デブなんでバカにされやすい

「それじゃ行くかー」


玄関であかりとシャルに声をかける。


『待ちくたびれたわよ!』


そう言いながら俺の肩に乗るシャル。


「行くのはいいけど、何でそいつはお兄ちゃんの肩に乗ってるの?」


「え?そりゃ、スライムだと遅いし、小さいから車とか自転車に轢かれちゃうかもしれないだろ?」


「宮崎は田舎だからそんなに自転車いないよ」


たしかに車も自転車も少ないというか、人が少ないからな。


てかもしかしてまたヤキモチ妬いてるのか?


『・・私降りるわ』


「何でまた?」


シャルの声に小声で返事をする。


『アンタは私がピーラーで剥かれるのを見たいわけ?』


「それは嫌だな」


『でしょ?こういう時は強者に従うもんよ』


流石最弱モンスター。世渡りも身についているらしい。


シャルは俺の肩から降りてピョンピョンと跳ねながら先に進み始める。


アイツ場所わかってんのか?頭いいから昨日の一回で道覚えてる可能性はあるが。


「あの子は物分かりがいいね!」


満面の笑みを浮かべたあかりが俺の隣に陣取り、手を差し出してくる。


これは手を繋げという事ですな?繋がなかったら俺の手首から先が消滅の危機に瀕している。


差し出された手を握り、2人で歩き出す。


「えへへ。お兄ちゃんの手大きいね」


「デブだからな」


「今は太ってるとか関係ないよ。それに太ってる方が可愛いよ?」


「はいはい」


「もう!」


適当に返事を返す俺をプリプリと怒った様な顔をしながらあかりが見つめてくる。


「とりあえず協会に急ぐか」


そのまま協会に向かうシャルの後に続いた。



協会に着き、自動ドアをくぐる。


「あれ〜?ゴブリンプロじゃん。今日は何でそんな可愛い子と手を繋いでんだよ?」


ウザイ奴らが絡んできた。

コイツらは畑中基樹というやつとその取り巻きで、何かと俺に絡んでくる。


「妹だよ。今日から探索者になるらしい」


「はぁ?お前にそんな可愛い妹がいたのかよ?それ、俺にくれよ」


それとか、くれとか、早速クズ発言が来た。


「やらん。俺のだ。先急ぐから退いてくれ」


そう言って通り抜けようとすると、取り巻きが取り囲んできた。


「もっくんがくれって言ってるんだ。渡すのが常識だろ?」


「そうだそうだ。デブは向こう行ってろ」


相変わらず頭がおかしい生き方をしているらしいな。


どうしようかと悩んでいると、先に着いて俺たちを待っていたんだろう、シャルが畑中にタックルをかまして、吹き飛ばした。


「「「もっくん!?」」」


『何なのよコイツら!?クズ過ぎでしょ!アンタもボサっとしてないで一発ぶん殴りなさいよ!!』


スライムにぶっ飛ばされて気絶した畑中を取り巻きが介抱している。


気絶しているだけと分かるとこちらに向かって吠え始めた。


「テメー!もっくんに何しやがる!?」


「そのスライムはお前の従魔か!?ぶっ殺すぞ!」


剣呑な雰囲気で俺たちを再び取り囲み始める。


しかし、ちょうどその時、横から声がかかった。


「あんた達!何してるの!」


そちらを向くと宮崎支部、支部長の柴崎マリさんがこちらに向かってくるところだった。


「ヤベ!もっくん連れて逃げるぞ!」


いうや否やすぐに畑中を担いで逃げ出す取り巻き達。


「あんた達!次やったら資格剥奪だからね!」


そう言った後にこちらを向くマリさん。


パッと見、モデルかと間違うほどのスタイルに、長い金髪と切長の目、スーツ姿がそれを更に映えさせて、仕事できます感が漂っており、そこらの女優も裸足で逃げ出すほどの美貌の持ち主である。


「ごめんねダンテ君。彼らには懲罰を与えておくから」


「あー。大丈夫です」


「それならいいけど、君の従魔は勇敢ね」


『当たり前でしょ!!私は姫騎士よ!有象無象と一緒にしないでほしいわ!』


「ふふっ。ピョンピョン跳ねて可愛いわ」


なんて言ってるか分からないマリさんには、シャルがただ跳ねている様に見えているらしい。


「ところでその子は?」


そう言って俺の隣にいるあかりを見る。


そういえば、ずっと黙ったままだな。

俺もあかりを見てみると、恍惚とした表情で緩み切った顔を晒していた。


「あかり?」


「・・・はっ!お兄ちゃん!さっきの言葉って本当!?」


「何が?」


「俺のだ!ってところだよ!」


あー。そういえば勢いで言ったな。


「まぁ本心だな」


「〜〜。嬉しい!」


そう言ってあかりが抱きついてきた。


「あの・・。ホントに兄妹?」


「ですね・・」


「その割には距離が近い様な・・。まぁ良いわ。ところであかりちゃん・・だっけ?見た事ないけど今日は探索者になりに来たの?」


「そうです。手続きをお願いします」


俺に抱きつきながらも、さっきまでの笑顔とは裏腹にいきなり無の表情でマリさんに応えるあかり。


「え?あぁはい。じゃあ一緒に受付に行きましょうか」


マリさんはその変化に若干戸惑いながらも返事をする。


「お兄ちゃんも一緒に行くでしょ?」


「行ってもいいけど、その後は講習だからそこからは一緒に入れないぞ?」


「え?お兄ちゃんも講習一緒に受けなよ」


「それも良いかもね」


あかりの提案に頷いているマリさん。


「何で!?」


「んー。その方があかりちゃんも嬉しいでしょ?」


「勿論」


「なら決定ね〜」


俺の意見を聞くでもなく勝手に話が進んでいる。


「あと、今日は私が暇だから講師は私ね」


支部長自ら講師とか逃げれんやん。ダンジョンでレベル上げたかったんだけどな〜。


「そうと決まればあかりちゃんは私と受付に行きましょうか。ダンテ君、ちょっと待っててね」


2人がさっさと受付の方に行くのを見ながらシャルに声をかける。


「聞いた通りだ。すまんがダンジョンは昼からだな」


『はぁ〜。まぁ仕方ないわ。私だけダンジョンに行ってても良いかしら?』


「大丈夫なのか?」


『とりあえずお父様に会っておきたいから』


「わかった。気をつけろよ?」


『大丈夫よ。一層だし』


そう言ってシャルはダンジョンへと向かっていった。


あー。流石に二度目の講義は面倒だな。

でも断ったら大変な事になりそうだし、大人しく受けるしかないかぁ。


2人が戻ってくるのを憂鬱な気持ちで待ち続けることにした。

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