第22話 鉱山

僕は今、フラクタールで閉鎖された鉱山に向けて歩いている

フラクタール西にある小さな山々が連なる地帯だけど遠い

泊まり掛けと言うことさ、今日は移動日


アンリタとクズリ、そして師匠の四人

フラクタールを統治してるシューベルン男爵の依頼でとんでもない事を言われたんだ

あの魔素で充満した鉱山の解放さ


永年誰も出来なかった事をするのは大変だ

だけども今回は師匠がいる、問題無い


馬車に揺られ、僕は眠気が襲いかかる

雨の音を聞くと眠くなる体質なんだよね

だから窓から街を眺めると、いつもより人は見かけない


『本当に私らだけ?魔素どうすんの?』


もっともな質問をアンリタが口にする

魔物の排泄物から発せられる有害物質であり、空気が最大レベルまで汚染されてるんだよ


数秒呼吸するだけで肺はやられ、呼吸困難で死ぬほどの濃度である


(そこは師匠がなんとかするだろうな)


『確かにどうするんだいグスタフさん』

『そっちの心配より、お前らはその後を考えてないのか?』


最大の問題点が2つさ

一つは魔素をどうするか、最後に鉱山内の魔物の討伐だ

かなりの数がおり、遥か昔に開けちゃった魔物の通る地下洞窟の穴を塞ぐ為に爆薬を設置しなくてはならない


師匠は『そっちの方が鬼門だぞ』と告げた


『色々と稽古してきたし、必要な魔法も何個かあるから安全とは言えねぇな』

『そうだね。一応は使い慣れにある程度の時間は要したけど…』

『馬鹿みたいな数の魔物はきっといるわ。なるべく節約ね』

『そうだね』


師匠は『後方は気にしなくて良い』と言うだけでかなり肩の荷が降りる

僕らは前だけ見ればいいんだ


『報酬は一人頭金貨50枚、その後に鉱山の価値がもっとあるとわかった場合には追加報酬ありとシューベルンが言っていたぞ?』

『私超頑張ろっ』


師匠の言葉にやる気を出すアンリタ

たまに金に弱い部分を見せるが、どうやら覚えたい魔法がいくつかあるんだとか


『もうすぐ西地区の端か』


あまり来ない街並みが窓から見える

到着は昼過ぎ、明日の朝一番に鉱山入り

今日はゆっくり休み、早めに寝る!


『節約かぁ、使いたい魔法あんだけどな』

『縛りじゃないわよ?息切れ起こしたら囲まれて終わりよ』

『だろうな、インクリットは?』

『一先ずはあまり僕らの存在を魔物にバレないようにしていけば節約も視野に入ると思う、できるだけ避けれる戦闘は避けよう』


満場一致だ

師匠は何も言わないのが不安だが


こうして鉱山の近くの地区へと辿り着く

昼過ぎであり、ここから古びた鉱山が見える

入口まで視察という意味で歩いて向かったのだが、近くには警備兵が警備していた

僕らに気づくと、近づいて注意を促すが師匠が事情を説明しながらシューベルン男爵から預かっていた入場許可証を見せた


これには警備兵らは驚きだ

僕らを凄い見てる


『彼らが…?』

『だがほぼ不可能だぞ?魔物が蔓延っているよりも、そもそも魔素で中に入れぬ』


警備兵らが口を揃えて無理だと口にする

しかし師匠は『問題ない。しばらく見させてもらうぞ?』と告げると鉱山の入口まで歩いていったんだ

慌てて追いかける僕らは少しずつ奇妙な匂いに気づく


『これ…魔素ね』

『うっへぇ!こっからでも匂うのかよ!?鼻が壊れそうだぜ』

『師匠、どうやって中に入るつもりで?』

『浄化すればいい』

『そんな単純な事じゃ…』

『明日には入れるようにしておく、お前らは近くの宿を確保しておけ?』


師匠のお時間ですかそうですか…

自由時間だと知り、アンリタは昼飯だと言って街に戻ろうとしたんだけど

実際、本当に空腹だ


『師匠…僕らは戻っても?』

『良い。明日は忙しくなるから無駄に体力を浪費するなよ?』

『わかりました』


どうやって浄化するんだろうか

見ようかなぁと思ったけども師匠の雰囲気的にいさせてはくれないだろう

僕らは街に戻り、目に止まった飲食店を見つけた


レトロな内装の店だが。中には冒険者よりも傭兵が多いイメージだ

あまり話したことは無いが、みんな無口そうな印象を感じる


『お近くの開いている席へどうぞ!』


男性店員が元気よく。そう告げると僕らは近くの丸テーブル席へと腰を下ろす

大きい店じゃないが、心地よい匂いだ…なんだろう


『なんか新しい木って感じの匂いは良いなぁ』


クズリが言った言葉が答えだ

ここは最近内装を変えたばかりなのだろう、だから良い匂いなのだ

村でも同じ匂いを関していたからリラックスできているのかもしれない


それにしても、師匠はなんで鉱山を使えるようにしたがっているのだろうな

数十年誰も入れず、そして封鎖された死の鉱山だ

資源枯渇ではなく、魔物災害で封鎖されているからこそ復活させれば大きな利益にもなるのはわかる


『ラフタ鉱山閉鎖事件前はどんな資源があったんだぁ?』

『70年くらい前よね。お父さんが覚えていたのを聞いたけどもミスリルが結構あったらしくてさ、噂じゃ事件起きる直前にはそれ以上の資源の発見があったとか』

『それ以上か…』


軽鉄の上にあるミスリル

標準と言われる武器の大事な鉄さ

フラクタールでそれが取れるとなると、無駄に高かった武器の値段がそれなりに安くなるだろうし期待は高まる


それ以上…なんだろうな


『師匠は食べないのかな』

『警備兵でも食べてるんじゃないか?』


クズリが冗談で言い放つが、タイミングは悪かった


『あんなの食えるわけないだろう?』

『ふぇあっ!?』


後ろから近づいてくる師匠だが、いつの間に来たんだよ‥

クズリが変な声を上げて驚くもんだからアンリタが凄い笑ってる


『いらっしゃいませ!』

『俺はかき揚げ蕎麦、ネギ増しで頼む』


師匠は変わった注文をしてから開いている席に座る

浄化が終わったのか聞いてみると、明日の朝には終わるとの事

一体何をしたんだか凄い気になるんですけどねぇ…


『さきほどインクリットが言っていたように、戦闘はなるべく避けるべきだ。』

『うっす』

『依頼内容の確認、貫通してしまった魔物の地下通路を爆薬で塞ぐ。それは俺の役目だかお前らはそれまでに交戦せざるおえない魔物の討伐』

『燃えて来たわねぇ』

『真っ暗だが灯りは俺が魔法で何とかするからお前らはクリアリングしながらアンリタの持つ地図を頼りに現場に向かえ』

『はい師匠』


複雑な鉱山地図、僕とクズリはわからない

アンリタがなんとなく見れるってことで彼女に託したんだ


『魔石類は俺が拾っておく。お前らは魔物だけに集中しろ、あとで魔石は全て渡す』

『かなりの儲けになるわねグスタフさん。金貨50枚に魔石いれると…』


アンリタは楽しそうだ

金貨50枚とか大金過ぎるからだが、それほどまでにラフタ鉱山は重要だという事にも繋がる


『お待たせしました!』


みんな分の昼飯だ

蕎麦を食べる師匠が気になるけども、似合わないとか言ったら斬られるかな…


『今似合わないと思ってそうな顔してるぞ?』

『ひぃえ!?なんも!』

『別に気にしない。鉱山内は見慣れた魔物以外が多いから復習しておけ』

『予想でいいけどよ。何がいるんだいグスタフさん』


獣種の蝙蝠イビルバット、全長1メートルの黒い蝙蝠だ

ランクはF、噛まれると血を吸われるし微量の魔力も吸われる


虫種の蜘蛛イビルチュラ、全長30センチと小さな灰色で赤い斑点がある魔物だ

ランクはF、糸を吐いて動きを封じ込めてから血を吸おうとする魔物


獣種の人型イビルウォーカー、全長1メートル半であり茶色の体毛が薄っすら生えている

目は闇でも見え、嗅覚や聴覚も非常に敏感、獲物を見つけると鋭い爪で攻撃してくるんだとか

目は赤くて不気味だから最初は驚くと言われたけども、用心しとこうかな

ランクはE


上記の魔物が洞窟とかで主にいる魔物と師匠は話した

しかし、もっと面倒な魔物もいる


『経験はあるだろう?暗いと何がウヨウヨいる?』

『思い出したくもね~』


クズリが苦笑いしているのが答えだ

アンデットがいるという事さ







そして夜、僕は宿の部屋で寛ぐ

小さな部屋だけど、こっちの方が良い

銀貨4枚の部屋としては十分過ぎる


『…知らない魔物』


森とは違う

魔物を知っていても遭遇した事が無い魔物が沢山いるからいつもの動きが出来ない事も想定できる


わからない魔物は様子を見ろ

師匠は昼飯を食い終わった時に僕らにそう話したんだ


『入るぜ?』

『クズリ、ノック無しだと僕がタイミング悪い時に困る』

『裸でポージングしてても誰にも言わないさ。てか鍵開けとくなよ…』


鍵忘れてた…


『大変だろうな』


クズリは椅子に座り、窓の外を眺めながら呟くように口を開く

今どうなるかなんて明日にならないとわからないし、明日の事は明日にしたい


『魔法覚えると世界変わんだな…』

『見違えるよね』

『盾に雷って実は凄い説あるぞインク』

『ならそれ証明するために頑張らないとね』

『当たり前さ』


クズリは戦い方が良い意味で卑怯だ

付与・雷を盾に施すだけで近づけない

触れると感電するし、それが盾なんだ

攻防で使えるから相手は困る


盾だから凄いんだろうね


『そういやよぉ』

『どうした?』


魔力に関して言われたんだけど

俺は今日まで皆と共に変わった訓練をしてきたんだ

魔力が底を尽くまで使えという師匠の変な指示で枯渇状態を何度か体験している

人は魔力が枯渇すると酷い倦怠感を覚え、体が鉛のように重くなる


それを続けて何になるのかわからない

アンリタの予想では俺達の今ある最大魔力量の上限の底上げかもしれないというのだが、彼女でも聞いたことが無いというのだ

基本的に魔力量を上げるには瞑想して日々上げていくしかないんだ


それでも微量な程度なのだが、これしか手が無いんだ

でも師匠はそれよりもこっちの方が良いと言った


『体感で感じたかインク?』

『そりゃ…』


上がってるんだ

何度も枯渇状態になるのは非常に辛かった

だが日にちを追うごとに以前よりも魔法が使える回数が増えたのがわかったんだ


あの人は本当に何者なのだろうな

でも変に勘繰ると気づかれるし、あまり僕は意識していない

凄い所を見ると何者なのか気になる程度さ


『まぁ早めに寝るか』

『明日頑張ろうか』

『おう!前は任せろや』


クズリはやる気満々だ


こうして俺達は明日を迎え、ラフタ鉱山の前に辿り着く

そこでみんなで開いた口が塞がらない状態を引き起こしたんだ

鉱山の入口から漏れていた魔素が全くないのだ

魔素で奥まで見えなかったのだが、今じゃそれなりの目で見える


近くの警備兵ですら膝をついて固まるほどの状況

師匠はファントムソードという黒い刃をした片手剣を肩に担ぎ、驚く僕らを不思議そうに見ている


『マジ…かよ』

『本当に何が起きたのよこれ…』

『師匠…どうやったんですか』

『気にするな。さぁお前らにとって地獄の入口となるが…、油断したら死ぬと思え』


最大の問題である魔素が消えた

となるとここからは僕らの最大の問題が立ちはだかる

戦闘を避けながら300m奥にある目的地へと向かうんだ


『70年も誰も入れなかった鉱山だ、小さな穴には警戒しろ』

『穴?』

『魔物の巣だ』


うっへぇ…そりゃあるよね


『ねぇグスタフさん、私達が変にしごかれたのって…』

『この時の為だ』


師匠は前に歩き、鉱山の入口を眺めていた

背中だけを見ても、絶対誰よりも強いとわかる

腰からなびく黒いマントに刺繍された邪悪な羊の模様が不気味だ


『ここはどの程度、重要かお前らにわかるか?インクリット』

『え…近場に鉱山がないから仕入れとかでここじゃ武器が高くて…』

『馬鹿者』


怒られた


頑張れとかそういう事は一切言わない人

そんな師匠が違う形で僕らを鼓舞し始める


『ここは公国内の貴族が誰も興味を示さない荒んだ鉱山。守る価値すら貴族らは一ミリも感じてないだろう』


アクアリーヌのためにここは出来上がった

騎士の詰所は大きく、最悪の事態を想定して街が建てられている

街の価値が上がれば街に問題が起きた時、王族でも捨て置けぬと判断して動く

そんな事態が起きなくとも、公国から補助金が出て街が格段と潤うのだ


それを師匠は話した


『お前らがフラクタールの歴史を変えるのだ。達成すれば偉業…行くか行かないかお前ら次第。無理な人間に頼んだ覚えはない』

『偉業…』

『報酬だけを見るな。成し遂げたらそれぞれに恩恵ぐらいある』

『何があるって言うのよ』

『それは成し遂げてから感じろ』


不思議と足が前に出てしまう

もう僕らは覚悟が出来ている


『行こう』


僕はそう告げると仲間と共に中に入っていく



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