夏の思い出と小さな足跡
夏の思い出と小さな足跡
作者 神凪柑奈
https://kakuyomu.jp/works/16816700426330821477
母はどこかへ行ってしまい、忙しそうにしている父には相手にされない白川凪は夢の中で若い頃の父と母に会い、両親に大切にされていることに気づく物語。
幼い頃の夏の思い出を語るのかしらん。懐かしい日々を振り返るのだろうか。
読んでみなければわからない。
サブタイトルが「小さな思い出の中に」「小さな思い出と共に」とある。前編は思い出の中に印象に残っていることが書かれていて、後編は思い出と共にどうするのかが描かれているのかしらん。
日常から非日常へと入り、生きる力をもらって新たな日常に帰ってくる。
なんとなくハートフルな藤子不二雄作品を想起し、ビジュアルノベルゲームみたいな趣を感じさせる。
主人公は小学一年生、白川凪の一人称「私」で書かれた文体。地の文にはくわしい状況説明は少なく、主人公の思っていることや会話文で話が進む。小学一年生並みのボキャブラリーの少なさで描写する反面、難しい言葉や表現もしており、名探偵コナンにでてくるアポトキシン4869を飲んだ小学一年生のような印象を受ける。また、本作の大部分は、主人公が見た夢で構成されている。
前半、疲れて帰ってきた父親に、父の好きな食べ物で母が得意料理だったというカレーを作った主人公だが、後で食べるといわれてしまう。自分には興味がないのだと思い、母親の大事にしていた帽子を抱えてふて寝する。
小学一年生の主人公が父親のためにカレーを作るのが、素直に凄い。
だけど冒頭では主人公がいくつなのかわからないし、自分語りな部分から中高生くらいと想像していたので、はじめはさほど驚きはしなかった。
小学一年生が料理をしないわけじゃない。小学一年生の身長を考えると、キッチンは高いので足場が必要になる。
キッチンのシンクの上を利用せず、テーブルの上で食材を入り、鍋に入れ、ペットボトルの水を利用すれば準備はできるとはいえ、煮込むとなるとまた大変だ。ガスにしろIHにしろ焦げないように気をつけなくてはいけない。カセットコンロを使ったのだろうか。どちらにしても火を使うとなると、火事にならないよう気をつけねばならない。
野菜切って水入れて煮込んでルー入れるだけで簡単じゃないか、といえばそうなのだけれども、母の得意料理らしいので、何かしらこだわりのある作り方をしている可能性がある。
それだけ主人公はがんばって、父親のためにカレーを作ったのだ。作ったものを食べてもらえないのは、子供だろうと大人だろうと、寂しい気持ちになるのは変わらない。
だけど、父親はちゃんと食べていた。食べていないと思っていたのは主人公の早とちりだったのだ。
気づくと船の上で目が覚め、声をかけられる。すぐに夢だと気づき、話の流れから「家出です」と答え、家出する白川蓮と名乗る人物とともに島に上陸。古い家にたどり着き、そこで親戚の恭弥おじさんに会う。両親のことを知っていて、父親がカレーが好きなことを教えてくれた人物。母親からの帽子をかぶって島を見てまわっているとき、夏木燈と出会い、連とも顔を合わす。翌日三人で過ごし、お昼は一緒にカレーを食べる。
主人公は「ここはきっと、わたしのお父さんの白川蓮とお母さんの夏木燈の思い出。そんな夢だ」と気付き、やさしい父は、母はどこへ行ってしまったのかと考える。
主人公が両親の若い頃の夢をみたのは、母親が大事にしていた帽子を抱いて眠ったからだろう。
寂しい思いをしている我が娘のために、母親の愛の象徴である帽子が、夢という形を借りて大切に思っていることを伝えたのだ。
後半、主人公は風邪を引き寝込む。恭弥おじさんから連は親と喧嘩して家出をし、彼の両親から「しばらく面倒を見てあげてほしい」と連絡をもらっていた。「喧嘩したはずの親でも」自分の子供のことを「心配している」ことを主人公は知る。
「お前さんは、随分真っ直ぐに育ってる。それだけいい子に育った子が、親に大切にされていないなんてことはねぇ」「凪みたいないい子を育てた親だ、きっと心配してくれてる」「思い出してみろ。お前さんの親が、なにをしてくれたか」
主人公は思い出す。父親は「凪のカレーも好きだから、後で食べるな」と答えていた。「お父さんはちゃんと食べてくれてたんだ。お母さんのカレーではなくても、ちゃんと食べてくれていた」と。
そして燈のことも教えてもらう。彼女は「身体が弱く」「いつも家に籠ってた。それが、この夏は元気に過ごしている。あいつは優しい子だが、遊んだりできなかった」だから、主人公の母親は側にいないし、父親の帰りが遅い理由も、母親を見舞っているのだろうと気づく。
恭弥おじさんが、大事なキーパーソンだ。
夢で見せた過去の出来事で、家出した連を預かったこと、近所に住む燈のことを気にかけていたこと、現代でも主人公に母親の得意料理のカレーの作り方を教えるなど、いろいろ協力してくれている。
元気になったら、家族三人でお礼に伺ったほうがいいだろう。
主人公は連と燈に尋ねる。「二人は、自分たちの娘の帰りを待っていてくれますか?」と。二人は「当たり前だ」「絶対に、そうだよ」と答え、家出を終わりにすることを決めて目覚めると、父親が側にいた。
一週間寝ていたと知り、隣のベッドには夢で見た白川燈、母親だった。
馴れ初めを聞き、入院してから見舞いに来て「凪のご飯が美味しいって。凪がかわいいって」楽しく話しているのを教えてもらう。互いが大好きで大切な家族となった三人は、これからずっと一緒に過ごしていく。
連はさぞや大変だっただろう。娘が突然目を覚まさなくなってしまったのだから。
クライネ-レビン症候群または反復性過眠症がある。
眠気によって眠りにつくと、継続して一日に十六から二十時間も眠ってしまう。過度な睡眠状態がつづくときは、平均十日、長くて八十日、まれに数カ月間眠り続けることもあるという。
他には、アフリカの西部および中部だけにある伝染病に眠り病がある。病原体はトリパノソーマという鞭毛虫で、特定の刺蠅によって感染し、重い神経症状をおこして嗜眠や昏睡におちいり亡くなるというものもある。
主人公も寂しかったかもしれないけれど、父親が一番さびしかったかもしれない。
これからは、父親もいたわってあげて欲しいと思った。
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