第19話 ラムネ
そして部内の昇進祝い翌日の朝…。
そう、巣鴨の亡くなったはずのアキラおじさんから電話があったんだ…。
なんだろう…。いつまで続くの…。
きっと、宝くじとか馬券とか、当たらないから買うのだろうな。絶対当たると思うと、とても買う気が起きない。
ツイているのに、僕は何に失望しているのだろう。
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高梨さんは明るい。
山下さんはかわいい。
僕にはもったいない。本当、こんな僕のどこがいいんだ…。
こう思うこと自体、今自分がネガティブなのがわかる。
ネガティブというか、困惑だね。
「ねぇ、高梨さん…」
「はい…?」
「僕のいいところはどこだろう…?」
笑っている高梨さん。
「昇進うつですか…」
ちがうんだけれどもな~。
「小杉さんのいいところは、やさしいところです」
「そうなの?」
「ええ…、自信を持ってください」
ハハ…、そうなのかな? 気が弱くて優柔不断なんだよ、それは。
「どうしたんですか? なんか最近、元気ないですよ…」
さすがに分かるのかな…、でも説明のしようがない。
「元気はあるけれどね、ツイているけれどね」
うんうんと聞いている高梨さん。
「このままでいいのかな…って思うんだよね」
「昇進うつですね」
ちがうんだけれどもな~。
「元気だして下さい。そうそう、初めて坐忘に連れていってくれたときみたいに」
「うん…」
そうだ、あれは山下さんと初めてデートしたときのことだったな~。もう高梨さんとのことになっちゃっているんだよな。
うん…?
「僕はさ…、あ…、僕はね、普段は女性をデートに誘うなんて勇気はなかったんだけれどもね。なんだろう…、あの時は…」
きっかけは高梨さんに話してもらおう。完全に入れ替わっているならわかるはずだもんね。
「ふふ…。FAX持っていったんですよ…。なぜか経営企画部にきてたもんで…。そうしたら給湯器の前で会っちゃって…」
そうだ…、やっぱり完全に入れ替わっているね…。
「そうです。ポストイットにメッセージが書かれていました」
「ちょっと書きました。小杉さん宛てだったんで、ラッキーって思ったんですよ…」
「本当に?」
「ええ、女子社員の間ではね、いろいろと男性社員のことを話すのですけれど、小杉さんはやさしいってことになってます」
少しは、いや、かなりうれしいな。
「気が弱くて優柔不断なんだよ…」
今度は声に出して言ってみた。
「それも個性です」
ハハ…、そうなのかな?
でも、そうだ、きっかけはメッセージだけじゃなかったぞ。そうそう、飴だ。
「文鎮がわりに、貰ったよね…飴。あとロビーでも…」
高梨さんの表情がくもった。
「そんなことしてないと思うけれど…。誰ですか、小杉さんにそんなことするのは…。メッセージはすっごくかわいく書きましたけれど…」
そう言って高梨さんは僕をすこし睨んだ。
「それに私はこれです…」
バッグをちょっとのぞいてすばやく何かをだした。
「子供みたいだってみんな笑うんですけれどね。でも急な電話のときに、飴はすぐに食べられないですからね…。これならすぐにかんで食べられますから…」
笑顔に戻っている。やさしくもあるんだね。
「でも、そうやってなにか置いておいたら…、男の人はうれしいのかな…?今度からそうします。まずは、はい、どうぞ…」
高梨さんが僕の手に平の上になにかを置いた。軽いな…、何だろう。
僕はそれを顔の近くまで寄せて見た。それはビニールに包まれたラムネだった…。
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