第20話 安息

はぁ…


眠い。

今日はアミカに早朝に起こされたぞ

『明後日に納品予定の防具に使う素材が足りないの!』だってさ


それならインクリット達に任せれば良かったのに何故俺なんだ

休みが…まぁ帰ったら寝よう


アミカと共に俺は森を歩く

メェル・ベールを担いだまま辺りを見渡すが、魔物の気配はない


素材とは?

あれだ…灰犬の毛皮だから2頭あれば十分だ

アミカは堂々と俺の隣を歩くが、なんだかんだ彼女は魔法は少し使える


火弾を複数撃つラビットファイアーにスリープという眠りを誘う風属性の状態異常魔法だ

その2つあれば冒険者としても貴重だろうな


『グル!』


茂みからのっそり現れた灰犬

どうやら1頭だけだ。


『あ!いたよグスタフさん!』

『今日は早く帰れそうだ』


瞬時に灰犬の前に飛び出し、チョップで頭部を叩く

『ギャプ!』と変わった悲鳴が聞こえたが少し強く叩いたし驚いたのだろう


『チョップで倒すんだ…』

『まぁな。帰ったら俺は寝るぞ?』

『いいよ!解体屋まで言ったらあとは大丈夫!』


解放されるか…


こうして9時頃に解放された俺は路地裏でワープして部屋に移動だ

服を脱ぐのも面倒だし暑い


夏が来たようだが、森は虫種が増えてる可能性は高い


『カナブーンがウザいんだよな』


そう言いながら横になる

クールという冷風を纏う魔法で涼しさを得ると、俺は欠伸をした


(そういえば…)


ノアからの伝言をフラクタールに滞在する聖騎士に聞いた話を思い出す

シドラード王国がアクアリーヌという街の返還を強く求めているという話に関してだ


『何が狙いだ?』


力を誇示するためにケヴィン王子が仕掛けた?

そこまであの小僧は馬鹿じゃない

確かに取り込んでる戦力は王族で1番なのはわかる


しかし無理にこんな事をする意味はない

何か裏があるはずだ…


(いや…まさか)


気のせいだ

予想通りならば結構面倒臭い

あちらが本気ならばアクアリーヌだけ攻める事はしないだろうな


エイトビースト…

あの席を使う時がくるだろうか


『そっちの方が楽だ』


エイトビーストはシドラードで最も強いと言われた8人の傭兵たちだ

皆、確かに強かったよ


俺はエイトビーストとは違う

だからこそ当時の奴等は俺の命を狙っていたから暇しなかった


元気なのかな…


気付くと昼だ

店は休み、そしてインクリットらは森

どうやら俺はお留守番か


店内に行き、壁の近くに置いた椅子に座ると腕を組んで壁を背もたれ代わりに寛ぐ

僅かにドアも開けているから心地よい風が入る


(そこそこ涼しい)


今日くらい引きこもっても大丈夫だ、バチは当たらない


ここは平和そのものだ

バタバタしてるのは貴族達だろうな

なんせ時間ギリギリまでアクアリーヌの件で話し合いをしているからだ


『アクアリーヌの返還は口実…』


別の狙いがシドラード王国にはある

だが、それがまったくわからない

誰が仕掛けたか、それだけわかればな


(あとで聞いてみるか)


時間切れはもうすぐの筈

その前に聞いとくか


『あ!やっぱりいた』


アミカは正面から入ってきた

手荷物無しだが、納品は解体屋に委託したそうだ


『そういえば小柄なハルバート作ったんだよ!見て見て!』

『いつの間に…』


今週、鍛冶場を覗いてない

ハルバートを作る技術は触りしか教えてないが、どうやら本を熟読しながら軽鉄で試し続けたらしい


ある程度の形が安定してからミスリルで作ったと無い胸を張って話してきたよ

んで工場にいったんだが…


『どお!?』

『……』


壁に立て掛けられたハルバート

確かに刃は小柄、槍の部位は普通

斧の形状は楕円型で小さいが、色も形が綺麗


(ほう……)


ここまで綺麗な銀を放つまで腕を上げたか

過小評価していたやもしれん


『かなり良い。店に飾っておけ』

『やたー!!』


それにしても、成長が早い

だが大型となるとまだまだだな


『なんだか槍専門店な感じになってきたな』

『そう?』


店内の壁にはミスリルの槍が数本展示されてるのだ

突き、払いなど個別に特化した槍が様々あるから槍を使う人間には刺激ある店になったと思われる


もともとアミカは剣は作れるし、売り上げもうなぎ登りだ


『明日も休め、店は俺が見る』

『鍛冶場に籠りたいのになぁ』

『今年でここまで出来たら上出来だ。あとはどう顔を広くして売りさばくか頭を使う時だ。』

『あーい。今日は何食べる?』

『羊の肉スープ』

『共食い?』

『俺は人間だ』


料理を作るため、笑いながらその場を去るアミカは

みんな順調だ


『…俺だけか』


店を完全に閉めるために正面口に飾っている花を店内に入れていると、見慣れた顔の二人が近づいてくる


ノアの直属聖騎士であるジキットとハイドだ

冒険者姿だが、似合わないな


『なんだ?花が好きなのか?』

『殺すぞ?』


ジキットはツンツン野郎だ

俺を毛嫌いしてるが嫌いじゃない


『まぁまぁジキット…』


なだめるハイドは苦労人だな、面白い


『ジキット、一つ聞きたい』

『なんだ?』

『アクアリーヌの件はシドラード王族の誰が口にした?』

『俺らにゃわからねぇよ。ノア様に聞けばいいだろ?それよりノア様からの頼みが来てるぞ』

『やれやれ…』

『チッ…。シドラード方面に見える山脈。あれはコロウ山脈といって領土の堺に連なる山々だ』

『お、そうたな』


フラクタールには渓谷内から来た

だから山登りしなくて済んだ

ジキットは【コロウ山脈に異常がないか見てほしい】というノアの依頼を伝えに来たのだ


言ったら直ぐ去るし

返事させる暇無い。


『これじゃ決定事項になるだろうに』


面倒だな…

だけども見とかないと駄目だろうなぁ

あそこからこちら側をある程度は見渡せる


(工作部隊の警戒か)


自由にしていいなら、明日にでも向かうか






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