第7話 接触

夕方の街、森から戻った冒険者と同じ道を歩く俺とアミカ

すれ違う奴もいるが、ここの地区は冒険者が多い事に気づく


アミカは少し上機嫌だが、何を企んでいるよだろう


(こちらには冒険者ギルドしかない筈)


インクリットに教えてもらっていたからな

あいつ大丈夫だろうか…


『グスタフさんは冒険者カードある?』

『一応はあるが何を目論んでる?』

『目論んでるとは失敬なっ』

『顔に書いてる』


笑って誤魔化してきた

あまり冒険者ギルドは好きではないが、街に来た以上は多少なりの顔繋がりは欲しいと思っていた


まぁ冒険者ギルドの建物内にそれがいるのかと思うと、少し心配だ

傭兵と冒険者は違う、根本的に思想が違う

簡潔に言うと傭兵は人を斬り、冒険者は魔物を斬って国民を守る

兵士は他国から国民を守る、みたいに覚えてもらえたら良い


(俺は傭兵だしなぁ)


頭を掻きながら彼女の隣を歩く

どうやら冒険者ギルド内にアミカの知り合いがいるらしく、1度顔合わせしてもらいたいとさ


『アポ無しだぞ。こちらの印象を悪くする事態に陥る可能性が高いから出直すべきだ』

『へーきへーき!』

『そんな簡単じゃないのだぞ…』

『いけばわかるのっ』


(唐突な女だ)


しかし、彼女はウッキウキだ

何か企みがあるのだろうが、悪い方向にはなんとなくいく気配はない


(夕方か…)


アミカの横を歩き、空を眺めた

いつも眺めた景色とは違い、綺麗だった

眼下には笑顔を絶やさぬ家族やせっせと馬車を走らせる商人、疲れた顔をしながら家に帰る冒険者などとすれ違う


こうしてみると平和そのものだった

見慣れた景色にこんなのは無い

だからこそ新鮮に思えたし、時代が変わったのかと勘違いしたくもなる


『どうしたの?』


不思議そうにこちらを見て口を開くアミカに俺は答えた


『悪くない街だ』


こうして冒険者ギルド前に辿り着くと、アミカは俺を待たせて中に入っていく

誰かに合わせたいというのはきっとここの冒険者か、それとも職員か


(だが幹部の可能性が高いな)


3階建ての立派な建物

冒険者ギルド運営協会という機関のフラクタール支部だ。

あまり冒険者ギルドには入ったことはないし、入りたくもない


『気を使ったか…』


すると数分でアミカが冒険者ギルドから出てくるが、後から出てきた者を見て俺は仮面の中で目を細めた


『なるほど…』


男が呟くように口を開く

屈強そうな体躯、腰には片手斧が二つ装着されており、二刀流だとわかった


『どう!?』


アミカの元気が良い

まぁ鍛冶屋ならこんな人物と繋がりがあっても可笑しくはないな

これはきっと彼女なりに考えた紹介と捉えれば、無下にはできないか


『…』

(真剣に見てるなぁ)


腕を組み、こちらを見る目で腕に覚えがある人間だとわかる

きっとこいつは……


『声をかけないと夜になりそうだ』

『おっと失礼』


彼の表情に笑みが浮かぶ

雰囲気は悪くない男だ


『自己紹介が遅れて申し訳無い、私は冒険者ギルドのフラクタール支部でギルド長をしているガンテイ・フラッターだ』


(やはりな…)


『グスタフ・ジャガーノートだ』


出された手を握ると、彼はホッとした顔を見せた

何故呼ばれたのか率直にアミカに話しかけたが、ガンテイが頭を掻きながら気さくに答えてくれたよ


『絶対に仲良くしといた方が良い人連れてきたとアミカお嬢が言うのでなぁ』

『こちらもフラクタール支部のトップの繋がりがあれば助かる事も時期に起きよう』

『見た感じ戦争傭兵だ。だから特がありそうな紹介は嫌いじゃないだろう?』

『ほう』

『それにこちらも興味がある。アミカにとある材料を譲渡したとか』

『宿賃だ』

『その理由で出す代物とは思えない…。何者なんだ?』

『普通の傭兵だ』

『ふむ…まぁ初手ではここまでだろうな。よしっ!3人で飯でもどうだ!?』


元気な奴だな

まぁ見た感じ、俺より年上だ、30は言ってるように思える

先ほどは少々緊張した面持ちを体に見せていたが、今は自然体だ


先頭を笑顔で歩くアミカを、俺とガンテイは並んで歩く

フラクタールの魅力に関してだとか色々と勝手に話しかけてくるが、今の俺には有益な情報でもあるからただただ聞く事に専念していた


どうやら唐揚げ定食が美味い定食屋があるというのだが、アミカの鍛冶屋から結構近い場所らしい

帰りが楽で助かる


『以前はどこにいたのだ?』


ふとガンテイが話題を変えた

首を傾げているのを見ると、突発に聞いてみたくなったのだろう

変な考察などないように思える


『シドラード王国だ』

『そこで戦争傭兵だったという事か』

『勝手に決めるな、ただの傭兵だ』

『ははは、すまんすまん』


頭を掻いて笑顔で謝る姿を見ても悪い人間には見えないな

普通に話をしたいだけならば、するべきか


『あそこの戦争傭兵は凄いって聞くがどうだ?』

『凄いとはどんな意味だ?』

『手練れが多いって知り合いの傭兵に聞いたことがあってだな、あの国の戦争傭兵だけは王国騎士とかよりも相手にしたら駄目だって言ってたからなぁ』


確かにそうかもしれない

戦争に勝って武功を上げれば傭兵でもかなりの額の賞金を貰う事が出来るし、何よりも環境が良い

対人戦に特化できる国でもあるから他国よりも練度は高いだろうな


『まぁ戦争に特化した傭兵らは金に対する執念が強いからな』

『だがやっぱりそいつらが強い理由はあれだよなぁ…』


彼は夕暮れを眺めながら先ほどよりも声のトーンを落として口を開いた


『死神ギュスターヴ。あいつの近くにいる傭兵は全員半端ない強さらしいが、きっと彼が先頭にいるからこそ見えない力でも出てるんだろうか』

『さてな』


昔を思い出すのは疲れる

だから俺は彼の話を聞き流した


『そういえばさっ!そのハルバート振り回して疲れないの?』

『慣れれば振り回せる』

『絶対無理』


アミカと軽いやり取りすると、直ぐに定食屋だ

結構狭い店内だが、小奇麗にしているから問題ない

客は誰もいなかったことに多少なりとも心配したが、どうやらカウンター奥にいた店主が言うには『さっき開けたばかりだし早かったから客はまださ』だとさ

仕込みが早めに終わったかららしい


カウンター席に3人で座り、全員唐揚げ定食を頼む

ガンテイにこの街の冒険者の関して色々聞いてみると、彼はグラスに入った水を少量飲んでから淡々と話してくれた


傭兵ギルドの職員との仲は別に普通らしく、傭兵と冒険者同士いがみ合う事もあまりないようだ。

それならばこちらとしては非常に助かる


『ここの街にいる冒険者で一番ランクが高いのはアンリタかな』

『私と名前が同じ女の人~っ!』

『アだけな』


ガンテイが微笑みつつもアミカにツッコム

ランクはC、他にもCランクの冒険者は数名いるらしいが、中でも彼女が一番だと彼は太鼓判を押す


『女か…』

『興味あるか?』

『ない』

『でもでもアンリタちゃん仲間いないから仕方がないよ、ソロ冒険者だし』

『そうなのかアミカ?』

『他人との干渉が苦手みたい。仲間いればもっと先いけそうだけど…』

『アミカお嬢、そうじゃないんだ』

『え?』

『確かに彼女は伸び悩んでるが、それの本筋は仲間がいないからじゃない。武器が悪いんだ』


アンリタ・モリアート

若き19歳の女性、槍術を得意としており

武器は突きに特化した槍だ。横に振るのは好ましくない形状の武器だ


インダストリアルゴールド

フラスカシルバー

マグナ合金

リーフシルバー

ミスリル

軽鉄


上記が武器に使う鉄のランクだが

C以上となればミスリルでは無理だ、槍ならば特にさ


『軽鉄だ。運悪くアミカお嬢が槍系統の鍛冶が苦手だしな』

『が…頑張ってるもん今!』

『あはは…すまんすまん。だが槍鍛冶が慣れても鉄はどこで仕入れる?』

『あ…う~ん』


俺を見るな


『興味はない、それもそいつの運命だ』

『そんなぁ…』


ウルウルした目で俺に顔を近づいても駄目だ

女の泣き脅しとかあまり感情が揺れることは無いからな

だが1つだけ、提案してもいいかもしれない


『お前にやった鉄、余れば作ってやればいい…その分の資金を彼女が出すかどうかはわからないがな』

『やったー!』

『あの鉄をか…』

『たかがマグナ合金だぞ?』

『その感覚が可笑しいのだぞ?』


(何?)


どうやら鉄に関する価値観が彼らと違う、いや

俺が間違っているらしいのだ

俺がアミカに出した10㎏ちょい、それは普通の人間が軽く出せる金額ではないのだ

安くは無かったか…


『グスタフさんから貰ったマグナ合金をちゃんと商品にするとお家の借金が半分消えちゃうぐらいだよ』


(しまった…やらかしたか)


心の中で頭を抱えた

まぁしてしまった事は仕方がない


『アンリタちゃん大事なお友達だし。応援したいし…』

『自分なりにしたい事をしてみるのも良いだろう。利益など求めない善行もしかり』

『わーい!』


ここで店主が唐揚げ定食を3人分カウンターに置いた

話は途切れ、俺達御一行は夜食となる

若鳥の唐揚げ、外はサクサクで中は柔らかくてジューシー

噛めば噛むほど肉汁が凄い溢れる、よだれと混ざり合い、嬉しい洪水が起きている

肉の甘味といえばいいのだろうか、それが脳に刺激を与え、米を口に入れろと信号を大きく鳴らすほどの美味だ


『美味い!』

『だろう?』

『でしょでしょ!?』


銅貨8枚の飯か、これなら許せる

ちょっと高いと思ったが、これは俺の間違いのようだ


(ガツガツ食べるじゃないか)


アミカは美味しそうに食べているが、どことなくあいつと似ている


『ノアか』


ふと呟くと、ガンテイが驚いた顔を浮かべたんだ


『大公候補のノア王女がどうしたんだ?』


貴族の娘、しかもファーラット公国を統治しているヴィルハルト大公の娘

俺が森の中で助けた女はどうやら国のトップに君臨しても可笑しくない娘だったようだ


『いや、何でもない』


ノア・アデルハイド・イン・ファーラット

面白い出会いに俺は僅かに微笑んだ

避けられぬ運命を俺は歩んでいるのだと


(そういえばあれから数週間か、そろそろだろう)


本物の王族としての器があるならば、きっと約束通り来るはずだ

巻き込まれたくないのが本音だが、さてどうなるやら…か


こうして俺はガンテイを別れ、アミカの鍛冶屋へと戻ったのだ

衣食住が提供された鍛冶屋の2階、少し狭いがこのぐらいが丁度良い

無駄に広いと落ち着かないからな

仮面は外さない、万が一があるからだ


布団に横たわり、俺は窓の向こうに見える月を眺めた

それと同時に、下から鉄を打つ音

どうやらアミカは本気で夢を目指しているようだが、俺にとっては利益となる


『果たしてどこまで伸びるか』


自分で武器のメンテナンスは結構面倒だ

だから彼女に話しを持ちかけたのは結果として一石二鳥だが、言葉としては聞こえは悪いだろう


他人とは色々なやりとりの中で関係は構築される

それは商人とはかわりない風景に俺は思えた


『あつー!』


僅かにアミカの声が部屋に響いた






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