君に殺される僕は
君に殺される僕は
作者 甘空
https://kakuyomu.jp/works/16816700426046587953
殺され体質の國井春樹の前に現れた美少女の双葉未侑に愛され、一緒に過ごす最高の殺し方をされるまでの物語。
上の句のようなタイトルが付いている。
君に殺される僕はどうなってしまうのだろう。それは読んでみなければわからない。
疑問符感嘆符のあとひとマスあける等々は目をつむる。
ラブコメでちょっとミステリー。
主人公は高校三年生、國井春樹の一人称「俺」で書かれた文体。後半、高校二年生の双葉未侑の一人称「私」で書かれた文体がある。自分語りで実況中継をしているところがある。プロローグがあり、エピローグの代わりに最終話がある。
前半、屋上で主人公の國井春樹は後輩の双葉未侑と過ごしている。彼は殺人未遂事件の被害者になるという殺され体質の持ち主だった。彼は一カ月前、彼女と屋上で会った日のことを思い出す。
ホールインワンとアルバトロスを一日に出す確率が語られている。
ゴルファーのレベルやホールによって異なるが、ホールインワンは五千~一万五千回に一回、アルバトロスは百万〜二百万回に一回程度というデータもある。アマチュアなら確率は更に高くなる。アマならアルバトロスは六百万回に一回程度。
五千×百万は五十億。五十億分の一……どのデータの数値で算出するかによっても変わるだろうから、一概には言えないけど、とにかく、すっごい稀だということを、主人公は言いたいのだろう。
ちなみに、宝くじの当選確率は二千万分の一、殺人事件で犠牲となる確率は三十三万分の一といわれる。
彼の身に降りかかる災難の確率の方が遥かに大きい。なにせ、数カ月に一度は殺されかけているのだ。
警察にお世話になっていないものを数えると、殺されそうになったのは三十を超えるとある。「一時期は三カ月から半年に一回は確実に警察のお世話になっていた」とあるので、年に二~四回はそういう目にあっていたとなる。仮に年二回として、彼が十八歳と仮定すると、三歳位から殺されそうになっているということになる。多いときで年四回なので、実際は小学校に入学してからは確実に殺されそうになっていたのだろう。
あとで後輩の彼女は、主人公が死にたいと思っているから殺される目に合うのだと考える。もしそうなら、主人公は小学校の頃から死にたいと思っていたことになる。なぜ、そんなことを思うのだろう。友達ができなかったからかしらん?
立入禁止の屋上に、ピッキングで入った主人公は、自身の体質に嫌気が差して死のうとしていた。
どこでそんなスキルを身に着けたのかしらん。将来は鍵屋にでもなれるかもしれない。
そこに現れた後輩の彼女と話し、「三年生にいると噂の『死神』さんって先輩のことですよね」といわれ、「自分のせいで犯罪を犯す人が増えてしまうから、いっそのこと死んでしまおうって言うことですよね」「私が先輩を満足のいく形で殺してあげます」と提案された主人公は承諾することにした。
美少女でなければどうだったのだろうと想像してみる。きっと断っただろう。
そもそも彼女が、「だって本当につらいときに、誰にも話さずに一人で抱え込むのはとてもしんどいことだと思います。だから私はあなたのその辛さを、半分ことはいきませんけど、十分の一、百分の一だけでも背負って少しでも楽にしてあげられたらと思ったんです」と言ってくれたから打ち明ける気になったのだ。美少女以前に、他人の辛さに寄り添える子だったから、提案を受け入れられたのだろう。
翌日、彼女から「好きになることからはじめましょう」といわれる。嫌いな人に殺されるのは死んでも死にきれないと納得し、彼女とデートすることになる。
服を買い、映画を一緒に見、ゲーセンやボーリングをしてデートを重ねていく。
友達も付き合ったこともないのに、結構遊び慣れている。一人カラオケとか一人ボーリングとか、独りで色々堪能してきたのかもしれない。
後半、デート中にいつもお世話になっている警察の宮田警視に出会う。定期的に警察にお世話になることで主人公の生存確認をしていたという話を聞いてドン引きする双葉。彼女は「先輩の『殺され体質』は、先輩自身が死のうとしているときに効果を放ってる」と気づく。
キャリアの警視は二十六から二十九歳になれる。なので宮田さんはキャリアなのだ。ノンキャリアの場合、警視は四十歳頃になれるとされている。
双葉未侑の回想。
告白されることに嫌気が差していたとき、屋上で死のうとしている彼と出会った。
だが彼女の目には、本当は死にたくないのがすぐに分かった。「私が殺してあげるといって、最後は有耶無耶にしたらどうだろうか」と考え、「私が殺してあげます」と提案したのだった。
ほっておくこともできたはず。なのに彼を助けるような提案をしたのは、彼女も困っていたからだろう。
幾度となく仲良くない人から告白され断り、その日も断ったばかりだった彼女。「どうして、ほとんど話したこともないような人と付き合えると思ってしまうのだろうか。ワンチャンとかないから本当に勘弁してほしい」と思っている。
相手のことを知るために付き合うのだ。けれども、どんな相手と付き合うかは彼女にだって選ぶ権利はあるのだ。
美少女の特権というか、有名税とでも言えばいいのか。
とにかく彼女も困っていた。
困っているとき、誰かを助けることで救われることがある。
かといって、それを目的で困っている人を助けるのではない。彼女は優しい人だったのだ。困っている人がいたら、優しい心を持った人なら利害損得関係なく、積極的に助ける。小さな協力であってもいい。困っている人を助けるのは、人として崇高な行為なのだから。
友達も恋人もいない先輩は、恋愛感情を持っていなかったが「すごく優しくて、面白くて、割と気も使える」人だった。先輩との関係が心地よく、「この関係を終わらせたくなくなってしまった」彼女は「先輩に恋をし」、先輩も自分と同じく恋をしていると気づく。
LINEで屋上に呼び出し、「私は、先輩のことが好き、みたいです。だから、その……付き合って、くれませんか」彼女は告白する。彼は正直に彼女のことが好きだと認め、「ああ、よろしく頼む」と答える。
彼女の思いついた殺し方は次の通りだった。
「まずはいっぱい、迷惑をかけて嫌がらせをしてあげます。おいしいご飯を先輩の奢りで行ったり、買い物にいやというほど連れ回し、荷物持ちもやってもらいます」「それで、たくさんたくさんたくさん出かけて、いやになるほど出かけたら、私の家で、先輩にくっついて動けなくしたり、お腹がはちきれるまで私の手料理を食べましょう」「そうして、老いるまでの長い長い時間を私に奪われた先輩は、そのことを思い出しながら、最後も私の目の前で死んでいくんです」「ね。先輩。最高の殺し方でしょ?だから、私は先輩のことをこれ以外の方法では殺してあげませんし、これ以外の原因で先輩が死ぬのも許しません」
主人公は「最高の殺され方だな」とつぶやき、いつまでもこの愛しくて生意気な後輩に殺され続けようと思うのだった。
読後、彼女は賢いと思った。ただ同時に、先輩の彼も後輩の彼女も、見た目も中身もいい人だったから丸く治まったのだろう。偏屈に凝り固まり意固地になっていたらこうはいかなかっただろう。
相手への優しさを、忘れてはいけないのだと感じた。
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