔を浮かべて殺気を放ってきているのだが、良く気づいたな…

しかも振り向き様にこちらに剣先を向けると、魔方陣がこちらを向く

そして一瞬で発動する魔法


普通、あそこまで直ぐに魔法を発動することは非常に困難だ

険しい顔を浮かべた彼女が唱えた魔法は水属性魔法のアクアショット


どうやら魔物と間違われているらしい、いや今は魔物か








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