洗脳?
「じゃあボクはご飯の準備するけど、サボっちゃダメだよ?」
「あい・・・」
ご機嫌なあかりは、軽やかな足取りでキッチンへと向かっていった。
そして、俺はというと・・・。
『ねぇ。大丈夫?』
「・・・シャル」
床に正座してひたすら毛筆で文字を書いている俺を見ながらシャルが心配そうに声をかけて来た。
『何書いてるの?・・・うぇ〜』
「・・・日本語読めるのか?」
『まぁねー。お父様や私は普通のスライムよりも知能が高いから、その辺の文字は最初から読めるようになってるのよ」
やはりスライムの中でも上位なのは確かなんだな。話す言葉も流暢だし。
そんなことよりコレを書かないと。
そう思い目線を下に落とす。
そこには
あかり愛してる
と隙間なく書かれた半紙が、そこかしこに散乱している。
『アンタ洗脳されてない?』
「何言ってんだ?コレは事実を書いているだけだ。俺はあかりを愛している。ただそれだけだよ」
『でもそんなにビッシリ書かなくても・・』
「ダメだ。これはあかりへの愛の証だ。お、おれは、わわわ悪い子だからららら。書かないと、おこ、おこられちゃう」
『ちょっと!!しっかりしなさい!!』
急に俺に対して体当たりをしてくるシャル。
そのお陰か、ちょっと頭が冴えて来た。
「お?おう。シャルすまんな。俺おかしくなってたか?」
『完全に洗脳されてたわよ。アンタ達の関係ヤバいんじゃない?』
「え?いや・・・。普通だと思うけど」
『絶対おかしいわよ!!普通は兄妹でそんな状況にならないわよ!』
「え?でもギャルゲーでは兄妹で仲が良いし、下手すりゃ恋人になってるけど?」
あれ?俺がおかしいのか?確かにあかりとは恋人では無いけど。
「それに、あかりの友達の頼子ちゃんもそう言ってたぞ?」
そう。あれはあかりが中学生で俺が既にデブな高校生だった頃・・・。
その時、俺は家に帰るため、家の近所の住宅街を歩いていた。
「お兄さんこんにちは!」
「お?頼子ちゃん、こんにちは」
頼子ちゃんはセミロングの茶髪でとても可愛らしい優しい子だ。
「今日はあかりは一緒じゃ無いんですか?」
「うん。今日は一緒じゃ無いね」
「そっか。それなら・・・。えっと!お兄さんは好きな人いますか!?」
「俺?いや、いないけど」
「そうなんですか!?そ、それじゃ、私のことはどう思っていますか?」
「どうって・・・。頼子ちゃんは可愛いし、デブな俺にも優しくしてくれる良い子だと思ってるけど」
「か、可愛い・・」
可愛いと言うと、ちょっと照れた感じになる頼子ちゃん。どうかしたのかな?
ま、まさか!?俺の事好きなんじゃ?
少しドキドキしながら頼子ちゃんを見る。
「あの!・・・私!お兄さんのこと・・・・ひぃ!?」
ひぃ?
ん?どうしたんだ?
急に顔面蒼白になり、目線を彷徨わせる頼子ちゃん。
「えっと、頼子ちゃん?どうし「あれー?頼子ちゃん。ボクのお兄ちゃんと、こんなところでどうしたの?」」
俺の言葉に被せるように、後ろからあかりが話をして来た。
というかいつの間に後ろにいたんだ?
「おう。今ちょっと話してたんだ」
「へ〜。何の話?」
柔かな顔で頼子ちゃんを見るあかり。
一方見られた頼子ちゃんは、小刻みに震えながら口を開いた。
「ええええええっと。あの、あかりちゃんとお兄さんはとっても仲良しで、お似合いだな〜って!」
そんな話してたっけ?どちらかと言ったら告白されそうな雰囲気だった気がするんだけど・・。
まぁ俺みたいなデブに、こんな可愛い子が告白してくるわけないか。
「そうでしょ?ボクとお兄ちゃんはラブラブなんだ〜」
「ラブラブって、俺たちは兄妹だぞ?」
「えー?兄妹でラブラブなのは普通だよ?そうだよね?頼子ちゃん」
あかりが頼子ちゃんに質問すると、壊れたロボットのようにガクガクと首を縦に振っている。
「そそそそうですよ!お兄さん、兄妹でラブラブなのは古今東西どこでも同じです!!」
「ホント?ギャルゲーでしかそんなの見た事ないけどな〜」
「お兄ちゃんは普段から人と喋らないから知らないだけだよ!それともボクの事、信用出来ないの?」
悲しげな顔で見つめてくるあかりを見ると、罪悪感でいっぱいになる。
「そうだよな。あかりが嘘を言うわけないもんな。ごめんあかり!俺が間違ってた!」
頭を下げる俺にあかりが明るく声をかけてくれる。
「大丈夫だよ!お兄ちゃんはボクがいないとホンットダメなんだから。でもそんなところも大好きだよ?」
「あははは・・。頼子ちゃんの前だし照れるなぁ」
「絶対洗脳されてる・・・。いつか助けないと・・・」
ボソリと頼子ちゃんが何かを言ったが、あかりが照れている俺の頭を撫でて来たので、聞き取れなかった。
「って事があってだな。まぁ頼子ちゃんが何て言ってるかは未だにわからなかったけどな。聞いても教えてくれないし」
『アンタ・・・。それで?その頼子って子は?未だに話すこともあるの?』
「おう。あかりと同じ大学に行ってるからな。たまにうちに来るぞ」
そう言って再び半紙に目を落としてあかりへの愛を書き連ねる。
『どうにかその子と話せるようにならないと・・。このままじゃコイツが可哀想かもだし・・』
シャルが何か言っているが、どうせ文句でも言っているのだろう。気にしないようにしよう。
「おにーちゃん♪ご飯できたよー」
そうこうしているうちに、あかりがご飯の準備を終えて、こちらに戻ってきた。
『ヤバ!』
そういえばコイツ玄関に居るように言われてたんだっけ?あかりに何かされなきゃ良いけど。
「んー?どうしてスライムがここに居るのかなぁ?まぁ従魔だし、ご主人様の近くが良いってことかな?」
『何でコイツがご主人様なのよ!?寧ろ逆でしょ!?私が主人で、コイツは下僕の豚よ!』
相変わらず口が悪いやつだ。あかりに何かされたら庇おうかと思ったけど、今の聞いたら嫌になってきたな。
「むー?反抗的な雰囲気を感じるよ?これはピーラーの刑かな?」
『ひぃ!?ごめんなさい!大人しく玄関に居ます!』
聞こえていないだろうが、あかりに謝りながらシャルは玄関へと戻っていった。
「邪魔者もいなくなったし、ご飯食べよ?お兄ちゃん♡」
「あいよ。いつもありがとな」
「気にしないでよ。ボクはお兄ちゃんのお嫁さんみたいなものだからね!」
あかりは嬉しいことを言ってくれるなぁ。
あかりのお陰で俺の人生はまだ希望があると思えるわ。
あかりが腕に抱きついてきたので、そのまま2人でダイニングへと向かった。
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