第19話 生還

『ん?』


あれ、俺は寝てたのか?

薄暗いが、ここは治療施設のベットルームだ

上体を起こすが、体が痛い

これは怪我じゃないな、大好きな筋肉痛だ


(骸骨野郎から逃げて、んでコンペールに…)


あぁそうだった。

危なかったんだな俺

外傷は殆ど無し、疲労困憊ってだけだろう


『12時か…』 


真夜中だ、あのあとどうなったのか…

まぁしかし俺は生きてる


『起きたか』

『おっ?』


チームリーダーがベット横の椅子に座っていた

気付かなかったけど、俺は相当疲れているらしいな

ちょっと頭が痛い


『うぅ…どうなった?』

『怪我人無し、お前は軽傷だが1日安静したらまた動けるって聞いてる』

『そうか。コンペールは?』

『お前が気にしてる二人が倒したよ。』

『…倒したのか』

『凄い奴等だよ。まぁインクリットが飛び出したのが一番驚いたが』

『飛び出した?』

『ギルドにこの事を知らせたらあいつは真っ先に飛び出して行ったんだ。編成を待たずにな…。俺が言う資格はないが、あぁいう馬鹿がお前は合ってるのだろう』


グラスに入った水を俺に差し出してきた

確かに超!喉が乾いてる

一気に飲み干すと、フッと笑みを浮かべてた


『…すまなかった』

『いや気にしてないさ。共倒れするより助けを呼びにいってくれたほうが良いと思ってさ』

『それもだが、それだけじゃない』

『ん?』


顔を合わせてこない

だが横顔はあまり見せる事がない。覇気のない表情だ。

謝罪の意味を口にすること無く、椅子から立ち上がると俺に背を向け、窓を眺めながら口を開いた


『お前は俺達とは違う、だからお前はお前のいるべき場所に行け。』

『チェインバー…』

『お前は首だ。今までチームを引っ張ってくれて助かったクズリ』


きっと顔を今は見せたくはないのだろう

チェインバーはそのまま部屋を出ていったよ

何を言いたいか俺はわからんが、悪い奴じゃなかったな


『首か…ははっ』


するとすれ違いで部屋に入ってくる奴等がいる

インクリットとアンリタだ

真夜中なのによく来たなぁ


『クズリ、大丈夫か?』

『疲れてるだけさ、にしてもお前凄いなぁ…がむしゃらに突っ込んだろ?』

『あ…あはは』

『あはは、じゃないわよ馬鹿。格上相手過ぎなのになんで突っ込んだのよ馬鹿』


インクリットの尻を蹴るアンリタに思わず笑っちまったよ

本当に面白いコンビだ。


俺が無事だと知ると彼らはその場を去ろうとする

しかし、そこまで気遣ってもらわなくても俺は大丈夫だ

今は彼らと話していたいんだ


『てかあんたがコンペールの片腕を吹き飛ばしたの?』

『無我夢中で戦っていたらラッキーな一撃が当たってなぁ』

『よくやるわねぇ。そこに立てかけてる剣盾ね』


そうだな

最近しっくりきている剣盾

リーフシルバーを薄く伸ばし、盾の元にしている

そして剣の部分もさ


凄い武器だ…


『なぁ』


俺は上体を倒し、天井を眺めながらそう告げた

ちょっと雰囲気の変わった俺を見て口を閉じると、彼らは何かを待った

言うにも勇気がいるな…少し緊張する

覚悟を決めて言おうとしたんだ、するとインクリットがそれを遮る


『うちにこない?』


今日はいい日だ


こうして俺は深夜、新しい明日が決まったことにより眠気が飛んだ

新しいチームか…どういう顔で向かえればいいんだろうか

壁の時計を見ると2時だ、疲れているのに眠れん!


『くそ…なんで眠気こねぇんだ』


落ち着かない

上体を起こそうとするが、筋肉痛が凄くて体中に響く

動くのはやめておこう、というか明日から動ける筈がない


『はぁ…』

『無我夢中でも良い動きだったからこそ腕を斬り飛ばせたな』

『わはんっ!?』


超びっくりだ

隣にはグスタフさんが腕を組んでそこにいたんだからよ

静かに椅子に座る様子を眺めるが、何かを言う感じはない


(あれ…今なんて!?)


『あんた見て…くっ…っつ』

『無理をするな、お前の仕事は安静だ』

『くぅ…助けず見てたな?死んだらどうすんだよ』

『死んだらそこまでの男だ。危機的状況で生き残ったお前は素質がある』

『何の素質だよ…そろそろ教えてくれよ』


グスタフさんはクスリと笑う

わざと俺の腕をポンと叩くけど、超痛い

遊んでいるのか?案外そこまで真面目な人じゃないらしい


『素質ある者同時、惹かれ合うからこそお前はあの2人が気になる』

『あ?』

『お前には教えよう。お前だけの秘密だ』

『どういうことだよ…』

『お前は…』


人は生まれながらにして、魔力袋を秘めている

普通ならば白という通常色だが才能を持つ者は色がある

火なら赤、水なら青といった感じだが話で聞いたことがあるだけだから本当かどうかわからない

実際それを見た人間はほぼいないのだ

確か城の大神官クラスしか見れないとか


そして最高峰の魔力袋は更に変化があるらしい

どういう変化なんて俺にはわからない



そして…

誰もいなくなった部屋の中、俺は自分の両拳を見つめた

本当に俺にはそんな可能性があるのだろうか


『親父は…』


Cランク止まり、親父の盾を使って登り詰めれるかなと思ったが

それは無理そうだな…すまねぇな親父


(いつの間に…)


剣盾の隣に親父の盾だ

返してくれたらしいが、こりゃ親父に返さないとな…


そして3日後

俺の筋肉痛も体調も万全さ


復帰祝いに近くの軽食屋でインクリットそしてアンリタで昼飯だ

定食屋にしたかったけども、アンリタがここが良いとゴネたんだよ

どうやらストロベリーチーズケーキが食べたかったんだとさ


周りには普通の家族客、そこには猫耳の付いた猫人族やエルフなど亜人と呼ばれる人間じゃない種族も客としている

ここは人間以外が良く客として来る店なのだ


まぁここにも定食があるからセーフか

俺は唐揚げ定食、アンリタもだがインクリットは生姜焼き定食だ


『お待たせしました』


持ってきたのはここで働いているムツキという魔族の男だ

片方の角が割れているが、それが格好いい


『おや?クズリ君がいるとは珍しい』


普段はあまり口を開かないムツキが話しかけてきた

アンリタは俺がチームに入った事を気さくに説明しているが、案外普通に彼らは話せるんだな


(俺だけかと思ってた…)


『3人か、更に良い話が舞い込んで来そうだな』

『でしょでしょ?てかあんた昔は冒険者だったんでしょ?』

『さてな』


ムツキは質問を流すと、『ごゆっくり』と呟いてからカウンターに歩いていく

エルフ以外は人間と同じ寿命であり、魔族であるあいつは20ちょいだった気がする


(元冒険者か)


ふと彼が見えなくなるまで眺めてしまう

それは俺だけじゃない、何故かインクリットやアンリタもだった


『まぁ食べましょ』

『そうだね』

『うっし!ジハード新メンバーとして俺がまず挨拶を』

『いっただっきまーす!』

『待て待て待て待て!』


アンリタ…そんなに腹を空かせていたのか?

彼女らしくて面白いな、これだよこれこれ

馬鹿みたいにしてる方が自然体で疲れない


明日から3人での活動だ

待ち遠しい


それは誕生日を迎える幼き頃の俺のような

似た感じの感覚だ

新しい何かが次々と押し寄せるだろう。それを俺達は乗り越えるのだろうな


(才能ある者…か)


俺だけじゃない、きっとこいつらも同じ穴の何とやらか


『…美味い!』


今日の飯は格別に美味い

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