第8話 普段の行い

 通勤電車内で本を読むのは僕の楽しみのひとつだ。


 高校が文京区の白山で、本の街の神保町の近くだったし、地下鉄の三田線に乗ったりして通った予備校もまた神保町。さらに大学も同じく神保町だった。僕の趣味は読書、と言い切れる。


 通勤電車で立っていようが座っていようが、文庫本を読むにはかまはないが、まあね、どっちかというと座ったほうが読みやすい。


さて、今日も読みますか…、何の本を持ってきたんだっけ?

膝の上にバックを出して、ファスナーをあけて中にある文庫本を探す。あった、あった。


 うん…、なんか最近いつもこんな感じで本を探しているな~。立ってバックを持てば、手探りで片手だけでバック内の本を探すけれど、ちかごろそんなことはしてないぞ…。


 そうそう、いちど、バックの中で筆箱から落ちていたシャープペンシルに手をひっかけてケガをしたよな。近頃はそんなことしてないぞ、なんでだろう…。

僕は本を広げもせずもの思いにふけっていたが、すぐに気づいた。


 そうだよ、最近座れるんだよ。満員電車の中でもたまたま自分の前の席が空いたり、昨日なんかそうだ、眠っていた人が突然起きて、

「ここどこですか?え?池袋?降ります、降ります!」

 と叫んで席があいたんだ。不思議な感じだけれども、まあ、悪いことではないし、ゆっくり本も読めるし深く考えないようにしよう。


普段の行い? まさか、本気でそんなことはね…。

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