第17話 救援
『うん!動く』
インクリットはアンリタと共に森に来ている
退院から6日目、体が訛っているかと不安だったけど…
まぁそこまで鈍ってなかったから一安心かな
『ブギギギ!』
『1匹そっち!』
『わかってる』
赤猪3頭に囲まれ、1頭は僕に迫る
正面から相手することなく、すれ違いざまに双剣で足の付け根を斬り裂いて転倒させる
んで僕はアンリタの救援に向かう
彼女の横から迫る赤猪だが、間に合いそうもないので双剣を投げて目を潰す
『ブギャァァ!』
『サンキュー』
こうして彼女が槍でトドメを刺し、この場は納まったんだ
先ほどはバトルゴブリンとも戦って連戦だったこともあり、僕たちはその場に座り込む
何だかんだ順調なんだ
僕のランクもEとなり、ガンテイさんからも今年中に普通にDも見えてくるんじゃないかって言われてる
それを師匠に言うと『自分に奢るな』と頭を叩かれるけどね
(でも…)
夢は見たいんだ
ランク1つ上がるだけで報酬も美味しい
村に帰る時に色々食材を買って家に持っていくのが楽しみになっている
次に帰るのは明後日か…
『もう少し、奥にいく?』
『ん~、ここいらで良くない?』
『なら無理せず周りを歩こう』
こうして彼女と共に散策だ
今日はちょっと暑く、汗が出る
近くの川でタオルを濡らして首に巻いたらアンリタに笑われたけど、凄い涼しいのだ
『涼しそうねぇ』
『本当に楽になるよ、アンリタもやれば』
『マシになるならやるしかないわね』
空を見上げると、それだけで暑い
セミが鳴いてなきゃまだ良いんだけどね
ふと、足音が聞こえて後ろに振り向く
するとクズリとその仲間達が現れたんだ
気さくに近寄るクズリだけど、後ろの仲間たちは僕らに顔を合わせようとしない
(嫌われてる?)
わからないのとは考えないほうがいいな
他人の感情なんて気にしない方が良い
(それにしても…)
クズリの持つ盾が凄い
師匠から渡されたって聞くけど…
手甲に装着された盾の上部に刃
そして下部には小さめの刃
攻防同時にこなす盾らしいが、不馴れでもなんとなくクズリはコツを徐々に掴んできたんだってさ
『これ凄いぜインクリット、使い慣れたら世界変わるよ』
『頑張ってるね。』
『まぁな』
彼らはもっと奥の森に行く
クズリは仲間に声をかけられると、僕とアンリタに手を軽く上げてから去っていく
なんだかアンリタが不機嫌そうだけど
どうしたのだろう
『アンリタ?』
『大丈夫なのかしらクズリとかさ』
『どうして?』
『どうみても彼らの雰囲気悪いでしょ?』
『まぁ、確かに』
言われて見れば
あれは僕達がいたからじゃなかったのだろうか
『話はあとね』
『そうだね…』
『グルルル…』
ランクDの犬種グランドパンサー
体毛が無く、灰色の色をした大型犬だ
デカイくせに素早い
『真剣にいかないとね』
『いつも真剣にならないと痛い目見るのよ?』
『だったね!』
グランドパンサーは僕らの周りを縦横無尽に走り回り、死角から僕に飛び掛かってきた
しかしだ
『おっと!』
間一髪で下を潜るようにして回避
一応斬ったけども、回避に意識を取られて傷は浅い
『グルルァ!』
『残念ね!』
地面に足をつけたグランドパンサーの真横からアンリタの槍
この場合、回避は不可能だ
彼女の槍はグランドパンサーの胴体を貫き、勝利の決定打となる
『流石だね』
『まぁね』
自慢気に槍を回すアンリタ
魔石を回収し、僕らはようやく休む
今日だけでかなりの数を倒した筈だ
近くの農家に現れる赤猪の討伐がメインだったが、それも難なく終わらせれた
以前より格段に強くなっている気がする
『そう言えばシドラード王国の希望ってどうなったんだろうね』
『そういえば…』
いた、確かにいた
シドラード王国といえば死神ギュスターヴの1強だったが、他にもいたのだ
確か別の世界から来た人間を禁呪魔法での召喚に成功したのはかなり有名だ
それが5年前
しかもかなりの強者で、一部では勇者とも言われた男だった
『ユウダイ・コガラシだったけ』
『そうね。公国が何も出来ずに鉱山を占領された時に彼1人に敗走するしかなかった防衛戦だったとか』
『でも次の年にシドラードはあのセドリック金鉱山を何故か公国に返した。そのあとにシドラード王国の希望の話はあまり聞かないわね』
死神ギュスターヴに匹敵すると言われた異世界からの勇者
そこからパッタリと彼の話は聞かなくなった
噂ではこの世界の空気に慣れず、蓄積された負荷で倒れたと言う話が飛び交ってる
(師匠は知ってるのだろうか…)
ふと、ここで別の場所から人の声が聞こえた
明らかに魔物と戦っているようだが、聞いたことがある声に僕らは吸い寄せられる
茂みから覗きこむと、そこにはクズリがいる冒険者チームが灰犬4頭と対峙していたのだ
四方を囲まれ、焦りを見せる彼ら
しかしクズリだけは真顔だ
『くっそ!どうする』
『やるしかないでしょ!』
そんな声が飛び交う
数秒後、1頭の灰犬が冒険者達に飛びかかる
反応出来たのはクズリだけだ
『おら!』
手甲に装着された剣盾で殴り飛ばし、体を回転させた勢いで別の灰犬を刃で貫く
あれは師匠が渡した奇妙な武器、見たときは驚いたけども、それを使って敵を倒すクズリにも驚いたよ
『順調ね』
『そうだね』
助けはいらないようだ
どうやら稼ぎ頭は今じゃクズリと思えた
2頭が地に沈み
他の2頭は他の仲間達が片付けてその場は落ち着く
囲まれて慌てたのか、息が上がっていた
『クズリ、倒せるなら早くそうしてくれ』
『死ぬかと思ったわよ』
『悪いな』
会話に不満を覚えたアンリタは不服そうだ
クズリがなんだか可哀想な気がしてきたが、彼の問題だしあまり口出ししたくはない
『何あれ、助けてもらったじゃんマシな言い方あるくない?』
『まぁ僕もそう思うよ』
『勿体無いわね、いいチームあるのに』
『クズリに似合うチーム?』
首を傾げてみせた
彼女はふと何かを考えたのか、ハッとしたような素振りを見せてから歩き出した
『なんでもないわよ。行くわよ』
濁された気分だ
アンリタに首根っこを掴まれ、その場から退場さ
そこで虫種の魔物カナブーンという甲虫5匹に囲まれ、僕らは背中合わせで武器を構える
全長30センチほどしかない小さな魔物であり、ランクはFだ
問題はない
彼女は迫り来る魔物を槍で仕留めながらも、疑問を投げ掛けてくる
『グスタフさんのこと考えたけどさ』
『なにっ?』
僕も双剣でカナブーンを両断し、最後の1匹を倒してから返事をする
するとアンリタは師匠に関して話したんだ
『あの人、エイトビーストだと思うのよね』
『そんな……』
『朝に話したでしょ?あれを聞いたら否定するのは難しいわよ』
彼女の家に師匠がきたのは聞いていた
そこでの話の内容に驚いたのだ
まさかあの防衛戦の生き残りだとはね
エイトビースト
それはシドラード王国にいる傭兵の中でも豪傑と唄われた者に贈られた称号だ
全員がSランクであり、あのシドラード防衛戦でも生き残ったヤバイ人達だ
他国の傭兵とは違い、無類の強さと聞くけども見たことはない
師匠がその1人?いやありえなくもない
(聞けるわけない…)
これはとどめておこう
こうして僕らは森を出ると、冒険者ギルドのロビーで寛ぐ
丸テーブル席に座り、僕はイチゴミルクでアンリタはオレンジジュース
『可愛い飲み物ね』と茶化してきたけど、笑顔で美味いよと答えると苦笑いされたよ
『確かに飽きない味ね』
『お前ら順調だなぁ!はっはっは!』
ギルドマスターのガンテイさんだ
なんだか今日は機嫌が良さそう
ここにいるということは今日の仕事量が少ないって可能性が高い
この人、仕事嫌い主義者だし
『仕事しなさいよ』
『してるぞ?今日は終わったがな!』
僕の隣に座り、会話に混ざってきた
最近は特に危険な魔物の情報は無く、平和だとガンテイさんは話す
平和が良いよ、もう閻魔蠍はコリゴリさ
『そういえば今日は気持ち早いな、順調ってことか』
『まぁノルマは達成したのでちょっと早めですね』
『それが良いさ、日が暮れると面倒だぞ?』
日暮れはあまり森に冒険者は入らない
というか、許可が無いと入れないんだよね
アンデット種がわんさか沸くから危ないからだ
なので夕刻には冒険者は森から出ないといけない
また入ろうとするならば許可が必要になっている
『夜は入ったことないわね』
『低ランクばかりだが、数が凄いぞ?しかも他の魔物種より高ランクがたまに混ざってるんだ』
『楽しそうね』
『覚悟が出来たならばいつでも許可は出すぞ?』
ガンテイさんはそう言うと、俺の肩をポンと叩いてから立ち上がる
仕事に戻る彼の姿を眺めると、僕は辺りを見回す
ちょっとずつ冒険者達が帰ってきているが、クズリはまだみたいだ
『そのうち行く?』
『そのうちね』
そして今日は食べてから帰ると言ったので、ここで飯だ
なんだかんだ僕はアミカさんの家で居候という形であり、アンリタは半居候
冒険者らしい生活をするために飯をここで食べる事が多い
師匠がそうしたほうが良いと言ったのだ
『さて、何食べようか』
『唐揚げ定食』
彼女はこれしか食べないな
好きな食べ物はとことん食べる主義、悪くない
こうしてロビー内に設置されている軽食店で注文し、談話していると直ぐに飯は届く
僕は奮発してすき焼き定食、たまには贅沢したいんだ
その頃には既に外は日が暮れており、殆どの冒険者が帰ってきていた
酒を飲んで楽しく話したり、疲労を顔に浮かべて水を飲む者など色々だ
だがしかし、食べ終わった頃に僕は気づいた
『あれ、クズリたちがまだだね』
『そうね。あいつなら大丈夫でしょ?なんだかんだ仲間引っ張ってる感じだし』
確かにクズリはチームに貢献している様子だ
盾士は不遇と言われているが、それでも彼はチームでかなり貢献している方だと思う
しかし、何故か彼の仲間はそこまでクズリと仲良くはない
距離を置いているように思えたんだ
(なんでだろうな)
考えていると、いつの間には飯を平らげてしまうアンリタ
どうやら相当お腹が減っていたようだ
『もしだけどさ』
『なぁに?』
『…いや何でもない』
『そういうの駄目』
彼女は口から小さな何かを俺に額に飛ばしてきた
行儀が悪いが、何を飛ばしたのか…
額にくっついている…、これは…
米粒だ。なんて器用な事を…
アンリタが機嫌を損ねる前に、僕は何を言いかけたか言おうとするとクズリたちにチームが帰還したのだ
でも様子が可笑しかった
クズリがおらず、かなり焦った顔を浮かべていたんだ
何事かと思い、彼らに近づこうと立ち上がる
カウンターに駆け出した4人はそこで予想がけない事を口にしたよ
アンデットの群れに囲まれ、仲間が1人逃げ遅れたと
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