マイシスター
ダンジョンから出てしばらくの間、家までの道のりをポツポツと歩く。
『アンタまだ落ち込んでんの!?』
「そらな。こんな見た目でも人間だったんだ。それがピザデブとか言う意味わからん種族のモンスターにさせられたんだぞ?落ち込むわ」
『でもレベルがあがれば種族進化できるし、そしたらカッコいい種族になれるかもよ?』
たしかに一理ある。
シャルの言う通り、種族進化でイケメンとかになったらモテるかも?
「そうか・・。そうだな!!俺頑張るよ!進化してイケメンになる!」
『その意気よ!・・・案外コイツちょろいわね・・・』
ん?今何か失礼な事を言われた気がするが、気のせいかな?
「明日からレベル上げまくらないとな!・・・あ!」
『何!?どうしたの?』
「ゴブリンの魔石回収忘れてた・・」
あまりにもショックを受けていたから、ドロップ品をすっかり忘れてた。
『大丈夫よ!私の種族特技に異空間収納があるからそこに入れておいたわ!』
「スライムにそんな便利機能があんの?」
『スライムというか、私は姫騎士スライムだからね!すごいでしょ!?』
「シャル凄いな!正直それは予想以上だった」
素直に褒めると照れたようにしているシャル。
『べ別にアンタの為じゃないんだから!勘違いしないでよね!」
おいおい。更にツンデレっぽい発言まですると、設定盛り沢山になるぞ。
「わかってるよ。でもありがとな!」
『フン!私の有能さが分かれば良いのよ!』
なにこれ?これでコイツがスライムじゃなければ、ツンデレの可愛い子に見えるのに。
スライムだからか、良い雰囲気なんて微塵も
感じられないけどな。
そんな事を思っているとスマホが振動している事に気づいた。
「やべ!今何時だ!?」
『急にどうしたのよ?』
シャルが不審そうにこちらを見ている。目はないけど。
しかし、今の俺にはシャルに返事をする暇はない。
急いでスマホを取り出し、着信相手を見てみる。
画面には
神崎あかり(マイシスター)
と表示されていた。
ついでに時間を見ると18時を過ぎたところだった。
出来ればこのまま取りたくは無いが、無視すると大変な目に遭いそうなので、覚悟を決めて電話を取る。
「はい?」
『お兄ちゃん?何してるの?』
「えっとですね・・。いつもより頑張ろうかと思いまして、今までダンジョンに潜ってました」
『へー?ボクと決めたルールは何だっけ?』
「え?えっと。緊急事態じゃない限りは17:30までには帰る事かな?」
『かな?』
「です!17:30までに帰っておく事です!」
『そうだよね?で?今は何時?』
「えー・・。18:00過ぎてる」
『そうだよね?ボクのお兄ちゃんは遅くなる時に連絡も入れれないのかな?というか約束破ってるよね?』
どうする?これはヤバいぞ!うちの妹はガチめに怖いんだ。言い訳を思いつかなければヤられる!!
・・・・・・
うちは俺が中学生の頃に、両親が他界した。
以来俺と妹の2人で生活している。幸い両親が残したお金と保険金がかなりあったので、金銭面では不自由はなかった。
しかし、妹はその時まだ10歳だった。そのせいか俺にベッタリ甘えてきた。俺も寂しかったが、年下の妹はもっと寂しいと思い、只管甘えさせていた。
両親が死ぬまでは普通に痩せていたのだが、ある日妹がご飯を作るようになった。曰く、少しでもお兄ちゃんが楽になればって事だったんだが。
これが間違いだった。
妹が作る料理は美味しく、量が多かった。
残せば良いのだが、残すと泣き始める。
これで部活を運動部に入ればよかったのだろうが、部活に入ろうとすると決まってあかりが言うのだ。
『お兄ちゃんはボクが嫌いなの?だから1人にするの?』
涙ながらにそう言われると、どうしようもなかった。
では夜にランニングとか筋トレをして運動しようとするのは大丈夫だろうと思い、始めると。
『お兄ちゃんは何で1人で居ようとするの?ボクが嫌いなの?そんな事してたらボクとの時間が減っちゃう』
そう言ってまたも泣き始める。結局風呂とトイレと学校以外の四六時中あかりと一緒にいなければいけなかった。
男の生理現象も、どうにかトイレで済ませなければいけないと言う程にベッタリだ。
それが如何に辛いか、男性諸君ならわかるだろう。
それはともかく、風呂とトイレと学校に行く時以外は必ず横にあかりがいた為、運動もさせて貰えず、少しずつデブ化していった。
デブになった俺を見てもあかりが離れることはなかったのが唯一の救いだろうか。
そんな俺がどうしても探索者になりたいと言った時は大変だった。
泣くだけならまだしも、目のハイライトを消して、俺を家から出れないように物理的に縛りつけようともしてきた。
しかし、俺も流石に一生童貞な上に、彼女の1人も出来ないのは嫌だったので、それらの願望は伏せて、1ヶ月かけて説得した結果、どうにか条件付きで探索者になる事を勝ち取った。
条件としては、17:30までには家に帰る事、パーティを組むとしても男、受付嬢とは無駄に喋らない事の3つだ。
そもそも俺はスキルが無かったから、俺をパーティに入れる奇特な人間はいない。
だから第2条件は大丈夫だったし、第1条件の方は、ソロな上にデブだから長い間活動しづらいから大丈夫。
しかし、受付嬢とは世間話をする事もあった。それをどこで見ていたのか知らないが、あかりは嗅ぎつけており、大変だった。
以前家に帰ったら真っ暗な部屋にあかりが佇んでいて、どうしたのかと思い声をかけると、ハイライトが消えた目をしながら俺を椅子に縛り付けてきた。
それから包丁を出して、俺と一緒に死ぬなんて言い出す始末。
どうにか謝りに謝って、今度からお風呂も一緒に入ると言う意味がわからん約束をしたおかげで何とか死なずに済んだ。
因みに話していた受付嬢は数日後には違う県へ移動していった。
あかりが何かしたのかとも思ったが、怖すぎて気にしない事にするしか無かった。
そんな事があり、あかりはガチで怖い。
「ごめん!実は・・。その、スキルが発現して、それで強くなれると思って今まで探索してて・・・」
『ふーん。1人で?』
「え?あ、その・・」
『誰と一緒にいたの?』
「誰って・・それは人じゃないから何とも言いようが・・」
『どう言う事?』
「えっと、スライムを従魔にして、1匹と1人というか2匹でというか・・」
『わかった。とにかく早く帰ってきて。あと、約束破ったからお仕置きするね』
「え!?お仕置きは・・。切れた」
ヤバいぞ!お仕置きとか怖すぎる!!
俺がブルブルと震えていると、シャルが不安そうに声をかけて来た。
『アンタ大丈夫?』
「ヤバい・・。急いで帰らなければ!!」
『え?ちょっと!にょわ〜・・・』
俺がいきなり全力ダッシュした為、シャルが落ちないように必死にしがみついてるのを見ながら、家へと急いだ。
因みにレベルが上がった全力とはいえ、デブなので大した速度は出ていなかった。
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