時過

時過

作者 縋 十夏

https://kakuyomu.jp/works/16816700426358369820


 代々後継者を選んで引き継がれてきた魔女。厄災の魔女アリア・ローベルは自らの罪により世界は混沌と破滅と化した。その罪を後継者に終わらせてもらおうと思っていた彼女の前に現れたのが、滅ぼされた村出身の僕であり、彼女の願いどおり殺して世界から魔法を消し去る物語。



 さだすぐ。古語に、さだは勝機、盛りの年齢という意味がある。ゆえに、適した時期を過ぎる、時期を失う、盛りの年齢を過ぎる、年老いるという意味を持つ。

 時期を逃したり過ぎたりしてしまった物語が書かれているかもしれない。


 文章の書き方には目をつむる。


 主人公、一人称「僕・私」で書かれた文体。表現にこだわりがみられるも重複表現が目につき、いささかくどさを感じる。途中、魔女アリア・ローベルの一人称「私」で書かれた文体がある。

 主人公は地の文で「僕」と使っているが、会話で二回、「私」とつかっている。魔女は「私」という人称を用いるのかもしれない。魔女を殺す決意を表すときになってはじめて「僕」と口にしている。なので、読むときにそれほど混乱は起きないが、重複表現のため、非常にくどくわかりにくさを感じさせている。

 

 故郷の村を滅ぼされた元凶である怨敵を殺そうとやってきた主人公は、「朽ちかけた安楽椅子」に座る魔女を前に立っている。彼女の声は「しわがれて聞くのもやっとのもの」だが、「何処までも澄み渡る青さで彩ら」れていた。

 彼女は「物語る目がない。ぼんやりと眼孔に浮かぶ理知の灯火はゆらゆらと揺れるばかり」とある。骸骨の目玉の窪みに灯火がゆらめいているのだろう。おまけに「差し出された骨と皮ばかりの、今にも折れそうな彼女の手」である。顔も姿も髑髏だったのだろう。

 だが、彼女の声色が「美しいソプラノの声」に変わり、語られたのは、「魔法使いの後継者に選ばれ」た夜、《魔女の森》と呼ばれるスイスのとあるお屋敷に招かれた日の出来事。


 本作で語られる魔女、魔法使いの存在が語られている。

「世界でたった一人、理を手元に置き、理を自由自在に操る事のできる魔法使いへの片道切符。魔法使いは自らが飽くその時まで何者にも縛られることなく、生を謳歌し、やがてその力を別の誰かに託して、死に迎えられることなく消えていく。その存在は次代の魔法使いの中にだけ息づき、魔法使いの乱した秩序は元に戻り、痕跡は綺麗さっぱりと消え去る。そうして、世界は今まで在り続けてきた」

 そして自身が犯した罪の告白。

「力を使う権利にばかり気を取られて、その力を管理するという義務を怠ってしまった」

 魔女になってまだ普通に過ごしていた頃の夏の夕暮れ、友人と一緒にいたときガラの悪い男たちに襲われ、友達を助けるために魔法を使ったが、うまく制御しきれなかったのだろう。そこから始まる罪の数々を語ろうとする口を遮り、「そんなに傷つかなくたって私は分かっている。知っているんだ」と主人公は言い、「僕は貴女を殺すために遣わされた」と告げる。


 主人公の目の前にいたのは「何処にでもいるような女の子だ。僕の両手を包み込む柔肌から伝わってくるのは普通の人間のような温もり」とある。髑髏の姿は、彼女が魔法で見せていた幻影かもしれない。


 主人公は、「彼女の罪を全部知っている。知っていて、此処にきた」のだ。

「外の世界では戦争が始まり、多くの人の命が犠牲になり、また数多の国が疲弊していき、『魔女』に助けを求め」たが、人嫌いな魔女は助けてはくれなかった。いうことを聞かせようとするも、「この世の理を操る魔女に誰も敵うはずも」なかった。

 魔女の報復を恐れた世界は、「戦争はなくなり、飢える民は減り、動物たちは自然に還った。そして、母なる大地や森は太古の時代の姿を取り戻しつつある。

 そんなとき、「自給自足をして山に暮らす民の末裔として」外の社会とは距離をおいて「慎ましやかに生き」ていた主人公が暮らす村の人々が魔法に目覚めた。

 それから魔女のことを調べたのだろう。

 彼が口にした「遣わされた」とは、同じ村の人に頼まれたのだろう。

 魔女は「殺して下さい」と主人公に告げた。

 主人公も「貴女は御自身の罪を告白した後で後継者として呼んだ人間に僕と同じことをさせるつもりだったんですね」と魔女を殺す。

 主人公にとって魔女は「間接的にではあるが、故郷を滅ぼした怨敵」

だったが、彼女のしてきたことをすべて調べて知った彼だったから「惨めな死を迎えた事に」胸が傷んだのだろう。魔女になった女の子のことをおぼえておこうと思ったのだった。


 魔女を倒したとき、「異能は世界から排除されていく。魔女の齎した悲劇と共に。人々は魔女を忘れ、力を忘れ、平和に生きるようになる」「今頃、至る所で失われていく力を嘆く声が聞こえる事だろう。人間誰しも一度、得たものは、それが便利であればあるほど手放し難いものなのだ。だけど、魔女はその人の浅ましさまで奪っていく」とある。

 魔女は世の人に魔法を広めたのかもしれない。

 魔女ほどの魔法ではないかもしれないけれど、ちょっとした魔法、異能力を身につけた人が世の中を混沌へと導いたのかもしれない。

 だが、魔女が死んだことで、世界に存在していた魔法が徐々に失われて消えていく。

 後継者に魔法を託さずに殺されたからだろう。

 

 本作で大事なのは、「力を使う権利にばかり気を取られて、その力を管理するという義務を怠ってしまった」というところだろう。

 どんなことにでも言える。ゲーム機を使用する権利に気を取られて、遊ぶことに対する管理を怠ると、ゲームに夢中になりすぎて、やらなければならないことが疎かになってしまう。

 車を使う権利に気を取られて、管理を怠れば、整備不良で事故を招き大惨事を引き起こす。

 気づいたときには時既に遅し、とならないようにという教訓が本作には込められているのだろう。

 ゆえに、タイトルが『時過』なのではないかしらん。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る