第5話 魔族

今現在、アミカの鍛冶屋である『リミッタ』という店の2階にいる

和室という珍しい部屋にちゃぶ台とは趣味が凄い


しかもリビングと言い張る

あの後、空き部屋を直ぐに使える様に掃除し、そして飯も作ったのだとか

店はどうしたのだと言うと『大丈夫大丈夫!』だとさ


(あの女性店員に任せたか)


ちゃぶ台の上には肉の挟まったサンドイッチ、千切りキャベツも合わさり美味い

肉の油で満たされるかと思いきや、キャベツが程よくシャキシャキとした新鮮さで味や食間にバランスをもたらしてくる


『美味い』

『良い肉を使ったもん!』

『そのスープはなんだ?』

『羊の肉スープ!玉ねぎとニンジンしかいれてないけど…』


頭を掻きながらの苦笑い

勝手にそうさせたのは俺の言い方が不味かったからか


『いや十分だ』

『よしっ!』

『フラクタールには鍛冶屋は他には?』

『各地区に4つ』

『ここは南地区か』

『そそっ!鍛冶屋は同じ地区に2つはダメなの』

『それでここに店を建てたのか』

『ここしか空いてなくて…』


まだ名など入れぬ家系

田舎街でも場所があっただけ運がいいと思うしかない


『剣はどのような依頼があるんだ?』

『警備会から手頃な剣の依頼とか冒険者ギルド運営委員会から練習用の剣の依頼とかとか?』

『貴族相手はまだないか』

『あはは…』

『まぁ今後に期待するしかあるまい。先ほどアミカが言ったように、店に展示する武器次第だ』


高価な鉱石ほど、打つのは難しい

だからこそマグナ合金の剣さえ打てれば彼女的には今後が多少期待される

ドワーフの力の店所は展示する武器のデザインや鉱石のレベルと案外単純だ、しかしそれが一番わかりやすい



(確かにアミカの展示武器はミスリルだったな)


僅かに青みかかった金属、ミスリルだとわかったぞ

リーフシルバーならば今より稼げる依頼はあっただろうに


『リーフシルバーは買えなかったのか?』

『お家のローンでいぱいいぱい!』

『あ、なるほど』


まぁローンぐらいあるか

気を回せなかったな…


『練習に必要な鉱石は数に限りはあるが、マグナ合金ならあと10㎏出せる』

『さすがグスタフさんっ!養って!』

『聞かなかった事にする。それでだが森に出ることはあるのか?』

『いくよ!素材とか革系は自給自足するからだけど…』


覇気が小さくなった

可笑しいなと思い、聞いてみると彼女は魔法しか使えないので一人でいくにしても永く森には入れないようだ

魔法は威力はあっても魔力の消費を考えれば単独行動は危ないだろうなぁ


『じゃ今日からよろしくねっ!グスタフさん』

(もう断れない状況か…)


仕方がないか、自分で蒔いた種とも言える



そして夜も深くなると、俺は与えられた部屋で横になる

狭い部屋がだ、無駄に広いよりかは落ち着けるからこのくらいが丁度良い

5畳くらい、和室のあの部屋と違ってベットもあれば机もある

衣装ケースも大きいのは非常に助かる


窓から差し込む月の灯りが部屋を照らす

室内で俺はただ何も考えずに空を見つめていると、それは聞こえてくる


『早速過ぎるな』


鍛冶場からだろう

鉄を打つ音が聞こえるが、これはマグナ合金を打つ音だ

他の鉄よりも多少、音が高いのが特徴的だ


(さて、多分だが寝るつもりはないようだな)


今から鉄を打つならば、途中で投げる事は出来ない

きっと彼女は朝までには作品を作るのだろう

彼女の思う夢が休む暇を与えなかったか、面白い…


『剣は確かに良い品だったな…』


素材に恵まれなかっただけならば、出来る筈だ


(俺は遠慮なく寝させてもらうぞ)


羊の鉄仮面は外さない

装備は脱ぐけども、一応顔だけは隠したいのだ

最近ようやく仮面をつけたままぐっすり寝れるようになったのだ

最初は結構気になって寝不足気味であったが、人は慣れればさほど気にならない生き物さ


こうして次の日、俺は早朝に起きると装備を見につけ、鍛冶場に向かう

スス臭い場所だが、今までみた鍛冶場よりかは全然綺麗だ

道具類も壁に飾られているが、使い終えたらちゃんと磨いているみたいだな


『くかー、くかー』

(床に大の字で寝てるだと…?)


起き上がれば背中がきっと汚い

だがしかし、それを代償に彼女は手に入れたらしいな

近くにある机の上に置いててある片手剣、あれは俺が与えたマグナ合金で作られた武器だ


『ほー』


俺は片手剣を持ち上げ、眺めた

貴族が好きそうな無駄な装飾なんてない

戦う為に作られたシンプルなデザインだが、聖騎士が使いそうな気品あふれる雰囲気も僅かにある

ちゃんと刃の部分にはアミカの作った剣という証拠でもある文字が刻まれている

Aの文字の中心の線が猫の口みたいになっている、独特だ


(見る目がある人間が見れば、それなりに評価されるだろう)


『100点満点中、70点か…』


1発目でこの仕上がり、失敗しなかったのには驚きだ

誰でも初見は駄目にしてしまうんだけどな…


しかし面白い女だ

机の上には他にも紙切れが乗っており、きっとこの剣の名前だろうと思われる文字が書かれている


『エーデル・リッターか。ん?裏にも何か書いて…』


ある…

朝ご飯は適当に済ませてください、だとさ

ちょっと面白い


少し機嫌が良い俺は近くにある毛布を手にすると、彼女にかけてから部屋に戻って寝直す


8時ごろに起きると、言われたとおりに朝飯を済ませる為に外に出てから街を練り歩く

商人が馬を走らせ、馬車に積んだ荷物を運ぶ姿が行き来しており

冒険者が眠そうな顔をしながらもギルドに歩いていく様子が見える

一般人と思える人間はまだ少ない。


(ほう…)


点々とすれ違うのは人間だけじゃない

魔族と呼ばれる人型の種族もいる

人よりも魔力を持っており、体の一部に魔神の加護を受けた者達だ

それは角をもっていたり、龍のような尾をもっていたり、獣のようなタテガミを生やす者など様々だ

国によっては忌み嫌われるが、この国ではそうでもないらしい


だが数は少ない、飯屋を探すときに2人くらいしか見ていない

大昔に魔族と人間は喧嘩みたいな戦争をしていたと聞くが、その名残がまだあるからか数が少ないのかもしれん


適当な飯屋を見つけると、俺は中に入る

どうやら軽食屋みたいであり、客もまだ少ない

パン系を食べればいいやと思って入ったけども、他の客がクロワッサンを食べているから正解みたいだ


『いらっしゃいませ』

『ふむ』


魔族の男がウェイターか、なかなかに衣装が似合っているじゃないか

しかもこの男が持つ魔族の証は黒光りした角、しかし右角が根元から折れている

髪で隠しているのだろうが、歩くと僅かに折れている事実がわかった


彼は俺に近づくと、軽い笑みを浮かべて一礼してから開いている席に目を向ける

それだけで俺は招かれていると察し、僅かに頷くと彼と共に開いているテーブルに向かった


(若いか)


人間と同じ寿命をまっとうする魔族

見た目はまだ18歳という成人する歳になったばかりに見える


『ご注文が決まりましたら、お呼びください』

『ふむ』


俺は椅子に座り、再び彼の笑顔から始まる会釈を見届けると、渡されたメニューを見渡す

クロワッサンあるし、これでいいよね

朝は少し腹に入ればいいからさ


『うぅむ…』


クロワッサンにコーヒーが良いな

これにしようと決め、俺は再び彼を呼ぼうとしたが、俺はやめた

案外といい体格しているなってのは服を着ていてもわかる


店に入る客の対応をしつつも、こちらを気にしているのは色々と周りが見れているってことか

俺は彼と顔があったタイミングで軽く手を上げ、近づいてくると注文を告げた


『クロワッサンとコーヒー』

『かしこまりました。デザートはどうでしょうか?』

(進めてくるか…この格好の俺に)


面白い、言葉に乗ってやるか


『何がお勧めだ』

『今女性に人気のストロベリーチーズケーキはいかがでしょうか?』

(何故そこをチョイスしたぁ?)


変化球過ぎる

チョコレートケーキとかそっち系でくると思ったら、可愛い系かっ!

俺は狼狽えた、そして彼は僅かに笑みを浮かべた


『美味しいのは保証しますよ』

『ならば頂くとしよう』


デザートかぁ…と思いながらも溜息が漏れる

食事を待つ間、店内を見渡すのだが冒険者なども朝食を済ませるためなのだろうか、点々と入ってくる


みんな俺を見るとギョッとするが、ちょっと警戒されている

まぁ昨夜きたばかりで、見慣れぬ姿の人間を見ればそうだな

羊の鉄仮面、しかも悪魔のような見た目の仮面だから無理もない


『あれ見たことあるか?』

『知らねぇ、どこかの街の冒険者か?』


ちょっと聞こえる、まぁそのくらいなら気にしないけどね


(さて、変えればアミカは起きてるだろうか)


昼頃まで寝てそうな爆睡っぷりだったしきっと起きない、俺にはわかる


仮面の奥で欠伸をし、首を回していると早速注文した朝食が魔族のウェイターによって運ばれてきた


彼は『お待たせしました。どうぞごゆっくり』と言うと厨房に体を向けて歩き出す

気になった俺はここで彼を呼び止めたのだ

今までは眺めていたが、少し興味が沸いたからだと思う


『名はなんという?』

『私ですか?』

『そうだ』

『…ムツキです』

(少し考えたな)

『立派な角だ。片割れだとしても見ただけで力強さを感じる』

『…お客様は魔族と話すのに抵抗はないので?』

『何故抵抗など?興味が沸いた奴がたまたま魔族だっただけの事よ。』


キョトンとした面持ち

クールさを見せる顔には似合わぬが、予想外だったって事だな


『面白いお客様ですね。この街の人ではなさそうですが』

『昨日きたばかりだ。きっとまた会うだろう』

『そうですか。お名前は?』

『グスタフ・ジャガーノートだ』


今は名前だけ告げておこう

あまりにも話し過ぎて仕事の邪魔をすると思い、俺は朝飯に目を向ける事にした

確かにデザートであるストロベリーチーズケーキは美味い

僅かに酸味のあるストロベリーソースに甘いチーズケーキがほどよくマッチしている

コーヒーではなく、紅茶にすべきだったな…


(クロワッサンは普通か…)


小さな軽食屋だ、これくらいが丁度良い

らしさ、が一番だと俺は感じる


『あたしもストロベリー!』

『っ!?』


おいおい

いつの間に隣にアミカがいるんだ?

超爆睡していた記憶を思い出す俺、あれは夢だったのかと思いたくなる

そして気づかなかったぞ?


『驚いた?』

『いつのまにいたのだ』

『今来たばかり。ご馳走になりまぁす』

『まさか…』

『お財布忘れてきた。えへへ』


俺は頭を抱えた


こうして共に鍛冶屋に戻る

今日は店が休みであり、彼女はゆっくりできる

和室にて自身で作った武器をちゃぶ台の上に置いてジッと眺め、何かを考えているようだが、声をかけにくい


(厳しく見れば…飛ばし過ぎたか…)


マグナ合金ならばもっと綺麗な輝きを増していたはずだ

今の状態でもかなり良い出来栄えだが、それは今の彼女ではという意味でもある


『やっぱり飛ばし過ぎてたの、これ』

『察していたか』

『一応、王都に行ったときに鍛冶屋に飾ってあるマグナ合金の武器を見たことがあるの。それと比べると…』

『炭素量が多い良質な鋼も鍛錬すれば火花として飛び散りやすいからな。満遍なく熱を伝えられるようにすることと鉱滓をもっと取り除けばきっと最高の出来になっただろう』

『多分、次は打てる』

『…大した自信だな』

『剣だけは得意、剣だけは…』

『だが今日は休め、体を労る事は立ち止まることじゃない』

『…』


見た感じ、もう作り出しても可笑しくないな

まぁそこは休んでもらわないとな…

なんせあれだ、こいつはあまり寝ていない


『ちゃんと寝たら練習用に鉄を僅かにやるぞ?』

『おやすみっ!』


その場でゴローン!ってなると光の速さで寝始めた、凄い

あまりの光景に俺は呆気に取られ、数秒の時が止まる

変わったドワーフの娘の家に転がり込んでしまったが、退屈はきっとしないだろうな


(自分の為に、家系の為に…か)



さてと

お土産用にクロワッサンを買っておいたし、ちゃぶ台の上に2つ載せて置けばいいか

起きれば勝手に食う筈だから問題ない

俺は再び外に出る為に静かに立ち上がると、近くにたたまれていた毛布を彼女にかけてから部屋に戻り、仮眠することにした


きっと夕方まで起きてこない

ならば昼過ぎまで俺は寝るとしよう





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