君は泡沫の儚い幻想
君は泡沫の儚い幻想
作者 神凪柑奈
https://kakuyomu.jp/works/16816452220775170803
夏休みに島に帰省した朔斗は、幼馴染みで姉のような人で、初恋の恋人で、幽霊になった品川結奈とお別れする物語。
和泉式部の「白露も夢もこの世もまぼろしもたとへていへば久しかりけり」を思わせるタイトルが付けられている。
白露のはかない命さえも、夢や幻もそして夢、幻のようなこの世のはかなさでさえも、あなたとのあのたったひと時だけの出会いにくらべればずっと長いものだったという意味である。本作は果たしてどのような話なのかしらん。
サブタイトルに「彼は誰」「誰そ彼」とある。前者は明け方、後者は夕暮れ方の意味。朝方と夕方の話なのかしらん。
主人公、朔斗一人称「俺」で書かれた文体。文のリズムが良く、読みやすい文章。学校に通っているが、自分のことを十分大人と言っているので大学生なのかしらん。
夏休み、田舎の島に船で帰省する主人公をを出迎えたのは、幼馴染みで姉のような人で、初恋の恋人の品川結奈。
カクヨム甲子園に応募された多くの作品を読んできて、幼馴染で初恋の恋人の彼女が出てきた場合、高確率で死にまつわる話となる傾向がある。なにより、タイトルやサブタイトルから、すでに亡くなっている人と会う話かしらんと想像させてくれる。そんな心づもりをして読み始めると、携帯電話の下りからもやっとした。
「結姉こと結奈とは連絡を取ることもできるが、頻繁に話しているわけではない。いつ電話をかけても出ないし、メッセージを送っても既読すらつかない」といっておきながら、「『学校とかそっちの話聞けるの、楽しみにしてます』か……」これは結奈からの連絡だろう。主人王から電話をかけてもつながらないのなら、彼女からかけてきたということかしらん。
「昔は俺だけじゃなく、他の連中のお姉ちゃんのような存在だった。年が経つにつれてみんなが結姉の身長を越して、そして今では結姉が一番小さくなってしまった。そうして俺たちは成長する中、結姉は成長が止まってしまったのだ」
彼女の容姿から確信となった。
また、主人公と周囲の反応にずれがあることが読み取れていく。
主人公が帰ると驚く母親。「朔斗! もう、帰ってくるなら先になんか連絡くらいしなさいな!」「ん? 結姉から聞いてないのか?」「……結ちゃん?」主人公の母親は「なにやら首を傾げている」し、主人公の部屋の扉の前にたつ彼女は自分からは入ろうとしない。
部屋に入れなかったところや、美梨と雄二と光哉、三人の友人たちの些細な反応からも如実に感じる。
それだけ違和感があるように書けているという証である。
遊び場であり秘密基地の集会場の山奥に神社があり、「ちょっとした言い伝えがある。先祖の霊や死んだ友人が願いを叶えてくれる」「そんな言い伝えでも、俺と結姉は小さい頃は信じていた。毎日のように二人でここまで来て、そうしていつも願い事をしていた」主人公は彼女とずっと一緒にいれますようにと願っていたのだろう。
お参りのあと結奈に、星と海がよく見える山の上に行こうと誘われる。美梨には結奈がみえていないような台詞がある。主人公にしか見えていないのだ。
二人で山の上まできて彼女から、島を出ていったのはなぜか、と切り出していく。
思い出すことができない主人公は「なぜこの島から逃げたのか」と考え、「逃……げた……?」と口にする。彼女は「朔斗は逃げた。現実から逃げて、願い事に縋ったの」「ずっと一緒に。忘れてる……わけがないよね」そして彼女が死んでいることが語られる。
「朔斗がこの島からいなくなった理由。それはね、私が死んだからだよ」「あの日、一緒に船に乗った日。初めてこの島から出た日に、私たちの乗ってた船は沈んだんだよ。今日乗ってきた船と同じ種類のやつだったかな」
ということは、主人公と彼女は一緒に乗った船が沈没し、彼女は亡くなり、彼は助かったということかしらん。
彼女は神社の言い伝えである「先祖の霊とか死んだ友人が願いを叶えてくれる」ことから、主人公の「ずっと一緒にいる」という願いが「中途半端に叶っちゃった」ため、彼女は「幽霊になっても朔斗だけには見てもらえる。認知してもらえるんだ」「死んだ友人の霊。そんな幽霊なんて、この島にしかいないよ」彼女は島でしか存在できなかった。
そしてお別れを切り出される。
「願い事のことをなかったことにして、私とさよならする。簡単だよ。言い伝え通りなら、私にも願いを叶える力はあるはずだから」
いつまでも今のままの関係では、主人公にとって良くないと彼女が判断したのだろう。どんなに仲良くなっても、死んだ人は蘇らない。なにより、死んだ人ばかりみていたら、主人公自身、生に向かって生きていけなくなるからだ。
ひょっとすると、美梨が主人公のことを気になっていることを、結奈は気がついているから今回の別れを切り出したのかもしれない。
「もー、そんなに悲しそうな顔しないでよ。もうとっくに死んでるんだよ? 今死ぬんじゃないんだからさ」「にへへ、お姉ちゃんはこの状況が実は嬉しかったり。彼氏の成長が見れてお姉ちゃんは満足です」
主人公にしろ彼女にしろ、突然の死を受け入れられなかったのだとおもう。そういうとき人は悲しみに暮れ、引きずってしまう。きちんと死と向き合ってお別れをする時間がお互いに必要だったのだろう。
主人公は「今まで、ありがとう! 俺はまだまだ弱いけど、それでももっと頑張るから!」彼女に決意して「大好きだ!」と告げる。
彼女も「私も、大好きです……!」答え、お別れの口づけを交わして消えていく。
彼女が死んだ事実から逃げるために島から出ていった主人公だが、「せっかくなら卒業まで頑張ってみたい」と思っている。そんな主人公を『にへへ……がんばれ、朔斗』と結奈は陰ながら見守っている。
読後、主人公が島に帰省しない間、結奈はどう過ごしていたのだろうかと考えた。
彼にしか彼女を認識できないのだから、島にいてもみんなと一緒になにかできるわけではないし、寂しい思いをしていたかもしれない。
悲しみから立ち直る話は素敵だけれども、生者側にとって都合がいい話だ。そうなるのは、読者が生者だから。そういえば、主人公は彼女の墓参りをしているのかしらん。神社の参拝が墓参り代わりなのだろうか。
この先も、朔斗が頑張って励むことを切に願う。
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