第9話 再開

今日はアミカの店の番人だ

『ただ店内にいるだけで良い』との事


まぁ売り子の女性が男受けする顔だからか、ナンパとかあるのだろう

それ防止で俺に頼んだのはわかる、宿賃だと思えば断る理由もない

適当な場所に椅子を置き、俺はメェル・ベールを片手に座っている

見た目なイカツそうな冒険者や傭兵も、大人しいから効果があるのかもしれん


『効果バッチシですねグスタフさん』

『嬉しくはないがな』


売り子に話しかけられるも、普通に対応だ

確かに可愛い顔をしているが、アミカは顔で査定しているのかもな

たまに新人ぽい冒険者が現れると、俺は彼らが武器を手にして悩んでいる時に軽く口を開く時がある


彼らは上手く武器選びが出来ない

だから間違った買い物をするケースがあるのだ

ミスリルの片手剣を手にして唸り声を上げている若い冒険者を横に、俺は椅子に座ったまま口を開いた


『無理に大きめな武器を選ばなくともミスリルならば重量を抑えたサイズでも良い。それにヒヨッ子だと軽めの方があまり腕にこない』

『あ…はいっ』

『右に見えるミスリルの片手剣ならば振り回しやすいだろうな。握るグリップ部分も軽さを活かすために握りやすくしてるし、何より無駄な装飾がない分魔物との戦いに向いている。装飾も意識したいのはわかるが今は我慢の時だ』

『わ、わかりました!』

『しかもお前が手にしていた先ほどの剣より安い。握りが不安なら指無しグローブでの調整も視野に入れても良かろう』


こんな会話を午前中に数人にしたりとしている

今日が初めてじゃない、何回もこんなアルバイトみたいな事をしてるんだが

衣食住を提供されている分、相応の頼みは聞かないとな

マグナ合金だけだと今後、何かと対談する時に振りになる場合があるからだ

より良い関係を築くために必要な行為と言える


『いらっしゃいませー!』


売り子の元気な声が響く

俺の事を聞き、武器を買うために相談に来る者だっている

入ってきた傭兵は、どうやらそれが目的のようだ


『小道具が欲しい』

『主にどんな任務だ?護衛か、警備か、それとも対人か戦争か』

『商人の物流を護衛している。』

『賊相手ならば1つは催涙玉もってるとあいつら身を屈めるから人数差あったらそれを隙に馬車ごと逃げれる。その後に後方に奴らを捉えて近づく者を相手することも出来よう』

『1つか』

『緊急用で1つで良い、半年過ぎると上手く爆発してくれないから気を付けろ?値段は銀貨6枚だが、使う時があるとかなり心強いぞ』

『数でくるもんなあいつら』

『その通りだ。見た所お前はそれなりに体躯が良いし手慣れている感じがわかるから対人に問題はないだろう。あと対人ならば相手の武器を見て小ぶりな片手剣相手ならばそれなりに丈夫な手甲をつけて防ぐのも視野に入れればいいが、それは今すぐじゃなくても良い』

『へへっわぁったよ』


彼は催涙玉を1つ購入して帰っていく

こういう接客みたいな事もしているから、アミカは俺をここに座らせたいのかもな


『グスタフさん、いい仕事してますね』

『宿賃代わりのバイトだ』

『似合ってますよ?』

『勘弁してくれ』


笑顔で笑う売り子2人

ほぼ毎日会うから最初は警戒していた彼女らも、今でも普通に話しかけてくれたりと関係は良好だと思われる


以前より客が増えたな

ミスリル専用と化していた鍛冶屋だったが

マグナ合金の武器が展示されてからこんな感じだ

壁にはマグナ合金で作られた槍もあり、刃をよく見ると粗が僅かにあるが、手慣れてない身でそこまで作れたらギリギリ合格だと思う


するとここで思わぬ客が入り込んでくる

これには店内にいた誰もが足を止め、入り口を見てしまう

王国騎士5人、しかもかなりの手練れ

精鋭と呼んでも可笑しくはない


『ゲッ…ありゃ聖騎士団だぞ…』


聖騎士団、それは公国の王族の側近ともいえる騎士を意味する

何故彼らがここにいるかなんて、俺しかわからないだろうなぁ

彼らは俺を見つけると、目を細めたまま目の前に立ちはだかる

顔色を一切変えず、心など捨てたかのような冷たさを感じる声を俺に飛ばす


『お前がグスタフか』

『そうだが?』

『ならば同行してもらう』

『仕事中だ、待っていろ』

『何を馬鹿な事を言っている?拒むことは出来ない、我らの声は王族の声だと思え、逆らえばどうなるかはわかっている筈だ』

『わかっているから拒んだだけだ、帰れ』

『…』


酷く睨んでいるか

だが言い方が気に食わない、だからいかなかった


『立場としてはあっちから来るのが普通だ。王族とか関係なく、人とはそういう生き物だ』

『…ふふっ、話に聞いたとおりの男だな』


彼は僅かに微笑んだ

試されていたと気づき、俺も僅かに口に笑みをこぼすが彼らには見えない


『ここでは迷惑がかかる、外であの方が待っています』


彼はそう答えると、俺は静かに立ち上がる

聖騎士と共に店を出ると、そこにはいつも見られない光景が広がっていた

公国兵が100人あまり、そして他の聖騎士が30名弱

遠くでは国民が驚いた顔でその様子を見ている


目立つことをするのを躊躇いなくやるのには疲れを感じるが、護衛のためには仕方がない事だ。王族とは狙われやすいからだ

他国から暗殺でくる傭兵や闇ギルドの者など、珍しくないのだ

そして彼女は狙われているからこそ、これが必要最低限の数


目立つ集団の中から前に歩いてくる女性

それは以前、森で助けたアルビノの若い女だ

高貴な服をし、まるで天使の様な動きやすい白いドレス

彼女は俺の前まで来ると、周りの側近など気にすることなく優しく一礼をした


『私の名前はノア・アデルハイド・イン・ファーラット、約束通り参りました』


聖騎士まで未来の大公の行動に目を見開いて驚いている

最高階級の者が得体のしれない人間に頭を下げるというのはあり得ない事だからだ


(地位など関係なく振る舞える女か…面白い)


『生きていたか。まぁそうじゃないと助けた意味も無い…死んだら報酬ももらえぬからな』

『そうでしょうね。私が王族なのは薄々気づいていたはず』

『雰囲気がそうだったが、飯の時は違うかもと疑ったぞ』

『ちょ…』


顔を赤くしながら恥じらいを見せる

そういった一面を見るのも案外面白いな…


『まぁ、約束の品をお持ちしましたが桃金貨か金貨でお選びください』

『桃金貨5枚で良い』

『10枚持ち合わせてますが以前の約束より少なくなったのでは?』

『気が変わった、5枚で良い…その代わりこの鍛冶屋をこの街の固定施設に登録してもらえると助かる』


固定施設、それは貴族などの権限があっても立ち退き等が無効となる王族が指定した国の財産と言われる制度だ

ファーラット公国にあるのは知っていた、当分ここで世話になるから鍛冶屋の奪い合いで他所にアミカが飛ばされるのは面倒だ


『それだけでいいのでしたら』

『助かる。あとはないが…何か頼みたそうな雰囲気だな』

『バレましたか』


彼女は笑う

初めてノアを綺麗だな、と思ったが直ぐにそれを忘れて共に鍛冶屋に入ったんだ

アミカは買い出し中でいないが、勝手に商談用の部屋に彼女を招いたけども、その時の売り子や店内にいた客の目が飛び出そうなくらい驚いていたのが面白かったな

しかも触れ伏していたよ


しかし、部屋に2人きりは無理なのが王族だ

先ほど俺と話した聖騎士ら5人も同席し、俺達は対面して椅子に座る

売り子の1人がオレンジジュースを持ってくるが、手が震えている


『のののの飲み物だす』

(だす…)

『緊張せずとも大丈夫ですよ、ありがとう』

(だす…くふふ)


やはり聖騎士、顔色一つ変えないか

まぁ王族を近くで守る奴らだ、そう簡単に気を許すなんてしない


『要件を簡潔に頼む』

『狙っている組織が本当にゾディアックなのか知りたいのです。実際こちらで得た情報は不透明であり、予想であのように私は話しておりました』

『ゾディアックで間違いはない、奴らから聞いた』

『やはり…。どこでそんな情報を?』

『死人に口なし、というが死体を無抵抗に喋らせることはできる』

『本当に…意味の分からない事が出来る人ですね。魔法ですか』

『黙秘する。胡散臭いと思わないのか?』

『信じます』


(…ほう)


容易く信じるのは軽率だ

俺が敵である可能性だってある

しかし、彼女の中では敵じゃないと思える何かがあるのだろう


それに関してはわからぬな


『俺は表舞台が嫌いだ』 

『では秘密裏に動いてもらっても?』

『情報を流す程度だ、もしこの街にそのような連中がいた場合は勝手に対応する』

『わかりました。報酬はどのように?』

『俺の存在を決して明かさぬ事だけだ、血の繋がった人間でもな』


この言葉に彼女は真剣な表情を浮かべた

色々と考えているのだろう


理由を聞かぬだけ利口か

意味を求め、納得のいう答えが導き出せばいいが


『ここには何用で来た?』

『街の視察です。今後、北にあるアクアリーヌに用事があるので』

『そうか…。話を戻すが?』

『用件を飲みます』


彼女は溜め息を漏らし、そう告げた

騎士達にも俺に関して他言禁止と話しているが、彼らにはわけがわからないだろうなぁ

 

(王族は面倒だ…)


『少し質問しても宜しいですか?』

『どうした?』

『シドラード王国の王都に拠点を置く戦争傭兵の錬度、それは並外れた強さとお聞きします。きっとかの有名な戦神に触発された結果なのでしょう』

『さぁな』

『貴方はその中の一人ですか?』


誘導尋問か?

いや違う、ある程度の安易な答えからだいたいを絞りたいだけだ

しかし、嘘をつけない状況に俺はいる


何者か、薄々気づいてる

だから報酬ではなく、条件をつきつけた

そして俺の用件を容易く飲み込んだのだ


(仕方がない)


『次に会った時に話す、この質問は保留だ』

『意地悪ですね』 

『不貞腐れるな。』

『私も忙しいですから欲しい情報は欲しいものです』

『今はいらぬ事だ。早いと判断を間違えるぞ?』


それまでブーブーした表情が少し真剣になる

意味があって言った事を理解してくれたのだろうが

何やら考えているようにも見える


僅かな静寂の間、俺は彼女の背後で立つ聖騎士の目を見る

凄いこっち見てる、明らかに味方と思われてない雰囲気だ

まぁそうでなくては務まらない奴らだからな


『1つ聞いても?』


彼女はより険しい顔つきだ

何を言い出すのかと思えば、先ほどの質問の内容の続きでもある


もし誰かに俺の存在を伝えたら?である

答えは決まっていた


『約束を破った者の未来は無い』


そう告げると聖騎士から敵意が飛ぶ

遠回しの脅しを王族にしたのだ、仕方がない


『貴様、誰に向かってそのような口を』

『おやめなさい。オズワルド』

『しかし…』

『今後、確実に頼らなければならない存在です。』

『そんなのわかりませんぞ?素性を明かさぬ者です』

『それでもです。今は危機的状況に近づきつつあるからこそ、私達は頼れる人間を集めなければならないのです』


苦虫を噛み潰したような表情をこちらに飛ばす聖騎士達

彼女が止めなければ飛び掛かっていたのかもな


そしてドアを強く開け、血相を変えたアミカの登場に聖騎士らが身構えた


『……』

公国の王女がいることを知って慌てて来たのだろう

何故かその場に土下座する不可思議な行動に皆が困惑の色を見せた


『お初にお目にかかかりました鍛冶屋リミットの店長をしたすアミカ・アンリエッタ・ファウストです!』


噛み過ぎだ

これには聖騎士も構えを解いて苦笑い

ノアなんて口元に手を添え、クスクスと小さく笑っていた


『立ってくださいアミカさん。私は…』


自己紹介が終わり、ノアはこの建物の恩恵の説明をすると、アミカは口を開けたまま頷くだけだ

頭に入ってるのか心配だな


ノアはやることがあると告げ、早々とここを発っていく

アクアリーヌの街だろうが、忙しい女だな


俺は売り場の中の椅子に座り、いつも通り時間を費やそうとしたが…

アミカも隣に椅子を置いて質問攻めしてきたから面倒だった


『グスタフさん、偉い人?』

『違う、森で助けた女がここの王女だっただけだ』

『グスタフさん?凄い人?』

『アミカ?質問の言葉が違えど意味は同じだぞ?』

『グスタフさん、何者?』

『…とりあえず今日は休め、動き過ぎた』


こうして彼女を無理矢理鍛冶場に連れていき、スリープで眠らせて休ませる

いつも床に大の字で寝てるし大丈夫だろうな


『夜はどうするんです?』


カウンター方面から売り子が告げた

まぁ眠らせた以上は仕方ない、考えてある


『近くの定食屋の出前を頼む、釣りはいらん』


俺は彼女に金貨一枚渡すと、仕事終わりに寄ってもらうことにした

確かに鍛冶ばかりして休む時間を疎かにしていたから今日くらいならバチは当たらない筈だ


(休む事も近道だ)


大の字でスヤスヤ眠るアミカを見て小さく囁いた


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