あかり、探索者になるってよ
あの後、あかりと風呂に入ったが何事もなかった。
マイサンは臨戦態勢を取り続けていたが、そこは長年培ってきた俺の理性が一線を超えまいと奮闘したお陰だ。
少し口を尖らせて残念そうな顔をしていたあかりだが、夜寝る時には普段通りに戻っていた為、問題はなかった。
そして次の日。
朝起きると横には既にあかりの姿はない。おそらくいつもの様に朝食を作ってくれているのだろう。
そして毎朝の如く、何故かマイサンは朝勃ちをしていない。
別段不能なわけでもないのは、昨日の風呂で確認済みだが、朝起きた時は通常営業状態だ。
毎回不思議に思うのだが、気にしても仕方ないだろう。
部屋を出て一階へ降りる。
洗面所へ向かう前に玄関の前を通ると、シャルが鎮座していた。
「おはよう」
『ん?おはよー。あんた起きるの遅いわね。さっさとダンジョン行くわよ』
さっき時計を見たら9:00だったので、昼の仕事をしている社会人からしたら遅いのかもしれないな。
でもこいつスライムなんだけどね。
そもそもスライムって寝るのか?
「ダンジョンは飯食ってから行くわ。ところでお前って寝てんの?」
『は?そりゃ寝るわよ。夜でも昼でも眠い時にね。・・・もしかして私を襲う気じゃないでしょうね?』
「アホか。お前を襲ってどうすんだよ」
『くっ!襲われない事に安心するけど、眼中に無いって言われるのは腹立つわね!』
なんつー我儘言ってんだ。
「そういや、お前飯は食べないのか?」
『食べなくても大丈夫ね。ただ食べれば食べたものに応じて経験値を得れるわ』
「そうなのか?」
『ええ。だからゴブリンを倒してドロップの魔石を食べれば更に経験値は貰えるし、進化も早くなるわ』
「なるほどな〜。今度から余裕ができたらそうするか」
『いいの?』
「おう。お前が強くなれば必然的に俺も強くなりやすいからな」
『そうね!私達は一蓮托生よ!』
元気いっぱいに言うシャルを見ていると、俺も元気が出てくるな。
そんな事を思っているとダイニングから声がかかる。
「おにーちゃーん。朝ご飯できてるよ〜」
「おっと行かないと。顔洗ったらすぐ行くー!それじゃあシャル、少し待っててくれな」
『早くしてよね!』
後ろを向いた状態でシャルに手を振りながら、洗面所へと行き、顔を洗い歯を磨いてダイニングへと行く。
いらん情報だが、俺は起きた時も飯食った後も歯を磨く派だ。だから虫歯は出来たことがない。
というか、磨くの忘れるとあかりが強制的に膝枕で俺の歯を磨こうとするので、身に付いた習慣だけど。
一度高校生の頃に歯磨きをあかりにされた時は、気持ち良すぎる上にあかりのいい匂いでマイサンがゴッドファーザーになったからな。
あれはヤバい。
ダイニングに入ると、味噌汁と焼き魚のいい匂いが広がっていた。
「あかり。おはよう」
「お兄ちゃんおはよー。ご飯食べよー」
あかりと共に席に着く。
「いただきます」
「はい。どーぞ」
手を合わせて食べ始める。相変わらず抜群にうまい。
ちょうど味噌汁を飲み始めた時、不意にあかりが声をかけてきた。
「お兄ちゃん。今日からボクも探索者になるからね」
ブーッ!!!
いきなりの宣言に思わず味噌汁を噴いてしまった。
「お兄ちゃん。ご飯を粗末にしたらダメだよ?」
「あぁ、悪い。ってそうじゃなくて何でまた!?」
「だってお兄ちゃんが心配なんだもん。あのスライムにエッチなことされたら嫌なんだもん」
「まずないと思うけど・・」
口を尖らせながら探索者になる理由をいうあかり。何というかホントに心配性だな。
「とにかく!もう決めたからね!だから今日はボクも一緒に協会に行くから」
「大学はどうするんだよ?」
「辞めるからいいよ」
「良くないだろ」
「何で?お金はまだいっぱいあるし、探索者で稼げば大丈夫でしょ?」
「いや、でもさ。あかりが就職したり、嫁に行く時の事とかかんがえ・・・」
途中で言葉を切らざる終えなくなった。
だって!あかりがヤバい目してるもん!
嫁に行く辺りでもうやばくなり始めてたよ!
「お兄ちゃんは何を言ってるのかな?どうしてボクが見ず知らずのクソどうでもいい他人の所にお嫁に行かなきゃいけないのかなぁ?
もしかしてボクを追い出したいとか思ってるの?そうだったら今日は探索者になるのをやめて、一日中お兄ちゃんを説得しないとね?だってそうでしょ?お兄ちゃんはボクの事何もわかってないんだもん。これだけ一緒に居て何でわかってないの?おかしいよね?だからお兄ちゃんがわかるまで、何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でもお話をしないとね?覚悟しておいて・・・ね?」
「ごめんなさい!!」
すぐさまあかりが座る椅子の横へと土下座をしに行く。
「お兄ちゃんが間違っていました!あかりはお兄ちゃんのお嫁さんでした!そうとは気づかずに迂闊な事を言ってしまってごめんなさい!一緒に探索者になろう!パーティ組んでみんなが羨むラブラブ兄妹パーティを作ろう!!」
「うん!!お兄ちゃんもわかってくれたんだね!!それじゃ今日は張り切って行こー!」
どうにか元のあかりに戻ったが、このままだと一生童貞まっしぐらだ。
マジでシャルに筆下ろしを頼む日が来るかもしれん。
ニコニコ顔のあかりを見ながらそんな事を思っていた。
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