晩夏

晩夏

作者 高峰 利世

https://kakuyomu.jp/works/16816700427146706981


 夏の終り、八重晴夏はクラスメイトで同じ文芸部の美鈴さくらが好きだ、付き合ってくださいと言う前に彼女から告白され、結ばれる物語。



 晩夏は、暦のうえでは小暑から立秋の前日までをいう。今年でいうなら、七月六日から八月七日まで。平易な意味なら夏の終り、というタイトルが付いている。

 祭りの後の寂しさのようなものがあるかもしれない。

 全二話。サブタイトルに「晩夏」「青春」とある。


 ダッシュや三点リーダーは二つつなげて使う等は目をつむる。


『晩夏』の主人公は高校二年生、八重晴夏の一人称「僕」で書かれた文体。『青春』の主人公は、美鈴さくらの一人称「私」で書かれた文体。振り返らず流れるような文章。体験と回想を語っている印象をおぼえる。


 夏の終り、主人公の父親が夏の終わりを感じると漏らした言葉を聞きながら、終わって欲しくないことを主人公は思い出す。


 ここから主人公の回想がはじまる。


 夏休みが始まる前、クラスメイトで同じ文芸部員の美鈴さくらに「今年の夏休み、どこに行こうか?」と声をかけられるも、「気にかけなくて良いよ。こんな暑い日は家でまったりとしてたい人だからさ」と彼女からの誘いを断る。早瀬から告白を受ける美鈴を見て以来、彼女のことを考えるようになる。


 美鈴視点をみると、夏休み二日前が主人公の誕生日なのがわかる。

 なので、彼女から声をかけてきたのは、彼が誕生日だったからなのかもしれない。そのわりにはおめでとうの言葉もない。教室では他の人達もいるから言いづらいのだろう。

 主人公は一年前に、彼女からしおりをもらったあと、クリスマスではマフラーを贈り、春にはしおりをプレゼントしている。行動しないわけではないけれども、どちらかというと腰が重い性格なのかもしれない。


 夏祭りに行っておいでと母親に促されて美鈴を誘う。花火を見ながら美鈴が好きなことに気づくも、クラスメイトたちや早瀬がいるのをみて、自分たちの関係は「ただ部活が同じだけ」と口にしてしまう。


 主人公は誰かに背中を押されないと動けないのかもしれない。

 めんどくさがりなタイプは忍耐力がないので、インドアでルーズですぐ逃げる。自分からなかなか行動に移さない。

 そんな彼を突き動かしたのは、親の言葉だった。


 夏祭りから一週間後、父親は主人公にとってハッピーエンドで「終わらせてこい」といい、意を決して彼女を電話で河川敷に呼び出し、夏祭りの日のことを謝り、「僕と美鈴の関係をただ部活が同じなだけって言ったけど、絶対にそんなんじゃない」「僕にとってとても大事な人で、これからも関わって行きたいと思ってる」といって、花火の続きをしようと線香花火をする。


 なぜそこで花火?

 この前の花火大会で嫌な思いをさせたから、その罪滅ぼし、上書きするための花火かもしれない。

 彼にしてはがんばったのだろう。タバコを吸って気持ちを落ち着かせるみたいに、まずは花火をという感じなのかしらん。花火なら互いの距離が近づけると思いついたのかもしれない。

 

 長く光らせたら言いたいことがあるとはじめるも先に火花が尽きてしまう。

「私の方が長かったから」といった彼女に頬にキスされ「ずっと好きでした。付き合ってください」と主人公は告白される。


 晩夏だけ読むと、主人公は行動的ではない。むしろ彼女のほうに積極性がみられる。でも後編の美鈴視点『青春』をみると、彼はいろいろしていたのがわかる。


 頬にキスして告白した美鈴は、八重晴夏とであった高校入学式の日のことを思い出す。

 父親の転勤がきっかけで引っ越して心細かったとき、最初に声をかけたのが彼だった。文芸部に入ると、彼がいて、このとき恋をした。夏休み二日前が彼の誕生日と知り、しおりをプレゼント。文化祭では一緒に部誌を五十部作り完売する。

 冬、部室でクリスマスパーティーを開く。マフラーをプレゼントされる。

 高校二年の春、彼からしおりをプレゼントされる。

 夏、早瀬から紅白されるも、好きな人がいるからと断る。

 夏休みに彼から夏祭りに誘われるも、関係は部活が同じだけといわれて自室で泣いてしまう。一週間後、電話で河川敷に呼び出される。


 夏祭りのあと、主人公が呼び出さなかったら、二人の仲は終わっていたかもしれない。

 八重晴夏は彼女に先を越されたが、唇を重ねて「僕も、好きです。付き合って下さい」と告白するのだった。


 読後、彼はちょっと行動が遅いところがあるので、彼女のような積極性をもった子がお似合いだと思った。

 二人の行く末に幸多くあらんことを願う。

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