第8話 指南
唐揚げ定食の味を知って2日後、俺は昼過ぎの街中を歩いていた
多少はここの冒険者や傭兵に絡まれるんじゃないかと思ってはいたんだが、そんなことは無かった
2度見はされるが、それ以上はないことが非常に助かる
俺はすれ違う警備兵を横目にしつつも俺は1人孤独に森に向かうのである
気分転換に運動、と言えばいいのかな
いつも体は動かしてるけどフラクタール近辺の森は詳しくないので散策がてら魔物と戯れるといった所なのだ
『魔物はいるが…』
『ギャワンッ!?』
犬の魔物、しかし俺を見て直ぐに逃げていく
危機を察知する能力は犬や狼そして猫はずば抜けて高いから仕方がないかもしれない
『ギャギャー!』
『ゴブリンは別だ』
真横の茂みから元気に飛びかかってきたゴブリンを俺はメェル・ベールで両断した
出遅れた残る1体のゴブリンが狼狽える最中、腰に装着していた投げナイフを取り出した
『無理だ』
背を向けて走ろうとしても、もう遅い
ゴブリンが一歩踏み出すも同時に投げたナイフは奴の首に刺さった
『ゴゲゲ…』
首を押さえて倒れ、俺は近づきゴブリンを見下ろした
大きく目を見開き、こちらを見ているゴブリンは苦痛よりも恐怖を感じているように思える
(逝ったか)
ゴブリンの体から出た魔石を回収し、俺は先へと進むと冒険者が進みそうな道を辿る
時たま冒険者のチームとすれ違うと、彼らは驚きはするものの軽く挨拶をしてくれるのでこちらも返さないわけにもいかなくなる
『南に歩いて数分その近くに角犬の群れがいたから用心しろ。数は4頭だ』
『川の近くか、ありがとう』
まだ若い冒険者らだ
避けて進むようであり、仲間同士でルートを変えて帰る話をしていたよ
そのまま進み、少し開けた場所に辿り着いたら季にもたれかかって休んでいる冒険者と目が合う
(女か)
こいつも若い
しかも一人とは珍しいなと思っていると、彼女が持っていた武器に目を奪われた
(槍、あぁこいつか)
『な…なんですか?』
多少驚きを見せながらもクールさを出そうとしている
明るい雰囲気の女とは思えない
『用はない』
俺とは関係の無い冒険者だ
だからそのまま素通りしようと歩き出す
でもそうならなかったんだ
『あー!兄貴!』
『インクリットか』
元気そうに森の奥から手を振って走ってくるカンテラ村出身の冒険者だ
冒険者ランクEの試験のためにフラクタールに来た筈だが?
『試験はどうだった?』
『あはは…惜しかったけど』
『まぁ何度も挑戦できる。与えた武器に慣れれば活路は十分ある』
『了解っす!』
与えて直ぐに受かるなんて無理さ
落ちるだろうなと気づいてたけど、落ちて気負いしてないなら問題ない
『あ、アンリタだ』
『やはりか』
『兄貴もうチェックしてたんですね?』
『勘違いする言い方は好ましくないな?』
『冗談ですよ』
座って休むアンリタ
彼女はこちらにあまり興味はないようだ、完全無視な感じだろう
『兄貴は森になんで?』
『気分転換に狩りだが、お前は鍛錬か?』
『ちょっと金稼ぎに魔物を…はい』
少し言い難そうな雰囲気をインクリットは出した
どうしたのか聞いてみると、小声で行ってくれた
魔法を覚えたいらしい
『どれだけ大変かわかるのか?』
『はは…まぁそうですよねぇ』
下位から中位の魔法は各施設に指定された建物で会得するしかない
ちなみに上位は本部でのみ、会得可能さ
魔法協会という安易な名前の機関が作った魔法想像図書という建物だ
そこでは特殊な力が宿る石像が建てられており、そこで祈りを唱えると試練が始まる
現実世界から仮想世界へと良き、与えられた試練を達成すれば魔法を使う権利を得る事が与えられ、脳内に情報が流れてくる
まぁ試練には料金が発生するが、下位でも高いし失敗しても返金はされない
ちなみにいきなり難しい魔法は覚えれないように出来ている
条件があるのだが、説明は複雑だからここでは割愛だな
『覚えたい理由はなんだ?』
『まぁ憧れでして』
だろうな…
冒険者でも魔法使いはかなりレアだ
どこのチームにも所属してないと引っ張りだこになる
下位の魔法だけでもサポートとして優秀なんだが、息切れが早いのが最初の壁だな
『兄貴は持ってるんです?』
『さてな』
『上位とか持ってたり?』
『さてな』
『意地悪ですねぇ』
上位魔法は若い奴には無理だ
そこまで到達する頃にはきっといい歳になっている
このファーラット公国で一番だと名高く、有名な大魔法使いジークフリートという60歳ぐらいの奴で上位魔法を4つと聞いている
超位という高みは人間にとって高すぎる壁だ、ていうか危ないから覚えないほうが良い
街とか吹き飛ばせるからなぁ
『まぁ一休みしながら談話してやる』
俺は近くの木にもたれ掛かりながら座る
インクリットも笑顔でその場に座ると、質問攻めされたよ
使えるとも使えないとも言ってないのに、あたかも俺が使える前提で聞いてくるんだ
『俺、属性付与の魔法が覚えたいんです』
『双剣ならば確かに理想だな。毎日走り込みはしておけ?試練で後悔するぞ』
『え?』
『属性はまずお前なら風がいいだろう。だから走り込みで体力をつけておかないと試練で後悔する』
『やっぱり覚えてる人の言葉ですね兄貴』
顔を覗き込むように見てきた
少々うざいが、嫌いではない
『ブギィ!』
背後から赤猪という全長2メートルサイズの獣種の魔物が1体
ランクはEの魔物だが、狙った対象に対して真っすぐ突っ込んでくるのが特徴的だ
俺は素早く立ち上がり、メェル・ベールを振る前に囁いた
『属性付与・炎』
振る瞬間にメェル・ベールの刃の部分に炎が纏わりつく
火よりも強い炎、それは刃を熱し、触れた対象を溶かし燃やす
赤猪は断末魔さえ上げる暇もなく、両断されると激しく体が燃え始めた
『あ…』
これにはインクリットも驚いて声も出せなかった
属性付与・火を使えば良かったが、それよりも上である炎を使っちゃった…
さらに上は業火なんだけどね、ここで使うと周りにも影響凄いからさ
(間違ったな…)
軽いひと振りで属性を解除する
無意識に炎にしてしまった事に俺は後悔し、頭を掻く
『アドバイスは送った。毎日走り込みはしろ。双剣職もそうだが属性付与の風は体力勝負の試練だ。きっと役に立つ』
『兄貴から師匠って言わせていただきますね』
『勝手な奴だ…』
溜息を漏らすと、彼は笑った
倒した魔物の魔石を彼に上げると、ふと見られている気配を感じて振り返る
インクリットの直ぐ後ろに彼女がいたのだ
『…アンリタだったか』
『わっ!』
インクリットが気づくと、少し驚く
以前としてアンリタは少々驚いた顔を浮かべ、こちらを見ていた
何を思い、何を感じたのかは流石の俺も聞かなきゃわからないが興味はない
他人は他人だ、家族じゃない限り
まぁ家族なんてもん…知らない生き方だったけどな
『貴方、ここの街の人じゃない』
『それがどうした?要件を言え』
少し強く言い過ぎたか、彼女は僅かに狼狽える
首を傾げ、どうぞと言わんばかりに軽く手の平を見せてみると彼女は口を開く
『属性付与の火じゃない、それは何』
『…炎だ』
『ランクB以上じゃないと覚えるのが難しい炎属性の魔法よ。あなたは何者なの?』
『知らん。それよりも自分の武器をどうするかお前は考えろ』
『なっ…』
『他人を気にしている暇はないだろう?まぁ気にする事も近道になることはあるが』
『そう…』
何か考えると彼女は直ぐに言ってしまう
インクリットは街で一番の冒険者と言われる女性に近づけて多少興奮していたが、あれで一番では問題がある
(まぁ俺には関係ないな)
『だがまずはEに上がれ、そうすれば報酬金も僅かにあがるし強い魔物討伐の依頼を受けれる。そこから金稼ぎを意識すればよい』
『わかりました』
『まぁ暇つぶしだ。魔物探すぞ』
『えっ!?はいっ!』
こうして彼と森を歩く
ゴブリン2体、Fランクのインクリットにはちょっと大変だろうが大丈夫だ
『ギャギャー!』
なりふり構わずインクリットに襲い掛かる2体のゴブリン
俺は『身軽さ生かして避けながら機会を伺って1体仕留めろ、そうすれば残り1体に集中できる』というと彼は素直にそれを聞いてくれた
ゴブリンは錆びた短剣を大振りで振ると、バランスを崩して転倒
その隙にインクリットは斬った
『ギャギャッ!』
『よしっ!』
背後から飛び込んできたゴブリン
インクリットは振り向き様に武器を弾き、そして蹴り飛ばしてから起き上がる前に双剣でトドメを差す
良い動きだったと俺も思うが、1人でそれが出来れば試験も合格していただろう
(緊張して実力を出せなかったか)
もっと自分に自信を持てば、楽に合格するだろう
勿体ないなと僅かに彼を見て思った
『どうです?』
『文句なしだ。だが数が多いと厄介な魔物だから数を把握してから戦う事だけは心がけろ?数体だけだと思っても近くに仲間がいる場合、5体以上とか珍しくないから周りに仲間がいないか吟味しながら逃げるか戦うか判断は忘れるな』
『わかりました!』
『厳しく言うと次の行動に僅かな遅れがあるが、それは考える時間が長いという事。だがそれは経験という数でおのずと勝手に脳より体が動いて解決する、慌てるな』
『はい』
こうしてランクの低い魔物を彼にやらせ、俺は無理だと判断した魔物を一層していく
するとインクリットは『その鬼みたいな武器以外にも扱えるんですか?』と話してくるから武器収納スキルでメェル・ベールを手から消す
それだけで彼は驚いていたが、いちいち反応するのも面倒だ
『鬼兄弟・ヘルランペイジ』
両手を開き、そしてそこに現れたのは赤みを帯びた黒い双剣
鉄の素材ではなく、とある魔物の角を使って作った武器だ
強度はマグナ合金と良い勝負だから結構扱いやすい
『ならこれで今日はやるか』
『師匠…それいくらなんですか…』
『金は問題じゃない。いくぞ?戦い方を見て何かを得てみろ』
現れた角犬という犬種の魔物の群れが6頭
流石に彼には無理だと判断し、俺が首をゴキゴキ鳴らしながら前に出る
気を小さくしているから逃げる事もない、相手は完全に相手を読み間違えてくれているようで安心した
『グルルルル』
『師匠、囲まれましたね』
『さて』
魔物は動き出す前に俺は動き出した
犬は反応が早いが、それには限界がある
それよりも速く動けばいいからだ
対象を素早く斬り裂き、驚いた角犬がやみくもに突っ込んでくる
それをすれ違いざまに首を刎ね飛ばし、奥にいる対象を一気に斬り裂いていく
これにはインクリットも開いた口が塞がっていない
参考にならない、と言われたら否定できないかもな…
『一瞬で6頭ですか』
『迷いを失くして動ければここまで立ち回れる。お前が何を目指したいか見ていればわかってくるかもな。それよりも…』
『え?』
たまに森には厄介な魔物がどこからか現れる事がある
俺は気配で気づいていたが、インクリットはまだ気づいていなかったらしい
彼の背後、奥からそれが現れる
『キキキ…』
『し…師匠…』
黒光りした強度の高い体、怒りを浮かべた閻魔のような白い模様が正面に見える
閻魔蠍という全長12メートルもあるランクBの節足動物、虫種の魔物だ
巨大であり、力もそこらの獣よりも桁違いだ
鋏をカチカチ鳴らし、尻尾の棘を上げてこちらに向けている
既に獲物として見られているようだった
『あれは閻魔蠍といってな。集団討伐対象となる虫種の魔物だ』
『そんな事わかってますよ!逃げないと』
『大丈夫だ』
『帰って報告しないと!』
確かにそれが正解だ
B以上は緊急を要する案件であり、直ぐにギルドに報告して討伐隊を派遣しないといけない
しかし、この街にこれを倒せる技量の冒険者はいない
『キキーっ!』
唐突に閻魔蠍が一直線に襲い掛かってくる
距離があったのに、既に目の前
スピードも中々の魔物だ、並みの冒険者が逃げるなんて無理だ
鬼ヒヨケと閻魔蠍は出会えば死ぬと言われる虫種の双璧と言われていたっけな
(解除)
俺は鎮めていた気を解放すると、それに気づいた閻魔蠍は振り下ろした鋏をギリギリで止めた
一瞬でも遅れていればかなり痛かったかもな、ちょっぴり危なかった
『キッ!?』
ただ俺は閻魔蠍の目を睨みつけた
僅かな静寂、時が止まったかのような無音
インクリットは逃げたくても、強敵を前に立ちすくむが、この異常な状況に目を大きく開いた
『去れ』
『・・・・』
奴は後退りすると、先ほどとは打って変わって静かに背を向けて帰っていった
こうして森を出ると、インクリットは緊張がほぐれたのか、大きな溜息を漏らす
『師匠、冒険者カードは持ってますか?』
『一応所持しているが、見せたりはしない』
『ですよねぇ』
『俺は真っすぐ帰る。あとは頑張れ』
『今日の魔石どうするんですか』
『いらん』
インクリットは凄い嬉しそうだった
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