神崎あかり
やはりレベルが上がったからだろうか、家までの道のりを止まる事なく走り抜ける事ができた。スピードは遅かったけど。
「はぁはぁ・・・着いた」
『ここがアンタの家?』
目の前には別段オシャレなわけでもない、一般的な二階建ての俺の家がある。
入る前にちょっと様子を見ると、一階に明かりがついていた。
良かった・・・。明かりがついているって事は、そこまで酷い状況では無いはず。
だが油断は禁物だ。
「今から家に入るけど、不用心な事するなよ?下手したら・・死ぬぞ?」
『何カッコつけてんのよ!?普通の家に入っただけで死ぬわけないでしょ!』
「いいから!大人しくしてろ!」
『わかったわよぅ・・』
俺が真剣な表情をしているのを見て、シャルは大人しくする事にしたようだ。
玄関の前に立つ。
一呼吸置いて玄関を開けた。
「ただいま〜・・」
声をかけるが応答が無い。
これはまずいパターンか?
恐る恐る中へと入り、ドアを閉める。
「おかえり」
「ぬほっ!!!!」
閉めたドアの方から声が聞こえて、思わず変な声を出してしまった。
後ろを見ると、上下紺色のジャージを着ていて、髪は黒のショートカット、見る人によっては可愛い男の娘にも見える小柄なマイシスター、あかりが立っていた。
「あ、あかり!いつの間に後ろにいたんだ!?」
「お兄ちゃんが玄関の前に来た時には居たよ」
「声かけろよ!!」
「だって挙動不審だったから、後ろにいた方が面白いと思って」
「俺はビビるだけだわ!」
めちゃくちゃビビっている俺を見ながら、満足げな顔をしているあかり。
この調子だと怒りは既に収まっていそうだな。
「じゃあ中入って。お仕置きするから」
収まっていませんでした。
「えぇ!?今のがお仕置きじゃないのか?」
「そんなはずないでしょ?ちゃんとお仕置きしないとお兄ちゃんはわからないでしょ?」
「勘弁してください!」
それを聞いた瞬間に土下座をする。いきなり土下座をしたもんだから、シャルが玄関の床に落っこちた。
『いたっ・・くはないけど。いきなり何すんのよ!?』
シャルが文句を言うが、あかりには聞こえていないはずだし、今は無視だ。
「ダメだよ?お兄ちゃんはお仕置きしないと学習しないでしょ?」
「そんな事ない!今日はたまたま!遅くなっただけだから!」
俺が必死に謝る姿を見て、あかりが少し考える仕草をする。
「んー・・。テイムスキルが出て、そこのスライムを従魔にしたから遅くなったんだっけ?」
「まぁそんな感じかな?」
「かな?・・お兄ちゃん。他に隠し事あるでしょ?」
「え!?いや、その〜・・」
俺が言い淀んでいると、あかりがシャルを鷲掴みにしてこちらを見る。
「このスライムが悪いのかな?」
『ちょっと何すんのよ!?』
「んー?なんか反抗的に感じる・・・」
シャルの声は聞こえていないはずだが、あかりは勘が鋭いからな、なんとなく感じ取れているんだろう。
『ちょっとアンタ!何なのコイツは!?いきなり私を鷲掴みにしてるんだけど!離すように言いなさいよ!』
そうだな。たしかにいきなり人の従魔を鷲掴みは良くない。俺はお兄ちゃんだ!バシッと言うぞ!
「あかり!そいつは俺の従魔だ!いきなり鷲掴みは失礼だぞ!」
『アンタ・・・。その格好で言っても、バカみたいよ?』
俺が土下座したままなのを見たシャルが、ため息を吐きながら呆れた様子で言っている。
だってまだあかりが許してくれてないから!土下座してないともっと怒るかもだし、これ以上は無理です!
「お兄ちゃん・・。やっぱりコイツが原因なのね?・・ねぇ?スライムさん?」
『あによ?何か文句あんの?』
お前その態度は不味いぞ!?まぁ聞こえてないから大丈夫かもしれんけど。
「お兄ちゃんはボクのものなの。だから、邪魔をするって言うのなら、コレ使うよ?」
そう言ってあかりがポケットからピーラーを出した。
『何これ?』
ピーラーを初めて見たであろうシャルはよく分かっていないようだ。
かく言う俺も何でピーラー?状態だ。
「これで、君のその体を1枚1枚綺麗に剥いていくよ?こんな風に・・」
あかりが何処から出したのか、徐に人参を取り出し綺麗に皮を剥いた事で、その残骸が玄関にオレンジ色の花を咲かせた。
そそそれじゃあ、スライム皮剥きの刑って事!?・・・我が妹ながら何という残酷なことを。
恐怖で俺が慄いていると、何をされるか検討がついたのかシャルも震え始める。
『あわわわわわ。な、何てことを思いつくのよ・・・』
「わかった?わかったら、ボクとお兄ちゃんは今からお部屋に行くけど、君はここでお留守番だよ?」
掴んでいたシャルを離すと、人参の残骸の上に落ちたシャルはピクリとも動かなくなった。
「それじゃ、行こっか?お兄ちゃん♡」
俺の手を掴んだあかりが家に上がろうとする。
「ごごごごめんなさい!!!!許して!!もう門限破らないから!!!ピーラーだけは勘弁して下さい!!」
「大丈夫だよ。お兄ちゃんにはピーラー使わないから」
「そうじゃなくてもお仕置きはやめて!」
満面の笑みを浮かべて俺の手を引くあかりを見ながら必死に懇願する。
「だーめ♡」
「助けてえええええ!!」
最後の足掻きとばかりに、シャルに手を伸ばす。
『ごめん。私にはアンタを救うことは出来ない』
シャルの無情な声を聞きながら、あかりに手を引かれて、俺はリビングへと連れ去られた。
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