卒業までに、叶えたい夢

卒業までに、叶えたい夢

作者 カナラ

https://kakuyomu.jp/works/16816700427139412704


 アイドル志望の長谷川葵は友人の三輪澪の応援を受けてオーディションに合格し、夢を叶えた物語。



 大人になる前に、学生でいられる間に叶えたい百のリストをつくって一つずつ叶えていく話なのかしらん。読んでみてのお楽しみである。


 縦書きに準じて漢数字をというのは目をつむる。


 本作は、メロドラマの要素と社会的にも認められた何かを成し遂げる成功譚。

 オーディションにリアルタイムのネット投票も受け付けるところが、今どきらしい。

 主人公は高校三年生、長谷川葵の一人称「私」で書かれた文体。児童書レーベルの様。脳内思考ダダ漏れというか独り言が多く、自分語りで実況中継している感じ。


 前半、中学からの親友三輪澪に、自身の独り言を言う癖でアイドルに憧れて目指していることを知られてしまう主人公。キモがられると思ったが澪もアイドル好きで、応援してくれる。


 他人の夢を笑う人がいる。「そんな夢は叶わない」「追いかけるだけ無駄」「そんなの無理だって」そう言って笑うくせに、自分の夢はバカにされたくないと思っている。そんな人は世間知らず、無知なのだ。

 夢見ている世界を知らない人が、夢を笑うのだ。

 知らないのに勝手に想像し、妄想し、決めつける。実際にやってみないと、喜びも悲しみも実情はわからない。

 夢を応援してくれる人というのは、夢の成功者だ。

 澪はアイドルではない。だが、陸上部で頑張っている。このあとインターハイ予選を突破してインターハイに出場していく彼女は、これまでにたくさんの練習をしてきているだろう。

 スランプや怪我もあったかもしれない。それらを乗り越えて今日まで来ている。その経験が彼女の自信につながっている。その自信があるから、アイドルの世界は知らないけれども、夢をバカにするということを彼女はしないのだろう。

 

 目標にするにはどうしたらいいのか尋ねると、「あたしに分かるわけない!」と澪はいったあとで「目標に出来るかどうかは覚悟だけ」とアドバイスをする。

 主人公は覚悟持って父親に「アイドルを目指す」と伝えるも「アイドルなんて水商売、娘にやらせるわけにはいかん」といわれてしまう。


 水商売とは、客の人気によって収入が左右される、本質的に不安定な商売を意味している。いまでは風俗業を指すことが多いかもしれないが、職業としては、芸能人、歌手、料理店、プロスポーツ選手などのこともいう。安定した収入が得られず、浮き沈みが激しいということだ。

 親としては、やりたいことをやらせてあげたいだろうけれども、若さを売りにした仕事には躊躇する。なにより、アイドルになったことがないだろうから、素直に応援できないのが本音だろう。

 アイドルと一口に言っても、グラビアアイドル、バラエティーアイドル、アイドルグループ、アイドル歌手、大食いアイドル、地下アイドルなどなど。

 高校三年生は受験の年だから、ということもあるに違いない。


 それでも書類を送り、三度目にして一次オーディションを突破した主人公。二次オーディションにむけて対策を図るときや進路調査票にアイドル志望と書くとき、二次オーディション前や最終オーディションに必要な親の許可をとるときも、澪は電話で応援してくれた。


 主人公は、自分の心を見つめ、よく理解し、周囲の言葉などから無駄な感情や思考に流されによう気をつけ、無駄な反応を増やさず、まずはやってみたのだろう。

 松下幸之助も「まず思い切ってあたってみる。その上で、いかにうまくやっていくか、持てる知識を活用していく」といい、まずやってみることの重要性を説いている。

 

 後半、二次のときも最終オーディションも、澪は陸上の大会に出場していて応援に行けない。そんな澪からオーディション前に「ごめん、足挫いちゃった。試合には出れるだろうけど、勝つのは無理そう」とメッセージが届く。


 いままで主人公だけの能力ではここまで来ることはできなかった。様々な障害を乗り越えられたのは、澪のおかげである。その澪が困難にぶち当たってしまった。彼女だけではどうにもならない。

 克服するには誰かの力が必要だった。

 主人公は二次オーディションのとき、「真っ直ぐに、誠実に、お客様に嘘をつくお仕事です」と答えている。自分の目の前のお客様に対して、自分の感情に嘘をついて接するというようなことを語っていた。

 アイドルに合格したいという気持ちに嘘をつき、友達を応援した主人公は、このとき間違いなく澪のアイドルに主人公はなっていたと思う。


 審査員が求めていた形とは違ったためか、ゼロ点をつけられる。

 だが、オーディションを見てた誰かの呟きがバズり、応援をみた澪が元気を取り戻して大会新記録を出して優勝、その経緯をまとめられたものがバズり、ネット投票に影響を与え、主人公は合格した。

 澪は有名体育大学にスポーツ推薦が決まり、主人公はオーディションに合格した後、親との約通り志望大学に現役合格した。

 卒業を迎えた二人は手を握り、校門から未来へ踏み出していった。


 サクセスストーリーは読後がいい。

 気になったのは、長谷川葵がどんなアイドルになったのか。最終オーディションに参加した十人が合格したということは、グループアイドルなのかしらん。

 最終オーディションは、これからアイドルを世に売り出すためのプロモーションのために行われたのかもしれない。主人公のおかげでいい宣伝となっただろう。

 

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